ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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これで学院テロ編は終わりです。
少し彼の過去か見え隠れします。
それではよろしくお願いします。


学院テロ編5話

「着いたけど…すげぇゴーレムの数だったな…」

 

俺はめちゃくちゃいるゴーレムをやり過ごし、何とか転移塔まで来た。

一応糸でトラップの類がないか確認して一息ついたから

 

「…よし!」

 

一気に駆け上がった。

その勢いのまま、最上階のドアを強引に蹴り飛ばした。

 

「おらぁ!」

 

「!?アイル君!」

 

変な結界陣の中にティンジェルが閉じ込められていた。

 

「ティンジェル!無事か!?」

 

「彼女には一切の危害は加えてませんよ」

 

ティンジェルの安否に答えたのは、男の声だった。

俺はゆっくりその方を見て、ため息をついた。

 

「本当にあんただとは思わないませんでしたよ…ヒューイ先生」

 

そこにいたのは、俺達の前担任のヒューイ=ルイセンだった。

 

「あんたに結界術の基礎を学んだ時、嬉しかったし、すげぇ勉強になったんだけどな」

 

「そう面と向かって言われとは、照れますね」

 

「ヒューイ先生!辞めてください!」

 

ティンジェルの声を無視してヒューイが話を続ける。

 

「さて、アルタイル君、これがなにか分かりますか?」

 

そう聞かれ俺は結界を観察する。

この結界は…いや、まさか…!?

 

「白魔儀【サクリファイス】!?」

 

「その通りです。この結界は、あと15分後に私達の潜伏先に飛ぶように設定し直しました。それと同時に私の魂を触媒に、白魔儀【サクリファイス】が発動。この学院を吹き飛ばします」

 

ちょっと待て、今なんて言った。

魂を触媒?

学院を吹き飛ばす?

つまりこいつらの目的は

 

「自爆テロって事かよ!?」

 

「そうですね。然るべき時に、何年も前から仕掛けられていた人間爆弾…それが私です。私としては、もう少し講師を続けたかったんですけどね」

 

どうする?

どうやってティンジェルを助ける?

考えろ…考えろ…考えろ!

 

「逃げて!アイル君!」

 

…は?何言ってるんだ?

 

「私は大丈夫だから…せめてアイル君だけでも逃げて?」

 

大丈夫?

何が?

逃げる?

何から?

またあの時みたいに?

全部に目を背けるのか?

…ふざけるな。

もう、あんな思いはゴメンだ。

 

「断る」

 

「な、なんで!?」

 

「…嫌なんだよ。もう逃げるのは…大切なものに目を背けて!失うのは嫌なんだよ!あの絶望はもう味わいたくないんだよ!みんなと…ティンジェルやフィーベル達と出会って、すげぇ楽しかったんだよ!」

 

そうだ、楽しかった。

学校での日々は、楽しかった。

知らない事を沢山学んだ。

バイトであまり遊べなかったけど、その分学校でみんなと会うのは好きだった。

その日常は1人でも欠けたらダメなんだ。

 

「なのにこんな、こんな事認めるか!ティンジェル!俺にとってお前も大切なものの一部なんだよ!何とでも言え!俺は死んでもお前を助けるぞ!お前はどうなんだよ!?あの日常は嫌だったのか!?また戻りたくないのかよ!?」

 

ティンジェルは俯いたまま動かない。

やがて上げた顔には涙が流れてた。

 

「私も…私も!あの日常が好き!大好き!だから戻りたい!戻りたいよぉ!!」

 

その言葉を聞けて俺は、満足だ。

 

「だったら言うセリフが違うだろ!ティンジェル!そういう時なんて言うんだよ!」

 

「…ッ!私を助けて!アイル君!!」

 

俺はその言葉を受けて、強く頷いた。

舞台は整った。

俺に任せろ。

 

「水を差すようで心苦しいのですが、残り10分です。一体どうするおつもりで?」

 

うるせぇな。

今から奇跡起こしてみせるから、黙って見てろ。

 

「ティンジェル、あのお守り持ってるか?」

 

「!?…うん、持ってるよ」

 

OK、これで手間も省ける。

 

「ヒューイ先生、最後に教えてやるよ。この手袋は【アリアドネ】と呼ばれる魔法遺産(アーティファクト)だ。使い道は色々あるが、こいつにはある逸話があってね」

 

「逸話?」

 

「ああ、かつてとある勇者が、ある踏破不可能の迷宮に挑む事になった。その勇者を愛する1人の女性は勇者が帰って来れる様に、1本の赤い糸を彼に授けた。その結果その勇者は、赤い糸を頼りに無事帰ってきたんだそうだ」

 

「それは…とても良い話ですね。それがどうしんですか?」

 

ここまで話してまだ分からないんだ。

ふーん、意外に鈍いんだな。

 

「つまり…こういう事だ!」

 

そう言って指をパチン!と鳴らす。

突然、ティンジェルのお守りが光り出した。

次の瞬間

 

「…え!?」

 

「…な!?」

 

ティンジェルが結界の中から、俺達の前に突然現れた。

俺はそのままティンジェルを抱きとめて、笑いかけた。

 

「おかえり、ティンジェル」

 

「…ただいま、アイル君」

 

「な、何が起こって…!?」

 

さて、そろそろタネ明かしをしよう。

 

「この糸はさっきも言った通り、迷宮から勇者を助ける為の物だ。その逸話から2つの力が生まれた。1つは、2人の愛の絆の象徴として、この糸は【絶対に切れない】という特徴が生まれた。そしてもう1つは一定条件で、いつでも、どこからでも俺の元に呼び寄せることが出来る、というこいつの本質的な能力…【次元跳躍】だ」

 

そう、この糸の1番の力は【次元跳躍】にある。

条件というのは幾つかあって、その内の1つが俺の糸を何らかの形で持っていること。

ティンジェルの場合、俺が昔あげた星型のネックレスがそれだ。

もちろん、デメリットもある。

 

「クッ…」

 

「アイル君!?どうしたの!?しっかり!」

 

「どうやら相応のマナを消費するらしいですね…」

 

そう、ガッツリとマナを持っていくという事だ。

全快の俺で1回が限界なのだ。

お世辞にも本調子では無い俺では、あっという間にマナ欠乏症に陥る。

そんな俺の手を優しくティンジェルが握る。

 

「…ありがとう。私を助けてくれて。今度は私が助けるね」

 

ティンジェルがそう言った瞬間、突然体中に力が湧き出した。

これはまさか…聞いたことがある。

触れたものの力を何倍にも膨れ上がらせる異能。

 

「感応増幅者…!!」

 

ティンジェルは異能者だったのか。

知らなかった。

とは言え、俺にとってはクラスメイトだ。

そんな事は何でもいい。

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

力を貰い、立ち上がる。

目の前の男に拳を握りこみ

 

「覚悟しろ」

 

そのまま全力の右ストレートを打ち込んだ所で、そのまま意識を失った。

 

 

俺は極度の疲労から意識を失い、気づいたら病院にいた。

隣を見ると先生が寝ていて、俺達は日常に帰ってこられたんだと自覚した。

ちなみに俺の容態は全身の筋肉疲労、及び一部疲労骨折だった。

糸での身体強化はただの外付けなので、本体である俺の体がまだ、酷使に追いついてないのだ。

最長10分が限界なのをかなり無茶して使ったからな〜。

 

「いや…マジかよ…」

 

先生が目を覚ましてから数時間後、国のお偉いさんに聞いた話に衝撃を受けていた。

何と我らが2組の天使、ルミア=ティンジェルは、アルザーノ帝国のトップ、アリシア女王陛下の次女で第2王女なんだとか。

異能のせいで存在を消す以外に道はなく、病で亡くなった事にしているらしい。

フィーベル家はそれを承知で、ティンジェルを受け入れたんだとか。

ただ、この話はフィーベル自身は知らされておらず、彼女の祖父とご両親しか知らないらしい。

という話は、そのご両親から直接話を聞いたから、間違えないだろう。

相当の親バカでどうしてもお礼をとの事だったので、治療費を払ってもらう事にした。

 

「ビックリしちゃった…?」

 

「そりゃそうだろ?…あの時もそれが理由?」

 

「ううん、あの時はフィーベル家を狙った賊だったから。システィと間違えられたの。…アイル君は?」

 

「お前ェ…。俺は元々あそこは俺の秘密基地だったんだよ。遊んでたらお前らが来ただけ」

 

「あ、アイル君…」

 

なんという不幸か…

こいつはそういう星の下に生まれたのだろうか?

え?俺もだって?

うるせぇ、自覚あらァ。

 

「あのね、あの時のことお礼言わせて。あの時は私の事を助けてくれてありがとうございました!」

 

「実際に助けたのはグレン先生だろ?」

 

「!?知ってるの!?」

 

まあ、見てたしなその現場。

俺の糸がしっかりと導いてくてたから、それ以降は見てなかったけど。

 

「それでも、あの時逃がしてくれなかったら、あの幻想を見せてくれなかったら、きっと死んでたから。だから、ありがとう!」

 

「…どういたしまして」

 

これ以上ゴネるのはダサいな。

まあ、悪い気はしないし、ありがたく受けておこう。

 

「あ、あのね?1つお願いがあるんだけど…」

 

お願い?

突然だな、何事?

 

「おう、なんだ?」

 

「あ、あのね…その…ね?な、名前で呼んで欲しいな!///」

 

なんだ、そういう事か。

本人がいいならそう呼ぶか。

俺は手を差し出しながらティン…ルミアを名前で呼ぶ。

 

「本人がいいって言うんなら…これらかもよろしくな?ルミア」

 

「…ッ!!///…うん!!よろしくねアイル君!!」

 

ルミアは顔をキラキラさせながら嬉しそうに俺の手を握り返す。

これからルミアを巡って色々大変なことが起こるだろう。

それらから守る為に、もっと強くならなくては。

そう決意を胸に、ルミアと共にグレン先生の元へと歩いていった。

 

 

 

 

「…へぇ、エステレラ家。あの言祝ぎの家系ね」

 

「…へぇ、エステレラ家。あの縁紡ぎの家系か」

 

「面白そうな坊やじゃない」

 

「面白そうな少年のようだ」




これにて学院テロ編終了です。
最後の2人は誰なのか!?
言祝ぎ!?縁紡ぎ!?
何も考えてません。
前にも言った通り、俺TUEEEEにはしません。
強いのは強いですが当然、格上には勝てません。ダークコートの男戦も、グレンの復活がなければそのうち殺されてます。
そんな感じを目指して行けたらな、と思ってます。
それではありがとうございました。

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