ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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完全オリジナル話です。
気軽に楽しんでください。
それではよろしくお願いします。


小話11

魔術祭典の代表選考会が、終わった直後の話。

フィジテの裏路地を静かに移動する、1人の男。

 

「…少し遅れたか」

 

その名は、アルベルト=フレイザー。

本日は、旧知の仲であるグレンと情報交換の日なのだが、今日はそれは不可能だろう。

 

「クリフトフと、翁は既にいるのか…」

 

彼がドアを開けた先には

 

「おう!待っとったぞ!アルベルト!」

 

「アルベルトさん、お疲れ様です」

 

「いらっしゃい、アルベルトさん」

 

カウンターに、何時もの面々がいた。

ここはレストラン【サザンクロス】。

閉店後は、彼ら特務分室の、プライベートバーとなっている。

 

「グレンはどうした?」

 

「先生達は、もうすぐじゃないですかね?魔術祭典の用意で、かなりバタついてますし」

 

(なるほど…遅刻ではあるが、仕事なのか。それならば…ん?少し待て)

 

アルベルトは、アルタイルの言葉に疑問を抱く。

 

「先生『達』だと?どういう事だ?」

 

その言葉に頷くクリストフとバーナード。

どうやら、3人共同じ事に引っかかったらしい。

 

「え?だって…」

 

その時、レストランのドアが開き

 

「アルタイル〜!腹減った〜!」

 

「グレン!みっともないわよ!」

 

外から、グレンとイヴが入ってくる。

2人が身に纏うのは、講師用のローブだ。

そこまではいい。

だが何故、イヴがここにいるのか?

そういう疑問が3人に浮かぶ中

 

「イヴ先生、ここに居候してますし」

 

アルタイルが、とんでもない爆弾を落としたのだった。

 

 

 

「…何この空気?なんかマズっちゃいました?」

 

「思いっきりな、このおバカ」

 

俺はグレン先生に軽く小突かれる。

いやだって…今日はみんな来るって言ってたし、何とかなるかなって…。

 

「…イヴ、なんでここにいる?」

 

アルベルトさんの簡潔な質問が、固まっている空気を切り裂く。

その簡潔すぎる物言いに、バーナードさんがフォローを入れる。

 

「おい、その言い方じゃと…。イヴちゃん、これは…」

 

「分かってるわよ。文字通りの意味でしょ。別に特に深い意味は無いわよ。ここのマスターが、許可出しただけだし」

 

イヴ先生は分かってたのか、あっさりとそう言い返す。

その言葉に、アルベルトさんが事実確認をするように、俺を見る。

 

「…エステレラ」

 

「事実です。本来ここの近くのアパートに住むつもりだったらしいんですが…」

 

「ッ!?イヴさん。失礼ですが、女性がそんな場所で一人暮らしは…」

 

クリストフは、心配そうにイヴ先生を見る。

そりゃ、普通そういう反応するわな。

 

「クリストフ…。貴方までアルタイルみたいな反応やめて」

 

「だから、誰でもそう言うんだって」

 

露骨に嫌そうな反応するイヴ先生に、俺は釘を刺す。

 

「分かったわよ。というか私も聞きたいんだけど?ねぇ、アルタイル…」

 

「ん?何です?」

 

真面目な顔でそう聞くと、グラスを手に取り一気に煽ってから

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!()!()

 

「自分の酒癖の悪さを考えてください」

 

何ともアホな事を言い出した。

この人、すぐ酔うくせに泣き上戸なんだよな。

いや、普段溜め込む人だから、爺さん達が定期的に吐き出させる為に、飲ませてるらしいんだけど…。

それに巻き込まれると、すごく面倒くさい。

 

「しかも、絡み方がすごくウザい」

 

「ウザいって何よ!?」

 

いやだって…ねぇ?

 

「ねぇ?()()()()()()()、クリストフ君?」

 

「…クリストフ?」

 

「え!?いや…その…」

 

お前、この角度で俺が見逃すとでも?

こんな面倒くさい事、しっかり巻き込むに決まってるだろ?

それはそうと瞳孔開きすぎ、怖いから。

 

「そもそも場の空気で酔えるんだから、お酒は要らないでしょう?」

 

「そういう問題じゃないわよ!」

 

じゃあ、どういう問題なんだよ?

そう思うと、ずっと大爆笑しているグレン先生を、ビシッ!っと指刺して言い放つ。

 

「グレンが飲めて、私が飲めないのが、気に入らない!!」

 

「はぁ!?何だとぉ!!?」

 

「思ったより子供っぽい!?」

 

どんな理由だよ!?

もう少し、何か無かったのかよ!

突然名指しされた上に、遠回しにバカにされたグレン先生は、怒ろうとしたが、何を思ったか、突然自分のグラスを持つと、テーブルの上のおつまみを食べて、口に少しお酒を含ませる。

 

「カ〜!仕事終わりの1杯は格別だな〜!それにこのツマミにもよく合う!腕上げたじゃねぇか、アルタイル!いや〜、この美味さが分からんとは、可哀想だな〜!お子様舌のイヴお嬢様!」

 

うわ〜絵に書いたような、煽り方だな。

是非、教科書に載せたい程だ。

当然これだけ綺麗に煽られたら…

 

「何ですってぇぇぇぇ!!」

 

乗るよねぇ…。

 

「だあぁぁぁぁぁぁ!アンタらはぁぁぁぁぁ!!」

 

またもや喧嘩を始めた2人を宥めようと、割ってはいる。

そんな様子を懐かしむように、アルベルト達は眺める。

 

「フフ、ここにセラさんがいたらどうだったんでしょうか?」

 

「そうじゃのう…大喜びじゃったろうて」

 

そう静かに笑って目を向けた先には、1輪の百合の花があった。

その姿…色合いはまるで…

 

「ちょっ!待て、イヴ!本当に待て!?」

 

「だ〜か〜ら〜!本当に貴女はダメだって!」

 

「うるさいわね!いいから飲ませなさい!」

 

「そこ3人!何時までも見てないで手伝って!!」

 

「…はぁ。何時までやってるんだ、お前達は」

 

結局、アルベルトが仲裁するまで、この喧嘩が止まることは無かった。

 

「さて、突然ですが、ババ抜きを始めましょう」

 

「「「「は?」」」」

 

「いや、本当に突然だな!?」

 

もちろん、意味も無く言い出した訳では無い。

 

「折角だし、皆仲良くなって貰いたいので…。ちなみに1回勝負、罰ゲームアリです」

 

「罰ゲーム?」

 

「はい。その罰は…これです」

 

そう言って、俺がカウンターの下から取り出したのは、紫色のシフォンケーキ。

 

「【イヴ印のチョコバナナシフォンケーキ】です」

 

「「「「何ぃ!!?」」」」

 

「ちょっと待ちなさい!何で私のケーキが罰ゲームなのよ!!?」

 

「うるせぇ!【エステレラ家バイオハザード事件】を、忘れたのか!!?」

 

【エステレラ家バイオハザード事件】とは、来て次の日、イヴ先生が作ったケーキで、エステレラ家が崩壊しかけた、後にイヴ先生のキッチン出禁令が出された大事件だ。

 

「グッ…!?」

 

「いやちょっと待て!チョコバナナなんだろ!?何で紫色になるんだよ!?」

 

「知らないわよ!私が聞きたいくらいよ!」

 

「イヴさん!?作った本人ですよね!?」

 

あのクリストフがツッコミに回るほど、衝撃的な色合いをしている。

あのアルベルトさんが、目を見開くほど、凄い雰囲気を醸し出している。

あのバーナードさんが、黙り込むほどエグい匂いがする。

 

「これを器用に魔術を使ってまで隠したよね?しかも冷蔵庫の奥の方に。ちなみに、これをお忍びで来た、ある高貴な御方に間違って出した結果、『マッズ!!!』って普段からは想像出来ないくらい、凄い顔をしてたらしいよ」

 

「それ誰に出したの!?ねぇ!?誰に出したの!?」

 

「『…イヴ…貴女…』」

 

「やめろ!お前のモノマネは、すごいリアル何だよ!それは冗談だよな!?だよな!?」

 

「…(ニコッ)」

 

「黙るな!にこやかに笑うな!」

 

さてと、冗談はここまでしよう。

 

「まあ、モノマネは嘘だけど、お忍びで来たルチアーノ卿に振舞ったら、ぶっ倒れたらしいよ」

 

「待てイヴちゃん!どこに行く気じゃ!?」

 

「離してバーナード!今すぐ謝罪に行って、腹を切りに行くのよ!」

 

「落ち着け、イヴ。今は夜が遅い。朝にしろ」

 

「アルベルト!そこじゃねぇだろ!?」

 

イヴ先生が立ち上がった瞬間、慌てて止めるバーナードさん。

それを見て、冷静に見当違いなアドバイスをするアルベルトさんと、それにツッコムグレン先生。

 

「まあ、それは置いといて」

 

「「置いとかない(くな)!!」」

 

「お、ナイスハモリ!あのルチアーノ卿をノックダウンさせた逸品。どう処理するか?…そう、仲間達に処理してもらおうじゃないか…。という事で、皆!頑張って!」

 

「「「「「…負けられない!」」」」」

 

普通に、逃げればいいんだけどねぇ…。

随分と、真面目というか何と言うか…。

 

「それではまず、不正が無いことを確認してもらいます」

 

俺は半円を描くように山を崩して、1枚ずつ見えるように並べる。

 

「…大丈夫ですね。じゃあ、ジョーカーを抜きます」

 

俺はジョーカーを抜き、パーフェクトシャッフルで、弾く。

 

「順に皆にシャッフルして貰います。まずは…アルベルトさん」

 

そのまま順に、山を回していき、シャッフルをして貰う。

最後にもう一度俺がパーフェクトシャッフルをして、皆に配る。

これで俺すら誰がジョーカーを持ってるか、分からない。

 

「1番手札の多い、グレン先生から時計回りですね。それでは…始め!」

 

仁義なき戦いが始まった…。

 

「よし!揃った!」

 

「…む、まだですね」

 

「ほう…揃わんのぉ」

 

「ふん」

 

「あら揃ったわ」

 

それぞれが安定に数を減らして、3周目に突入。

…そろそろだな。

俺は手元にあるベルを鳴らす。

 

「シャッフルタ〜イム!」

 

「「「「「はぁ?」」」」」

 

「皆さんの手札は、俺が魔術で監視してました。ジョーカーが動かない時、俺の任意でこれを発令します。まずはこれ。コイントスで右か左を決めます。表が右、裏が左」

 

ピンッとコインを弾く。

手の甲で受け止めて、確認する。

出たのは…裏。

 

「出たのは裏。左回りです。次はこのダイス。ここからが肝です。皆さんには、出る目を多数決で予想してもらいます。奇数か偶数か。もし予想と同じなら、シャッフル成立。左に1つずらします。外れた場合、シャッフル不成立です。さあ?どうぞ」

 

途端に話し合うグレン先生達。

話し合った結果…

 

「俺達は奇数にかける」

 

「分かりました。それでは…」

 

結果は…3の目。

 

「奇数ですね。シャッフル成立です。それでは手札を伏せたまま、交換してください」

 

それぞれが交換する中、明らかにホッとするグレン先生と、少し顔が引き攣るクリストフ。

クリストフはほぼ無反応に対し、グレン先生がしっかり反応したせいで

 

(((ジョーカーは、クリストフ)))

 

しっかり皆にバレてしまうクリストフ。

そのまま再スタートしたゲームは、俺のシャッフルタイムが不定期なので、混沌化。

直ぐに終わらせないように、引っ掻き回した。

そして、最初にあがったのは

 

「1抜けです」

 

「クリストフゥゥゥゥゥゥ!!」

 

クリストフが1抜け。

そこから芋づる式にバーナードさん、アルベルトさんが抜け、残ったのは

 

「おら!どっちだよ!そんな判断が遅ぇから行き遅れんだよ!」

 

「やかましい!朴念仁は黙ってなさい!」

 

安定のグレン先生とイヴ先生だった。

まあ、こうなる気はしたんだよな。

 

「どっちが勝つと思います?」

 

「ん〜、イヴちゃんかのぉ」

 

「じゃあ、グレン先輩で」

 

「…イヴだな」

 

「俺はグレン先生で」

 

それぞれで勝手に予想し合う俺達。

しかしお互いがジョーカーを引き合うという、泥試合を演出する。

 

「こうなったら…!【イーラの炎】!」

 

「ピー!魔術禁止!」

 

「ふっ!甘いぜ!【愚者の世界】!」

 

「だから、禁止!」

 

引き合う事10周、ついに決着がつく。

 

「勝っ…た…!!」

 

「ありえない…!」

 

「勝者、グレン先生〜!」

 

最後の最後に、見事ジョーカーを避けたグレン先生の勝ちだった。

これにより敗者たるイヴ先生には

 

「この【イヴ印のチョコバナナシフォンケーキ】をどうぞ。…結果、自分で処理してるだけじゃん」

 

「そこはツッこまない方が…」

 

クリストフが苦笑いしてながら言う。

イヴ先生は、苦い顔した後一思いに齧り付く。

その結果

 

「〜〜〜〜ッ!!!?」

 

赤くなったり、青くなったり、緑くなったり、黄色くなったり…。

まあ色んな顔色になって悶絶するイヴ先生。

自業自得だな…。

 

「イヴちゃん、ほれ。これ飲め」

 

「ッ!?おい待てジジィ!?それはお前の…!」

 

「あ!?」

 

バーナードさんが飲み物を渡すが、それは()()

タダでさえ弱いのに、今そんなの飲んだら…!

 

「う…うぉぇぇぇぇ…」

 

「「「ぎゃあァァァァァァァァ!!!」」」

 

結局イヴ先生が全て吐き出し、俺達は必死に掃除する羽目になった。

…なんでこんな目に?

窓際に飾ってある百合の花が、呆れたように揺れた気がした。




今回は、珍しくアルタイルがボケに回るという話でした。
そしてキャラが崩れる人もいましたが、そこはそういうものとして扱ってください。
それでは失礼します。
ありがとうございました。
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