誰か、ご存知だったりしません?
それではよろしくお願いします。
「ったく、どいつもこいつも…人の気も知らないで…」
「まあまあ、仕方ないでしょ?」
俺達は会場の窓で賓客を見下ろしていた。
この中に敵がいるかもって思うと、気疲れしそうになる。
「先生…アレ、持ってますか?」
「ああ、持ってるぞ。アルタイル…あの話、本気なんだな?」
「…確証も証拠もないから、信じるかは任せます」
「俺の生徒の話だ。信じるに決まってんだろ。イヴよりよっぽど信頼してるぜ。…だからアイツも乗ったんだろうよ」
「…だといいですけど」
そう言いながら、俺は落ち着かず、何度か女子更衣室の方へ、足が向かいかけた。
一応設営しながら結界は張ってあるし、反応だけならルミアに渡したお守りがある。
それに傍でリィエルが、遠隔でイヴさんが、見ている。
だから大丈夫…そう言い聞かせていると
「お、おまたせアイル君。ど…どうかな…?」
声を掛けられ振り返ると…ルミアがいた。
「ごめんね…着付けに手間取っちゃって…」
「…」
俺は言葉が紡げなかった。
淡い桃色のそれなりに華やかな…それだけの普通のドレスだ。
だが、丁寧に結われた髪、薄く施された化粧、控えめに飾られたアクセサリー。
その全てが完璧なチョイスとバランスで仕上がっていた。
普段幼く見えなくもない彼女が、今はどこの社交界に出してもおかしくない、立派な淑女になっていた。
「あ、アイル君?」
そんな不安そうなルミアの声にハッとする。
彼女を不安にさせるなんて、パートナーとしてダメだろ。
俺は直ぐに彼女を褒める。
「…すごく似合ってる。本当に綺麗だよルミア」
下手な評価は、却ってチープに聞こえてしまう。
ただ綺麗、この一言で十二分。
そう思わせるほど、綺麗だった。
「あ、ありがとう…!アイル君も…すごく似合ってるよ!」
「ああ、ありがとう」
今の俺はバイト中の時のように、右側の髪をかきあげて、それを止めている。
唯一違うのはメガネをかけてない事ぐらいかな。
「おーおー。お熱いなお前ら」
「「せ、先生!?///」」
しまった…忘れてた…!
一気に恥ずかしくなって、2人揃って顔を真っ赤にする。
「お前ら、先に行っとけ。俺はここにいるから」
そう言って、そのまま窓の縁に寄り添った体勢をとる。
俺達はその言葉に甘えて、先に会場入りする事にした。
「うわ〜…相変わらず、圧巻だな…」
俺は去年も見た光景に唖然として見ていた。
俺はあまり堅苦しいのは得意では無いので、ちょっと落ち着かない。
「ふふっ、アイル君は、あまりこういうの得意じゃないでしょ?」
「まあな…さて、とりあえず準備運動がてら、俺らも踊るか?」
「じゃあ、行こっか。何組か踊ってるし…アイル君もきっと驚くよ?」
ん?驚く?なんの事だ?
「よう!アイル!」
「ん?カッシュ?」
誰かと思ったら、何とカッシュだった。
「本当にルミアと踊るんだな!気を付けろよ?お前、【夜、背後から刺すべき男ランキング】1位だったぜ」
「本当に、ロクでもないランキングばっかあるなこの学院は」
何だその意味不明なランキングは。
「そりゃお前、学院で人気の天使ちゃんの隣を勝ち取ったんだから、恨み妬みなんて掃いて捨てるほどだぞ?ま、気をつける事だな!」
「ああ…本当に気を付けるよ…」
本気で気を付けてないと、洒落にならんからな…今日の場合。
「全く…格式高いパーティーだというのに、男どもの品がなってませんわ!レディの扱いを心得てから来て欲しいですの!」
そんな怒ったような口調で、現れたのはウィンディだ。
赤を基調としたそのドレスは、確かにウィンディならば、着こなせるだろう。
「ウィンディもいたのか。よく似合ってるぞ。まさに1輪のバラって感じだな」
「あら、お口がお上手のようですわね。ですが、その言葉謹んでお受けしますわ。アルタイルも何時もとは違って、しっかり整えてますわね。良くお似合いですわよ、お2人とも」
俺はウィンディのドレス姿を褒めつつ、宥めといた。
ルミアは少し不機嫌そうにしてたが、ウィンディの言葉で機嫌が戻ったらしい。
「他の男にもアルタイルぐらいの品が欲しいですわ…。それはともかく、私も【
すげぇ…ここまで高笑いが似合う奴、初めて見た…。
「あ、ウィンディのパートナー俺な。くじ引きで決まった」
「…終わりましたわ」
「ヒッデェな!?」
ウィンディも出るのか…
申し訳ないが、ウィンディへの警戒は要らないな。
だって…ウィンディだし。
「なんか珍しい組み合わせだな?」
「そりゃ
「…何?」
今なんて言った?
「名付けて【先生を金銭的に干そうぜ&アイルに赤っ恥かかせようぜ作戦inダンスパーティ】だ!」
「バッ!?」
思わず声に出そうになるのを、辛うじて防ぐ。
余計な真似をしてくれたとしか思えない。
帝国式社交舞踏会には、独特なルールがあるのだ。
それは、『誰かにダンスの誘いを受けたら、最低1回は受けなくてはならない』、というのルールだ。
もちろん強引に断る事は出来るが、その代わり追い出されてしまうのだ。
だが【ダンス・コンペ】中であるなら、断り続けても許されるのだ。
つまり、コイツらのやってる事は余計なお世話っていうやつだ。
思わず頭を抱えると、突然黄色い歓声が響く。
何事かと振り向くと、そこには銀色の少女と、
「アイツらは…システィーナ?それと…誰だ?」
「ふふっ、分からない?」
ルミアが面白そうに話しかけてくる。
曲が終わり、2人がこっちに来る。
「ふふん!どうだったかしらアイル?」
「あ、ああ…よく似合ってるぞ。まさに銀細工って感じだな。ていうか…ただの考古オタクとしか思ってなかったが…こう見ると、やっぱご令嬢なんだよな…お前…」
「ドレス姿の評価はありがとう。でも貴方が私をどう思ってるか、一度話し合う必要があるみたいね…。ていうかそうじゃなくて、こっちよ」
こっちって…そっちの男の事?
…いや?男か?コイツ…何処かで…
「ま…まさか!?
「ん」
「大正解〜♪」
ルミアがイタズラ成功と言わんばかりの声で言うが、それどころじゃない。
「私ピンと来たのよね!この子、磨けば間違えなく男装の麗人になるって!私の目に狂いはなかったわ!!」
「あ、ああ…今、リィエルが出なくって、ちょっと…ホッとしてる…」
こんな奴出られたら、逆にヤバい。
自信が無くなる…。
「白猫、もう居たのか。誰と踊って…って!?リィエルか!?」
後ろから先生もやって来る。
そしてリィエルを見て、驚愕している。
「どうよ!私の渾身のプロデュースは!?」
「…じゃあ、あれはどうするんだ?」
「え?」
俺が指さした方へ、システィーナが目を向ける。
そこには
「グレン…私もダンス?一生懸命…覚えた。だから…後で私と踊って?」
「踊ってって…お前が覚えたの男パートだろ?」
「え?」
初めて知ったと言わんばかりに目を見開くリィエル。
「…で?あれはどうするんだ?」
わざと同じ言葉を使って尋ねる俺。
「…ごめんなさい」
思いっきり目を逸らして、汗を流すシスティーナ。
というか、リィエルは何してんだよ。
護衛だろうが…まあ、今更かアイツの場合。
「ふふっ…ドキドキするね?」
ルミアがそんな事を呟いた。
「私…今日がずっと楽しみだったの。【
そう言いながら、俺を見る。
その透き通った笑みは、まるで聖女みたいで…少し怖かった。
「バーカ。言ったろ?『最高の夜にしてみせる。【
そう言いながら俺は膝をついて、彼女の甲にキスをした。
周りから見たその姿は、まるで女王に忠誠を誓う騎士のようだったとか。
「…!///ふふっ!よろしくね。My gentleman」
「もちろん、お任せを。My lady」
こうして【社交舞踏会】恒例行事【ダンス・コンペ】が始まった。
「と、格好つけたはいいが…なんと言うか…」
余裕の予選突破だ。
仮にも昨年準優勝カップルの片割れと、ガチの王家のお嬢様だ。
この程度なら問題ない。
ちなみに同じブロックで当たったウィンディ達は、最後の最後にウィンディが、ドレスの裾を踏んでズッコケるという、いつものオチが待っていた。
「やっぱりお前はすげぇな。余裕で優勝候補筆頭だぞ」
「まあな…あっちもそうだろ?何せ今大会、最高得点だ」
あっちとは先生・システィーナカップルだ。
思わぬダークホースとして、注目度も高いコンビだ。
「ふふ…燃えてきたねアイル君!」
「お、おう…そうだな…」
そして何故か熱くなってるルミアよ。
お前はそんな熱血キャラだったか?
「失礼、先程の予選、拝見させて頂きました。
とても素晴らしいダンスでした。ぼくの名前は【カイト=エイリース】。クライトス魔術学院から招かれました」
レオス=クライトスのいた所からか…。
内心ため息をこぼす。
さっきから、この手の輩が多いのだ。
こっちとしては気が気じゃないのでやめて欲しい。
その時、アレにグレン先生からの連絡が入る。
⦅気を付けろ。そいつが【魔の右手】のザイードらしい。まあ十中八九、偽物だろうけどな⦆
その言葉に、思わず反応しかけるのをギリギリで、止める。
⦅どうします?捕まえますか?⦆
⦅それは言ったが却下された。
⦅…そんな話ありました?⦆
協力者なんて聞いてない。
そんな話、1度もしてないよな。
⦅自分の手柄欲しさに、隠してやがったんだよ。…絶対にしばく⦆
俺はため息をつきそうになった。
俺にならともかく、先生はアルベルトさん達にすら、そういう事すんのかよ。
まあ…他人の事は言えんか。
「なるほど、彼は昨年準優勝カップルの1人なのですね。それは納得です。それにしても…貴女のようなお美しい方と、踊れるなんては羨ましい限りですね。コンペ終了後、1曲お相手してただけないでしょうか」
「普通に踊るだけでしたら」
「ありがとうございます。それではご健闘を祈っています。…キミも、頑張ってね」
恭しく一礼した後、俺に握手を求める。
その手は、右手だった。
俺は一瞬躊躇ったが…そのまま握り返す事にした。
「応援ありがとう。…
最後だけルミアには聞こえないように、小さく言った。
「…へぇ。分かっていながら、僕の右手を握りますか」
「伝えておいてくれ。
その瞬間、奴の顔色が変わった。
…ビンゴ。
だが、止められない。
何故なら、止めれば暗殺失敗だから。
そして失敗すれば…粛清されるから。
「…ええ、しっかりと」
そう言って、離れていくエイリース。
さて、ここから…どうなるかな。
それからしばらくして、本戦出場枠が決まった。
俺達と先生達は、余裕の出場確定だった。
「やったよ!アイル君!」
「まだこっからだぞ、ルミア」
喜ぶルミアを、俺は軽く窘める。
実際ここからは、強敵も多い。
「おやおや〜!?誰かと思えば、キザったらしいアルタイル君じゃねぇか?お前も本戦出場決定したらしいな〜?だが…残念!金一封を手に入れるのは、この俺様じゃあ!」
ほんと…こういうの似合う人だよ、アンタは。
「これはこれは、遂に学院に金払なくちゃいけなるほど、減給されたグレン=レーダス大先生じゃないですか!金一封…なるほど。それがあれば、うちのツケ、耳揃えて払ってくれるんですよね?ああ、安心してください…負けても払って貰いますから」
俺は最大限笑顔で、言い返した。
ツケというのは、アルベルトさんとかと話し合う時の料金の事である。
アルベルトさんが払ってるのに対し、グレン先生はツケという形になっているのだ。
それを持ち出された先生の顔は、真っ青だった。
「本当に、何で私はこんなのと…。まあいいわ。ルミア、貴女の思いは知ってるわ。でも、私は譲らないからね!」
「もちろん、私だって譲らないよ。それに…アイル君も約束してくれたしね。ね?アイル君?」
「…当然、約束は違わないさ。ルミア」
そう言って、俺達はお互いにいい意味で、火花を散らした。
「それにしても…腹減ったな」
「ずっと動いてるからね…何か食べようか」
「そうだな。腹に残らないものを探そう」
そう言って俺達は自然と手を繋ぎながら、食べ物を探し出したのだった。
始まりました。
ダンスコンペ。
アルタイルのカッコつけはかなり頑張ったやってます。
それでは失礼します。
ありがとうございました。