今回はこれと言ったワードが無くて、これにしました。
それではよろしくお願いします。
降り立ったフィジテの街は、混沌としていた。
帝都陥落の情報がここまで伝わっており、市民は騒然としていた。
警邏隊が常に巡回しており、暴動が起こらないよに、常に気を張っている。
北の城壁門には、命からがら帝都から逃げ出した人々で、溢れかえっている。
俺達は一度解散して、各自の帰路に着く。
イヴ先生だけは、先に着いている陛下の元に馳せ参じており、着替えだけ持ってくるように言われた。
ルミア達をフィーベル邸に送り届けてから、先生とも別れ、無事我が家に着く。
どうやら、臨時休業にしたらしい。
「…ただいま」
「…!兄様!!!」
ベガが、車椅子を上手く動かし、俺の傍に来る。
…ああ、ホッとする。
ついに涙腺が緩み、涙が溢れる。
「…ただいま、ベガ」
俺は強くベガを抱きしめた。
色々あった。
チームの精神的支柱として皆を引っ張り、陛下に頼まれ皆を守り、イヴ先生を守る為に、体を張って。
色々ありすぎて、もう限界だったんだ。
「おかえりなさい、アルタイル」
「よく戻ってきたな…アルタイル」
「婆さん、爺さん…ただいま」
俺は2人も抱きしめる。
2人の暖かさが、俺をホッとさせる。
でも…ゆっくりしてる暇は無い。
「イヴはどうした?」
爺さんも気付いたのか、聞いてくる。
「陛下の元にそのまま行ってる。俺は着替えを取りに来たんだ。ついでに俺のも。どうせ明日にも、学院生に招集がかかる」
「…婆さん」
「はいこれ、イヴちゃんのよ。こっちは貴方の」
「…用意がいいな」
既に用意してあった事に驚きつつも、納得もする。
爺さんは、元特務分室だ。
これくらいは想定出来るか。
「ありがとう、行ってくる」
「アルタイル、伝言を頼む。『よく戻ってきた。イヴよ、体に気をつけろ』と」
「…分かった!行ってくる!」
そうして俺は、走り出す。
閑散としたこの街を、守る為に。
〖ここが分水嶺よ、グレン。貴方がどうしたいか…。そこが世界を動かすわ〗
「俺が…どうしたいか…」
「あれ?この人…何処かで…?」
「嘘…嘘よ!ありえない…有り得ないわ!!」
俺の知らない裏側で、再び世界が動き出していた。
翌日、校内の大会議室で、帝国最終防衛会議が行われていた。
アリシア七世女王陛下を始め、エドワルド卿、ルチアーノ卿などの生き残った政府高官。
特務分室や、第一室など生き残った上級将校。
フィジテ警邏隊のロナウド警邏総監などの警邏隊高官。
学院からリック学院長やハーレイ先生などの高位魔術師。
学生代表としてリゼ先輩やシスティ、俺など。
中々な錚々たる面々だが、この顔色は一様に悪い。
「まずは北の…帝都の様子はどうですか?」
「ハッキリ申しまして、酷い状況です」
そう答えたのは、クリストフだ。
「死者の群れ【
あまりの惨憺たる状況に、悲嘆の声が上がる。
俺は、青ざめるシスティとルミアの肩を優しく叩き、落ち着かせる。
「大丈夫…そう信じるしかない」
「う、うん…」
「そうよね…」
そのまま俺達は、クリストフの報告を聞く。
「このままのペースで南下されれば…およそ5日。それまでの間に、フィジテは死者の波に飲まれます」
「5日…か…」
何をするにも、時間が圧倒的に足りない…。
どうする…!
「それともう1つ、悪い報告が。ミラーノにある【根】ですが、出現速度が想定より速く、周辺諸国にも出始めてるという報告があります」
「つまりそれは…我々の予想より早く邪神が目覚めると?」
「おそらくは」
マジかよ…!
前門の虎後門の狼ってやつか…!
「ぶっちゃけ、うちの対抗戦力はどんなもん?」
ルチアーノ卿の質問に答えたのは、第一室室長、クロウ=オーガムだ。
「ほとんど全滅しちまいましたしね…。何とかかき集めても、1万5000ってところでしょうか」
「この戦い、数に意味は無い」
クロウさんに返したのは、アルベルトさんだ。
その右目には今も尚、包帯が巻かれている。
「あちらにはエリエーテ=ヘイブンがいる。あれの前では、数など無意味。それに今のアイツらには、【
「つまりワシらは、エレノア=シャーロット、エリエーテ=ヘイブン、パウエル=フューネ。この3人を倒さんといかん、っちゅう事じゃな」
アルベルトさんの話をバーナードさんが簡潔にまとめて、アルベルトさんはそれに頷く。
どんな無理ゲーだよ…。
皆がさらに悲嘆にくれる中、陛下は毅然と言い切る。
「それでもこの場を、切り抜けなければなりません。この先に待つ真の戦い…第二次魔導大戦を生き残る為に。…イヴ=ディストーレ臨時千騎長」
「は」
呼ばれたイヴ先生が、頭を垂れる。
「今の我々を纏めあげられるのは、貴女しかいません。よって先の功績を考慮し、女王特権の元、貴女を特例昇進させます。特務分室室長【魔術師】への再任を命じると共に、元帥の軍階を、正式に任じます」
その宣言に一気にざわめき出す。
元帥とは、軍における最高権力。
実質的に、イグナイト卿の後釜だ。
「恐れながら陛下!私は反対です!その女は、先の事件において、いかに身勝手な采配をしたか!その女が上に立てば、被害が増す一方です!」
…何したんだよ、あの時。
流石に不安なので庇おうとすると、グレン先生に肩を掴まれ止められる。
「大丈夫だ。今のアイツなら、心配いらねぇよ」
「その節は、大変失礼致しました」
その言葉を証明するかのように、イヴ先生が警邏隊の人達に向き合って、深く頭を下げた。
「私の浅慮さ、未熟さ故に、皆さんに多大なるご迷惑をおかけした事、この場を借りて、深く謝罪致します」
そう言って顔を上げ、真っ直ぐに警邏隊の人を見つめる。
「ですが、先の件のような無様は晒しません。このイヴ=ディストーレの名にかけて、絶対に致しません。どうか…お力を貸してください。お願いします」
その真摯さと誠実さが伝わったのか、怒っていた警邏隊の人達は、静かに腰を下ろしたのだった。
「…皆さん、この戦いは総力戦になります。皆さんが力を合わせなくては、勝てません。どうかお力を貸して下さい」
その陛下の一言に、それぞれがそれぞれに出来る事を言い出す。
俺も出来る事をしないと…!
俺はクリストフに近付いて、ある提案をする。
「クリストフ。俺の糸を補給線にして、
「うん。それはいい案だね!分かった。やってみるよ」
「おい、お前達。その案自体は悪くないが、調整はどうする気だ?ただ流すだけだと、パンクするぞ」
ハーレイ先生に言われて、初めてそこに気づいた。
しまった…考えてなかった…。
「…はぁ。仕方あるまい。私か調整術式を組んでやる。設営は任せたぞ」
「「ッ!ありがとうございます!」」
この人…もしかしてツンデレ?
「おいおい、仲良さげじゃないか!」
突然、後ろから肩を組まれる。
振り返るとそこにいたのは
「えっと…確か…第一室の…」
「【ベア=フリーデン】だよ。僕の同期だ」
「おう!ベアでいいぞ!よろしくな、アルタイル」
「ああ、よろしくベア」
そう言って俺達は握手する。
ふと視線を先生に向ける。
「…先生…?」
その顔色は、酷いものだった。
「何してるんだ俺は…!?」
俺は頭を掻きむしりながら、校内を歩き回る。
陛下の胸中を知った。
アルベルトの覚悟を知った。
ハーレイ先輩達の努力を知った。
ここにいる皆が、己の成すべき事を成す為に、戦っている。
なのに自分は…!
「…ここは…」
気付けば俺は、中庭に来ていた。
そこでは志願して学徒兵が、リィエルとエルザの指導の元、訓練を行っていた。
ここにはいないだけで、衛生兵部隊に志願した連中もいる。
そして…
「よし…次。行くよ、クリストフ」
「うん、調整は任せて」
アルタイルとクリストフが、
【アリアドネ】を補給線として、そこからマナを頂戴する。
俺達にとって、
しかしそのおかげか、その
時間が足りない今、アルタイル達の功績は、かなりデカい。
「…よし、終了」
「お疲れ様。まさか、1日かからなかったなんて」
「まあ、時短でやったしね。調整術式もすごいし、【アリアドネ】自体は切れないから、多少雑にやっても問題ない」
俺は仕事を終えた2人に、声をかけた。
「おう、お疲れさん」
「グレン先輩」
「グレン先生」
2人は疲れて座り込みながら、こっちを見あげる。
「しかし、大胆な事したな。
「時間が無いんです。何かためになる事があるなら、やっておかないと。クリストフ、ごめんな。ただでさえ忙しいのに…」
「気にしないで。僕はイヴさんに報告してくるから。休んでて」
アルタイルは、黙って手をヒラヒラとクリストフに振る。
「さてと…先生?大丈夫?」
「…は?」
突然どうしてそんな事を…?
「先生、嘘下手だから。何かあったって顔に書いてあります」
マジかよ…。
今にして思えば、コイツは不思議な奴だ。
最初はただ巻き込まれただけの、一般人。
なのに気付けば、中心に立って大暴れ。
それでいて、決して自分を崩さない。
何度打ちのめされても、立ち上がる。
それが俺には…不思議と眩しかった。
「…アルタイル。どうして戦う?お前の正義はどこにある?」
ずっと聞きたかった。
正義の魔法使いを目指して、破れた俺。
そんなもの目指してないのに、片っ端から掬い上げるアルタイル。
何か違うのか…?
「…正義なんて大層なもの、俺にはありませんよ。大好きな人達を守りたい。最初はそんなもんでした。でもそれだけじゃダメな事を知りました。あの時…初めて人を殺した時、それを痛感しました」
「アルタイル…」
「俺は正義の魔法使いになんて、なりたくない。そんな綺麗な飾りものに、興味なんてありません。俺は…
「は?…俺みたいな…?」
コイツは何を言ってるんだ?
こんなしょうもない俺に、憧れてる?
「だって…先生はいつも前を見て、必死だった。どれだけ絶望的な状況でも、俺達を助けようと戦った。前に言ってましたよね?『その背中に、真の魔術師とは何たるやと、その目で問いかけてんだよ!!!』って。先生は魔術師です。俺の俺達の見てきた限り、
その目に嘘は無く、俺を真剣に射抜く。
俺は…そんな立派な魔術師なんかじゃない。
「俺なんかとか、そんな事言わないでください。俺達は、貴方だから、ここまで来たんです」
「ッ!?」
「だから…俺達も先生の力になりたいんです。だから…何があったか、教えて下さい」
先生が何か抱えているのは、知っている。
それは…ルミア達も、クラスの皆も気付いてる。
だから代表して、俺が切り込んだ。
小っ恥ずかしい思いをしながら、それでも踏み込んだ。
それでも…
「…ッ!大丈夫だ。俺は大丈夫だから」
そう言って背を向けるグレン先生。
「おい待て…よ…!」
追いかけようにも疲労が酷く、まだ動けない。
そのまま行ってしまう先生の背中を、見つめるしか出来なかった。
「…アイル、手伝って欲しいんだけど」
顔を上げるとシスティが、先生の背中を見ながら、話しかけてきた。
「…OK。このままは癪だ。やってやる」
人が折角小っ恥ずかしい事まで言ったのに、このスルーは気に食わない。
だったら徹底的にやってやる。
俺達は…魔術師だ。
先に報告しておきます。
19巻の過去編はわざとすっ飛ばします。
あくまでアルタイルが主人公なので、関わらないところは触れません。
それでは失礼します。
ありがとうございました。