ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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タイトル?適当です。
今回はこれと言ったワードが無くて、これにしました。
それではよろしくお願いします。


覚醒編第1話

降り立ったフィジテの街は、混沌としていた。

帝都陥落の情報がここまで伝わっており、市民は騒然としていた。

警邏隊が常に巡回しており、暴動が起こらないよに、常に気を張っている。

北の城壁門には、命からがら帝都から逃げ出した人々で、溢れかえっている。

俺達は一度解散して、各自の帰路に着く。

イヴ先生だけは、先に着いている陛下の元に馳せ参じており、着替えだけ持ってくるように言われた。

聖夜祭(ノエル)が近いこのフィジテは、毎年この時期になると賑わっているのだが、今年はそんな空気では無い。

ルミア達をフィーベル邸に送り届けてから、先生とも別れ、無事我が家に着く。

どうやら、臨時休業にしたらしい。

 

「…ただいま」

 

「…!兄様!!!」

 

ベガが、車椅子を上手く動かし、俺の傍に来る。

…ああ、ホッとする。

ついに涙腺が緩み、涙が溢れる。

 

「…ただいま、ベガ」

 

俺は強くベガを抱きしめた。

色々あった。

チームの精神的支柱として皆を引っ張り、陛下に頼まれ皆を守り、イヴ先生を守る為に、体を張って。

色々ありすぎて、もう限界だったんだ。

 

「おかえりなさい、アルタイル」

 

「よく戻ってきたな…アルタイル」

 

「婆さん、爺さん…ただいま」

 

俺は2人も抱きしめる。

2人の暖かさが、俺をホッとさせる。

でも…ゆっくりしてる暇は無い。

 

「イヴはどうした?」

 

爺さんも気付いたのか、聞いてくる。

 

「陛下の元にそのまま行ってる。俺は着替えを取りに来たんだ。ついでに俺のも。どうせ明日にも、学院生に招集がかかる」

 

「…婆さん」

 

「はいこれ、イヴちゃんのよ。こっちは貴方の」

 

「…用意がいいな」

 

既に用意してあった事に驚きつつも、納得もする。

爺さんは、元特務分室だ。

これくらいは想定出来るか。

 

「ありがとう、行ってくる」

 

「アルタイル、伝言を頼む。『よく戻ってきた。イヴよ、体に気をつけろ』と」

 

「…分かった!行ってくる!」

 

そうして俺は、走り出す。

閑散としたこの街を、守る為に。

 

 

 

〖ここが分水嶺よ、グレン。貴方がどうしたいか…。そこが世界を動かすわ〗

 

「俺が…どうしたいか…」

 

 

 

「あれ?この人…何処かで…?」

 

「嘘…嘘よ!ありえない…有り得ないわ!!」

 

俺の知らない裏側で、再び世界が動き出していた。

 

 

翌日、校内の大会議室で、帝国最終防衛会議が行われていた。

アリシア七世女王陛下を始め、エドワルド卿、ルチアーノ卿などの生き残った政府高官。

特務分室や、第一室など生き残った上級将校。

フィジテ警邏隊のロナウド警邏総監などの警邏隊高官。

学院からリック学院長やハーレイ先生などの高位魔術師。

学生代表としてリゼ先輩やシスティ、俺など。

中々な錚々たる面々だが、この顔色は一様に悪い。

 

「まずは北の…帝都の様子はどうですか?」

 

「ハッキリ申しまして、酷い状況です」

 

そう答えたのは、クリストフだ。

 

「死者の群れ【最後の鍵兵団(ウルティムス・クラーウィス)】は東の国境線を超え、イグナイト領を通りやってきた死者の数は、およそ5万。その波が帝都を飲み込み、およそ半数の50万人が一夜にして犠牲になりました。そして犠牲者がまた新たな死者となり、今や帝都は死者の坩堝なっています。それを率いているのは、エレノア=シャーロットであるという報告があります。そして辛うじて逃げ出した方々は、このフィジテを始め、地方に散り散りに逃げています」

 

あまりの惨憺たる状況に、悲嘆の声が上がる。

俺は、青ざめるシスティとルミアの肩を優しく叩き、落ち着かせる。

 

「大丈夫…そう信じるしかない」

 

「う、うん…」

 

「そうよね…」

 

そのまま俺達は、クリストフの報告を聞く。

 

「このままのペースで南下されれば…およそ5日。それまでの間に、フィジテは死者の波に飲まれます」

 

「5日…か…」

 

何をするにも、時間が圧倒的に足りない…。

どうする…!

 

「それともう1つ、悪い報告が。ミラーノにある【根】ですが、出現速度が想定より速く、周辺諸国にも出始めてるという報告があります」

 

「つまりそれは…我々の予想より早く邪神が目覚めると?」

 

「おそらくは」

 

マジかよ…!

前門の虎後門の狼ってやつか…!

 

「ぶっちゃけ、うちの対抗戦力はどんなもん?」

 

ルチアーノ卿の質問に答えたのは、第一室室長、クロウ=オーガムだ。

 

「ほとんど全滅しちまいましたしね…。何とかかき集めても、1万5000ってところでしょうか」

 

「この戦い、数に意味は無い」

 

クロウさんに返したのは、アルベルトさんだ。

その右目には今も尚、包帯が巻かれている。

 

「あちらにはエリエーテ=ヘイブンがいる。あれの前では、数など無意味。それに今のアイツらには、【神殿の首領(マジスタ·テンプル)】パウエル=フューネがいる。666の悪魔を率いる、世界最古にして最強の悪魔召喚士。あれらを倒さん限り、止まらない」

 

「つまりワシらは、エレノア=シャーロット、エリエーテ=ヘイブン、パウエル=フューネ。この3人を倒さんといかん、っちゅう事じゃな」

 

アルベルトさんの話をバーナードさんが簡潔にまとめて、アルベルトさんはそれに頷く。

どんな無理ゲーだよ…。

皆がさらに悲嘆にくれる中、陛下は毅然と言い切る。

 

「それでもこの場を、切り抜けなければなりません。この先に待つ真の戦い…第二次魔導大戦を生き残る為に。…イヴ=ディストーレ臨時千騎長」

 

「は」

 

呼ばれたイヴ先生が、頭を垂れる。

 

「今の我々を纏めあげられるのは、貴女しかいません。よって先の功績を考慮し、女王特権の元、貴女を特例昇進させます。特務分室室長【魔術師】への再任を命じると共に、元帥の軍階を、正式に任じます」

 

その宣言に一気にざわめき出す。

元帥とは、軍における最高権力。

実質的に、イグナイト卿の後釜だ。

 

「恐れながら陛下!私は反対です!その女は、先の事件において、いかに身勝手な采配をしたか!その女が上に立てば、被害が増す一方です!」

 

…何したんだよ、あの時。

流石に不安なので庇おうとすると、グレン先生に肩を掴まれ止められる。

 

「大丈夫だ。今のアイツなら、心配いらねぇよ」

 

「その節は、大変失礼致しました」

 

その言葉を証明するかのように、イヴ先生が警邏隊の人達に向き合って、深く頭を下げた。

 

「私の浅慮さ、未熟さ故に、皆さんに多大なるご迷惑をおかけした事、この場を借りて、深く謝罪致します」

 

そう言って顔を上げ、真っ直ぐに警邏隊の人を見つめる。

 

「ですが、先の件のような無様は晒しません。このイヴ=ディストーレの名にかけて、絶対に致しません。どうか…お力を貸してください。お願いします」

 

その真摯さと誠実さが伝わったのか、怒っていた警邏隊の人達は、静かに腰を下ろしたのだった。

 

「…皆さん、この戦いは総力戦になります。皆さんが力を合わせなくては、勝てません。どうかお力を貸して下さい」

 

その陛下の一言に、それぞれがそれぞれに出来る事を言い出す。

俺も出来る事をしないと…!

俺はクリストフに近付いて、ある提案をする。

 

「クリストフ。俺の糸を補給線にして、霊脈(レイライン)から直接マナを流せないか?繋ぐまでは出来るけどそこからは…ちょっと俺には難しくて」

 

「うん。それはいい案だね!分かった。やってみるよ」

 

「おい、お前達。その案自体は悪くないが、調整はどうする気だ?ただ流すだけだと、パンクするぞ」

 

ハーレイ先生に言われて、初めてそこに気づいた。

しまった…考えてなかった…。

 

「…はぁ。仕方あるまい。私か調整術式を組んでやる。設営は任せたぞ」

 

「「ッ!ありがとうございます!」」

 

この人…もしかしてツンデレ?

 

「おいおい、仲良さげじゃないか!」

 

突然、後ろから肩を組まれる。

振り返るとそこにいたのは

 

「えっと…確か…第一室の…」

 

「【ベア=フリーデン】だよ。僕の同期だ」

 

「おう!ベアでいいぞ!よろしくな、アルタイル」

 

「ああ、よろしくベア」

 

そう言って俺達は握手する。

ふと視線を先生に向ける。

 

「…先生…?」

 

その顔色は、酷いものだった。

 

 

 

「何してるんだ俺は…!?」

 

俺は頭を掻きむしりながら、校内を歩き回る。

陛下の胸中を知った。

アルベルトの覚悟を知った。

ハーレイ先輩達の努力を知った。

ここにいる皆が、己の成すべき事を成す為に、戦っている。

なのに自分は…!

 

「…ここは…」

 

気付けば俺は、中庭に来ていた。

そこでは志願して学徒兵が、リィエルとエルザの指導の元、訓練を行っていた。

ここにはいないだけで、衛生兵部隊に志願した連中もいる。

そして…

 

「よし…次。行くよ、クリストフ」

 

「うん、調整は任せて」

 

アルタイルとクリストフが、霊脈(レイライン)から、直接マナを流して、それをこっちの流用するという、とんでもなく繊細で大変な作業を行っている。

【アリアドネ】を補給線として、そこからマナを頂戴する。

俺達にとって、霊脈(レイライン)の利用という1番有効な一手をこれで簡潔にしてしまおうという、何とも大胆な作戦だ。

しかしそのおかげか、その霊脈(レイライン)を利用した魔術儀式や、物資の運搬など、色んな作業が、すごく効率的かつ、何回でも出来るようになった。

時間が足りない今、アルタイル達の功績は、かなりデカい。

 

「…よし、終了」

 

「お疲れ様。まさか、1日かからなかったなんて」

 

「まあ、時短でやったしね。調整術式もすごいし、【アリアドネ】自体は切れないから、多少雑にやっても問題ない」

 

俺は仕事を終えた2人に、声をかけた。

 

「おう、お疲れさん」

 

「グレン先輩」

 

「グレン先生」

 

2人は疲れて座り込みながら、こっちを見あげる。

 

「しかし、大胆な事したな。霊脈(レイライン)を利用するにしても、やり方ってものがあんだろ」

 

「時間が無いんです。何かためになる事があるなら、やっておかないと。クリストフ、ごめんな。ただでさえ忙しいのに…」

 

「気にしないで。僕はイヴさんに報告してくるから。休んでて」

 

アルタイルは、黙って手をヒラヒラとクリストフに振る。

 

「さてと…先生?大丈夫?」

 

「…は?」

 

突然どうしてそんな事を…?

 

「先生、嘘下手だから。何かあったって顔に書いてあります」

 

マジかよ…。

今にして思えば、コイツは不思議な奴だ。

最初はただ巻き込まれただけの、一般人。

なのに気付けば、中心に立って大暴れ。

それでいて、決して自分を崩さない。

何度打ちのめされても、立ち上がる。

それが俺には…不思議と眩しかった。

 

「…アルタイル。どうして戦う?お前の正義はどこにある?」

 

ずっと聞きたかった。

正義の魔法使いを目指して、破れた俺。

そんなもの目指してないのに、片っ端から掬い上げるアルタイル。

何か違うのか…?

 

「…正義なんて大層なもの、俺にはありませんよ。大好きな人達を守りたい。最初はそんなもんでした。でもそれだけじゃダメな事を知りました。あの時…初めて人を殺した時、それを痛感しました」

 

「アルタイル…」

 

「俺は正義の魔法使いになんて、なりたくない。そんな綺麗な飾りものに、興味なんてありません。俺は…()()()()()()()()んです。どんな現実を前にしても、諦めずに、最後まで自分の理想の為に戦う。そんな俺の憧れる魔術師に…。()()()()()みたいな、魔術師に」

 

「は?…俺みたいな…?」

 

コイツは何を言ってるんだ?

こんなしょうもない俺に、憧れてる?

 

「だって…先生はいつも前を見て、必死だった。どれだけ絶望的な状況でも、俺達を助けようと戦った。前に言ってましたよね?『その背中に、真の魔術師とは何たるやと、その目で問いかけてんだよ!!!』って。先生は魔術師です。俺の俺達の見てきた限り、1()()()()()()()()()です」

 

その目に嘘は無く、俺を真剣に射抜く。

俺は…そんな立派な魔術師なんかじゃない。

 

「俺なんかとか、そんな事言わないでください。俺達は、貴方だから、ここまで来たんです」

 

「ッ!?」

 

「だから…俺達も先生の力になりたいんです。だから…何があったか、教えて下さい」

 

 

 

 

先生が何か抱えているのは、知っている。

それは…ルミア達も、クラスの皆も気付いてる。

だから代表して、俺が切り込んだ。

小っ恥ずかしい思いをしながら、それでも踏み込んだ。

それでも…

 

「…ッ!大丈夫だ。俺は大丈夫だから」

 

そう言って背を向けるグレン先生。

 

「おい待て…よ…!」

 

追いかけようにも疲労が酷く、まだ動けない。

そのまま行ってしまう先生の背中を、見つめるしか出来なかった。

 

「…アイル、手伝って欲しいんだけど」

 

顔を上げるとシスティが、先生の背中を見ながら、話しかけてきた。

 

「…OK。このままは癪だ。やってやる」

 

人が折角小っ恥ずかしい事まで言ったのに、このスルーは気に食わない。

だったら徹底的にやってやる。

俺達は…魔術師だ。




先に報告しておきます。
19巻の過去編はわざとすっ飛ばします。
あくまでアルタイルが主人公なので、関わらないところは触れません。
それでは失礼します。
ありがとうございました。
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