ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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事件後、クラスで浮いた存在になってしまったアルタイル君です。
九を助ける為に一を切り捨てるのでは無く、一に大切な人がいたら、九を切り捨てる覚悟。
それを持っているアルタイル君です。
よろしくお願いします。


小話4

「シッ!」

 

左ジャブを2発。

当然躱される、なら…!

 

「フッ!」

 

右ストレートを1発。

それを防がれる。

そのまま防いだ腕を掴んで飛び膝蹴りを、くらわせる。

 

「オラ!」

 

「チッ!」

 

ガードが開く、今だ!

 

「そこ!」

 

全力の右ストレートを打ち込む。

決まった確信があった。

 

「なんてな」

 

「な!?」

 

開いたガードのまま、懐に入り込まれる。

締められかけるが、かろうじて左腕を噛ませて、極まるのを防ぐ。

俺は右手で後ろ髪を掴んで引っ張る。

 

「イテテテ!」

 

痛がる相手の腹に膝蹴を入れて、体勢を崩させる。

そのまま突き飛ばして、ハイキックを叩き込む。

 

「ハッ!」

 

辛うじてガードが間に合ったが、直撃はしなかったもののダメージは入ったのか、ふらついている。

その隙を逃さない。

 

「ここだ…!」

 

俺はがら空きの胴に回し蹴りを放つ。

勝ちを確信したその瞬間

 

「よっと」

 

突然、腰を切ってこっちの蹴りを正面から受け止める。

 

「何!?」

 

更にその体勢のままタックルしてくる。

蹴りの体勢のままだったため、踏ん張りが利かず、よろける俺に左フックが飛んでくる。

 

「グッ!」

 

かなり重いのが直撃。

さらに右ボディー。

抉り込むような一撃が、さらに腹に響く。

 

「フッ!」

 

体がくの字になる俺の顔面に、膝蹴りが来る。

辛うじてそれは防いだが、反動で上半身が持ち上がる。

 

「…あ」

 

顔が上がった先には、右ストレートが飛んできていた。

ノーガードで真正面から食らってしまい、吹き飛ばされる。

 

「ガハ!!」

 

「1本!そこまで!勝者、グレン先生!」

 

俺達の実戦組手を見ていたシスティーナが勝敗を告げる。

 

「いや〜、強くなったなお前!ヒヤヒヤしたぜ!」

 

「勝っておいてよく言いますよ…」

 

グレン先生が右腕を振るいながら、俺に左手を差し出す。

その手を掴んで俺も立ち上がる。

 

「ま、これでも元本職だしな。まだまだ負ける訳にはいかねぇよ。実際いい線いってたぜ。後は経験だな。経験を積めば、駆け引きの選択肢が広がる。俺とお前の差はそこだ。体術自体はそれほど大きな差はねぇよ」

 

「それにしても…遠すぎますよ…」

 

「当たり前だ。お前達の師匠だぞ、俺は」

 

「2人とも動かないで。『天使の施しあれ』」

 

システィーナが【ライフ・アップ】で、俺達の怪我を癒してくれる。

 

「凄い戦いでした。私じゃまだまだ…」

 

「そりゃあ、俺とシスティーナじゃ下地が違う。それにお前は、魔術戦の方が得意だろ?適材適所ってやつさ」

 

「その魔術戦だってまだ、アイルに勝てた事ないし…」

 

「それこそ経験の差、だろ」

 

俺は爺さんに昔から鍛えられてきた。

だからシスティーナ以上に、体術は得意だ。

だが魔術戦なら、最近のシスティーナの成長はめざましい。

このペースならいつか抜かれる。

そういう危機感もあって、今回グレン先生にガチの組手をお願いしたのだ。

 

「さて、そろそろ時間っすね。じゃあ、俺はこれで」

 

そう言って俺は軽くストレッチしていると、

 

「アルタイル…大丈夫か?」

 

先生が、心配そうにこっちを見ている。

 

「…大丈夫ですよ。先生達がいるし。じゃあ、お疲れ様です。また学校で」

 

そう言って俺は、ランニングしながら家に戻った。

汗を流し、朝飯を食べてから家を出て、いつもの噴水広場まで向かう。

 

「あ、おはようルミア、リィエル」

 

「おはよう、アイル君!」

 

「ん。おはよう」

 

ルミア達と合流して、先生を待つ。

 

「アイル君、大丈夫?無理してない?」

 

「今日グレン先生にも言われたけど、俺は大丈夫。ルミア達いるし」

 

そう答えるも、ルミアの顔は心配そうな顔から変わらない。

どうやら相当心配かけてるらしい。

少しして、グレン先生と合流、そのまま学校に向かった。

ルミア達が何を心配してるかというと…

 

「おはよう」

 

「「「「「「…」」」」」」

 

この沈黙である。

簡単に言うと、俺はクラスで半孤立状態にある。

ルミア達がいるから、完全に孤立してる訳ではないが、その3人以外との交流が無くなった。

何故かというと、先日のジャティス=ロウファン襲撃事件である。

その時に放ってきた、末期中毒症状者との戦いで、俺が一方的に虐殺したのを、見られていたからだ。

皆、俺が怖くなって近寄らないのだ。

覚悟していた。

覚悟していた事なんだけど、堪えるものがある。

でもそれは、おくびにも出さない。

だって出してしまえば、ルミアやシスティーナ、グレン先生達が、責任を感じてしまうから。

これは自分で選んだ道だがら、それは避けたい。

だから表には出さない。

出してはいけない。

そう思いながら、俺は日常を送る。

 

 

「テレサ、少しいい?」

 

私はお昼休みに、テレサを人気のない場所に連れてきた。

 

「…何?ルミア」

 

「どうしてアイル君を避けるの?」

 

「それは…」

 

私は早速本題に入る。

時間もないし、今は世間話をする気分でもない。

 

「テレサはアイル君の事好きなんだよね?だったら何で避けるの?」

 

「…」

 

何も言えずに、黙り込むテレサ。

それが私の苛立ちを余計煽る。

 

「アイル君は皆を守る為に戦ったんだよ?その結果どうなるか、分かった上で戦ったんだよ。あのに、あんな態度。そんなの許せない」

 

私は怒ってる。

テレサに、クラスの皆に。

たった1人で全てを背負おうとしている、アイル君に。

 

「本当に好きなら!何で支えようとしないの!?何で寄り添おうとしないの!?何で避け続けるの!?…アイル君がどんな思いで、今生活してると思う?心が張り裂けそう、悔しい、悲しい。でもそれを出してはいけない。そうやって全部抱え込んで、隠そうとしてるの。グレン先生も、システィも気づいてる」

 

言葉にすればするほど、悲しくなる。

私じゃ足りないのかなって、悔しくなる。

 

「私は!アイル君が好き!だから側にいたいし、支えたい!側にいて欲しいし、支えて欲しい!貴女は!?貴女はどうなのテレサ!!」

 

それでもテレサは何も言わない。

ただ俯くだけ。

 

「…もし、まだ向き合わないなら。これ以上、アイル君に関わらないで。これ以上、彼を傷つけないで」

 

…狡いな、私は。

こうさせたのは、()()()()()()()

この状況すら、利用してる。

それでもアイル君を守る為なら、何だってする。

アイル君がそうしたように、私も覚悟を決める。

何時までも、守られてばかりのお姫様は…嫌だ。

だけど、私に直接戦う力は無い。

だから…こうするしかない。

チャイムが鳴る。

午後の授業が始まる5分前だ。

 

「じゃあ、そろそろ戻ろっか」

 

そう言って私は、空き教室を出る。

テレサは…俯いたまま、動けなかった。

 

 

 

「何で皆アイルを避けるの?」

 

放課後、バイトがあると言って先に帰ったアイルがいない教室に、リィエルの素朴な疑問が響く。

 

「リィエル…?」

 

「それは…その…」

 

「あの時の事が…」

 

「あいつの顔が…怖くてさ…」

 

皆がそれぞれの気持ちをポツリポツリと呟く。

皆の怖がる気持ちは痛いほど分かる。

私もあの時、グレン先生が怖くて拒絶してしまった。

逃げ出してしまった。

だから強く否定できない。

 

「?私にはよく分からないけど…アイルも怖がってる」

 

「!?」

 

リィエルも気づいてたんだ…。

野性的な勘かしら?

 

「怖がってるって…どういう事ですの?」

 

「アイルは何かに怖がってる。でもそれを隠して戦ってた。何となく分かる」

 

「何となくって…」

 

リィエルの言葉に皆が困惑している。

リィエルなりに、アイルを助けようとしているんだ。

だったら…私もやらないと。

 

「『俺だって命のやり取りは怖い。何よりも、なんの躊躇いなく殺せるようになった、俺自身が1番怖い』…アイルはそう言ってたわ」

 

私はあの時のことを思い出しながら皆に教える。

本当は、誰よりも怖がっていたのは、彼自身なんだって。

 

「システィーナ…?」

 

「『でも、だから戦うんだ。怖いから、恐れるような事態にならない様に戦うんだ。』こうも言ってたわ。…アイルは歯を食いしばって、必死に戦った。自分の弱さと…恐怖と!きっとこうなる事も分かってたはずよ。それでも戦う道を選んだ!自分の望みの為に!私達の誰よりも、魔術師らしく!」

 

私はクラスの皆に向かって叫んだ。

 

「皆の怖がる気持ちは、痛いぐらい分かる。私も1度逃げ出したから。でも、それでも向き合って欲しいの!怖いままでいい!でもアイルを避けたりしないで欲しいの!私達を守る為に、体も心もボロボロになって、そのままなんて…そんなのダメよ」

 

私は泣きそうになる。

だってあまりにも救われなさすぎる。

誰かの為に戦ってるのだから、救いがないと惨すぎる。

 

「…アイル君は本当に優しい人なの。何時も自分より、皆の事を考えてる人なの」

 

今まで黙っていたルミアが初めて口を開く。

 

「だから、お願い。アイル君を怖がらないで。逃げないであげて!」

 

そう言ってルミアは頭を下げる。

その行動に、皆が驚く。

私も隣に立って、一緒に頭を下げる。

 

「どうして…そこまでするの?」

 

リンが呆然と尋ねてくる。

 

「…助けてくれたから。ずっと助けられてきたから。だから今度は、私がアイル君を助ける番だと思ったの」

 

「勇気をくれたから。現実と向き合う勇気をくれたから。だからその勇気を、アイルのために使ってるだけ」

 

私達はそれぞれの理由を皆に教える。

 

「「「「「…」」」」」

 

でも、誰も何も言わない。

 

「…じゃあ、私達はこれで…」

 

「皆、また明日…」

 

私達は落ち込みながら、教室を出る。

今日は無理でも明日…1週間後…半月後…そうやって、いつかアイルの事を認めてくれる日が来ることを祈りながら、帰路についた。




恐怖に勝つ為に戦うのでは無く、負けない為に戦う。
強くある為に戦うではなく、弱さに負けない為に戦う。
全てを救うのではなく、大切な人を守る強さを求める。
その結果、何が起きても受け入れる。
例えそれが、自分にとって不利益でも。
アルタイル君はそういう子です。
今回、その精神性が、ちょっと悪い方に向かってしまいました。
そんな彼をルミア達は守ろうと必死です。
次の【タウムの天文神殿】編では、大人が一肌脱ぎます。
それではありがとうございました。
失礼します。
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