それではよろしくお願いします。
「「「「「「全面衝突〜!!!?」」」」」」
会議場中に、驚愕の声が響き渡る。
かくいう俺も、流石に唖然とした。
この戦力差で…正面衝突?
それは他の将校達も同じで、口々にイヴ先生を罵倒する。
「落ち着いてください、皆さん。イヴ、どういう事か、説明して下さい」
「恐れながら。圧倒気物量差、敵司令官の采配の上手さ…全くもって隙が無い。故には我々の活路は、敵首魁であるアゼル=ル=イグナイトと、リディア=イグナイトをいかに討つか。そこに懸かっています」
いや、だからそれが出来たら苦労しないし。
それが不可能なほどの戦力差があるから…。
いや、本当にそうか?
本当に戦力差があるのか?
「この戦い、単純に数を見る意味は無いわ。一見、賊軍は小規模小隊に別れて、ミラーノ中を薄く広く散開している。隙は無いわ。でも、その隙の無さこそが、唯一の隙」
…あ、そうか。
「イグナイト卿の敵は、俺達だけじゃない。今のイグナイト卿はまさに、内憂外患。内にいる俺達という敵と、外にいる他国の軍隊。その両方を警戒しなくてはいけない。だから一定数の、絶対に動かしてはいけない兵達がいる。…そういう事?」
俺は静かに挙手をして、イヴ先生に答え合わせをすると、満足気な笑みを浮かべる。
「そう、正解よ。よく分かったわね」
「しかし、そんなのは詭弁だ!」
「彼らは各国の首相を人質にとってるんだぞ!」
当然、反論意見も出るが、イヴ先生は真っ向から反論する。
「私達の常識に囚われすぎよ。もっと柔軟に考えなさい。世界は広い。その分、数多の思想や思考があるわ」
俺はイヴ先生が、言いそうな事を続ける。
「この国は絶対主君、女王陛下に絶対の忠誠を捧げている、そういう政治形態です。でも、イグナイト卿の様に、突発的に反旗を翻す輩もいます。だから、こう考えるはずです。『
「その通り。だったら、たとえその可能性が限りなく低くても、それに警戒をせざるを得ない。何故なら、自分自身が、その万が一の証左だから。当然、イグナイト卿からしたら、絶対に失敗出来ない。だから…外への警戒は、決して崩せない」
最早、誰も何も言えない。
それ程までに、イヴ先生の言い分は完璧だ。
しかし、まだ現実問題は終わってない。
「確かにその通りだとしても、イヴ。まだ大きな戦力差には、変わりありません。一体どうするのですか?」
「はい、もちろん策は用意してあります。それは…陛下御身自ら、囮になって頂きます」
「「「「「「はぁぁぁぁぁぁ!!!?」」」」」」
それはまた、大胆な…。
また口々に罵倒し出すが
「イヴ、続けて下さい」
「はい。まずはこの、戦術状況表を」
イヴ先生はそう言って、盤面を指さす。
「先程説明した通り、数値的にはそれほど差はありません。敵は耐久力・継戦力重視の部隊と、機動力・攻撃力重視の部隊。交互に配列してるわ。だからどう足掻いても…」
そうしてコマを動かし、ダイスを振ると、数ターンしない内に、全滅した。
「こうなるわ。でもこうすると…グレン。久々に、私と兵棋演習といこうじゃない。篭城した本隊と、突撃隊よ」
イヴ先生が打った手は、極小数を女王陛下と共に篭城させ、残りは全部敵軍へと、突撃させた。
「ちなみにこれ、どう采配しても、同じ結果になるわ。アルタイル、自分で考えながらよく見てなさい」
「う、うん…?」
俺なら…うん。
篭城兵は放っておくな。
どう考えてもブラフにしか見えないし。
「同じ結果?…ああ、そういう事か。そうだな〜。じゃあ、こうするかな〜」
おどけながらグレン先生が打った手は、俺の同じ突撃隊を潰す手だ。
「あら?じゃあ私はこうしようかしら」
そう言って、イヴ先生は包囲網に空いた穴を突いて、本隊をミラーノの外に脱出させた。
…あ、そうか!
「分かった!」
思わず、机を叩きながら立ち上がる。
「…では、アルタイル君。答えを」
「今のパターンとは逆、つまり陛下の方を直で狙った場合、突撃隊に本物の陛下が、混じっているかもしれない上に、包囲網を突破されるリスクが跳ね上がる。しかも今のイグナイト卿に失敗は許されない。つまり…こうするしかない」
俺はグレン先生の代わりに、兵を二手に割く。
それなら諸々の条件を差っ引いて、ダイスを振ると
「戦力差、4:6…。これなら不利でも、勝負にはなる!」
将校達がざわめき出す。
そう、確かにこれなら…賭けに出る価値はある!
「正解よ、よく出来ました。より詳しく解説すると、この作戦は、2段階の囮作戦よ。1つは、打って出る突撃隊。こっちは緻密な行動が必要になるから、私が指揮を執るわ。もう1つは、陛下の姿を晒して、囮にする篭城本隊。もちろん、強固な結界を張り、生半可な攻撃ではビクともしないようにするわ。アルタイルを始め、貴方達生徒にも協力して貰うわ。ここまでして初めて、私達に勝ち目が見えるのよ。理解した?」
大胆かつ繊細…まさにその言葉が、ピッタリな作戦だ。
あまりの鮮やかで見事な作戦に、誰も口を挟まない。
「そして、これがリディア=イグナイトだけなら、多分こうは出来ません。この間の報告を聞いてるだけでも、あの人はやり手だって言うのは、直ぐに分かります。しかしあっちにはイ…ンンっ!あの肝が豆粒みたいに小さい、イグナイト卿がいます。あのチンケな小物が、まず博打は、絶対に打てません。つまり…この指し手以外に存在しない」
思わず、ものすごく汚いスラングを言いそうになったが、何とか踏みとどまる。
だからグレン先生、呆れた目で見ないで。
「そうして拮抗すれば、間違えなく2人は出てくる。こうなっては何の憂いもなく動かせる部隊…つまり、直接指揮する部隊を前線に充てるしかない」
ここまで言い切って、1度イヴ先生は目を瞑る。
「…3時間。各戦線が、確実に支えられる猶予はそれだけよ。その間に…直接、敵大将を叩くしかない。私とグレン。…それと、アルタイル。この3人でやるわ」
そう、初めにイヴ先生は言っていた。
『我々の活路は、敵首魁であるアゼル=ル=イグナイトと、リディア=イグナイトをいかに討つか。そこに懸かっています』
それが一番大変である事には変わらない。
それでも…
「了解。絶対に勝つ!」
俺は迷いなく、しっかりと目を見て、宣言した。
さあ、戦争を始めよう。
翌日、深い朝霧包む夜明け前、遂に火蓋が切って落とされた。
全てが予想通りに進み、むしろ音信不通だった、アルベルトさん達の参戦によって、更に好都合に動き続ける作戦。
まあ、イヴ先生曰く、これも予想通りらしい。アルベルトさん達の活躍で、後詰の戦力がズタボロ。
戦況は、完全に泥沼化。
しかし、これこそ俺達と狙い。
イグナイト卿が止むを得ず、最終予備戦力を追加投入しようとした時。
イヴ先生の起死回生にして、華麗なる逆転の一手が決まる。
そして主戦場から少し離れたこの場所で
「「「…」」」
「「…」」
俺達は向かい合っていた。
「さてと…いよいよ、大詰めだな」
「ええ」
「はい」
俺達はイグナイト卿と、リディアを睨みつける。
「イヴめ…まさか貴様如きが、ここまでやるとはな…!この為に、友軍を、女王を囮にして指揮系統を崩し、ここに孤立させた」
「…ッ!ええ、そうよ。あと30分は、援護は来ない。それまでに、父上達を始末する。帝国有史以来、連綿と続いてきた誉れ高きイグナイトは終わりよ。終わらせないといけないの。…それが、イグナイトの責務だから」
イヴ先生が右手に炎を灯すと共に、毅然とした態度で、覚悟を示す。
しかし、それを目の当たりにしても、イグナイト卿は変わらない。
「貴様如き下賎な分際が、イグナイトを語るな。貴様は尊き血が果たすべき責務を、何一つ理解していない。全てはその責務を果たす為。それすら理解出来ぬとは、救えぬな、イヴ」
「理解していないのは貴方よ、父上。己の欲望と野望を、矜持と信念という小綺麗な言葉で、矮小な醜さを化粧し、取り繕う。…ああ、ずっと言ってやりたかった…!貴方は史上最低のゲス野郎だわ!自分が最もドス黒い邪悪である事に、微塵も気付いていない!!実に哀れでみっともない小物よ!!!」
「黙れ」
イヴ先生のスカってする口上に、見事にブチ切れたイグナイト卿。
しかし、その怒りを押さえ込み
「本来なら、裏切り者の貴様を、火刑に処してやりたいところだが…。私はお前を、再評価している。よくぞ、ここまで私を追い詰めた。褒めてやる。故に…戻ってこい、イヴ。我が膝下に跪け」
なんとも都合のいい薄ら寒い言葉をペラペラと。
しかし、イヴ先生の様子が変わる。
「はっ…はっ…!」
俺は、過呼吸を起こすイヴ先生の手を握る。
更にグレン先生が、肩を掴む。
「姉さん…俺達がいるから…」
「そうだ、イヴ。深呼吸しろ」
「はぁ…はぁ…ありがとう…2人共」
よし、何とか持ち直したな。
「…何故だ。やはり【楔】の効きが悪い…何故?」
コイツ…今なんつった?
「おい、小物。【楔】って何だ?あぁ?」
「薄々そうじゃねぇかって思ったがよ…テメェ、
イヴ先生に何らかの魔術的措置を行っているって事かよ…!
何処までクソなんだ…!
俺達が怒りに燃えていると
「…大丈夫よ、2人共。私は大丈夫」
そう言ってイヴ先生が、俺達を諌めてくれる。
その姿を見たイグナイト卿は、突然喚き出す。
「分かったぞ…!貴様は!イグナイトであるにも関わらず、我がイグナイト家に対する依存や崇敬を捨てたのだな…!新たな対象を見つけたのだな!」
「…は?」
訳分からずに、唖然としてる俺達を無視して怒り出す。
「失望したぞ!前言撤回だ!貴様はもう要らぬ!!髪の一本、灰の欠片すら残さぬ!!九園の業火に焼かれながら、私に逆らった無知蒙昧さを後悔するといい!!!」
イグナイト卿とリディアが身構える。
言いったくれ言いやがって…!
中指を立てながら、人生初のスラングを利用して罵倒する。
「やれるもんならやってみやがれ!この短●イ●ポ野郎!能なし、肝なし、器なしのテメェだ!だったら今更玉も要らねぇだろ!全部まとめてローストしてから、家畜の餌にしてやるよ!!」
「アルタイル!そんな汚い言葉を使う子に育てた覚えは、お兄さんありませんよ!」
「こっちもねぇよ!わざとだよ!」
「お姉さんもないわよ!」
「だから、覚えはねぇよ!」
こんな時にボケてんじゃねぇよ、この2人は!
大将戦が始まった。
さあ、人事は尽くたが、天命を待つ気は無い。
天命は、自力で掴み取るまでだ。
アルタイルの人生初スラング。
という訳で、内容が内容なので、伏字にしました。
それでは失礼します。
ありがとうございました。