「飛行競争に出たい人ー?」
シーン。
フィー…システィーナの声だけが響く。
「じゃあ、変身の種目はー?」
シーン。
またもやシスティーナの声だけが響く。
「困ったなぁ…来週には、魔術競技祭始まっちゃうのに」
そう、来週に迫った魔術競技祭の選手決めをしているのだ。
そう、来週からなのだ。
それなのに未だに決まってないなんて、ヤバイよなうち。
「ねぇみんな!せっかくだし思い切って頑張ってみようよ!」
「まったく…お情けをかけるからこうなるんだ」
ルミアの必死なお願いに、ウィズダンがストップをかける。
「今回はわざわざ女王陛下がご来賓なさるんだ。そんな場所で無様を晒す必要もないだろう?」
「ギイブル、貴方本気で言ってるの?」
「もちろん本気さ」
システィーナとウィズダンが一触即発の中、突然ドアがドン!と開くと
「話は聞かせてもらった!俺に任せろ!このグレン=レーダス大先生に!」
すげぇめんどくさそうな登場の仕方で、グレン先生が現れた。
「ややこしいのが来た…」
システィーナが頭を抑えながら呟く。
「おら白猫、リスト貸せ。遊びは無しだ。俺がお前らを優勝させてやる」
そう言いながら、教卓の上で胡座をかく。
暫くして采配を始めた。
「よし、1番配点の高い【決闘戦】は白猫・ギイブル…あとカッシュだ」
おや?ナーブレスではなくウィンガーが?
…ああ、そういう事か。
「【暗号解読】はウィンディ、【飛行競争】はロットとカイ、【変身】はリンに頼む。【精神防御】はルミア以外ありえん…」
そう言ってドンドンと決めていくグレン先生。
しかも全員参加しているうえ、それぞれの得意分野で選んでいるのだろう。
確かにこれなら勝算は高い。
「最後、新種目の【ハイド&ファイア】はアルタイル一択だ。頼むぞ。よし!これで決まりだ!」
おお、俺も参加か。
しかも新種目の【ハイド&ファイア】とはな。
これは責任重大だぞ〜。
「待ってくださいまし!なぜ私が【決闘戦】から外されてるんですの!?」
納得いかなかったナーブレスが反論した。
「確かにお前は知識も詠唱速度も大したもんだが、ドジだからな〜。だから運動神経と状況判断力の高いカッシュって訳だ。その代わりリードランゲージならお前はピカ一だ。ぜひ【暗号解読】で点を稼いでくれ」
「そ、そう言う事なら…」
「他にも説明しとくぞ」
そう言って先生は、人選の理由を一人一人教えていく。
「アルタイルは見た感じ、この競技は魔術あり、武器ありのバトルロワイヤルだ。だから戦闘経験のあるお前なら余裕だろ」
「OK。やってやりますよ」
やるからには勝つ。
それが俺のモットーだ。
「先生!いい加減にしてください!」
ウィズダンが声を上げる。
これ以上になにか良案があるか?
「なんだよギイブル。これ以上いい案があるのか?言ってみろ」
「決まっているでしょう!成績優秀者で全種目を固めるんです!それが伝統でどのクラスもやってる戦略です!」
「…え?」
あ、あれは知らなかった口だな。
手の平返される前に、先手を打たないとな。
「何言ってるのギイブル!先生の采配にケチつける気!?見てよこれ!みんなの得手不得手を考えて決めてくれたのよ!大体、成績上位者だけの勝利なんて、なんの意味があるの!?先生は勝ちに行くって、俺が優勝させてやるって言ってくれたわ! それは、皆でやるからこそ意味があるのよ!そうでしょ!?先生?」
おやシスティーナが熱弁した。
じゃあ、援護射撃だ。
「システィーナの精神論は置いといて、他のクラスと違ってうちは1つの競技に全力を注げる。それだけでも他より勝率が上がるってもんさ」
「分かった分かったよ。それがクラスの総意なら好きにすればいいさ」
ウィズダンの撤退したところで先生の采配が決定する。
クラスが沸き立つ中、先生だけは顔を引き攣らせている。
「…何か…噛み合ってないような…」
安心しろルミア。
間違えなく噛み合ってないから。
「それで?一体何を考えていんですか?」
俺は練習を始める前に、先生を掴まえて事情を聞く。
どうせロクでもない事なんだろうけど。
「フ…未来への投資をした結果さ…」
「ああ。要はスったんだな。だから特別賞与狙いと」
「な、何故それを!?」
「考えればわかるわこのダメ教師」
予想通りすぎて1周回って呆れる。
そんなくだらない事を話していると
「いい加減にしろよ!」
「「ん?」」
外からウィンガーの怒鳴り声が聞こえた。
2人で向かうと、1組の連中と揉めている最中だった。
「はいはいストップ〜。何してんだお前ら」
先生が仲裁しようとした時
「何をしているクライス! さっさと場所を取っておけと言っただろう! まだ空かないのか!?」
1組の…確か…ハーゲー先生がやってきた。
「あれ〜?先輩講師のハーレム先輩じゃないっすか〜!先輩も競技祭の練習っすか〜?」
あ、間違えた、ハーレム先生か。
けしからん名前だなこの人。
「ハーレイだ!ハーレイ=アストレイ!貴様覚える気ないだろう!?…まあいい、勿論、そうだとも。優勝し、女王陛下から栄誉を賜わうのは我々1組だ。私が指導する以上、優勝以外有り得ないからな」
何だ、ハーレイ先生か。
グレン先生も間違ってたじゃん。
「ワ〜スゴ〜イ!ガンバッテ〜!」
先生、めっちゃ棒読みじゃん。
「それよりもグレン=レーダス。早く場所を空けろ!」
「ああ〜…じゃあ、あの辺まで開ければいいですか?」
「何を言っている?この中庭から出ていけと言ったんだ」
…はぃ?何言ってんだこのハーゲー。
「…先輩、いくらなんでもちょっと横暴すぎません?」
「横暴なものか!フィーベル達のような成績優秀者を遊ばせ、成績下位者の様な者達を出場させるようなやつにやる気なぞ感じられないのでな!」
なるほど…笑えるくらいダサいなこの人。
自分の毛根とプライドの無さをさらけ出しちゃってまあ…
「貴様…何を笑っている。アルタイル=エステレラ」
おや、顔に出てたようだ。
まあいいか、別に。
「陶器って知ってます?」
「とうき?何だそれは」
「東洋の器っすね。粘土質の泥を何回も形を整えて、乾かして、焼いて、色を塗って…そういう手間を何回も重ねて作り上げるんすけど、そういうのを作る人を時に人間国宝、人でありながら国の宝と呼ぶこともあるんすよ。そういう人が作るやつには宝石を上回る価値がつくんすよ」
何でこんな知識があるのか?
爺さんの趣味だよ。
「一方で宝石ってさ、ただ削って、さらに削って、磨いてるだけじゃないですか?だから、言い換えれば、慣れれば馬鹿でもできると俺は思うんすよ」
「な…」
本当は違うかもしれないけど、あくまで俺の持論。
目を瞑ってくれると助かる。
それはさておき、絶句してるハーゲー先生。
そう、ここからが俺の言いたい事の本質。
「ただ馬鹿でも出来そうな事をひけらかしてるあんたと、人間国宝になろうとしてるグレン先生。どっちについて行きたいかって言ったら、グレン先生だよね〜」
ここでさらに煽るように笑う。
「きさま…!」
「そこまでだ、アルタイル。やりすぎだぞ」
俺とバチバチになる前にグレン先生が止めに入ってきた。
「ハーレイ先生、うちの生徒が失礼しました。ですがお言葉ですが、うちはこれが最強の布陣なんすよ。もちろんうちは、優勝を狙ってますよ。油断して寝首をかかれないことっすね!」
「フン…口だなんとでも…」
「3ヶ月分だ」
…何?
「…何?」
「俺のクラスが優勝するのに給料3ヶ月分だ!この賭け、乗ります?先輩」
マジか!?
ただでさえ、金食い虫の魔術師家業だぞ!?
金欠のくせに何見栄張ってんの!?
「クッ…いいだろう!私も私のクラスが優勝するのに給料3ヶ月分だ!」
今、一瞬の間にめっちゃ葛藤したなこの人…。
きっと1組の連中の視線に耐えきれなかったのだろう…。
哀れな大人のプライドか…。
「そこまでです!」
ここでシスティーナの登場か!
きっと悪い方に転がるぞ〜!
「ハーレイ先生!先生の主張になんの正当性も見受けられません!これ以上見苦しい真似を続けるのなら、学院上層部で問題にしますがよろしいですか?」
ここで必殺、親の権限を発動。
この学院において発言力のあるフィーベル家が相手では、流石のハーゲー先生も黙る他なしって事か。
「クッ…!親の七光りが…!」
これは思ったより丸く収まるか…?
「それにグレン先生は逃げも隠れもしません!」
「え?」
あ、無理だったわこれ。
「私達は魔術競技祭で正々堂々戦い、優勝します!ですよね、先生?」
「お、おう!」
声めっちゃ震えてるけど大丈夫か?あの人。
「いいだろう!私に楯突いたこと、後悔させてやる!」
そう言って中庭から去っていくハーゲー先生。
「先生がここまで信じてくれたんだもの。絶対に負けないんだから!」
「「「「「「おーー!」」」」」」
「やっぱり、何か噛み合ってない気が…」
だから大丈夫、しっかり噛み合ってないから。
しかし、これはある意味俺の責任でもあるか…。
「…しょうがない。飯くらい用意してやるか…」
まずは、店の残りの食材を見てみて、そこから何を作るか決めるか。
次の日、昼前に先生を呼び止めた。
「あ、グレン先生。ちょっといいっすか?」
「何だ戦犯」
「いや、戦犯って…」
そりゃ、喧嘩ふっかけたのは俺だけどさ…。
「まあいい、それよりどうした?金以外なら概ね相談に乗ってやるぞ」
さて、本命と行こうかね。
「相談じゃなくて、罪滅ぼし兼施しですよ。はいこれ」
そう言って俺はバスケットを渡した。
「こ、これは!?」
「俺の下宿先レストランだから、そこの余った材料で作ったんですよ。競技祭までなら作ってあげますよ昼だけでも」
そう、店の営業終了後、俺の料理の修行ついでに作る事にしたのだ。
「内容は偏ると思うけど、そこは我慢して…」
「ありがとうございます!アルタイル様!このご恩は一生忘れません!」
「いや、キモイな!いいから早く食っちまえよ!」
そう言ってグレン先生がバスケットを開けると、何やら固まってる。
何事かと思ったけど…ただ驚いているだけっぽい?
「何?」
「いや、美味そうだなって…」
「そりゃ、レストランで下宿させてもらってるし、その分店の手伝いしてるんだから、本来金とるんすよ」
「マジか!?」
「マジっすよ。じゃあ、バスケットは洗って返してくださいね」
そう言って離れようとすると
「ちょっと待て、ちょうどいい機会だ。聞きたいた事がある。ツラ貸せ」
そう言う先生の顔が随分と真剣だったため、俺も了解してしまった。
「話ってなんですか?」
昼飯をつつきながら、先生の話を促す。
「この間の事だ。【アリアドネ】の事は分かった。だが、俺とってそれよりも…どこで軍用魔術を習ったか、ここが重要だ」
なるほど、やはり真面目な内容だったらしい。
だって俺の後ろに厄介な人がいるもん。
「…アルフォネア教授、こっち来たらいかがでしょうか?」
「…何だ、気づいていたのかアルタイル=エステレラ」
「あれだけ魔術で見られた流石に…。さて、習った相手ですよね。隠す必要も無いので言いますよ。下宿先の爺さんです。元帝国宮廷魔導師団特務分室ですので」
「「な!?」」
2人ともめちゃくちゃ驚く。
そりゃ、そうだろう。
帝国宮廷魔導師団内でも特に尖った連中の集まりが特務分室だ。
と、爺さんから聞いている。
「元特務分室だと!?マジか!?」
「ええ、先代の【隠者】とかなんとか…」
「先代【隠者】…もしかしてトワイスのじーさん、エンダース=トワイスか!?」
あれ?知ってるんだ。
「そうですよ。知ってるんですね?」
「セリカ?知ってるのか?」
「バーナードの師匠だ」
「バーナードの!?マジか!?…まあ、習った先がわかったでも良しとするか…」
グレン先生は何処かホッとしたように呟いた。
そんなに俺が軍用魔術を使った事が心配だったのか?
「グレンも元軍人だからな。力というものに敏感なのさ」
そういう事か…。
「まあ、競技祭で使うことは無いでしょうし、俺が使える軍用魔術はC級3種類と少しですから。そんな事よりグレン先生、魔術競技祭勝ちますよ」
「…ああ、やるぞ」
そう言って俺たちは昼飯を再開した。
そしてその光景を優しく見るアルフォネア教授がいた。
という訳でありがとうございました。
この新キャラ、ほとんど名前だけ出すつもりです。
名前も適当に考えて決めました。
ほとんど思いつきです。
話には今のところ関わらない予定です。
直接的に知ってるのはセリカ、バーナード、ゼーロスぐらいのつもりです。
陛下すら名前だけです。
本当は特務分室の誰かにする予定だったのです。クリストフとか結界繋がりで。
でもそれだと何かなって感じだったので、下宿先の爺さんにしておきました。ちなみに婆さんは軍医です。
それではこれにて失礼します。