ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

60 / 141
小話と言いながらも、これは実質13巻です。
正確にはその裏では、アルタイル君が何をしてたかです。
それではよろしくお願いします。


小話10

「クソ!なんの情報も無い…!」

 

俺は学院の図書室で、静かに呻いていた。

今は長期休暇も残り4日だ。

課題をさっさと片付けて、俺はあの憎き仇が残した一言をヒントに、ひたすら古い文献を漁っていた。

ここ以上に、文献が揃っている場所は無い。

 

「マジで何も出てこねぇ…。やっぱデマか…?」

 

思わず天井を仰いでぼうっとする。

 

「いや…遡ってる歴史が違う…?」

 

本当に普通の歴史の事だろうか…?

そう、例えば

 

「エステレラ家の歴史を遡れって事か…?」

 

しかし、どの歴史書にもエステレラの文字は無い。

それも違うのか?

なら…行ってみるか、あそこに。

そうなると色々用意がいるな…。

俺はすぐに家に帰り、爺さんに相談した。

 

「爺さん、話がある」

 

「…何だ」

 

「あそこに…故郷に1度、帰ろうと思う」

 

「!?…何故だ」

 

珍しく、爺さんが目を見開いた。

それだけ意外な言葉だったのだろう。

 

「…自分の過去を知る為に」

 

「…分かった。早馬を用意してやろう。3日後だ」

 

3日か…学校には行けないな。

 

「ありがとう」

 

俺は直ぐに用意をして、イヴ先生経由で、休む旨を伝えてもらう事にした。

そうして俺は3日目の夜遅く、故郷に向かう為、東に向けて出発した。

だから知らなかった。

…4日目の朝、つまり始業式の日、リィエルが生死を彷徨っていた事を。

 

 

 

「おいイヴ!どういう事か説明しろ!」

 

リィエルが【エーテル解離症】で倒れてから1週間後、突然現れた特務分室の現室長である、サイラス=シュマッハとの取引を行い、女王陛下を狙ったアルベルトの討伐に参加する事となった。

そこでイヴが参戦、参加する見返りに、リィエルの【霊域図版(セフイラ·マップ)】を要求。

その交渉が成立したところだ。

 

「うるさいわね。ちゃんと話すわよ。…貴方達がこの一週間、正攻法で調べてる間に、私はツテを使って、【霊域図版(セフイラ·マップ)】の行方を探していたのよ。リィエルの魂を設計したのはシオンよ。だったらあの事件の資料の中に、リィエルの【霊域図版(セフイラ·マップ)】があると踏んだのよ」

 

「あ…あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

しまった!すっかり失念してた!

そうだ、あの事件の資料、【シオン・ライブラリー】に、あったはずなんだ!

俺とした事が…!

 

「…まあ、愛しの妹分が倒れて、気が動転してた事にしたあげるわ。それに今の貴方じゃ、閲覧出来ないし。それでそれを探したんだけど…案の定、消えてたわ」

 

「…案の定?」

 

妙な言い方をするイヴに、俺は聞き返した。

 

「…ここからは、私じゃなくて、アルタイルの推理よ。あくまで全て状況証拠、机上の空論よ」

 

それから語られたアルタイルの推理は、無茶苦茶だが、現実味がある推理だった。

ただ、気になったのは

 

「…アルタイルはどうやって、ここまで推理を立てられたんだ?」

 

「私が聞きたいくらいよ。セリカ=アルフォネアじゃないけど、ピース1つでパズル全体を想像したようなものよ」

 

もう、アイツ何なの?

ロザリーよりよっぽど探偵に向いてるぞ。

それはともかくとして…

 

「アルベルトの件は…事実なのか?」

 

イヴは言いにくそうな顔で、呟く。

 

「…ええ、事実よ。アルベルトは、女王陛下を暗殺しようとした後逃亡、追跡してきたバーナードとクリストフを…殺したわ」

 

俺は思わず頭を抱えてしまう。

 

(出来るのか…俺に?アルベルトの奴の戦えるのか…?本当に爺たちを殺しちまったのか?)

 

「…はぁ。貴方、まだ視野が狭くなってるわね」

 

「…?どういう事だよ」

 

俺はイヴの言葉に思わず顔を上げる。

 

「さっきアルタイルの推理を、言ったでしょう?リィエルが狙いか、魂が狙いか…。【霊域図版(セフイラ·マップ)】を持っているサイラスが、リィエルが倒れる時期を知れたとするなら?その上で、リィエルを連れていこうとする訳は?アルベルトがこのタイミングで、事件を起こした訳は?…以上を踏まえて、今貴方がすべき事は?」

 

イヴの言葉を一つ一つ噛み締め、俺は…覚悟を決める。

 

「…真実を見極める。何にしても、事の真相に迫るしかない。…やってやる!」

 

そうだ、いつも通り手探りでやっていくしかない!

アルタイルなら…こういう時、なんの躊躇いもなく飛び込んでいく。

だったら俺も…やってみせる!

そう決意を胸にするのだった。

 

 

 

 

「早馬で4日…あの時の俺、よくベガを背負って歩けたな」

 

まさかここまで時間がかかるとは…。

俺は4日かけて、ある廃村に来ていた。

ここは地図にも載っていない…厳密には、消された村だ。

あの日、全てがこの村から無くなった。

…奪われた…!

 

「…よし。暫くはここで調べ事だな」

 

俺は村の入口で馬を停め、村の奥まで進み、かつての自分の家を目指した。

 

「…あった。ここだ。」

 

俺は焼け跡となっている自分の家のある部分を持ち上げる。

 

「…よし、魔術で保護されてるから、問題ないな」

 

そこは地下蔵の入口であり、俺はゆっくりと黒魔【トーチ・ライト】の灯りを頼りに、地下に進んでいく。

ひとまずそこを拠点に、俺は適当な食い物でも調理しようと、外に出て、丘を登る。

 

「遺跡都市マレスか…」

 

この間話に上がったマレスの近くにあるこの村は、ここからだとマレスを一望できるのだ。

 

「…ん?反応がある?」

 

俺は遠見の魔術でそれを確認すると…

 

「は?アルベルトさん?」

 

なんとそこに居たのはアルベルトさんだった。

 

⦅アルベルトさん。聞こえますか?⦆

 

お守りで通信を送ってみると、すぐに返事が来る。

 

⦅…エステレラか?どうしてこんな場所にいる?⦆

 

⦅いや…どうしてもここ用があって…。後、ここは俺の故郷なので⦆

 

⦅そうか…⦆

 

⦅アルベルトさんは、どうしてここに?軍務っすか?⦆

 

⦅…そんなところだ⦆

 

⦅そうですか。それでは頑張って下さい⦆

 

そう言って俺は通信を切る。

 

「さてと…やりますか」

 

一休み入れた俺は、地下に眠る蔵書の数々を漁ることにしたのだった。

 

 

ここに来て5日、やっと手がかりみたいなものが出てきた。

見つけたのは、古ぼけた日記が数十冊と、1枚の何かが書かれた布切れだ。

本の方は、恐らく研究日誌みたいなものか…?

 

「何か書いてあるかな…」

 

表紙をめくった見開きに書いてあったのは

 

『汝、正位置の愚者たらんことを』

 

「…なんの事だ?」

 

俺は訳分からずに、ページをめくる。

全く読めない言葉で綴れたそれを見て、俺は解析魔術を使った。

 

「『賢者の瞳よ・万の理を見定めよ・我が前にその大いなる智慧を示せ』」

 

こうして初めて読めるようになったそこには

 

『彼の魔王はあまりにも強力だ。【天空の双生児(タウム)】の1人、空の天使【レ=ファリア】様がついておられるからだ。それに魔王自身もまた、強力だ。故に、まず魔王から、空の天使を引き離さなくてはならない』

 

そこから始まるそれには、何代にもわたる空の天使【レ=ファリア】の事が、研究され尽くしていた。

空間に作用する力、【王者の法(アルス·マグナ)】という力。

その多くがこと細やかに記述されている。

 

「【王者の法(アルス·マグナ)】…銀の鍵…空間に作用する力…」

 

つまり、ルミアは…そういう事なのだろう。

そこは深く考えずに、話を進める。

 

『遂に彼の魔王に目をつけられた。この研究を知られ訳にはいかない。故に、私は魔王に取り入りつつ、機会を伺う事にした。これから子孫達には、多くの葛藤と苦悩を背負わせる事になるが…どうか、強く生きてくれ』

 

さらに話は進む。

先祖が手を貸してきた実験に、それ以降続いた何人もの先祖が、イカれそうになりながらも、必死に繋いできた。

残念だが、その内容は記載されていない。

しかしその実験の過程で、先祖達が開発してきた【アリアドネ】が、遂に完成したらしい。

それから時は進み、約400年前。

アリシア三世や、ロラン=エルトリアなどが、生きた時代だ。

 

「そう言えば、アリシア三世は何かを知ってイカれたんだよな。…一体何を知ったんだ?」

 

恐らくそれが、俺達の先祖が関わった実験なのだろう。

一体何をしたんだか…?

 

『我らが繋いできた歴史と、ロラン=エルトリアなる者の研究、これら2つを合わせた結果、ある答えに辿り着いた。それは…()()()()()()()()()()()()()()。そして…あの()()()使()()()()()()。そうなっては今の世界では、彼には勝てない。正義の魔法使いはいないのだから。故に…私は、この【アリアドネ】をあの者達への対抗手段として、改良を重ねていこうと思う。子孫達よ、どうか…私の意思を継いでくれ』

 

それからの手記は、この【アリアドネ】を如何に上手く使うかなどの研究が、書かれている。

ふと思えば、この手袋を継承した時、何故か知らないはずの戦い方を知っていた。

つまり…この手袋自体に、それが蓄積されていたという事だろう。

遂に最後の一冊、比較的新しいそれは、数ページしか使わていなかった。

 

『遂に、彼の魔王に気付かれた。グスタの村が、魔王の尖兵に滅ぼされた。そう遠くないうちに、我々も滅ぼされるだろう。まだ【アリアドネ】は未完成だが、我が息子、アルタイル。我が娘、ベガ。どうか…強く生きて。そして何時か…この忌まわしき歴史を断ち切って。…矛盾しているけれど、どうか幸せに。愛してるわ、私の子供達』

 

この文字は…お袋だ…!

 

「お袋…!」

 

思わず涙が零れる。

この【アリアドネ】は今も尚、俺の経験を学習して、強くなっている。

実際、俺が使いだしてから、最初の頃より魔力の消費量が抑えられたり、糸の強度や性能も向上している。

その本を俺はしっかりと抱きして、そして1番最後の見開きに書かれた呪文を読み上げる。

それは…あの布切れの言葉を解読する為の鍵だ。

 

「『開けよ・開け・真実の扉・我が前に・真理を示せ』」

 

その呪文を唱えてみた。

すると布切れの字が変わっていく。

やがて…

 

「『告げる・汝が身は我が元に・我が命運は汝の鍵に・追憶の縁より答えよ・汝外より来たりし空の器・されどその身は人の子なれば・その名をここに呼び示さん・汝の名は ・我と共にあれ・星辰の導きよ・なればこの命運・汝の鍵に預けよう』…か」

 

きっと何か、魔王に対する切り札なのだろう。

この空枠のところは、相手の人しての名前を、呼ぶのだろう。

俺達の場合は…ルミアだろうな。

400年前から…いや、まだ魔王がいた時から、俺達の一族は、戦ってきたんだ。

何代も何代も…時に煮え湯を飲まされながらも、時にいつ来るか変わらない、そんな恐怖と戦いながらも、耐えてきた。

その時が俺の代になって、遂に来たんだ。

本来ベガが継ぐべきなのか、俺が継ぐべきなのか…分からないけど、俺が…この意志を背負う。

俺にとって…彼らこそ、真の正義の魔法使いだ。

俺はこの血を…俺達の歴史を、誇りに思う。

 

「この連綿と続いてきた覚悟と決意…しっかり受け取った。だから…後は任せろ!」

 

ふと、外が騒がしい気がする。

何事かと登ってみると、村の入口に意外なものがいた。

 

「【神鳳(フレスベルグ)】…?」

 

神鳳(フレズベルグ)】とは、帝国軍が飼い慣らしている鳥の魔獣だ。

その速さは、あらゆる魔獣の中でも最速で、帝国の軍の空戦力として重宝されている。

 

「なんでこんな所に…?」

 

「イヴさん!薪を集めてきまし…た…?」

 

後ろからやけに聞きなれた声がする。

振り返るとそこには

 

「システィーナ!?」

 

「アイル!?」

 

何故かシスティーナがいた。

いや…本当に何で?

 

 

「まさか…リィエルが…!?」

 

俺はシスティーナとルミアとイヴ先生の4人から、いない間に起こった事件の話を聞いていた。

 

「しかもアルベルトさんが…!?あの人そんな事…!?」

 

「待ちなさい。貴方アルベルトと話したの!?」

 

「え、うん。だってそこの丘、登ると一望できますし。遠見の魔術使えば視認できますよ?」

 

「…はぁ。間が悪いと言うか、なんと言うか…」

 

何故かため息をつかれる。

 

「アイル君はどうしてここに?」

 

ルミアが薪をくべながら、俺に聞く。

 

「ここが俺の故郷だから。というか、そっちこそ何でここに?」

 

「偶然、空から良さげな廃村を見つけたのよ。地図にも載ってなかったし」

 

代わりに答えたのはイヴ先生だった。

なるほど、つまり本当に偶然、ここで再会したわけか。

 

「それで?探し物は見つかったわけ?」

 

「…お陰様で。色々と、ね」

 

そう言って木の枝を投げ入れる。

 

「…さてと、時間でしょ?俺も付き合うよ」

 

「そうね。…貴女達準備はいいわね?」

 

イヴ先生の言葉に神妙に頷く2人。

 

「よろしい…やるわよ」




実際に書いてる時に感じたより、文字数が少なかった…。
今回、13巻はワザと端折ります。
13巻目玉である、グレンVSアルベルトの構図を、崩したくなかったからです。
アルタイルをグレンと一緒に同行させると、どうしても終盤に、主人公のアルタイルが邪魔です。
かといって最初から、イヴ達に同行させると、話が難しくなります。
ですので今回こういう形で、エステレラ家の事に触れました。
完全には明かしません。
だって…今全部明かすのは、つまらないですから。
それでは失礼します。
ありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。