それではよろしくお願いします。
「え〜、それでは初戦突破を祝しまして」
「「「「「「「カンパ〜イ!!!」」」」」」」
ここはホテルにある談話室。
ジュースなど軽食など引っ張り出して、プチ祝賀会を開いていた。
「お疲れ様、アイル君」
「ありがとう、ルミア」
各々楽しんでいる光景を、ぼんやりと見ていると、ルミアが声をかけてくる。
「凄かったね。
「あれはシスティと協力出来たからできた芸当さ。単独じゃ厳しかったかも」
実際のところ、システィが必死に戦ってくれたから、何とかなったものだ。
「でも…少し妬けちゃうな〜」
「ルミア?」
「だって、もし私だったらアイル君は、前には出さないでしょ?」
そう言われ、思わず黙り込む。
確かにそうだ。
もしあるがルミアだったら、俺はあんな危険な真似させないだろう。
でも、だったら戦い方を変えるだけだ。
「その時は、ルミアの力を借りて戦うさ。どの手札をどうやって切るか、それは仲間の頼り方も同じだろ?結局そこも、魔術師としての戦い方って事だ。だから…あの時なりの頼り方を、してただろうよ」
「ッ!…ありがとう」
そう2人で話していると
「失礼します」
突然珍客がやってくる。
それは
「ファイス司教枢機卿!?」
「突然申し訳ありません。グレン=レーダス先生はいらっしゃいますか?」
ファイス司教枢機卿は、グレン先生を連れ立って、中庭に行ってしまう。
…何故かマリアが、こっそりとついて行ったが。
とりあえずそれは置いといて、皆と話を楽しんでいた時だった。
突然、すごく綺麗な歌声が聞こえてきた。
『眠れ、眠れ、安らかに、安寧に。眠れ、眠れ、安らかに、揺り籠の中で』
そう優しく言い聞かせるような。
まるで母親が歌ってくれた、子守歌のようなその声に意識が…
「…ッ!」
強引に舌を噛み、何とか堪える。
「アイル君!舌を!?」
ルミアの治療を受けていると、イヴ先生がグレン先生と、ファイス司教枢機卿を連れてくる。
マリアも一緒にいるのは謎だが。
「ッ!お前達!無事か!?」
「何とか…多分皆も、命に別状は無いと思う」
「先生!?これは一体…!?」
「【
そう答えたのは、ファイス司教枢機卿だった。
【
この子守歌は、死傷性こそないものの、時間が経つほど効果が強くなるらしい。
つまりこのまま放っておくと、魔術祭典に参加出来なくなる。
先生は、多分ギリアウトだったのを、何らかの方法で切り抜けたんだろう。
イヴ先生や、ルミアは当然として、なんでマリアは無事だったんだ?
「…まあ、それはいいか。先生、急いで止めないと!」
「ああ!このバカ騒ぎはすぐに仕舞にしてやる!!」
こうしてマリアと、ファイス司教枢機卿を残して、俺達は【
静けさに包まれた街を駆け抜け、たどり着いたのは、大競技場だった。
「…ここか」
「そうみたいね。確かにここなら、お互い全力で戦えるわ」
俺達は重力操作魔術で一気に飛び上がり、場内に侵入する。
その中央で、ルナとチェイスがいた。
俺達はそのまま歩き進め、やがて距離約15メトラの所で睨み合う。
「…今更だけど、貴方達を殺す気無かったの。
「…だろうね。アンタらなら俺らをどうこうする方法なんて幾らでもあった。なのにそれをしなかったって事は、そういう事だろ?」
そう、彼女らは根っからの悪人ではない。
恐らくやらざるを得ない、そんな状況だったのだろう。
それでも
「俺達は止まらない。止まれない。お互い曲げらんねぇなら、やる事は1つだ。…相手の覚悟へし折ってでも、自分の覚悟を貫き通すだけだ」
そう言って俺は戦闘態勢をとる。
それに合わせて、皆も構える。
「…そう。そうするしか無かったのね」
そうルナが言った途端、光が降り注ぎ、その背中に三対六翼の翼が生える。
その魔力は暴力的に跳ね上がり、その姿はまるで
「…天使!?」
俺は唖然とするしかない。
「噂には聞いてたけど、まさか…まさか!?」
「薄々そうじゃねぇかとは思ったがよ…これが【天使転生】か…!?」
これこそが聖エルサレム教皇庁の秘中の秘にして、最暗部。
死んだ人間を【戦天使】にして、復活させる。
つまり彼女は
「かつて六英雄の中にもいたな!?【戦天使】イシェル=クロイツ!!」
「彼女が今代の【戦天使】って事ね…!?」
俺も、先生達も、ルミアすら額に脂汗を浮かべる。
「そうよ。私は【戦天使】。チェイスは【吸血鬼】の真祖。貴方達に万の一つも勝ち目も無いわ。…最後の警告よ。退きなさい!」
相反する2つの魔力を登らせる2人が、俺達を睨みつける。
そのプレッシャーに膝が砕けそうになるのを、強引に止める。
「…言ったろうが!お互い曲げらんねぇって!!人間舐めんなよ!!!ルミアァァァ!!!」
「うん!皆、受け取って!!!」
ルミアが、【
俺達の魔力が何倍にも膨れ上がる。
「へっ!
「無駄口叩かない!来るわよ!!」
グレン先生の調子に乗った一言にイヴ先生がツッコミながら、炎を構える。
「はァァァァァァァァァ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺とルナが真正面から衝突し、
「フッ!」
「舐めるな!『吠えよ炎獅子』!」
「そこ!」
チェイスがイヴ先生の懐に入ろうとするのを、イヴ先生は炎で、グレン先生が浄銀弾で迎え撃つ。
ここに、真の最強決定戦が始まった。
「『我が手に星の天秤を』!!おぉぉぉぉ!!」
「ふん」
並の魔術では、欠片程の意味もない。
だから俺は、接近戦しか道がない。
俺の糸と、ルナの聖剣がぶつかる。
糸の強度に、重力を足してるため、かなり重いはずだが、押し切れない。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
縦横無尽、正確無比な連撃で畳み掛けているのに、
「温いわ」
まるで相手にならない。
それどころか、ただの棒振り程度の一撃で
「クッソォ!?」
「アイル君!?」
斥力と同時に守って、やっと防げるといった程度だ。
「…退きなさい坊や。ここは貴方が立っていい戦場じゃないわ」
…クソ。
結局俺は、足手まといかよ…!
幾ら強くなっても、そんなのは数値上。
実際に戦うとこれだ。
俺にはグレン先生の様な、知識は無い。
システィやイヴ先生の様な、魔術の腕は無い。
ルミアの様な、法医呪文や異能は無い。
リィエルの様な、近接戦闘能力は無い。
リゼ先輩の様な、本物の万能型でも無い。
全部が中途半端の器用貧乏、それが俺だ。
「それでも…!」
何も無い俺でも、守りたいもの、譲れないものがある。
だから…!
「俺は戦う!お前に勝つ為に…何より!!お前に勝てない、そう思ってる弱気の俺に、勝つ為に!!!」
ゾーンを強制解放する。
魔術とは、自分の心を突き詰めるもの。
だったら、気持ちで負けるな。
たとえ体が砕けようとも、心は砕くな。
心に描くのは常に…最強の自分だ。
「…そう。嫌いじゃないわ、そういうの。でもね、教えてあげる…」
そう言うと、突然歌い始めた。
最初の時とは違う。
歌い始めた途端、さらに魔力とプレッシャーが跳ね上がり、俺を押し潰そうとする。
「
膝が砕けそうになるのを、理性で抑えつつ、俺は一気に踏み込む。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
糸を振り抜くも、それは抑えられる。
張り詰めた糸を弾いて、【ブレイズ・バースト】を、お見舞する。
「無駄よ」
しかしそれは、案の定欠片の意味も無く。
しかし目くらましにはなった。
「フッ!」
背後をとり、思いっきり糸を叩きつける。
「な!?グゥゥ!?」
流石に不意打ちは効いたか、痛がりながらも、踏ん張る。
「このまま…!」
俺は一気に糸を高速で撃つ。
「この…!つぅぅぅ!」
閃光のような一撃は、ルナの素手で受け止められる。
だったら…!
「吹き飛べ!」
重力を一気に叩きつける。
踏ん張って耐えてる隙に
「『金色の雷獣よ・地を疾く翔けよ・天に舞って踊れ』!」
【プラズマ・フィールド】を発動。
雷獣の遠吠えの様な音と共に、雷霆がルナを射抜かんと吠え叫んだ。
「アイル君…」
私はいい子になりたかった。
でもアイル君は言ってくれた。
もういいんだよって、もっと我儘でいいんだよって。
あの言葉で救われた…本当に救われたの。
だから私はずっと考えてきた…自分の道を。
その愛する人の背中を見て、私は思う。
なんて崇高なんだろう。
なんて気高いんだろう。
なんて……愛おしいんだろう。
『真の意味で人の役に立つ』。
その道はまだ見えないけれども、それでも!
「私は皆の為に…アイル君の為に、生きたい!」
だからお願い!答えて!!
そう思った瞬間、白い光が眩いくらい光り、一瞬、自分の内なる世界を垣間見る。
いつか見た、鎖に繋がれた少女。
〖ねぇ…何でそんな事言うの?考え直して。そんな我儘、許されないよ?〗
「…ごめんね。私は、私の為に、生きるの!!!」
そう彼女に背を向けて、我儘を貫き通す…!
「ッ!これが…
手のひらに乗っている小さい銀色の鍵。
あの時のあれとは、比べ物にもならないのは、見れば分かる。
でもこれでいい、これが私の最強なんだから…!!
「アイル君!今…助けるよ!!!」
私の意思に答えて、銀の鍵が空間を凍結させた。
「グッ!?この…舐めるな!!」
ルナの動きが止まる。
ルミアの拘束を解こうと、法力を一気に放出する。
今だ!
「はァァァァァァァァァ!!!」
「しまっ!?グハッ!?」
糸で強化した拳で、全力で殴る。
殴って蹴って殴って蹴って…攻め続ける。
ひたすらに…我武者羅に。
「ァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」
言葉すら出ない。
痛みもない。
色もない。
身体機能、残り体力、魔力、その全てを出し切る。
ここで押し切れ!
じゃないと…負ける!!!
「あ…ァァァァァァァァァァァァ!!!」
ルナのカウンターを食らう。
衝撃で骨が折れたが、構うな。
「負けられない…負けられないのよ!!!」
(私は守る為に…もう何も失わない為に、怪物になった!!ここで負けたら…なんの為に!!)
「はァァァァァァァァァ!!!」
ルナの渾身の一撃を受け、俺はついに限界が…
「アイル君!!!」
「〜ッ!!!」
まだだ…!
まだだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
ギリギリ踏ん張った俺は、ルナを最後の力を振り絞って、殴り飛ばす。
「ガハァァァァァァァァ!!!!?」
何度もバウンドしながらぶっ飛んでいくルナ。
そんなルナを受け止めたのは、全身焼け焦げているチェイスだった。
「この…!しぶといわね!吸血鬼!!」
「アルタイル!下がってろ!!」
すぐに先生達が俺を庇うように立つ。
俺もふらつきながらも、構え直す。
「…いや、僕達の負けだ。もう君達に一切手を出さないと約束しよう。だから、ここで見逃して貰えないかな?」
「…グレン、分かってるわよね」
「ああ…それに、目標も達成してるしな」
そういえば、【子守歌】の歌が聞こえない。
ルナが気絶してるからか。
「…ありがとう。それほど聞いていないだろうから、明日の試合前には目を覚ますよ」
そう言ってチェイスは、ルナを抱えて去っていく。
それを見届けて、倒れ込む。
「「「アルタイル(アイル君)!」」」
ああ、また気を失うのか…。
そう思いながら、俺は気を失った。
ルナはグレンに対して嫉妬していましたが、アルタイルにはそういう感情は持っていません。
だから少し余裕のある態度です。
それにしても、何時もアルタイルは気絶してますね…。
それでは失礼します。
ありがとうございました。