それではよろしくお願いします。
これは何でもない平和な日常。
彼らの思い出、
「「1年女子寮で下着ドロボ〜!?」」
学院長室に、俺も先生の声が響く。
「うむ、先週頭から始まって、既に8件目じゃ」
「かなり深刻ですね…。でもこれって…」
「これ、身内を疑いたくはないすが、内部犯確定っすね」
「そうじゃのう…身内は疑いたくないんじゃが…」
そう言って俺達は、簀巻きにされて逆さ吊りにされている、1人の男を見る。
「ほら、キリキリ吐けよ、エロ男爵」
「舌の根も乾かぬうちに!?」
そう、逆さ吊りされているのは、ツェスト男爵。
最有力候補なのだが…
「残念ながら、彼は本当にシロでね。あらゆる魔術を使ったのじゃが、なんと無実が証明されたじゃ」
「「残念ですね」」
「まったくじゃ。そこで、君達にお願いしたいのじゃ」
「「何で!?」」
「実はのう、被害女子生徒からの、直々の指名なんじゃよ」
「指名?」
どういう事だ?
そう思っていると
「失礼します!」
学院長室のドアが豪快に開き、俺の方へ飛び込んでくる。
俺は声で誰か分かったので、いつもの様に、受け止める。
「お前かよ…マリア」
「はい!2人の可愛いマリア=ルーテルです!この度、引き受けてくれて、ありがとうございます!」
「引き受けてないからな?」
「大体!何で俺達なんだよ!?」
そう先生が聞くと、急にマリアは俯いて、しおらしくなる。
「皆…不安なんです…。得体の知れない犯人に怯えてるんです…。だから、先生達なら。学院を何度も救ってくれている先生達なら…!だから…お願いします!」
そう祈るマリアに、俺達も心を動かされる。
「マリア…」
「…その目薬は隠そうな?」
「てへぺろっ♪」
手に目薬を持って無ければ。
全く…相変わらずのコイツにため息をつく俺達。
「まあ、実際深刻な問題ではあるけど…」
「俺達は男だぞ!どうするんだ!?」
「私に任せろ!お前達!」
至極真っ当な先生の反論に現れたのは、アルフォネア教授だった。
手に持つ、見覚えのある薬に俺は冷や汗を流す。
そして
「「いやあァァァァァァァァァァァ!!!」」
俺達の絶叫が、学院中に響き渡った。
案の定、再び女に変えられた俺達は、女子寮の前で、すっかり肩を落としていた。
「はぁ…気が重い…」
「アイル君…頑張って…」
ルミアの励ましが、支えだ。
いくら女に変わっていても、俺は男だ。
きっと反発は半端ないだろう。
「ここでグダってても仕方ねぇか。サッサと片付けましょう」
「だな。めんどくせぇけど…やるか」
俺達は覚悟を決めて寮内に入ると
「「「「「「ようこそ!グレン先生!!アルタイル先輩!!」」」」」」
「「…ん?」」
思ってたより…歓迎ムード?
「きゃあ!本物!本物のグレン先生だ!」
「アルタイル先輩が来てくれたなら、安心だね!」
「絶対に捕まえてください!応援してます!」
「ちょっ!待て…うおぉぉぉぉ!」
「こら待て!はしゃぐな…!」
「…なぁに?この歓迎ムード?アイルはともかく…先生まで?」
「システィーナ先輩、知らないんですか?アルタイル先輩はもちろん、グレン先生も1年の間では、すっごく人気なんですよ!」
そう言うが早いか、マリアも集団に突っ込んでいく。
あまりの光景に唖然とするシスティーナ。
「あはは…私達、倍率上がってきたねぇ…」
そうつぶやくルミアの視線の先は
「ダッハッハッハ!」
「ハイハイ、順番な?順番」
すっかり付け上がるグレンと、兄モード全開のアルタイル。
そんなキャピキャピした空気を
「なんの騒ぎですか!?」
切り裂いたのは、1人の女子生徒だった。
ん?アイツはたしか…
「【ヴィオラ=シリス】でしたっけ?マリアと最後までやり合ってた」
「ああ、アイツが」
俺達が言っているのは、この間あった代表選手選抜の事だ。
「知ってらっしゃるようですね。改めて、この寮の監督生を務めています、ヴィオラ=シリスです。お見知り置きを。今回の調査、感謝申し上げますが、貴方達は必要ありません!」
おや?突然大見得切ったな。
「貴方達のような、ケダモノがいていい場所では…って!何で安堵してるんですか!?」
俺達、そんなに露骨な反応してたか?
「いや…やっとまともな反応が来たなって…」
「そうだよな。これが普通の反応なんだよなぁ…」
「何ですか、その哀しい安堵は!バカにしないでください!」
変な手印だな…ッ!?
悪寒がした俺達は、咄嗟にその場を飛び退く。
いた場所に振り下ろされる手刀。
その正体は
「
フランシーヌが使う、
「これは先週開眼したばかりです。これがあれば…!」
先週開眼したばかり…ねぇ…。
「とにかくこの力があれば、恐るるに足りません!さあ!即刻…あ!待って!」
胸張ってたくせに、制御出来てねぇじゃねぇか。
言う事を聞いずに襲いかかるそれを、俺達は危なげなく躱す。
少ししてやっと制御出来たのか、
「
グレン先生の最もらしい言い分に言い返せないのか、そのままヴィオラは、姿を消したのだった。
「あの…ヴィオラさんは、悪い人じゃないんです」
だろうな、周りの反応から察するに、皆のお姉様って感じだったしな。
「まあ、ちょっと困ったところも、あるんですけどね…」
「困ったところ?」
「あ、こっちの話です」
「まあいいが…ところでお前…
そう、ここは俺達に宛てがわれた部屋だ。
なのに当たり前のように俺達のベッドに寝っ転がってるマリアを、俺達はジト目で見る。
「言わせちゃんですか!?キャ〜!据え膳ですよ!」
「「出ていけ!」」
俺と先生がツッコミ入れると
「その通りだぞ!マリア君!君はもっと自分を大切にすべきだ!グレン先生は紳士だ!少女は触れずに愛でる事こそが至高!それをわかっている!しかしアルタイル君はまだ幼い!1つしか変わらないのだぞ!何かあったら…」
クローゼットから、ツェスト男爵が飛び出してくる。
「勝手に犯罪者扱いしてんじゃねぇ!!!」
「ていうか、どっから湧いた!!!このゴキブリエロ男爵!!!」
「ぎゃああああ!!」
我に返った俺と先生が、男爵をぶっ飛ばす。
しかしその音を聞きつけた生徒達が、慌てて駆けつける。
「マズイ!早く服を…!うおぉ!?」
「きゃあ!?」
「マリア!?うわぁ!?」
先生が何かに躓き、俺達ごと押し倒す。
はたから見たら、どう見えるんだ?
「何事…本当に何事ですか?」
ほら、駆けつけてきたヴィオラ達が、フリーズしてるし。
そんな何とも言えない空気を切り裂く
キャアァァァァァァァァァァ!!!
鋭い悲鳴。
「クソ!」
俺はすぐに飛び出して、階段を飛び降りる。
場所は…大浴場か!
「大丈夫か!?」
「先輩!?私達の下着だ…!?」
マジか!?こんな堂々とやられたのか…!?
「突貫工事だったとはいえ、俺達が張った生体反応を察知する結界をすり抜けた?どうやって?」
「うむ、興味深い事態だね。君達の張った結界をすり抜けられる魔術師か、あるいは…」
「ここにいるな、そんな器用な魔術師が」
「ゴボゴボゴボ!?」
「『白き冬の嵐よ』」
俺は顔面を沈めながら、氷結呪文でツェスト男爵ごと風呂を凍らせる。
しかしどうやって、すり抜けた…?
一つだけ、考えがあるが…まさか…
「真面目に考えてるところ、悪いんだけどね」
裾を引かれて振り返ると、アルカイックスマイルのルミアがいた。
「半裸の女の子の前に、堂々と現れるアイル君もアイル君だからね?」
「…すんません」
この数日、打てる手は打ってきた。
しかし俺達がどれだけ対策しても、嘲笑うかのように盗みは続く。
「マジでわかんねぇ…どうやって…」
「いっそ我々で一括管理するかね?」
とりあえず、ツェスト男爵は庭に頭から埋めといた。
とりあえず分かっているのは、内部犯である事、それだけだ。
こうなったら…あれしかねぇ。
「…仕方ねぇ。腹括るか」
「ふっ…あえて悪となるか。漢だね、グレン先生」
「どうやったらくたばるの?」
「先生…ひとついいですか?」
俺達が打った手は…
「「「えぇぇぇぇぇぇ!私達の中に犯人がぁ!?」」」
「認めたくはないが、それ以外考えられない」
俺と先生は、生徒達を集め説明をする。
「そ、そんなの有り得ません!」
「その根拠は?ヴィオラ」
当然、ヴィオラは反発する。
「それは…!」
「…ふぅ。正直やりたくないが、これなら抜き打ちチェックを行う。これで盗まれた下着が出てきたら、ソイツが犯人だ。それでいいな」
グレン先生の言葉が響く。
皆気乗りしないが、致し方ない。
そんな空気になってきたのだが…、当然ヴィオラはまだ納得しない。
「わ、私は反対です!皆を信じてます!変な勘ぐりはやめて下さい!」
「そんな性善論は聞いてない。これしかないって言ってるんだ」
「それを言うなら、先輩達だって怪しいです!捜査のフリして、盗みに来たんじゃ!?」
「1週間前から起きてるんだぞ?俺達が犯人なら、何故今更、姿を晒す必要がある?それよりも…お前こそ随分と必死だな。何か知ってるのか?」
俺はそろそろ核心に踏み込んだ。
「な!?私を疑ってるんですか!?どうして!?」
「これだけ露骨に反発されたんじゃあな、変な勘ぐり…」
俺の言葉が言い終わらないうちに、うるさい警戒音が鳴り響く。
結界に引っかかった奴がいる。
「アルタイル!場所は!?」
「…俺達の部屋!」
俺達は急いで駆けつけた先には
「ビンゴだな、アルタイル」
「でしたね、グレン先生」
俺達の目の前には、女子のパンツを被った白い影が結界内に閉じ込められてきた。
正体はヴィオラの
つまり犯人は、ヴィオラの
対人結界が効かないならと、対霊結界を張ったら見事にヒット。
未熟なアルマハ使いが、暴走させる事はよくある話だ。
問題は何故、本能で動く
「女魔術師って同性愛者が多いのか?」
「そんな偏見やめてよね」
つまりそういう事。
しかも周りにはバレバレとか、恥ずかしすぎるだろ。
しかし、良い奴ばっかりだったらしく、あっけらかんと受け入れていた。
とにかく一件落着…かと思いきや
「何と、本物の幽霊が出るようになっちゃいました!助けて下さい!」
「「勘弁してくれぇぇぇぇぇ!!!」」
おまけ
「いいか、マリア。お前はお化けなど見ていない」
「見たのはあそこで吊るされている、ツェスト男爵だ。分かったか?」
「うぇ!?は、はい…」
「「2人とも!変な刷り込みしない!」」
「…2人とも、変」