少し彼の過去か見え隠れします。
それではよろしくお願いします。
「着いたけど…すげぇゴーレムの数だったな…」
俺はめちゃくちゃいるゴーレムをやり過ごし、何とか転移塔まで来た。
一応糸でトラップの類がないか確認して一息ついたから
「…よし!」
一気に駆け上がった。
その勢いのまま、最上階のドアを強引に蹴り飛ばした。
「おらぁ!」
「!?アイル君!」
変な結界陣の中にティンジェルが閉じ込められていた。
「ティンジェル!無事か!?」
「彼女には一切の危害は加えてませんよ」
ティンジェルの安否に答えたのは、男の声だった。
俺はゆっくりその方を見て、ため息をついた。
「本当にあんただとは思わないませんでしたよ…ヒューイ先生」
そこにいたのは、俺達の前担任のヒューイ=ルイセンだった。
「あんたに結界術の基礎を学んだ時、嬉しかったし、すげぇ勉強になったんだけどな」
「そう面と向かって言われとは、照れますね」
「ヒューイ先生!辞めてください!」
ティンジェルの声を無視してヒューイが話を続ける。
「さて、アルタイル君、これがなにか分かりますか?」
そう聞かれ俺は結界を観察する。
この結界は…いや、まさか…!?
「白魔儀【サクリファイス】!?」
「その通りです。この結界は、あと15分後に私達の潜伏先に飛ぶように設定し直しました。それと同時に私の魂を触媒に、白魔儀【サクリファイス】が発動。この学院を吹き飛ばします」
ちょっと待て、今なんて言った。
魂を触媒?
学院を吹き飛ばす?
つまりこいつらの目的は
「自爆テロって事かよ!?」
「そうですね。然るべき時に、何年も前から仕掛けられていた人間爆弾…それが私です。私としては、もう少し講師を続けたかったんですけどね」
どうする?
どうやってティンジェルを助ける?
考えろ…考えろ…考えろ!
「逃げて!アイル君!」
…は?何言ってるんだ?
「私は大丈夫だから…せめてアイル君だけでも逃げて?」
大丈夫?
何が?
逃げる?
何から?
またあの時みたいに?
全部に目を背けるのか?
…ふざけるな。
もう、あんな思いはゴメンだ。
「断る」
「な、なんで!?」
「…嫌なんだよ。もう逃げるのは…大切なものに目を背けて!失うのは嫌なんだよ!あの絶望はもう味わいたくないんだよ!みんなと…ティンジェルやフィーベル達と出会って、すげぇ楽しかったんだよ!」
そうだ、楽しかった。
学校での日々は、楽しかった。
知らない事を沢山学んだ。
バイトであまり遊べなかったけど、その分学校でみんなと会うのは好きだった。
その日常は1人でも欠けたらダメなんだ。
「なのにこんな、こんな事認めるか!ティンジェル!俺にとってお前も大切なものの一部なんだよ!何とでも言え!俺は死んでもお前を助けるぞ!お前はどうなんだよ!?あの日常は嫌だったのか!?また戻りたくないのかよ!?」
ティンジェルは俯いたまま動かない。
やがて上げた顔には涙が流れてた。
「私も…私も!あの日常が好き!大好き!だから戻りたい!戻りたいよぉ!!」
その言葉を聞けて俺は、満足だ。
「だったら言うセリフが違うだろ!ティンジェル!そういう時なんて言うんだよ!」
「…ッ!私を助けて!アイル君!!」
俺はその言葉を受けて、強く頷いた。
舞台は整った。
俺に任せろ。
「水を差すようで心苦しいのですが、残り10分です。一体どうするおつもりで?」
うるせぇな。
今から奇跡起こしてみせるから、黙って見てろ。
「ティンジェル、あのお守り持ってるか?」
「!?…うん、持ってるよ」
OK、これで手間も省ける。
「ヒューイ先生、最後に教えてやるよ。この手袋は【アリアドネ】と呼ばれる
「逸話?」
「ああ、かつてとある勇者が、ある踏破不可能の迷宮に挑む事になった。その勇者を愛する1人の女性は勇者が帰って来れる様に、1本の赤い糸を彼に授けた。その結果その勇者は、赤い糸を頼りに無事帰ってきたんだそうだ」
「それは…とても良い話ですね。それがどうしんですか?」
ここまで話してまだ分からないんだ。
ふーん、意外に鈍いんだな。
「つまり…こういう事だ!」
そう言って指をパチン!と鳴らす。
突然、ティンジェルのお守りが光り出した。
次の瞬間
「…え!?」
「…な!?」
ティンジェルが結界の中から、俺達の前に突然現れた。
俺はそのままティンジェルを抱きとめて、笑いかけた。
「おかえり、ティンジェル」
「…ただいま、アイル君」
「な、何が起こって…!?」
さて、そろそろタネ明かしをしよう。
「この糸はさっきも言った通り、迷宮から勇者を助ける為の物だ。その逸話から2つの力が生まれた。1つは、2人の愛の絆の象徴として、この糸は【絶対に切れない】という特徴が生まれた。そしてもう1つは一定条件で、いつでも、どこからでも俺の元に呼び寄せることが出来る、というこいつの本質的な能力…【次元跳躍】だ」
そう、この糸の1番の力は【次元跳躍】にある。
条件というのは幾つかあって、その内の1つが俺の糸を何らかの形で持っていること。
ティンジェルの場合、俺が昔あげた星型のネックレスがそれだ。
もちろん、デメリットもある。
「クッ…」
「アイル君!?どうしたの!?しっかり!」
「どうやら相応のマナを消費するらしいですね…」
そう、ガッツリとマナを持っていくという事だ。
全快の俺で1回が限界なのだ。
お世辞にも本調子では無い俺では、あっという間にマナ欠乏症に陥る。
そんな俺の手を優しくティンジェルが握る。
「…ありがとう。私を助けてくれて。今度は私が助けるね」
ティンジェルがそう言った瞬間、突然体中に力が湧き出した。
これはまさか…聞いたことがある。
触れたものの力を何倍にも膨れ上がらせる異能。
「感応増幅者…!!」
ティンジェルは異能者だったのか。
知らなかった。
とは言え、俺にとってはクラスメイトだ。
そんな事は何でもいい。
「あぁぁぁぁぁ!!」
力を貰い、立ち上がる。
目の前の男に拳を握りこみ
「覚悟しろ」
そのまま全力の右ストレートを打ち込んだ所で、そのまま意識を失った。
俺は極度の疲労から意識を失い、気づいたら病院にいた。
隣を見ると先生が寝ていて、俺達は日常に帰ってこられたんだと自覚した。
ちなみに俺の容態は全身の筋肉疲労、及び一部疲労骨折だった。
糸での身体強化はただの外付けなので、本体である俺の体がまだ、酷使に追いついてないのだ。
最長10分が限界なのをかなり無茶して使ったからな〜。
「いや…マジかよ…」
先生が目を覚ましてから数時間後、国のお偉いさんに聞いた話に衝撃を受けていた。
何と我らが2組の天使、ルミア=ティンジェルは、アルザーノ帝国のトップ、アリシア女王陛下の次女で第2王女なんだとか。
異能のせいで存在を消す以外に道はなく、病で亡くなった事にしているらしい。
フィーベル家はそれを承知で、ティンジェルを受け入れたんだとか。
ただ、この話はフィーベル自身は知らされておらず、彼女の祖父とご両親しか知らないらしい。
という話は、そのご両親から直接話を聞いたから、間違えないだろう。
相当の親バカでどうしてもお礼をとの事だったので、治療費を払ってもらう事にした。
「ビックリしちゃった…?」
「そりゃそうだろ?…あの時もそれが理由?」
「ううん、あの時はフィーベル家を狙った賊だったから。システィと間違えられたの。…アイル君は?」
「お前ェ…。俺は元々あそこは俺の秘密基地だったんだよ。遊んでたらお前らが来ただけ」
「あ、アイル君…」
なんという不幸か…
こいつはそういう星の下に生まれたのだろうか?
え?俺もだって?
うるせぇ、自覚あらァ。
「あのね、あの時のことお礼言わせて。あの時は私の事を助けてくれてありがとうございました!」
「実際に助けたのはグレン先生だろ?」
「!?知ってるの!?」
まあ、見てたしなその現場。
俺の糸がしっかりと導いてくてたから、それ以降は見てなかったけど。
「それでも、あの時逃がしてくれなかったら、あの幻想を見せてくれなかったら、きっと死んでたから。だから、ありがとう!」
「…どういたしまして」
これ以上ゴネるのはダサいな。
まあ、悪い気はしないし、ありがたく受けておこう。
「あ、あのね?1つお願いがあるんだけど…」
お願い?
突然だな、何事?
「おう、なんだ?」
「あ、あのね…その…ね?な、名前で呼んで欲しいな!///」
なんだ、そういう事か。
本人がいいならそう呼ぶか。
俺は手を差し出しながらティン…ルミアを名前で呼ぶ。
「本人がいいって言うんなら…これらかもよろしくな?ルミア」
「…ッ!!///…うん!!よろしくねアイル君!!」
ルミアは顔をキラキラさせながら嬉しそうに俺の手を握り返す。
これからルミアを巡って色々大変なことが起こるだろう。
それらから守る為に、もっと強くならなくては。
そう決意を胸に、ルミアと共にグレン先生の元へと歩いていった。
「…へぇ、エステレラ家。あの言祝ぎの家系ね」
「…へぇ、エステレラ家。あの縁紡ぎの家系か」
「面白そうな坊やじゃない」
「面白そうな少年のようだ」
これにて学院テロ編終了です。
最後の2人は誰なのか!?
言祝ぎ!?縁紡ぎ!?
何も考えてません。
前にも言った通り、俺TUEEEEにはしません。
強いのは強いですが当然、格上には勝てません。ダークコートの男戦も、グレンの復活がなければそのうち殺されてます。
そんな感じを目指して行けたらな、と思ってます。
それではありがとうございました。