ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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これでアニメまでは終了です。
これ以降はオリジナルと原作を中心に頑張っていきます。
それではよろしくお願いします。


天使の塵編4話

結婚式が始まる。

新婦側には俺達2年2組生がいるが、新郎側には誰もいない。

その光景に不気味さを思いながらも、式は遂にキスまで来た、正にその時

 

「ちょっと待ったーーー!!!」

 

「…おっせぇよ。ヒヤヒヤしたぜ」

 

教会のドアを思いっきり開けて、グレン先生が現れる。

システィーナの顔は驚愕に染まり、クラスの皆は嬉しそうにする。

 

「俺はこの婚儀に異議ありだ!この結婚に大反対!レオス!お前如きに白猫は渡さねぇ!!!」

 

先生は煙幕弾を投げながら一気に走りよって、システィーナを回収、トンズラする。

 

「アルタイル!リィエル!ルミア達を頼む!」

 

「「任せて!!」」

 

そのまま先生はシスティーナを連れて外へ走っていった。

煙幕が晴れた時、そこには先生とシスティーナ、そしてクライトスがいなくなっていた。

 

「…アルベルトさん。予定通り、先生がシスティーナを保護のち逃走。クライトスもそれを追った模様です」

 

「エステレラ、すまない。こっちが想定より多い。少しの間、そっちを頼む」

 

そのまま通信が切れる。

頼むって…なにを…まさか!?

 

「な、なんだあれ?」

 

誰かの驚愕する声に反応すると、一昨日の晩襲ってきた奴と似た顔色をした奴らが大挙に押し寄せていた。

 

「!?クソ!リィエル!結界を張る!少し持たせてくれ!!」

 

「わかった!やぁぁぁぁ!!」

 

リィエルが群れに突っ込む間に、俺は教会の奥の方に結界を張る。

狭い範囲を強力に守る結界を張り終えた俺は、直ぐにリィエルと交代する。

 

「リィエル変われ!そのまま裏の安全を確保!裏口から皆を逃がせ!ルミア!この地図を渡しとく!皆でそこまで逃げろ!そこにアルベルトさん達がいるはずだ!!」

 

「アイル君は!?」

 

「俺は突っ込む!!」

 

そのまま一気に糸の弾を打ちながら走り出す。

糸を振るって纏めて首をはねとばす。

飛びかかってくるやつの腕を縛り、ぶん回して周りのヤツらも吹き飛ばす。

その隙に刺されるも、巻いてある糸で防げるので問題ない。

そのまま思いっきり蹴り飛ばす。

 

「『雷帝の閃槍よ』!!」

 

【ライトニング・ピアス】で纏めて貫く。

 

「『吠えよ炎獅子』!!」

 

【ブレイズ・バースト】で焼き払う。

 

「『三界の理・星の楔・律と理は我が手にあり』」

 

【グラビティ・タクト】で全力で押し潰す。

 

「シッ!フッ!ハァ!」

 

【アリアドネ】で斬り付ける。

自分が持ちうる手札、その全てを使って戦う。

気づけば、殆ど倒して残り数体。

だがまだ奥からワラワラとやってくる。

 

「…チッ。ゴキブリかよ」

 

「ここまでよく持たせたのぉ」

 

いつの間にかアルベルトさん達が合流していた。

 

「おまたせアルタイル。ここは僕達に任せて」

 

「クラスの者達は保護した。リィエルもついてる。速くグレンの所に行け」

 

「はい。頼みます!」

 

俺はそのまま路地に向かって走り出す。

システィーナに渡したお守りの反応を頼りに、路地を駆け抜ける。

 

「見つけた。…大丈夫かシスティーナ?」

 

そこには泣きじゃくりながら、座り込むシスティーナ。

 

「アイル…!?その血は!?大丈夫なの!?」

 

「血?…ああ、返り血だ。問題ない」

 

どうやら返り血で汚れてたらしい。

…よく見たらすごい血だらけだな。

 

「返り血…アイルもあの人達と戦ったの?…殺したの?」

 

「まあ…な…。言い訳がましいが、あっちもイカれてたし、殺そうとしてきた。自分の命を…大切な人を守る為には仕方ない」

 

システィーナの言葉が心に刺さる。

自分の言葉に頭痛と吐き気がする。

それでも逃げない、向き合う。

あの時そう決めた。

 

「強いわねアイルは。…私には無理、無理だったわ。所詮私は、何も知らないお嬢様だった!なんの覚悟もない、ただの子供だった!どれだけ先生に師事を仰いでも結局これよ!私には何も出来ないのよ!!」

 

路地裏にシスティーナの慟哭と懺悔が響き渡る。

何を見たかは、何となく察した。

魔術の現実に心が追いつかなかったんだろう。

 

「…俺だって命のやり取りは怖い。何よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

俺の心の奥底にだって、いつも恐怖がある。

覚悟だの何だの取り繕ったって、やってのは殺しだ。

 

「いつか自分が外道に堕ちるんじゃないか、怖くてしょうがない。でも、だから戦うんだ。怖いから、恐れるような事態にならない様に戦うんだ。目の前の敵もそうだし…何より自分自身の心と」

 

「怖いから…戦う…」

 

白金魔導研究所で、俺は向き合うだけの覚悟を見つけた。

でも、覚悟だけじゃ足りないって思った。

 

「システィーナ、お前はどうする?ここで蹲ってじっとしてるか?怖くても、歯食いしばって進むか?」

 

俺はこれ以上の励ましはしない。

これはシスティーナ自身の戦いだ。

 

「…怖い。これが本当の気持ち。でも…先生が居なくなるのも嫌。だがら…戦う」

 

顔を上げるシスティーナ。

その目はさっきまでの弱さはない。

 

「…なら速く行くぞ。どっちだ」

 

「こっちよ。ついてきて!」

 

システィーナは立ち上がって、ドレスの裾を破り捨てた。

それはまるで、自分の弱さを切り捨てる様だった。

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「今回は僕の勝ちようだね、グレン」

 

俺はレオスに【セルフ・イリュージョン】で化けていた、元同僚のジャティス=ロウファンと戦っていた。

そして奴の使う【タルパ】に負けて、蹲っていた。

 

「安心してくれ。苦しませずに一瞬で殺す。それが君への最大限の敬意と礼儀だ」

 

「クソ…!」

 

「あの世でセラによろしく伝えてくれ」

 

ジャティスの【タルパ】が俺にトドメを刺そうとした時、突然【ゲイル・ブロウ】がジャティスに放たれ、見慣れた赤い糸が【タルパ】をバラバラに切り裂いた。

 

「…間に合った…」

 

「何とかな。ギリギリだったけど」

 

「…お前ら、何で…」

 

俺の目の前には白猫とアルタイルがいた。

 

「何でって…助けに?」

 

「馬鹿野郎!白猫!なんで戻ってきた!?アルタイルも!ここはお前らのいていい世界じゃない!!」

 

思わず怒鳴ってしまう。

こいつらは俺が…俺が守らねぇといけねぇのに!!

 

「そう。そして、先生のいていい世界でもないわ!」

 

「俺達は、あんたを連れ戻しに来たんすよ」

 

それを2人は、はっきり否定してきた。

 

「先生言いましたよね?『ルミアを守る為に、力が必要だ』って。ルミアは私にとって大切な人。それに…貴方もそう!」

 

「な!?」

 

「怖い貴方も、普段のロクデナシの貴方も、どちらも貴方という人間。かけがえのない人である事に間違いない!だから…()()()()()()()()!()!()!()()()()()()()()()()!()!()!()

 

闇が晴れた気がした。

白猫…システィーナのその涙を流しながらも、目の奥の強い光が、俺を照らしてくれた気がした。

 

「いやはや…少々不覚をとった」

 

瓦礫の中から、優雅に汚れを払いながら、ジャティスが現れる。

 

「もう、先生に関わらないでください!」

 

「…ウザイね君。性格までセラに似てるんだな」

 

ジャティスがシスティーナを睨みつける。

 

「あんたがジャティス=ロウファン?だったら聞きたいことがある」

 

その視線をアルタイルが前に出て遮る。

聞きたいこと…?

 

「ん?何だい?少しばかり機嫌が悪いんだが」

 

「何故こんなことをする?お前の正義は何だ?」

 

「この世全ての悪への正義の執行だよ。その為に【禁忌教典(アカシックレコード)】を手に入れる」

 

まただ…【禁忌教典(アカシックレコード)】って何だ?

 

「なんだそれ?」

 

「この世の全ての理を支配する力の存在。故にかつて、僕の正義に勝ったグレンを倒さなくてはならない。それが僕の行動の理由だよ」

 

「…つまり、自分の正義を打倒したグレン先生の正義への再戦?」

 

「そうだよ。これで満足したかい坊や?」

 

アルタイルは黙り込む。

一体何を…?

 

「すまないが、まだ2つほど、聞きたいことがある。お前は自分の正義を、絶対善だと信じてるのか?」

 

「何を言うかと思えば…当然だとも」

 

「では、グレン先生の正義は?」

 

「グレンの正義もまた、善だ。故に僕を倒してのだから」

 

「そうか…ならはっきり言うぞ。()()()()()()()()()()()

 

ハッキリと、アルタイルはジャティスの正義を否定する。

それはただ否定するのではなく、何かしらの根拠があるように聞こえた。

 

「何…?どういう事だ?」

 

「正義ってのは千差万別。一人一人あるものだ。故に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()沿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なのにお前は心の底から、グレン先生の正義を認めている。そんなのは間違いだ。矛盾している。そしてそんな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!?きさまぁ…!!」

 

確かにそうだ。

あいつは自分の正義を本気で信じながら、俺の正義も認めていた。

それは本来有り得ない…いや、有り得てはいけない事だ。

何故ならそれは自分自身への否定に繋がるからだ。

 

「故に…ジャティス=ロウファン。俺がハッキリ宣言してやる。お前のそれは…()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「貴様ァ!!!」

 

ジャティスが激昂する。

自身のアイデンティティを穢されたのだから、怒り狂って仕方ないのだろう。

そんなジャティスを見て身構える2人。

 

「…やれやれ。俺もヤキが回ったぜ。こいつは要らねぇな!」

 

俺は来ていたローブとナイフを捨てた。

 

「白猫!アルタイル!スリーマンセルだ!俺が前衛。お前達は後衛と補助だ。行けるな!」

 

「…OKです。ほらよっと」

 

アルタイルの【アリアドネ】が、俺を外側から強化してくれる。

正直、これはかなりありがたい。

 

「約束するぜ。刺し違えてもあいつは倒して、お前達だけでも皆の」

 

「おっと、その約束はお断りですよ」

 

「3人で皆の所に戻るの!そういう約束なら、喜んで受けるわ!!」

 

2人の笑顔に俺もつい笑ってしまう。

…成長したなこいつら。

 

「…頼りにしてるぜ、アルタイル。システィーナ」

 

「幾らでも頼って下さいよ!」

 

「やっと、初めて私の名前をまともに呼んでくれたわね」

 

「…行くぞ!!」

 

俺達は一気にジャティスに向かって走り出す。

 

「何という堕落!!システィーナ=フィーベル!アルタイル=エステレラ!君達のせいで!」

 

そう怒りながら、【タルパ】を大量に生み出す。

 

「邪魔だ!!」

 

「『集え暴風・散弾となりて・撃ち据えろ』!!」

 

アルタイルが糸で瓦礫を釣り上げ、叩きつける。

システィーナが【ブラスト・ブロウ】で纏めて吹き飛ばす。

 

「僕とグレンの戦いの邪魔をするなー!!」

 

デカい【タルパ】が火を放つ。

 

「『大気の壁よ・二重となりて・我らを守れ』!!」

 

これは!?即興改変!!

システィーナのやつ、いつの間に!?

 

「即興改変!?」

 

「『颪の風狼よ・我をその背に・疾く烈しく駆けよ』!!」

 

「『三界の理・星の楔・律と理は我が手にあり』!!先生!決めろぉ!!」

 

ジャティスが動揺したのをチャンスと見たか、システィーナとアルタイルが、俺を高く飛ばす。

拳には【アリアドネ】の糸が巻きついている。

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

落下の速度を加えた俺の全力の一撃を、顔面に叩きつけた。

奥の壁まで吹き飛んでいくジャティス。

 

「…グッ。彼女達は…これほどの技量だったとは。計算違いだったか…。」

 

そう呟きながら、立ち上がる。

何をするか警戒していると

 

「来い!僕の奥底に眠る、正義の具現!僕だけの神よ!正義の神よ!僕の正義に牙を剥く、邪悪を駆逐せよ!【レディ・ジャスティス・ユースティア】!!」

 

今まで見た事ない【タルパ】。

これがジャティスの最後の切り札。

だが、それを見ても恐怖はない。

 

「『大いなる息吹よ』!」

 

システィーナの魔術が、【タルパ】を構成する【疑似霊素粒子(パラ·エテリオン)】ごと吹き飛ばす。

 

「!?何!?コール!コール!」

 

ジャティスがすぐに構築し直す。

 

「ジャティス!!!」

 

その隙に一気に近づくも、先に再構築が終わってしまう。

巨大な剣が振り下ろされた時、赤い糸がそれを縛り上げ、動きを止めさせる。

 

「やらせない!!」

 

「貴様ァ!!」

 

ジャティスがアルタイルに気を取られている瞬間に、射程圏内に入る。

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ジャティスが気づくも、既に射程圏内。

そのまま拳を振り切って、殴り飛ばした。

 

「…ケリをつけるぞ」

 

俺はそのまま倒れ伏しているジャティスに、宣言する。

 

「ハハハ…自惚れるなよグレン。君の優勢は彼女達のお陰だろう?」

 

その時、倒れる音が聞こえた。

反射的に振り向くと、システィーナとアルタイルが片膝ついて、荒く呼吸をしていた。

 

「大丈夫か!?」

 

俺は直ぐに2人の元に走り出す。

 

「…マナ欠乏症。2人とも限界のようだね。まあ、ここは撤退させてもらうよ」

 

「先生…速く…あいつを…」

 

「喋るな、アルタイル!」

 

アルタイルが必死に動こうとするも、体が動かないのだろう。

もがくので精一杯らしい。

 

「グレン、君は知らないだろうが、この国はね、滅びなくてはいけないのだよ。何故なら邪悪な意思の元、作られた国だからね。それではグレン、また会おう」

 

そう言ってやつは【タルパ】の肩に乗って消えていく。

 

 

 

「先生…逃がしてよかったんですか?」

 

俺は先生に歩きながら聞く。

 

「お前らの命の方が大切だ」

 

システィーナを背負いながら、呑気に言う。

皆の元に戻ると、皆大喜びしながらグレン先生達に走りよる。

 

「ルミア。無事か?」

 

「アイル君!怪我はしてない!?」

 

「おう、大丈夫。マナ欠乏症なだけだから」

 

笑いかけながら、ルミアに大丈夫だと告げる。

俺はそのまま近くにいたテレサに話しかける。

 

「テレサ。大丈夫か?」

 

「え、えぇ…大丈夫よ」

 

少し様子が変だな…。

ふと視線に気づくと、幾人かの生徒が俺を見ている。

その目は…()()()()()()

ああ…あれだけ暴れたからな…無理もないか。

そう、アイツらとの戦いを見ていた彼らには、俺がアイツら以上の怪物に見えるのだろう。

 

「…大丈夫ならいい」

 

そう言って俺はその場から離れる。

分かっていた。

分かっていた事なんだ。

でも…これは…

 

「キッついな〜…」

 

この事件を機に、俺はクラスで浮いた存在となってしまった。




アルタイルの戦場はどうしようかと悩みました。
皆の前で戦うか、システィーナと共にジャティスと戦うか。
結果は両方に欲張りました。
前回、アルベルト達と会っていたので、彼らが来るまでの繋ぎの戦闘を行ってから合流という形が出来ました。
それはさておき、皆の前で戦い、皆から避けられてしまうようになったアルタイル君。
果たして彼の心を守れるのか…。
それでは失礼します。
ありがとうございました。

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