はい、ある程度その言葉を過信しすぎないようにしてくださいね。
それではよろしくお願いします。
グレン先生が来て数日後
「いい加減にして下さい!!」
フィーベルがブチ切れていた。
まあ、あの『
いつかキレると思っていたが、むしろもった方だろう。
「またお前か?だからいい加減にやってるだろう」
「そういう意味ではありません!私は魔術の名門フィーベル家の娘です!私が父に進言すれば、貴方の進退を決する事も出来るんですよ!!」
いや、それはマズイだろ。そんな話をしたら…
「…え?マジで?」
「本当はこんな手段に訴えたくはありませんが、これ以上講義に対する態度を改めないのなら…」
「お父様にぜひ期待してますとお伝えください」
「…え?」
ほらやっぱり。
やる気の無い人にそんな話したら、絶対こうなるに決まってる。
むしろ、丁度いい口実を与えただけだろうに。
「いや〜!これで1ヶ月もやらずに辞められる!」
ここまでやる気がないとむしろ清々しいなこの人。
そんな先生に遂に本当の意味で我慢の限界を迎えたフィーベルは左手の手袋を投げつけた。
周りはその事に動揺する。
「貴方にそれを受けられますか?」
「ダメ!システィ!すぐに謝って!」
ティンジェルも慌ててそれを辞めさせようとする。
魔術師にとって左手の手袋を投げるという行為は、相手に決闘を申し込むという意味がある。
更にタチが悪いのが、条件は受けた側が決められるという事だ。
つまりこの場合、グレン先生が決めるという事であり、フィーベルはかなりまずい事になったのだ。
「こんなカビ臭い風習、忘れてたぜ…。で?まさか本気なのかお前」
「全て承知の上です」
決闘である以上、相手の要求を飲まなくてはならない。
それがどんな非道な要求だったとしても。
「…ハハ!安心しろ。俺の要求は説教の禁止だ…じゃあ、場所を変えて始めようか。」
予想外にこの決闘を受けるらしい先生。
ハッキリ言ってこの闘いの行く末は決まってる。
だから俺は見る価値無しと判断し、寝ることにした。
「アイル君は見ないの?」
ティンジェルが不思議そうに首を傾げながら聞いてきたので、俺はコインを1枚投げ渡しティンジェルに言い放った。
「賭けてもいい。この闘い、間違えなくフィーベルの勝ちだ。もし違ったらそのコイン、お前にやるよ」
そう言って俺は寝に入った。
結果は予想通り、フィーベルの圧勝だったらしい。
その数日後、事件は起きた。
「魔術ってそんなに偉大で崇高かねぇ…」
「…おや?」
何時もならあっさりとスルーするグレン先生が珍しく、フィーベルの一言に噛み付いた。
これは面白い事が起こるかも、そう思いこっそりと聞く体勢を取った。
「フン…何を言い出すかと思えば。魔術とは世界の真理を探究し、人をより高次元の存在に近づける。いわば神に近づく尊い学問なのよ」
まあ、なんて教科書通りの回答なんだろう。
あまりの模範解答に拍手を送りたくなる。
「ふぅん…で?
「…え?」
それは俺もそう思う。
そんな事のために命を懸けるとか、バカバカしいにも程がある。
「例えば医術は人を病から救うよな?農耕技術、建築術… 人の為に役立つ技術は多い。だが魔術は?まともに生きてれば、一般人には見ることさえない代物だ。」
「ま、魔術は!?…人の役に立つとか、立たないとか…そういう低次元のものじゃ…!?」
ああ、今のはいただけないな。
人を救うって意味を理解してないなアイツ。
俺は少しムスッとしながら、成り行きを見守る。
「悪ぃ悪ぃ、ウソだよ。魔術はちゃんと人の役に立ってるさ…
グレン先生の顔はまるで憎むように、苦しむように言い放った。
あれは、嘘とか演技じゃないな。
恐らく、本気で思ってるんだ。
そしてその言葉を受けたみんなは、顔を青くする。
「剣で1人殺す間に、魔術なら何十人と殺せる。これ程人殺しに長けた術はない!」
「ち、違!?魔術はそんなんじゃ!?」
「違わねぇよ。なんでこの国は魔術大国と呼ばれている?なんで帝国宮廷魔導師団なんて物騒な連中がいる?魔術はな、人殺しと共に発展してきた技術なんだよ!!お前らの気が知れねぇぜ!こんなろくでもない術に人生を費やッ!」
途中でグレン先生の言葉が止まった。
俺もこれにはビックリした。
フィーベルが泣きながらにビンタからだ。
「テメ!?」
グレン先生が文句を言おうとしたが、涙を見て口を噤んだ。
「…最低!」
「システィ!待って!」
フィーベルが教室を飛び出す。
それにティンジェルは追いかけていく。
「…はぁ…。今日は自習だ…」
グレン先生も頭を掻きながら教室を出る。
みんなが呆然とする中、ただ1人立ち尽くす少女
リン=ティティスに俺は声をかけた。
「とりあえず、席に座れば?後、お前に非は無いぞ」
「…ありがとう、アイル君」
それから少しして、ティンジェルが帰ってきた。
フィーベルはそのまま早退する事になったらしい。
「…ねぇ、アイル君。アイル君はどう思う?さっきの話」
そこで俺に聞くか〜。
俺に聞かれると、あまりご期待通りの答えは返せないぞ。
「ハッキリ言ってしまえば…どうでもいい。興味無い」
「…え?」
ほらやっぱり、そういう顔するよな。
みんなもそういう顔してるんだろうな〜。
見なくても分かるよ。
「俺の魔術を学ぶ理由を聞いて、お前らに一体何の役に立つ?何で魔術を学ぶか、なんで魔術を使うのか、それは俺達自身が、一人一人決めなくちゃいけない。【汝望まば、他者の望みを炉にくべよ】…自分の望みすら他人に任せては、そいつに生きる価値はない。ましてや人の望みを踏み躙るなんて言語道断だ」
そこまで言って俺は、机に伏した。
寝ようと思ったが視線が、気になってそれどころではなかった。
「は?魔力円環陣の練習に付き合ってくれ?」
「うん。どうしても分からなくて…アイル君、方陣とか結界とか得意だよね?…ダメかな?」
ティンジェルよ、その上目遣いは男にはクリティカルだぞ?
まさか狙ってるのか?
そう思いながら、俺は他の問題を聞く。
「生徒の無断使用は禁止だろ?それに鍵はどうするんだ?」
「…てへっ」
「おい、マジか?マジかお前!?」
それ鍵だよね?まさか盗んだの?
「盗んでないよ!ただこっそり借りただけ!」
「それは盗んだって言うんだよ!…はぁ。速く行くぞ」
「あ、待って!アイル君!」
こうなったらヤケクソだ。
確か呉越同舟、一蓮托生、死なば諸共か?
まあ、何にせよ頼られたからには、付き合うか。
バイトも夜からだし、問題ない。
「う〜ん…何でだろう…」
さて、方陣を組み呪文を唱えても起動しない方陣。
最初に聞かれた時、とりあえず自分で考えろと言ったのが5分前の話だ。
そろそろかと声をかけようとした時
バン!
「うひゃあ!?」「うお!?」
「実技室の生徒の無断使用は禁止だぞ〜」
「「グレン先生!?」」
突然のグレン先生の襲来。
やべぇ、とりあえず謝っとこ。
「すんません、鍵は俺がパクリました」
「アイル君!?違います!私が無理を言ったんです!アイル君は何も悪くありません!」
俺達はお互いを庇いあったが、どっちにしろアウトだ。
でも先生はそんな事お構い無しだったらしい。
「そんな事より、速く完成させちまえ。後は1歩だろうが」
なんだ、気にしないんだ。
だったら遠慮なくそうさせてもらおう。
「でも何故か起動しないんです…」
「タイムアップ。正解は水銀不足だ。ほらあそこ、切れてるだろ?」
そう言いながら、俺は水銀の入った水瓶を持ち、どんどん足していく。
「あ、本当だ。気づかなかった…」
「おお、エステレラは気づいてたか。お前達は目に目えないものには神経質になりやすいのに対し、目に見えるものを疎かにしがちだ。魔術を必要以上に神聖視してる証拠だな。…よし、エス…言い難いな、アルタイル、もういいぞ。ルミア、やってみろ。省略するなよ。教科書通り、5節でな」
「はい…【廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ】」
その瞬間、目の前にオーロラが出てきた。
仕組みはただ魔力が光っているだけだ。
そういうのを、分かりやすくする為の方陣だ。
でも余りにもその光景が美しくて
「「綺麗…」」
俺とルミアは同時に呟いていた。
ふとグレン先生の方を見ると、俺達を見て薄らとだが、確かに笑っていた。
「2人とも、今日はありがとうございました!」
「別に俺は何もしてねぇよ」
「どういたしまして。お陰で、いいもん見せて貰ったし」
夕暮れの中、俺達はルミアを送り届けていた。
「先生って教師になる前は何してたんすか?」
俺が間を取り持とうと、適当な話題を触れる。
「1年間はセリカのところで穀潰しをしていた!」
セリカ…セリカ…確かその名は…
「アルフォネア教授ですか?」
「そうそう、あいつは俺の師匠で親代わりみたいなもんだからな」
「…あれ?じゃあ、それより前は何を?」
ルミアが不思議に思ったのかそう尋ねた。
確かにそうだ、1年間はって事は、それ以前は違うわけだし。
「…ああ!やめやめ!逆に俺からお前達に聞くぞ。お前達は何故魔術を学ぶ?」
どうやら触れられたくない過去があるらしい。
まあ、人なら1つや2つそういうものがあるか。
俺の魔術を学ぶ理由…言うべきかと考えてると
「私がシスティの家で居候させてもらいだしてすぐの頃、魔術師に誘拐されて、殺されそうになったんです」
おっと…いきなりヘビーだなこいつの人生。
…しかし、居候か。
名家フィーベル家に居候となると、かなりの出か?
まあ、邪推というやつか。
「…だけど。そんな私を助けてくれたのも2人の魔術師でした。1人は私を助けるために次々と、人を殺していきました。幼い私はその姿に怯えて、お礼も言えなかったけど、その人はきっと優しい人なんだと思います。だってすごく辛そうな顔をしながら、戦っていたから…」
ほ〜。そりゃ、すごいな!
まさに白馬の王子様だな〜。
「お前、まさか…?いや…それで?もう1人の方はなんか無かったのか?」
「はい。もう一人の人は同い年ぐらいの男の子です。私が捕まってた小屋にいた子で私を小屋から逃がしてくれたんです。紐で空に色んな模様を描いてくれて、まるで絵本が飛び出してきたみたいな…。その時絶望に染まっていた私の心を助けてくれた、癒してくれたのがその人なんです。最後に彼がくれたお守りは今でも持ってます。」
そう言ってルミアは、赤い糸で出来た星型のネックレスを取り出した。
…いや、待て、それは…まさか!?
「だから今度は私があの人たちを助けたい。人が魔術で、道を踏み外さない様に、導いてあげられる人になりたい。そう思ったんです…変でしょうか?」
「…いいんじゃねぇの?そんなの人それぞれだろ。で、お前は?」
「…妹の足が動かなくてさ、養育費とかには魔術関係が1番なんすよ。ちょうど素養もありましたし」
嘘を着く必要もないから、素直に話した。
「そうか…てかそれなら大丈夫なのか!?早く帰らなくて!」
「いや、大丈夫ですよ?下宿先の人が見てくれてますから…ただ何時までもそのままって訳には行かないでしょ?」
「…ならいいけどよ…」
「…あの、システィにお昼の事、ちゃんと謝ってあげてください。あの子にとって魔術は亡き祖父との絆の証なんです…それでは私はここで」
「おう。また明日な〜」
「…俺ももうちょい考えているかね…」
実は妹がいるアルタイル君です。でもあまり出番はありません。
それでは今日はここまで。ありがとうございました。