ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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これでマレス編は終わりです。
それではよろしくお願いします。


マレス編

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

 

(お前はその神殿から動けない…!そこに勝機がある!裏路地を駆け抜けて、近付く!)

 

俺は神殿の屋上に佇むアルベルトを睨む。

 

(俺とお前の戦いは、距離の奪い合いって事だ!)

 

 

 

(…と、お前は考えてるのだろうな)

 

「フッ…流石だ。これでは俺でも狙えない。しかし…」

 

そう呟いた途端、向かって2時の方向に上がる爆煙。

 

(お前の使うルートには、既に無数の魔術罠が仕掛けてある。位置は捉えた。これで…!?)

 

しかし、俺の視界にグレンの姿は見えなかった。

 

 

 

(…へっ。そう来るだろう事は…読んでたぜ?)

 

俺は右手に持った拳大の石を投げる。

そのままあるポイントを通り過ぎた途端、爆煙が上がる。

 

(最も長くお前と破壊工作してきたのは、誰だと思ってやがる!張り方、隠し方、手口、傾向…全てお見通しだぜ!)

 

このまま一気に…!

その時、不意に背筋に極寒の刃が駆け上る。

その直感のままに俺は身をかわすと、今いた場所に、雷の閃光が数閃降り注ぐ。

 

「嘘だろ!?捉えられたのか、俺!?」

 

 

 

(ふん、最も長くお前の戦いを援護してきたのは、誰だと思っている?立ち回り、発送、逃げ方、身体能力、癖…全てお見通しだ)

 

そんな俺は、目を閉じていた。

例え見えずとも…

 

「お前はそこに、居るのだろう?」

 

 

 

「クソッ!アホかあいつ…!?」

 

流石に予測だけで撃つのは無理があったか、途中で追撃はやんだ。

だったら…!

 

「へへっ…即席の使い魔だぜ…行け」

 

俺は適当に使い魔を作り、出し抜こうとした時

 

「ん?なんだありゃ?…鏡か?」

 

割と高い建物の壁の一部が、鏡に変わっていた。

 

(鏡…?)

 

「…ッ!?やっべぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

俺は慌てて来た道を引き返すと、それと同時に雷閃が、俺を追撃する。

 

 

 

「目が一つだけだと思ったか?」

 

俺は【形質変化法(フォーム·エレメンタル)】と【根源素配列変換(オリジン·リアレンジメント)】で、彼方此方の壁面を鏡に変換しておいたのだ。

 

「とはいえ…流石に対応が早いな、グレン」

 

俺の耳には、鏡が割れる小さい音が聞こえた。

 

 

 

「『沈黙せよ・静寂せよ・汝は音無き妖精』」

 

【ノイズ・カット】、音声遮断魔術だ。

これで銃声は漏れない。

俺は【ブレイン・アバカス】で、弾道を計算して、鏡を割っていく。

 

「へっ。どうよ…。凡人舐めんな」

 

 

 

(こうなるのは分かっていたんだ。なのにあの時、お前を仕留められなかった。それは…感傷、そして偽善。俺もまだまだ甘いという事か。…来いグレン。俺は9を助ける為に1を切る。それに異を唱えるのなら、倒してみせろ。グレン、この戦いは…)

 

(どうせ何時もみたいに9を助ける為に1を切るとか、罪も痛みも全部自分で背負うとか、そう思ってんだろ?あのバカ野郎。これだけの力がありながら…なんで傷つくのも厭わずに、1を切り捨てる!たまには欲張れよ!俺は欲張りなんでな…お前もリィエルも守る!アルベルト、この戦いは…)

 

((俺とお前の意地の張り合いだ))

 

 

 

静かで冷たく、苛烈で熱い夜だ。

これが魔術戦だ、これでも…魔術戦なのだ。

 

「すげぇ…!」

 

俺もルミアもシスティーナも、思わず見とれている。

これ程までに、洗練された魔術戦初めて見たからだ。

使われてる魔術は全て、俺達でも使える魔術ばかりだ。

ただ、それを超高次元で使われてる。

俺達が使っても…こんな凄い魔術戦は出来ない。

 

「貴方達、見とれてる暇はないわよ。手筈通り、遅すぎず、早過ぎず。タイミングが肝心よ。絶対に私の指示に従って頂戴。いい?」

 

「「はい!」」

 

「了解です。…こっちが近道です」

 

俺達も神殿に向けて行動を開始する。

途中アルベルトさんが、派手に建物をぶっ壊していたようだが、それは気にしない。

 

「…来た」

 

俺達が密かに隠れている祭壇に、男女が入ってくる。

 

(あれが…サイラス=シュマッハ)

 

初めて見るがなんというか、胡散臭い奴だな。

あれ、女にモテないタイプの奴だろう。

ソイツが遂に、リィエルの【霊域図版(セフイラ·マップ)】を出した。

 

(…今!)

 

それと同時に、イヴ先生が炎の結界を張る。

 

「そこまでよ。やっと出したわね、リィエルの【霊域図版(セフイラ·マップ)】を。…なるほど、そうやって自分の魂魄を鍵にして隠していたのね」

 

「御用改だ、神妙にお縄につきな」

 

「リィエルを好き勝手にはさせない!」

 

「リィエルを返して下さい!」

 

俺達もイヴ先生に続いて、飛び出す。

そこへ、後ろから見知らぬ女が入ってくる。

 

「イヴさん!?どうして!?」

 

「イリア?」

 

ん?知り合いか?

あの制服…特務分室か。

 

「サイラス室長!一体なんのつもりですか!?」

 

「いいのよイリア。…もう、茶番はいいの」

 

「え?」

 

「そもそも…貴女誰よ?」

 

は?何言ってんの?

そう思った瞬間、イリアとやらはイヴ先生に、燃やされていた。

 

「キャアァァァァァァァァ!!!」

 

耳を劈くような悲鳴をあげるその人影は、不意にぐにゃりとまがり、消えたのだ。

 

「は!?何事!?」

 

「落ち着きなさい。…思い出したの。【月】のイリヤ。そんな奴、いなかった。空席だったのよ。…貴女の仕業ね」

 

「…フッ。まさか見破られるとはな」

 

そう答えたのは、サイラスのそばにいた女だった。

 

「ご名答だ。これが我が固有魔術(オリジナル)月読ノ揺リ籠(ムーン·クレイドル)】。月の光を触媒にする事で、人ではなく世界を騙す究極の幻術だ」

 

「なっ…!?世界を…騙す…!?」

 

無茶苦茶だ…!?

そんな事出来るはずが…!?

 

「ふん、見破ったのは私じゃない。グレンよ」

 

「何…?あの愚者だと?」

 

グレン先生が見破ったという事実が、相当気に食わないのか、顔がすごく歪む。

 

「貴女達、グレンの事を舐めすぎよ。それとね…アイツにとって、セラとの記憶は神聖不可侵のものなのよ。それを貴女達は土足で踏み荒らした」

 

そういう事か…。

グレン先生にとって、軍時代の唯一の希望だった人の事だ。

それを踏み荒らした…!

 

「もう、茶番は終わりよ。とっととそれ、渡してちょうだい。…蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)のサイラス=シュマッハさん」

 

「「え!?」」

 

「「ッ!?」」

 

イヴ先生の一言に、空気が固まる。

 

「…何故それを?」

 

「…だそうよ、アルタイル」

 

そこで俺に振るのかよ。

 

「アンタはイヴ先生が左遷されてから、室長になった。そしてその前、蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)と繋がっていると言われていた、バードレイ卿が殺害。やったのはイグナイト卿だ。なのに蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)を潰したって話は聞かない。手柄大好きイグナイト卿が、公表しない筈がないのに。という事は、まだ潰れていないって事だ。そうなると、蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)はどうなっているのか?」

 

俺はここで話を切る。

 

「答えは簡単。イグナイト卿自身が掌握している。そんな所にアンタが室長になった。…凄い偶然だね?今まではイグナイトが率いていた、特務分室に別のやつが頭になったんだから。後は1つずつ紐解いていけば、あら不思議。あんたの素性が、推測されるって訳だ」

 

俺の推理もあながち間違ってないようだ。

その証拠に、サイラスの顔が歪んでいる。

 

「図星か?余裕ぶっこいてた笑みが、無くなったぜ?」

 

「…はぁ。これは想定外でした。まさか私の素性だけじゃなくて、後ろ盾まで見破られるとは。改めまして、蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)団長、サイラス=シュマッハです。しかし…貴女達は不思議に思いませんか?何故私が、こんな無駄話に付き合ったか」

 

「「…ッ!?まさか!」」

 

「ええ、そのまさかです!」

 

その時ガラスが砕けるような音と共に、世界が砕け…再構成される。

 

「しまった!これは世界じゃなくて、私達…!」

 

不意に…目の前が…真っ暗になった…。

起きろ…!起きろ…!!起きろ!!!

一気に目が覚める。

視界の端で、システィーナ達も目が覚めたのを確認する。

俺達は予め、ルミアの力で超強化された、【マインド・アップ】で、精神を底上げしたあったのだ。

 

「『唸れ暴風の戦鎚』!!」

 

システィーナが先に呪文を唱える。

しかしそれはギリギリで躱される。

 

「『雷帝の…』」

 

させるか!

 

「『散れ!』」

 

俺は直ぐに【トライ・バニッシュ】で、無効化するのと同時に

 

「これで…!!!」

 

俺は予め詠唱しておいた【ライトニング・ピアス】を、今発動する。

 

「寝てろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

システィーナの2発目の魔術が、詠唱無しで発動される。

 

「何!?【時間差詠唱(ディレイ·ブースト)】!?それに【二反響唱(ダブル·キャスト)】だとぉ!?」

 

時間差詠唱(ディレイ·ブースト)】とは、予め【予唱呪文(ストック)】しておいた魔術を時間差で発動する高等技術だ。

二反響唱(ダブル·キャスト)】も、高等技術で、1つの呪文の詠唱で、2発分の魔術を発動するものだ。

そんな想定外の一撃に対応出来なかったイリヤは、そのまま吹き飛ばされ、気を失った。

 

「システィーナ!急げ!」

 

「えっとこのタイプは…大丈夫!論文で読んだことある!ルミア!貴女の力を貸して!」

 

「うん!リィエルの方は私に任せて!アイル君!手伝って!」

 

「OK!何すればいい!」

 

(あの子達…優秀すぎない?)

 

「ま、教えが良かったからかしらね…上出来よ」

 

そんなテキパキと分担する様子を、イヴは頼もしげに見つめるのだった。

 

 

事件後、俺はグレン先生と情報共有をしていた。

どうやら事の発端は、俺が不用意にアルベルトさんに、相談した事らしい。

それを元に独自で調査、その結果疑い有りと判断。

女王陛下の勅命の下、蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)の掃討作戦が計画された。

アルベルトさんは、サイラス達を引き剥がす為に、わざと女王陛下暗殺未遂という、狂言を起こした

 

「しかしそこに【Project:ReviveLife】の件が、発覚したと」

 

「そうだ。サイラスが実験を完成させようとしている、という情報が入ったらしい」

 

蒼天十字団(ヘブンス·クロイツ)も潰したいが、当然サイラスの思惑も潰さなくてはならない。

マレスはまさにその両方を一気にやるのに、最適な場所だったのだ。

 

「つまりあの人は、仲間の命と国の未来、両方を背負ってたって事?」

 

「ああ。ったく…あのバカが」

 

その様子は、まるで兄に頼ってもらいなくて、拗ねてる弟みたいだった。

 

「クククッ…!」

 

「何笑ってんだよ!…で?成果はあったのか?」

 

俺の事を軽く小突いてから、俺の成果を聞いてくる。

 

「…『汝、正位置の愚者たらんことを』」

 

「は?」

 

「要するに…最後まで足掻き続けるって事です。この体に流れる血と誇りにかけて」

 

俺は空を見上げながら、太陽に手を伸ばした。

 

「…そうかよ。ま、頑張れよ」

 

そういうグレン先生の顔は、眩しそうなものを見たような顔だった。

俺は帰ってから、体を休めて、ベガに今回分かった事を教えた。

 

「兄様…!私…!涙が…!止まりません…!」

 

俯くベガの目には、たっぷりの涙が溜まっていた。

 

「辛いはずなのに…!悲しいはずなのに…!それ以上に…嬉しいんです…!」

 

「そうだな。俺も嬉しかった」

 

「私…この動かない足に、この力に、なんの意味があるのか…ずっと思ってたんです…!」

 

そう言って、顔を上げるベガの目には、今まで見た事ないくらい、強い光があった。

その握りこまれた手には、俺が渡した布切れがある。

 

「私…強くなります!先代のお歴々に恥じない…そんな、立派な巫女になります!」

 

「ああ、やるぞ!ベガ!」

 

「はい!兄様!」

 

そう言って俺達は、拳の甲をぶつけ合う。

俺達はやっと、スタートラインに立ったんだ。

一族の悲願…成し遂げてみせる!

この血と誇りにかけて…!




今回の話は、個人的に胸熱な話なので、かなり好きです。
ですのであまり弄りなくなかったので、こういう形になりました。
…え?そういう割には、グレンVSアルベルトの構図がないですか?
それは…是非、原作を読んでください。
それでは失礼します。
ありがとうございました。
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