それではよろしくお願いします。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
まず動いたのは、グレン先生。
全身に刻まれた身体強化術式と、俺の糸による、強化された身体能力で、一気に肉薄する。
「ふん。バカが…貴様、私誰かを忘れたのか?」
対するイグナイト卿は、悠然と左手に炎を灯す。
「【
その炎を放とうとした瞬間、ロウソクの炎のように、掻き消えた。
「なッ!!?」
「やれやれ。テメェ、俺を誰か忘れたのか?」
グレン先生が握るのは、1枚の大アルカナ。
一定領域内における、魔術起動の完全封殺。
この瞬間、あらゆる賢き魔術師は無知なる愚者と化す。
「俺は【愚者】。
そう宣言して、右ストレートを顔面に叩き込む。
イグナイトの魔術師は、良くも悪くも正統派。
異端の極みであるグレン先生とは、相性最悪。
盛大な打撃音と共に、大きく仰け反るイグナイト卿。
その隙に、俺も踏み込み
「オラァ!!」
ボディを打ち込む。
くの字に曲がった所を、グレン先生のアッパーが飛んでくる。
再び仰け反った所を、俺が上段回し蹴りで、蹴り飛ばす。
そのまま吹っ飛んでいくイグナイト卿を見ながら、
「「イヴ(先生)!」」
「分かってるわ!」
その手に炎で作られた剣を握り、イヴ先生が肉薄する。
イグナイトの秘伝魔術の1つ【焔刃】。
近接魔術戦を得意とするイグナイトが珍しく持つ、近接格闘戦用魔術。
予め起動しておいたのだ。
勘違いされがちだが、イグナイトは決して近接戦に弱い訳では無い。
それは俺が身をもって知っている。
「や、止めろ、イヴ!」
イグナイト卿の言葉で、炎の刃を振るうその手が一瞬鈍る。
その隙に
「父上には、指1本触れさせませんわ」
「姉さん…!」
リディアが左右に【焔刃】を、1本ずつ握って現れる。
おそらく【愚者の世界】を直前に見切って、有効範囲に巻き込まれる前に、起動させたのだろう。
そのままイヴ先生を弾いて、【焔刃】から炎を出す。
「イヴ先生!」
俺が結界でイヴ先生を守る。
そのままイヴ先生とリディアが、別場所に移動する。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「舐めるな!」
グレン先生が、イグナイト卿のカウンターを受ける。
そのまま俺にも殴りかかってくる。
それはスウェーで躱し、先生の隣に立つ。
「うぉぉ!?」
「この若造共が!たかがラッキーパンチ1つで、調子に乗りおって!貴様らとは、年季が違うのだ!!」
「うるせぇ!」
俺は無視して、殴り掛かる。
右ストレートは躱され、左のボディブローは、肘で防ぐ。
そのまま足を踏みつけ、固定して頭突きを食らわせる。
「グオ!」
「おらァァァ!」
ふらついている内に、グレン先生の右ストレートがイグナイト卿の頬を捉える。
「へっ!生憎と俺達は、お上品には戦えねぇからな!」
「喧嘩殺法の容赦なさ、教えてやるよ!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「やりますね!!」
炎と炎がぶつかり合う。
イヴとリディアが、【焔刃】を交錯させ、切り結結んでいる。
そして、【愚者の世界】の有効範囲外に出た瞬間
「「『吠えよ炎獅子』!」」
【ブレイズ・バースト】が、同時に炸裂。
中心で大爆発を起こしたその結果
「くぅぅぅぅ!!」
イヴが押し負ける。
吹き飛ばされたイヴの体が、近場の建物の壁にぶつかり、壁伝いに着地する。
そんなイヴの前に、リディアが優雅に降り立つ。
「あらあら。貴女それなりにやるようですけど…私とやり合うには、まだまだですね」
「ッ!?」
悔しげに睨むイヴだが、それは全て事実。
近接格闘戦も、魔術戦も、全て上をいかれてる。
トドメを刺そうと、魔力を集めるリディアを見る。
「…哀れだわ」
その目は、敵を見る目でも、肉親を見る目でも無い。
その目にあるのは、ただの憐憫だ。
「今魔力を交えて、確信したわ。貴女は姉さん…
「…は?貴女…何を言って…?」
その言葉に、笑みを硬直させるリディア。
構わずイヴは続ける。
「先日、あるタレコミがあったわ。『リディアさんは既に故人。父親に殺されている。今の彼女は、【Project:ReviveLife】で作られた偽物だ』…ってね。道理で色々不自然なはずだわ。…貴女、全部父上の都合のいいように作られた人形よ。心も、体も、記憶も」
「なっ…!?」
「薄々自覚はあったんじゃない?貴女は道具よ。幾らでも増産がきく消耗品。なのにそんな貴女は、父上に絶対服従。…それを哀れと言わずになんて言うの?」
「だ、黙れ!!」
リディアは、怒ったように反論する。
しかし、やはり心当たりはあったのか…些か、顔色は悪い。
「わ、私はお父様の娘です!愛するお父様の為に、私は全てを捧げるの!そんな私を…お父様は愛してくれていない筈がない!!」
怒りのままに放たれる暴力的な炎が、イヴを容赦無く焼く。
「…温いわ」
しかし、焼かれているイヴは、そんな炎を一言で切り捨てる。
「…何ですって?」
「
「だ、黙れぇぇ!!」
イヴの炎と、リディアの炎が再び爆裂。
その場を更なる大焦熱地獄へと化していくのだった。
「喰らえぇぇぇぇ!」
「グハァ!」
俺の回し蹴りが、イグナイト卿を吹き飛ばす。
「そこ!」
「ッ!」
その隙に、グレン先生が、
「オラ!」
「クッ!」
俺の糸も躱されてしまい、屋根の上に降り立ったイグナイト卿が、俺達を見下ろす。
「まさか貴様ら如きに、ここまで追い詰められるとはな…!」
「チッ…!腐っても軍を支え続けた猛者か…!」
本来の魔力量、身体強化術式の規格強度、何より経験値が桁違いだった。
俺達優勢に進めてきたが、最後の一手までは押し切れなかった。
「やむを得ないか…!」
そう言ってイグナイト卿が取りだしたのは、1本の赤い鍵だ。
「ッ!?させるかァァァァ!!」
グレン先生の
「『焦熱する炎壁よ』!」
【フレア・クリフ】。
自分で操作できる炎の壁を発動する魔術だ。
それが俺達に迫る。
恐らく【愚者の世界】の隙を突かれた。
「フッ!」
俺は耐熱結界で、炎を防ぎ切る。
しかし、防ぎきった先に見えたのは
〖 ふっ…素晴らしいな、この力…!〗
イグナイト卿では無く、【炎魔帝将】ヴィーア=ドゥルだった。
その魔力に魂が喰われてるのか、何を言ってるが意味不明だが、そこはどうでもいい。
「さてと…どう近付きますか?」
「ああ、俺達の切り札は近距離…。挙句に俺のはゼロ距離だ」
まともに近付く事はおろか、仮に間合いに入ったとしても、直ぐに消し炭だ。
それでも…やるしかない!
俺達は、決意を固めて、踏み込んだ。
そこは冥界第七園…大焦熱地獄と化していた。
その中心にいるのは、イヴとリディア。
「「『真紅の炎帝よ・劫火の軍旗掲げ・朱に蹂躙せよ』!」」
お互いの【インフェルノ・フレア】が、お互いを飲み込もうと、衝突する。
あまりの熱量に、石材が沸騰しだす。
それでも構わず、2人は魔術戦を続ける。
「『吠えよ炎獅子』!『猛々しく』!」
「『焦熱する炎壁よ』!『天に満ちし怒りよ』!」
「『爆』!」
乱舞する紅蓮の炎が。
全てを焦がし、燃やし、融かしていく。
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
顔に左半分に手酷い火傷を負い、息も荒いイヴに対して
「フフ…頑張り屋さんね、貴女。まるでアイエス見たい」
まったくの無傷、至って涼し気なリディア。
様々な、呪文や技術を駆使して、直撃だけは避けてきた。
それでも余波だけで、この始末。
(それでも勝たないと…!)
悲壮の覚悟を固めたイヴに対して、突然リディアが拍手を送った。
「はい、よく頑張りました。【
「…お褒めに預かり光栄だわ」
ほんの僅かな感傷に浸った瞬間
「でもね、もう終わりなの。私の領域が完成しましたので」
「は?私の領域?」
リディアの一言が、イヴを地獄に落とした。
その瞬間、イヴの周囲に更なる炎が発生。
一切の詠唱も無しに。
その正体は
「嘘…まさか…【第七園】!!!?」
イグナイト家に伝わる
予め設定した一定効果領域内の、炎熱系呪文の起動を【
一切ノーリスクで炎を操る、領域内における炎の完全支配。
リディアはその設定を、イヴとの戦いの片手間に行っていたのだ。
「さて…それではさようなら、名も知らぬ人」
「ぐわあぁぁぁぁぁ!!」
「先生ぇぇ!!」
〖フハハハハハ!!〗
火達磨になった先生がポッケから、魔晶石を取り出して砕く。
何かを叫んだ瞬間、火が掻き消える。
それはルミアの異能を乗せて、俺達が【トライ・レジスト】を込めた物だ。
しかし数に限りがある。
「先生、大丈夫!?」
「ああ…だがやべぇ…後2つだ」
あまりの炎の勢いに、俺の結界も追いつかないし、火力も半端ない。
どうするかと考えていると、突然爆炎が上がる。
〖ほう…あれはリディアの【第七園】か。これで貴様らも終わりだ…〗
言い切る前に、俺は攻撃を仕掛ける。
糸を放ったものの、その糸は叩き落とされた。
〖…まだ抗うか、虫けら共〗
「ああ、抗うね。だってまだ勝ち目がない訳じゃないからな」
「そうだな。行くぞ!アルタイル!!」
俺達は再び、地獄の業火に挑みかかった。
(…負けた。だって…こんなのどうしろって言うのよ)
私を飲み込まんとする
その名も【無間大煉獄真紅・七園】。
全盛期の私にすら、到達出来なかった必中必殺の術式。
痛い、熱い、苦しい…。
自分は、不出来な紛い物だったな…。
そう思いながら、諦めたその時
『前に私は言ったよね?本当に大事なのは、どう生きるか、自分が正しいと思える道を進む事だって』
不意に懐かしい、馴れ馴れしい声が聞こえた。
『思い出して。今の貴女を、貴女たらしめるものを』
そう言われ思い出したのは。
アルザーノ帝国の風景であり。
自分を慕ってくれる生徒達であり。
システィーナ、ルミア、リィエルであり。
左遷された今の自分ですら仲間と認め、力を貸してくれる特務分室の仲間であり。
居候先の厳ついお爺さんと、優しいお婆さんであり。
甘えん坊の可愛い妹分と、頼りがいはあるものの、直ぐに無茶をする可愛い弟分であり。
いつでもいけ好かない、気に食わないロクでなしの顔だった。
(…そうだ。私には、守りたい物がある。たとえ私自身は紛い物でも…この思いは、本物だ)
でもどうしたら…?
どうしたら彼らに報いれるの?
『答えは見つかったね…。さあ、立ってイヴ。今の貴女なら出来るわ。大丈夫、たとえ家が無くなっても、その名が示す真の意味は、イヴ。貴女に受け継がれたわ。だからお願い。真のイグナイトを未来へ繋いでね。私の可愛い…』
結局、誰の声かは分からなかった。
でも、思いは託され、決意は残った。
だから私は声の限り…魂の限り叫びながら、左腕を掲げた。
「姉さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
直後、私を包まんとした炎が、二手に別れる。
この瞬間、
そして私は
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
【無間大煉獄真紅・七園】で、リディアを焼き尽くしたのだった。
「アル…タイル…!」
「『七色煌めく光の華よ・その輝きを以て・ 我らに華の加護を与え・その道行を照らし護り給え』!」
【アイギス・ブローディア】で、グレン先生を守る。
魔晶石が尽き、酷い火傷だらけの先生を守るには、これしかなく。
「ゲホ…!」
しかし、マナ欠乏症になりだした俺には、これを長時間持たせるマナが残っていない。
直ぐに侵食されだした結界。
〖フハハハハ!無駄に足掻きおってバカ共が!これで貴様らも終わりよ!〗
クソ…ここまでか…!
そう思った瞬間、突然の炎が二手に別れた。
「…は?」
〖何!?…貴様は!?〗
「へっ。そろそろだと思ったぜ…!」
「あら。待たせたかしら?」
その声に後ろを振り向くと、左半分に酷い火傷を負い、左腕を掲げたイヴ先生がいた。
ホッとして、力が抜けてしまった。
「へっ。待ちくたびれたぜ」
「相変わらずデリカシーがないわね。普通男なら否定する所でしょう?」
「お前相手に男らしさ見せてもなぁ?」
「バカ」
「…ごめん、イヴ姉さん。流石に…強がってる…余裕は…」
「ああ、貴方はいいわアルタイル。よくここまで粘ったわね。後は私達に任せなさい。さてと…行けるわね、グレン」
「ああ、任せろ」
そう言って先生は、切り札を用意する。
しかし当然、ヴィーア=ドゥルがその隙を逃すはずは無い。
〖ふん、隙だらけだぞ〗
そう言って炎を操るが、その炎は動きを止め、グレン先生に道を譲る。
それどころか
〖な、何…!?グッ!?これは…!?体が動かぬ…!?〗
ヴィーア=ドゥルの動きが止まる。
何が…?
「ここは私の【第七園】の領域よ。あらゆる炎は私の支配下。そういえば父上。今の貴方…まるで
そうか…、炎を操る【第七園】の支配者たるイヴ先生は、
〖め、命令だ!私を助けろ!イヴ!!〗
また【楔】とやらを使って、命令しようとするが
「残念だけど…私、そういうの、もういいの」
最早その呪術に意味は無く、そして
「『
無情の撃鉄の音と共に、不穏な魔力が満ちる。
〖ま、待て…!待…〗
「【
グレン先生が引き金を引く。
【変化の停滞・停止】がもたらす必滅の銃弾。
あらゆる魔人の猛毒が、ついに火を噴いた。
その後、無事クーデター軍を鎮圧した俺達は、そのまま各国首相達など、捕虜を解放。
限られた時間の中、出来る限りの事をした。
しかし…こういう時こそ、悪い事は追い打ちをかけてくる。
いや…悪い事なんて言葉では、収まらない。
悪夢は現実を侵食する。
「…もう一度、報告して下さい」
ここは、聖堂内の臨時司令室。
青ざめた顔で口を開いた陛下の前には、赤と金という派手な髪色をした魔導兵。
宮廷魔導師団第一室【クロウ=オーガム】。
特務分室同様、実働隊としての、もう1つのエース部隊。
そこの室長を務めている男らしい。
その男がもたらした報告は
「申し上げます…!
「「…は?」」
俺達を唖然とさせるには十分すぎて
「…敵は、どこの誰ですか…?」
「
この報告が、俺達をさらに混乱の渦へと巻き込んでいく事になったのだった。
ついに、18巻まで来ましたね…!
それでは失礼します。 ありがとうございました。