ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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という訳で、初の追想日誌からです。
それではよろしくお願いします。


小話12

「何もかんも信じらんねぇ…。何がどうなって…」

 

ここは神鳳が牽引する、浮遊車輌の中。

グレン先生がボヤいてるが、そっちはイヴ先生に任せる。

俺はと言うと

 

「お父様…お母様…」

 

「システィ…大丈夫だよ。ね?」

 

「うん。レナードとフィリアナは強い」

 

システィの両親は魔導省の官僚だ。

今も帝都に仕事に行っていたらしい。

いくら精神的に成長しても、親の安否を心配せずには、いられないのだろう。

そしてそれは、ルミアも同じなはず。

 

「ルミア。お前も大丈夫か?確かお姉さんが…」

 

そう、ルミアは最初から第2王女。

つまり第1王女…姉がいる。

 

「…うん。不安じゃないと言ったら嘘になるかな。姉さんは今、帝国大学の学生だから…」

 

「ルミア…ごめんなさい…。私…」

 

システィは今それに気づいてハッとした顔をして謝る。

 

「バカ、謝るな。今のお前に、人様の気持ちを考える余裕はないだろ。気が回らないのは仕方ない事だ。それぞれが、それぞれの大切な人の安全を祈っておくべきだ」

 

そう言いつつ俺は、フィーベル夫妻を思い浮かべる。

あのパワフル夫婦が、そう簡単にくたばるとは思えない。

初めての邂逅は確か…授業参観の時か。

 

 

 

 

「てな訳で、明日の午後は以前からの通達通り、授業参観だ」

 

魔術競技祭が終わって間もない頃、やる気なさげな先生の声と、嫌そうな男子の声を聞きながら、俺は物思いにふける。

 

「授業参観ねぇ…縁がない話だな」

 

うちはそもそも親がいない。

親代わりの爺さん達は、お店の営業日である為、こっちには出れない。

つまり、誰も来ないので、全く縁がない話なのだ。

 

「もう!いい加減にしてください!」

 

そう言って説教を始めるシスティーナを眺めてから、ルミアと目配せ。

止めるタイミングを測る俺達なのだった。

 

 

「…そういえば、明日は授業参観なのだな」

 

帰って早々、いきなり爺さんがそう言ってくる。

 

「…何でそれを?」

 

「セリカの小娘からだ」

 

「アルフォネア教授…!」

 

勝手な事を言ったらしい。

あのはた迷惑な人は…!

 

「…すまんな。ワシ達は店があるのでな…」

 

「ハイハイ。分かってるよ。寧ろ来て欲しく…」

 

「代わりにベガが行く」

 

「な…い?…はぁぁぁぁ!?」

 

今…ベガが行くって…!?

 

「何で!?どうやって!?」

 

「ベガも将来は、あの学院に通うのだ。雰囲気でも、知っておいて損は無いだろう。ベガはセリカが迎えに来る」

 

「…先生は?」

 

「許可は取ってあるらしいぞ」

 

絶対事後報告だろ…。

勘弁してくれよ…。

誰が好き好んで、妹に授業参観されなきゃいけねぇんだ!?

 

「はぁ…マジかよ…」

 

明日の事を考えると…腹が痛い…。

次の日の昼放課中、俺は先生にお礼と謝罪をする為、話しかけようとしたのだが

 

「先生…ちょっと…!」

 

システィーナが強引に連れ出してしまったのだ。

 

「…ルミア。ついてっていい?ていうか、何かあった?」

 

「ええと…実は…」

 

ルミアの話を掻い摘むと、名門であるフィーベル家は、この学院にも口を挟めるほど大きい家らしい。

そこの当主たるシスティーナの父【レナード=フィーベル】氏は、とにかく親バカ…否、バカ親。

普段通りのグレン先生の姿じゃあ、クビにされかねないのだとか。

 

「…はぁ。何て言うか…スゲェな」

 

「アハハ…あ、アイル君は?」

 

俺はグレン先生への要件を、掻い摘んで説明する。

 

「へぇ!ベガちゃん来るんだ!」

 

「え?ベガが来るの?」

 

どうやら話は終わったらしいシスティーナが、絡んでくる。

 

「まあな…グレン先生。なんか無理言ったみたいですみません。アルフォネア教授にも、お礼を」

 

「いや、アイツが勝手にやった事だしな。気にすんな。んな事よりもお前ら、時間来るぞ。早く戻れよ」

 

そう言って、職員室に向かっていくグレン先生。

その背中を見送りながら、不安を滲ませる俺達だった。

しかし、そんな不安は直ぐに吹き飛ぶ。

 

「ククク…!」

 

「それは…反則…!」

 

「フフ…!」

 

髪はしっかりと整えられ、目元には銀縁の片眼鏡。

ローブをしっかりと着こなし、言葉使いや立ち振る舞いも洗練されている。

まるで、若き賢者を思わせるグレン先生の姿に、皆笑いをかみ殺すのに、精一杯。

その時、パシャリっと、隅から奇妙な音。

確認すると…

 

「ゲ!?」

 

(アルフォネア教授!?…それにベガ!?)

 

「兄様!」

 

「ベガ…しぃ、な?」

 

「はっ!?すみません…」

 

そこにはでかい射影機を構える、アルフォネア教授とベガが一緒にいた。

俺を見つけて声を出すベガに、優しく注意するアルフォネア教授。

そしてその様子をホッコリと見守る、周りの保護者達。

いや、たしかにベガに優しく注意してる様は、微笑ましいが…不安しかない…!

 

「それにしても…アハハハハハ!」

 

「せ、セリカ様!?しぃ、です!」

 

「おっと…失礼」

 

周りを気にせず大爆笑するアルフォネア教授に、ベガが注意する。

はぁ…大丈夫か?あの凸凹コンビ。

 

「む、どこの保護者か知らないが…はしたない。こんな保護者に監督される者なぞ、ロクでもない奴であるまい…」

 

正解です。

そのロクでもない奴は目の前にいる、好青年です。

そう思いながら、俺は頭を抱える。

 

「頭が痛い…」

 

それから始まった座学は、まあ予感的中というか。

いつも通りの分かりやすい授業なのだが…

 

「聞きました皆さん?何て見事な解説なのでしょう」

 

アルフォネア教授が事ある毎に、白々しくのたまうのだ。

しかもタチが悪いのが、普段あまりこういう話を聞かないベガが、真面目に聞いてしまうのだから、始末に負えない。

 

「先生!質問があるのですが!」

 

しかも粗探しのつもりか、レナード氏まで、保護者のくせに質問するという、珍事件まで起こるわで、収拾がつかない。

主に先生とシスティーナの許容量が、限界に近い。

そして最終的には…

 

「負けてたまるかァァァァァァ!!」

 

何処からか魔術で取り出した、でかい射影機を構えるレナード氏。

いや、張り合うのそこ!?

 

「それだけはやめてお父様ァァァァァ!!!」

 

ついにシスティーナの許容量が崩壊。

慌てて止めに入ったのだが…。

 

コキャッ!!

 

「気にせず続けて下さい♪」

 

「あ、ハイ」

 

システィーナの母親である、【フィリアナ=フィーベル】氏が、レナード氏の首を見事な関節技で締めたのだ。

とてつもない威圧感を感じる中、やっとこさ座学が終了したのだった。

 

 

「そのような時、来ないで欲しいですが、魔術師である以上、戦いは避けられないでしょう。そんな日が来る事は、残念ですが否めません」

 

後半は、実技の講座だ。

その言葉に、皆それぞれで思うところがあるのか、真剣に先生の話を聞いている。

 

「魔術と戦いは、歴史的に切っても切れない関係にあります。君達はそれをよく自覚し、いざという時、自分に何が出来るか、どこまでやれるかそれを知っておく必要があります。そこで本日は、このゴーレムを使って魔術戦訓練を行います」

 

先生が肩をポンと叩くゴーレムは3段階設定で、

・レベル1が一般的な成人男性

・レベル2が喧嘩慣れしたチンピラ

・レベル3が平均的な帝国君一般兵

となっており、今回はレベル2で行くとのこと。

 

「え〜!レベル2!?」

 

「そんなの、町のチンピラレベルらしいじゃないですか!」

 

「せめてレベル3にしてください!」

 

…はぁ、アホか。

いいとこ見せようとするのはいいけど、無謀すぎる。

 

「ダメです。確かに魔術師か否かの差は大きいものですが、ある程度の武を修めているかどうかも、歴然とした差を生みます。レベル3は、平均的な帝国軍一般兵…チンピラとは、訳が違います。ルールの無い純粋な戦いがどれほど恐ろしいものか…それを知ってもらう為にも、今日はレベル2です」

 

先生が、真剣にそれを否定する。

仮にも元魔導兵。

その恐ろしさは、1番身に染みている人の言葉だ。

その事を知らない連中も、無意識に理解したのか、黙り込んだ。

 

「コルラァァァァァ!システィーナとルミアに何かあったらどうするんだぁぁぁ!!」

 

しかし、あっちが全く黙らない。

 

「チッ…またモンペが…!」

 

「ごめんなさい…先生…」

 

「…ルミア?吊るしていい?」

 

「ダメだよ!?」

 

俺達がレナード氏の説得をしていた時

 

「先生!大変です!」

 

リンが走りよってくる。

 

「ロット君とカイ君が、勝手にゴーレムを弄っちゃって…!」

 

「何!?」

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」

 

「「「「!?」」」」

 

慌てて振り返ると、ゴーレムが起動していた。

 

「バカ野郎!?なんで勝手に起動させた!?」

 

しかもあの動き…チンピラじゃない!?

レベル3か!?

 

「アイル君!あれ!」

 

少し目線をずらすと…そこにはベガがいた。

しかもゴーレムが、ベガに向かって走り出す。

 

「『クソが』!!」

 

【フィジカル・ブースト】で身体能力を底上げして、一気に駆け出す。

咄嗟にベガとの間に割り込んで、振り下ろされる拳を、左腕で止める。

ッ!?左腕…イッたか…!

それはそれを無視して、脇で腕を挟んでから

 

「フッ!」

 

左手を肘部分に添えて、掌ごと左膝で蹴りあげて、肘を壊す。

 

「オラ!」

 

襟首をつかみ、ボディに右膝蹴りを入れ、突き飛ばしてから

 

「シッ!」

 

右フック…トドメの

 

「ハァッ!」

 

右ハイキックをお見舞いする。

ここまでやられたら流石に、ダウン判定だったのか、ゴーレムが動きを止めて倒れる。

 

「ベガ!大丈夫か!?アルフォネア教授は!?」

 

「は、はい!急にお仕事が入ったらしくて…それより兄様は!?」

 

「俺は大丈夫。仕事は仕方ねぇか。…さてと」

 

俺はベガの頭を撫でてから、痛む腕を無視して、ロットとカイの襟首を持ち上げる。

 

「テメェら…人の妹を危険な目に合わせて…タダで済むと思うなよ」

 

「「ヒッ…!」」

 

割と本気で凄んで、睨みつける。

皆が慌てて止めるが、それも無視。

そしてそのまま、レナード氏も睨みつける。

 

「テメェもだぞ!このクソモンペ!テメェがいちいち口を挟まなかったら、先生がコイツらから目を離す事も無かったんだよ!あぁ!娘がどうのこうのってなぁ…だったら俺の妹はいいのか!?なんか言えコラァ!!」

 

カイ達を放り捨てて、レナード氏に歩み寄る。

 

「待ってアイル君!落ち着いて!」

 

「私達も謝るから!だから落ち着いて!アイル!」

 

「兄様!私は大丈夫ですから!ね!」

 

「お前達は黙ってろ!俺はこのクソモンペに用があるんだよ!!おら、なんか言えよ!!」

 

ルミア達の制止の声も振り切って、歩み寄ろうとした時

 

「そこまでだ」

 

先生が俺の左腕を掴む。

あまりの痛みに、一瞬で怒りも全部吹っ飛ぶ。

 

「痛ッ!」

 

「やっぱヒビ入ってんじゃねぇか…ルミア、手当したやれ。アルタイル、感情のコントロールは、魔術師の基本だ。たった1人の肉親が危険な目にあって怒るのも無理は無いが、アイツらだって怪我してんだ。それに妹さんは無傷だったんだろ?だから落ち着け…な?」

 

「…すんません。ルミア、頼んでいい?」

 

「うん、じっとしててね」

 

俺はルミアから手当を受けながら、先生の様子を見ている。

魔術師らしからぬ振る舞いに、魔術軽視発言、そして極めつけのローブ破り。

俺は静かにレナード氏の様子を伺うと、怒ってますって顔だった。

 

「それが貴様の本性か」

 

「…あ」

 

やっとグレン先生も気付いたらしい。

急に嫌な汗を流しまくる先生に対して

 

「貴様が粗雑な対応をするから…うちのシスティとルミアの活躍が見れなかったじゃないか!!」

 

え!?そこ!?

思わずズッコケかける俺。

 

「他にも言いたい事が色々あるが…まずは、すまなかった」

 

そう言って頭を下げるレナード氏。

 

「うちのシスティは、その才能故に、天狗になりやすいところがある。ルミアは、優しすぎる故に、それが才の成長の妨げになってしまっている。どうか導いてあげてほしい」

 

そう言ってから今度は俺とベガに対して、さっき以上に深く頭を下げた。

 

「君達にも、大変迷惑をかけた。特にそちらの少女…ベガちゃんと言ったね。本当に危険な目に合わせてすまなかった。アルタイル君、君の家族に危険な思いをさせて、本当にすまなかった」

 

「…いえ、俺…自分の方こそ、大変失礼な発言、申し訳ありませんでした」

 

「私も、兄の件を謝罪致します」

 

俺達も頭を下げてから、レナード氏は顔を上げる。

 

「もし何か困った事があったら、言ってきなさい。フィーベル家の力で何とかしよう」

 

そう言って、フィリアナ氏の元へと戻っていくレナード氏。

それを確認して、先生が皆の方を見る。

 

「『過ぎた力は身を滅ぼす』。どういう意味かは、これでよく分かったな。だからお前達は学ぶんだ。自分が何者か、どういう存在なのか、何が出来るのか。それを見誤った結果がロットとカイだ。今回はこれで済んだが…もしこれが戦争なら、自分だけじゃない、仲間も危険に晒す。そもそも、2人は死んでたかもしれん。そこを十分知ってくれ。そして…精一杯学んでくれ」

 

そう締めくくって、先生が授業を再開した。

それからは、特に何事もなく、平和な授業参観だったのだ。

 

 

 

「…フ」

 

「何笑ってるのよ」

 

「いや、授業参観の時のグレン先生の姿をね」

 

そういうと、皆が思い出したのかあっちこっちで笑いが起こる。

 

「うるせぇ!ていうかあそこまで笑う必要あったのかよ!」

 

俺はそっと、イヴ先生にその時の写真を見せる。

 

「イヴ先生…こちらを」

 

「写真?…ブハ!なにこれ!?アハハハハ!!」

 

思わず吹き出す、イヴ先生。

 

「『ようこそ、保護者の皆さん。僕がこのクラスの担当講師グレン=レーダスです』」

 

「「「「「「「アハハハハハハハ!!!」」」」」」」

 

俺の完成度の高いモノマネに、皆、抱腹絶倒。

 

「テメェら笑いすぎだ!アルタイル!無駄に上手いモノマネはやめろ!!ていうか、何で写真持ってる!?」

 

「アルフォネア教授」

 

「セリカァァァァァァァァ!!!」

 

「「「「「「「アハハハハハハハ!!!」」」」」」」

 

俺達の車輌は、こんな時でも騒がしいのだった。




これを書かないと、フィーベル夫妻との出会いが無くなってしまうので、書きました。
レナードさん、まさに残念紳士でしたね。
そして、強いなこの2人…!
それでは失礼します。
ありがとうございました。
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