それではよろしくお願いします。
「疲れた〜…」
今日も色々あったな。
黒魔術学の授業が、いきなりドッチボールに変わるし。
そのせいでルミアVSテレサという、男子必見のキャットファイトが始まるし。
そのせいで俺が、グレン先生とクラスの男子に狙われ…いや、何でグレン先生にまで狙われなきゃいけなかった?
リィエルがボールで、先生ぶっ飛ばすし。
まあ、やらせたの俺なんだけど。
このところ勉強ばかりで、いい息抜きになった。
さて…そろそろ寝るか…。
そう思った瞬間、殺気を感じた。
「〜ッ!!誰だ!!!」
俺はすぐに【アリアドネ】を装着して、窓から飛び降りる。
ふと、なにか光った気がしたので、俺は糸を張り、その上に立つ。
「…クックック…良く気付いたねぇ〜…」
この声は…!?
聞き覚えのある、ねっとりした声の方を向く。
「ジャティス=ロウファン…!!!」
「やぁアルタイル=エステレラ。久しぶりだねぇ」
「てめぇ…何の用だ!!」
そこにいたのはかつて、俺達を苦しめた狂人、ジャティス=ロウファンだった。
「そうだねぇ〜…君に僕の計画を手伝って欲しくてね…」
「テメェの計画を手伝えだぁ?頭湧いてんのか?」
俺はすぐに足元の何かを壊し、着地する。
そして何時でも戦えるように、身構える。
「勿論、本気だとも。そして君も、乗るに決まってる。でないと…このフィジテが滅んでしまうからね。そして何より…ルミア=ティンジェルの身の安全」
その瞬間、一気に頭に血が上った。
こいつ…!!!
「ぶちのめす!!!」
俺は糸で身体能力を強化してから、一気に踏み込んで殴りかかる。
「やれやれ…
そう呟きが聞こえた瞬間、悪寒が走り、俺は咄嗟に膝を折って地面をスライディングする。
その時、髪の毛が見えない何かに切られる。
「…ッ!?」
俺はそのまま、一気に姿勢を起こしながら、飛び上がって街灯の上に立ち、ジャティスの頭上を取る。
「…今のは?タルパか?」
「…へぇ、思ったより冷静…いや、勘がいいね。その野生じみた勘、まるでリィエルだね」
すました野郎が…!
でもおかげで冷静さを取り戻した。
フィーベル邸には、強力な結界とリィエルがいる。
それなのにルミアを交渉のテーブルに乗せたって事は…
「ルミアは既にお前の手の内…そしてリィエルの戦線離脱か…」
「その通りだよ。ああ、安心してくれ、リィエルは命に別状はないからね」
「誰が…ッ!?今度は何だ!?」
突然、爆発音が響く。
その方向には…アルフォネア邸がある。
「…先生!!教授!!」
「安心してくれ。グレンは無事だよ。あそこに行った、システィーナもね」
まるで事も無さげにそんな事を言うジャティスを、睨みつける。
しかし何時までもそのままでは、埒が明かない。
…仕方ねぇ、背に腹はかえられないか。
「…で?事情は?」
「おや?乗っくれるのかい?」
「白々しい。端からそれしか道はねぇだろうが。とっとと説明しろ」
「ククク…ああ、いいとも!実はだね…」
そこからジャティスから聞かされた話は、あまりにも荒唐無稽な話だった。
「【Project:Frame of megiddo】、【メギドの火】?…天の知恵研究会【
「手短に頼むよ」
話はこうだ。
【魔の右手】ザイードが捕縛され、急進派は一気に追い詰められた。
もう本当に後がなくなった連中は、【
【メギドの火】を使い、このフィジテごと、ルミアを殺す選択をしたって事か…!?
「そもそも【メギドの火】って何だ?」
「正式名称、錬金【
どうしてそんなものが…ここに?
「この魔術の起動には、潤沢なマナが流れる霊脈と、【
霊脈ってのは、フィジテに流れてるやつだろう。
「…【
「霊脈にある
「【
「そうだとも。そして【
なるほどな…つまり…
「ルミアを欲したのは【
「ああ、正解だよ。さて…ここまでで、なにか質問は?」
俺は気になる事があるので、聞いてみた。
「何で俺を巻き込んだ?」
そう、ぶっちゃけルミアさえいれば、回るだろう。
コイツなら、刺客に遅れをとることもないだろう。
「簡単さ…少しでも楽するためだよ」
思ったよりクソな理由だった。
「死ねクソ野郎。それともう1つ…何故フィジテを救う?お前の正義は悪の根絶だろ?だったら、天の知恵研究会を殺し回ればいい。これじゃあ、遠回りだろ。ハッキリ言って…らしくない気がするが」
そう、気になったのはそこだ。
こいつは自分の正義以外に全く関心がない。
つまり、どこかの誰かがあぜ道に転がろうが、気にしないのだ。
「わざわざ、被害を減らそうとしやがって…。本当は【メギドの火】って、そういう術式じゃないんじゃないか?もっと、ヤバいものなんじゃねぇのか?」
俺には他の目的があるとしか、思えない。
俺はジャティスを睨みつける。
その視線を受けても、まるで気にも止めない。
そのままたった一言
「Trust me」
私を信じてって…どの口が…。
「はぁ…まあいい。さっさとやるぞ」
「ククク…そうでなくてはね…さあ、用意してきたまえ」
俺は用意を整える為に、1度戻る。
「行くのか」
「ッ!爺さん…」
店に戻ると、ドアのすぐ側に爺さんがいた。
アイツの殺気で目を覚ましたのだろう。
「…フィジテ云々より、ルミアの事が放っておけない」
ルミアを守る…そう決めたのは俺自身だ。
だから…それを貫く。
例え…何を利用してでも、守ってみせる。
「…ここに帰って来い。いいな」
その時初めて俺は、爺さんの目を見た。
その目は、俺を心配する優しい目をしていた。
そんな目を見て、自分がかなり危うい思考をしていた事を、自覚した。
「…約束する。ちゃんと、ベガや爺さんや婆さんのいる、ここに帰ってくる」
俺の返事を聞いて満足したのか、爺さんは部屋に戻っていく。
俺は一度深呼吸して、心を鎮める。
(殺意に呑まれるな…自分を忘れるな…)
「…よし!」
一度顔を叩いて、気合を入れ直す。
こうして俺は、かつて無い程の闇に向かって、歩きだした。
向かった先には、やはりルミアがいた。
「…ルミア!」
「アイル君!?」
ルミアが俺がいるとは思わなかったのだろう、ここに来た事に、すごく驚いていた。
「…無事だな。怪我はないな?」
「私よりシスティ達は!無事なの!?」
「…アイツいわくな」
そう言いながら、俺はジャティスを睨む。
その視線に気付いてるくせに、素知らぬ振りをしている。
「…アイル君。ごめんね。私のせいで…」
「…バーカ」
俺は泣きそうになりながら謝る、ルミアの頭を軽く小突く。
「俺は…俺の意思でここにいるんだ。だから…気に病むな」
そう言って優しく頭を撫でてやる。
「さて…それじゃあ、早速始めようか」
そんな俺達を無視して、手を叩いて注目を集めさせるジャティス。
「まずは中央区にある【フィジテ行政庁市庁舎】ある、【
そう言って狂った笑みを浮かべる、ジャティスについて行く。
俺達にはそれしか道がないから。
今は踊らされてやる。
だが…覚悟しておけよ。
何時か絶対…その鼻っ柱を…
「へし折ってやる」
小さく、誰にも聞こえないようにボソッと呟きながら、歩き出した。
「それじゃあ、行ってくるよ。帰りはよろしくね」
「…」
俺は黙ってジャティスとルミアを見送る。
念の為に、転移用の糸とは別に、断絶結界を張ることが出来るお守りを、ルミアに渡した。
ジャティスが相手でも、少しは守れるはずだ。
俺の役目はほぼ異界となっている【
ジャティスの野郎は置いていこうかと思うが、どうせ無駄だと直ぐに思い直す。
15分ほどすぎた頃、ルミアに持たせた糸の方から反応がある。
俺はすぐに【アリアドネ】を起動して、ルミアを連れ出す。
「大丈夫か?何もされなかったか?」
「うん。ビックリするぐらい見向きもされなかった。…本当に、フィジテを救う気なのかな?」
「…分からない。けど、裏があるとしか思えない」
俺はとりあえず、ルミアの安全にホッとしつつ、ジャティスを連れ出す事に一瞬迷って、連れ出した。
「…おや。置いてかれると、思ったけどねぇ」
「どうせ、置いてっても自力で出てくるだろ。…で、次は?」
俺は目も合わせずに、ジャティスに次を促す。
「次だが…君にはある倉庫に、これを持って行って欲しい」
そう言って渡してきたのは、やけに重いボストンバッグだった。
「僕はこれからグレンをそこに誘導する。…ああ、中身は見ても構わないよ。君にもグレンにも必要なものだしね」
俺がバッグの中身を見分がてら、確認すると…
「これは…戦闘道具?それと、資料?」
俺は資料を流し読みする。
「その資料をしっかり読み込んでおくんだ。知ってる事と知らない事では、余りにも対応速度が違う。だから読んでおくんだ。…生き残りたければね」
⦅さあグレン。その倉庫に入りたまえ⦆
ルミアを人質の取られた俺は、ジャティスの言葉通りに、この倉庫に来た。
何かの罠を警戒し、ゆっくりと扉を開けると…
「…先生…」
「お前…!?アルタイル!?どうしてここに!?」
中にはアルタイルがいた。
アルタイルは俺の方へ歩み寄り、ボストンバッグを押し付けてくる。
「…ジャティスからです。大至急これに着替えて下さい…。お願いします…!速く…!」
何かに耐えるような、何処か悔しそうな顔をしながら、俺に突きつけてくるバッグの中身を見た時、一気に血が沸騰した気がした。
その中身は…俺が現役時代に使っていた装備一式だった。
「これは…どういう…事だ…?」
⦅分かるよグレン!よ〜く分かるとも!今の君にとって、一番目を背けたい、見たくないものだろう!ごめんよグレン。分かってはいたんだ。
あまりの怒りに怒鳴る事すら出来ないぐらい程だったが、その直後、沸騰した血が一気に冷める程の、悪寒が走る。
俺は弾かれるように、中身を引っ張り出し、用意する。
⦅それでいいグレン。本当は僕だって、今の君に彼を押し付けるのは、不本意じゃないんだ。でも、そんな甘い事を言ってられる相手じゃない。アルタイルを寄越したのは、少しでも生き残る確率をあげるためだ⦆
こんな修羅場に、コイツを巻き込むな…!!
そう怒鳴りたいが、そんな余裕もない。
⦅前回、君が彼に勝てたのは、アルタイルというイレギュラー、君の初見殺しと悪運、そして彼の準備不足が、奇跡的に噛み合ったおかげだ。今の彼とまともに戦えるのは、アルベルトぐらいじゃないか?僕でさえ、まともに相手をしたくない。…さて、最後の試練だ。心しろよ、グレン⦆
俺がギリギリで用意を整えるのと同時に、扉が開く。
その男は黒いダークコートを身にまとっていた。
あの事件の後、そいつの素性の報告書を読んだ時、冷や汗が止まらなかった。
あの時…学院テロ事件の時に、殺したはずの、その男の名は…
「【竜帝】…【レイク=フォーエンハイム】!!!」
⦅…
頂すら見えぬ存在感を前に。
珍しく、緊張しているようなジャティスの声は、全く聞こえていなかった。
ここはまだプロローグみたいなもの。
ここから、戦闘が激化していきます。
それでは失礼します。
ありがとうございました。