ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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20巻で、意外な繋がりが見えたりしたので、ここでも意外な繋がりを匂わせて見ました。
それではよろしくお願いします。


小話9

その後マキシムは退職し、模範クラスもいなくなった。

というのも、武断派の官僚、理事会有力者、そしてマキシム本人との間に、多額の賄賂があったのだ。

その証拠を掴んだのは、何処からか情報を掴んだリゼ先輩から依頼を受けた、アルフォネア教授だった。

まあ、俺は情報筋に心当たりがある訳だが、そこは触れないでおくが吉、というものだ。

リック前学院長も復職、全てが元通り…とはならなかった。

何故なら【軍事教練】は国が定めた立派な政策。

公的機関であるこの学院が、逆らえる道理は無く、カリキュラムに加えられる事になった。

しかし、生徒からの不満はほとんど出なかった。

何故なら、帝国軍から派遣された担当教官は、不機嫌そうで、不満げな顔ながら、手取り足取り教えてくれる、とびっきりの美人女教師だったからだ。

そして、そんなとびっきりの美人女教師はというと

 

「イヴ姉様!これはどうでしょうか?」

 

「そうね。確かにベガに似合いそうだわ。これと合わせたらいいんじゃない?」

 

「…あんなにベガが、懐くとはな〜…」

 

ベガと仲良くショッピングを、楽しんでいる。

 

 

今日は休日、俺はバイトも休みにし部屋でダラケようと思ったのだが、

 

「今からベガと買い物行くから、着いてきなさい。荷物持ち」

 

「…横暴だぞ、イヴ姉様」

 

「貴方にはそう呼ばれたくないわね…寒気がしたわ」

 

「安心して、俺もだ」

 

ノックも無しに、部屋に乗り込んできたイヴ先生によって、強制連行されたのだった。

 

 

「…ま、こんな感じです。今の所上手くやってますよ?話しかけないんですか?」

 

「…今、俺から話しかける必要は、無いからな」

 

そう呟くと、建物の影から返事が返ってくる。

ここまで近付かれないと、気配すら感じ取れないこの人は

 

「…アルベルトさんは、任務ですか?」

 

「ああ、王女の護衛だ」

 

そう、元イヴ先生の部下である、アルベルトさんだ。

 

「あの人、多分気付いてますよ?」

 

「この程度気付けなくては、特務分室の室長は務まらん」

 

「な〜る…今の室長さんはどんな人なんですか?」

 

「…色々、怪しい奴だ。お前も気を付けておけ」

 

そう言って、静かにいなくなる。

怪しい奴…か…。

アルベルトさんがそう言うって事は…本当に怪しいんだろうな…。

 

「兄様!お待たせしました!」

 

「はいこれ、よろしく」

 

思考に深けていると、2人が帰ってくる。

というか、さっきから荷物すげぇんだけど?

半分は、ベガのセンスとは違うんですけど?

このセンス…本当にベガのか?

 

「これベガのですか?俺には貴女のにしか、見えないんですが?」

 

「あら?そうに決まってるじゃない」

 

「決まってるんかい!」

 

「兄様、イヴ姉様。私お腹減っちゃいました…」

 

「あら、そうね。じゃあ休みましょうか」

 

「聞けよ!」

 

ベガがそう言ったので、適当なオープンテラスのカフェで、一休みする。

女子トークに必要以上の干渉はせず、聞きに徹していると、随分と豪華な馬車がやってくる。

 

「ーッ!?あれは…!?」

 

イヴ先生が、何やらすごく驚くが…あのエンブレムって…まさか…

 

「カッカッカ!誰かと思えば、アルタイルの坊主に、ベガのお嬢ちゃんじゃあねぇか!久しぶりじゃのう!」

 

「ルチアーノ様!ごきげんよう」

 

「ルチアーノの爺様じゃん。何してんの?」

 

その馬車に乗っていたのは、【エイブラム=ルチアーノ】卿。

こんなざっくりとした挨拶してるが、彼はれっきとした権力者。

帝国の事実上の最高意思決定機関【円卓会】の1席に座る、老舗マフィア【西ハマード会社】を牛耳るボスだ。

何故こんな大物と知り合いかというと

 

「うちは、今は休み時間だよ。夜に出直したら?それとも…お孫さん?」

 

「おうよ、うちの可愛い孫の顔を見に来たのさ!って…うん?お前さんは?見ない顔だな」

 

イヴ先生の顔を見ると、イヴ先生は慌てて、頭を垂れる。

 

「た、大変失礼致しました!私は帝国宮廷魔導師団第8魔導兵団所属、イヴ=ディストーレ従騎士長です!来期からアルザーノ帝国魔術学院で行われる【軍事教練】を、担当させて頂いております!ルチアーノ卿とお会い出来た事、大変光栄に存じます!」

 

「イヴ…その赤い髪…おお!お前さん、イグナイト卿の娘かいな!そうかそうか!よろしくなぁ!」

 

何を白々しい。

知ってたくせに、この好々爺が。

 

「いいから速く行きなよ。目立って仕方ない。お孫さんにまた明日って言っておいて」

 

「こ、こら!アルタイル!申し訳ございません!」

 

イヴ先生が俺の頭を、強引に下げさせるが、俺も爺様も全く気にしない。

 

「相変わらず可愛げないのぉ〜、この坊主は。まあ、そろそろ行くかいな」

 

「ルチアーノ様。お気をつけて」

 

「おう!あんがとなお嬢ちゃん!それじゃあな!坊主もこれくらいの可愛げは持てよ!」

 

「余計なお世話。気を付けて」

 

そう言って、馬車は進み出す。

よく見ると、幾人かの護衛がしっかりと着いている。

これならまあ、安心か。

 

「…ふぅ。貴方ねぇ。寿命が縮んだわよ」

 

その顔は、酷く疲れ切っており、冷や汗もかいていた。

 

「ルチアーノ様は、お爺様の知り合いなんです。そのお陰か、昔から良くして頂いていて…」

 

「それに俺は、お孫さんとも縁があるしね」

 

イヴ先生は、その事に不思議そうに首を傾げている。

 

「さっきから気になってたんだけど、そのお孫さんって誰なのよ?」

 

「生徒会長のリゼ=フィルマー先輩。あの人、ルチアーノの爺様の孫だから」

 

「…そうだったのね。道理で、アイツらの情報が…」

 

「多分そういう事」

 

俺の情報源の心当たりは、まさにあの人の事だ。

【円卓会】の1人、しかもマフィアのボスであるあの人が、知らないはずが無い。

 

「ま、そんな事よりのんびりしよう。…余計疲れたし」

 

「そうね…どっと疲れたわ…。ベガ、一口頂戴。私のもあげるわ」

 

「はい!イヴ姉様!アーン」

 

「アーン。…フフ、美味しいわね。はいベガ。アーン」

 

さてと、かねてより疑問だった事を、聞いてみよう。

 

「…ところでベガ?いつの間にイヴ先生の事、姉呼びになったんだ?」

 

そう、気づいたらそう呼んでおり、俺はかなり驚いた。

昨日からそうだったのだが、突っ込むタイミングを逃していたのだ。

 

「ふふ!秘密です!ねぇ〜!イヴ姉様?」

 

「ええ、女同士の秘密よ」

 

「…さいでっか。まあ、仲良しで何よりだからいいけど。後ベガ、頬にクリーム付いてる」

 

そう言ってから拭ってやると、突然イヴ先生に笑われる。

 

「なんすか?」

 

「フフ…アルタイル…!貴方も付いてるわよ!」

 

そう言いながら、俺の頬に付いてたクリームを拭う、イヴ先生。

 

「なっ!?///先に言ってください!!///」

 

そのまま俺は、自分の分を食べきり、再び荷物持ちの任を全うするのだった。

その日の夜、疲れきった体を伸ばしていると、ノック音がする。

 

「はい?」

 

「私よ。今いいかしら」

 

「イヴ先生?どうぞー」

 

こんな時間の一体なんの用なんだろうか?

 

「貴方、昼にアルベルトと話してたわね。何の話をしてたの?」

 

なんだ、やっぱり気付いてたんだ。

流石は、元特務分室の室長。

 

「…今の室長さんは、色々怪しいらしいですよ」

 

そう言うと、目を見開いて驚くイヴ先生。

 

「…アルベルトがそう言ったの?」

 

「ん?そうですけど?」

 

「そう…サイラスの奴、そんなに…」

 

おや?知ってるのか?

 

「後釜の人の事、知ってるんですか?」

 

「ええ。一応、僅かだけど情報網は残ってるから。【サイラス=シュマッハ】。『神の頭脳の持ち主』とまで言われた、天才魔術師よ。元々東の国境付近で戦い続けた武闘派にして、元【魔導技術開発室】室長よ」

 

「魔導技術開発室?それって確か…後方支援部署の一つだった気が…」

 

軍志望として、色々調べたので、朧気ながらに残る知識を引っ張り出す。

 

「そうよ、よく知ってるわね。そして…白金魔導研究所の魔導技術派遣武官でもあったわ」

 

「…どブラックじゃんその人。大丈夫なの?」

 

「さあ…?流石の私も、そこまでは首を突っ込めないわ」

 

白金魔導研究所か…。

【Project:ReviveLife】の実験をしていたあの研究所…。

確か聖リリィ魔術女学院のマリアンヌも、確かそれについて研究を…そういえば

 

蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)…」

 

「は?何ですって?」

 

思わず呟いた言葉をイヴ先生に聞かれたらしい。

 

「いや、聖リリィ魔術女学院のマリアンヌは、確か蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)で、【Project:ReviveLife】関連の研究をしてたって…そう言えば、あの事件ってどうなったんです?」

 

「…マリアンヌは行方知れず。蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)との繋がりを疑われたバードレイ卿は、約1ヶ月前、イグナイト卿に殺されたわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だわ。何せ、殺されたバードレイ卿は、()()()()()()だったんだもの」

 

何やら衝撃的な情報が多すぎだが…。

()()()()()()()()()()()()()

本当に繋がってたとしても、タイミングがおかしい。

約1ヶ月前って言えば、あの3日間の間か、その直前だ。

つまり、マリアンヌの件で、蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)が悪目立ちしかけたその時だ。

幾ら何でも…対応が早すぎる。

それに相手が文治派の筆頭だったって…武断派のイグナイト卿にとって、都合が良すぎるシナリオだ。

そして例えば、その全てがただの偶然と真実だったとして、蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)はどうなった?

もし壊滅させたのなら、手柄大好きイグナイト卿は、ここぞとばかりにアピールするはずだ。

何せ、天の知恵研究会と繋がりがあるとされる、曰くつきの組織なんだから。

手柄としては、これ以上にない戦果だ。

それをしないって事は、恐らく潰れてない。

そうなると1番可能性が高いのは…

 

「手中に収めた?…あるいは収めたかった?」

 

「…何の話よ」

 

蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)ですよ。手柄大好きイグナイト卿が、何も言わないって事は、まだ残ってるって事ですよね?そうなると1番可能性が高いのは、蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)を手中に収めたかもしれない、って事です」

 

「なっ!?」

 

イヴ先生の驚愕を他所に俺は更に思考を続ける。

 

「特務分室の室長について、軍のトップたるイグナイト卿が知らないはずが無い。というか、自分が決めれますよね?代々、イグナイト家が務めてきたんだから。そうなると、イグナイト家でもないのに、抜擢された理由…」

 

「…サイラスが、蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)のメンバーだって言いたいの?そして、今は父上が蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)を率いていると?」

 

恐る恐る呟くイヴ先生に、俺は頷く。

そして、その目的は…

 

「イヴ先生が掴めた情報なら、当然イグナイト卿も掴めた筈。だからリィエルの事は、知ってた筈だ。【Project:ReviveLife】のデータと、成功例であるリィエルの確保。あるいは…彼女の魂、つまり【アルターエーテル】。厳密には…その設計図である、【霊域図版(セフイラ·マップ)】が欲しかった…?」

 

「確かに、あいつはあの事件の資料、【シオン・ライブラリー】を手にしてないと分からないような、魔術理論を幾つも発表している…!?」

 

(だからって…たったこれだけの情報で、ここまで導けるの!?)

 

イヴは余りの事に、驚愕を通り超えて唖然とする。

【Project:ReviveLife】、たった一つのピースを見て、パズル全体を連想してみせた。

彼の推理は、極論全て机上の空論だ。

何一つ確証はなく、全て状況証拠だけだ。

なのに、あまりにもリアルな推理の数々に、納得せざるを得ない。

 

(この子…探偵になった方がいいんじゃない?)

 

「…例えば、貴方の推理が合ってたとして、イグナイト卿…父上は何を望んでると思う?」

 

イヴ先生の質問に、俺は更に考える。

 

「…マリアンヌは研究の一貫で、かつての英雄の武器から、戦闘経験とか技術の再現を狙っていた…。そのデータも持ってるとすると、それの実験版…()()()()()()()()()?」

 

「…【Project:ReviveLife】の始まりは…とある神殿にある、死者の復活の機能を、再現するための実験だって聞いた事があるわ…」

 

それって…決まりじゃねぇか?

 

「その遺跡って何処にあるか分かりますか?」

 

「東部カンターレにある、遺跡都市【マレス】よ」

 

「…確かそこは、レザリアとよく揉める地域でしたね。それにサイラスも、元は東部の戦線にいたんですよね。…ビンゴかな」

 

遺跡都市【マレス】。

隣国のレザリア王国との国境付近にあり、それ故に、国境問題でしょっちゅう揉める場所だ。

あと遺跡都市と言われだけあって、辺鄙すぎて、人が住むには向いてない。

東にいたサイラスがその事を、当然知らないはずが無い。

 

「…イヴ先生、出来るだけ早くお願い出来ますか?」

 

「…多分手遅れよ。さっきも言ったけど、あの事件の資料がないと分からない魔術理論を、幾つも発表してるわ」

 

「…クソッ…端から周回遅れって事かよ…!」

 

思わず舌打ちを打つ。

ここまで読めて、手の打ちようがないのは、歯痒いな…!

いや、そもそも合ってる可能性すら、無いんだけども!

 

「…個人的に話す位は、出来るんじゃない?アルベルトが今、フィジテにいるんでしょ?それに…グレンだっているじゃない」

 

「ッ!そうじゃん!」

 

グレン先生に連絡を取ろうとして、手が止まる。

もし連絡したら…きっとそれに首を突っ込むだろう。

それは…かなり危険だ。

何の確証も無いのに、巻き込めない。

結局俺はグレン先生では無く、アルベルトさんに連絡を取る。

とはいえ、1つだけ分からない事がある。

それは、仮に全て正解だったとして、英雄を復活させて何がしたいのか。

これだけは、検討がつかなかった。

そして後に、この行動が大きな波乱を呼ぶ訳だが、俺はまだ知らなかった。

それはともかく

 

「アルタイル!!何のつもり事か説明しなさい!!!」

 

「聖リリィの時の仕返しだよ!!ボケェ!!!」

 

「イヴ姉様が…イヴ兄様に…!!?」

 

翌日聖リリィの時の事を思い出した俺は、あの時の仕返しをキッチリとしておいた。

1日異性として過ごしたイヴ先生は、俺と計画犯であるグレン先生を、徹底的に追い回し、炭にしました。

…解せぬ。




アルタイル君…君、脳筋だろ…!?
と書いてる方もビックリするほど、冴えてました。
ついでに、男体化もさせるというかなりの荒業。
薬は使わず、儀式を以て肉体を作り替えたので、気づかなかったのですよ。
技術提供は、もちろんグレンです。
それでは失礼します。
ありがとうございました。
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