時間をゼロにするのと距離をゼロにするのは、攻撃的チート。
つまり、アイル君がチートを手にしました。
それではよろしくお願いします。
パウエルが用意した仕込み…フィジテ市内に忍ばせた転移門。
これから殺しができる…そう嬉々として出てきた外道魔術達の前にあったのは
「「「…え?」」」
帝国軍魔導兵達による、
結局彼は何も出来ないまま、この世から消滅したのだった。
各部隊からの撃破報告を聞きながら、イヴ先生はほくそ笑む。
「バカね。こうなったら次はこう出るに決まってるじゃない。そもそも転移方陣は
でも相手も一流だ。
「もちろんタダって訳にはいかないか…!」
そう呟く俺達の耳に入るのは、いくつかの部隊の全滅報告だった。
運悪く、実力者に当たった部隊は軒並み全滅。
しかもその中には、ダンス・コンペの時に襲ってきた奴らもいるらしい。
「…イヴ姉さん…」
俺は俯いて、拳を握り締めるイヴ先生を見つめる。
静かに息を吐き
「私が命じて、私が殺した。…この犠牲は、無駄にはしない…!」
そうして、イヴ先生の脳内に蓄積される値千金の情報が、一気に組み立られていく。
イヴ先生が、各地に指示を出しながら、後ろに控える俺達…主力の面々を割り当てる。
そのメンツは、クリストフら特務分室。
クロウ=オーガム率いる、ベア達第一室。
その他2つ名持ちの精鋭魔導師達。
ハーレイ先生、ツェスト男爵ら高位階講師陣。
そして…俺とルミアだ。
本当はルミアには、下がっていて欲しいんだが…いつフェロードが来るか分からないので、俺のそばに置くのが1番安全なのだ。
「…本当に大丈夫か、ルミア?」
「…正直に言うと、すごく怖い。でも、私も戦う。それが私の選んだ道だから」
…ならこれ以上は何も言うまい。
俺も怖いけど、覚悟は決めた。
「アルタイル、ルミア。貴方達には、【精霊王】ラーヴァを倒してもらうわ」
俺達は黙って頷く。
精霊が相手となると、【マジック・バレット】などの無属性が効くんだが…俺達にはそれより強い武器がある。
「貴方達の空間操作の能力なら、十分対抗出来るはずよ。でも無理はしないで、危なかったら撤退して。分かったわね?」
「「了解です」」
「おう!死ぬんじゃねぇぞ!」
「お2人共、ご武運を」
「いいか3人共。若いのは、まず生き残るのが最優先じゃぞ?」
「は、はい!2人共!頑張ろう!」
皆が俺達に激励を送りながら、出撃する。
そして残ったのは4人。
俺達とアルベルトさんと、
「…そろそろ出番よ。今ならまだ、修正も効く。本当にいいのね?」
「「リィエル!!」」
俺達はギリギリで
「…?」
機械的な動きで振り返るリィエルは、その目も機械みたいで、初めて会った時以上に無機質だ。
「…大丈夫、なんだよね…?」
「戻ってこいよ、絶対に」
俺達の心配の声を聞いたリィエルは
「…大…丈夫…。絶対に…勝つ…」
「「「「ッ!?」」」」
ほんの僅かに感情を取り戻した様な目で俺達を見て、飛び出していった。
「…リィエル…」
「…俺達も行こう」
リィエルに対して、一抹の不安を抱きながらも、俺達も出撃する。
街に出る時には、その感情は既に捨て去っていた。
「そんな…対応された…!?」
エレノアは独自で集めた戦況を見て、顔を青くする。
「半壊…!?送り込んだ外道魔術師のうち、半数が瞬時に殺られた!?しかも、相性のいい相手を瞬時に判断、相性のいい相手をぶつけてきた!!」
まだ半分残っているとはいえ、これでは完全敗北だ。
しかも、今フィジテにいるトップクラスの魔導将校は、決して弱くない。
その結果、今フィジテ内は完全な膠着状態になってしまった。
「なんて女何ですか…!?イヴ=イグナイト…!」
そもそも彼らにとっての前提条件は違った。
帝国軍VS【
帝国軍VS天の知恵研究会総力戦、になってしまった。
こうなっては…分からないのだ。
そしてこの膠着状態の間にも、【
エリエーテも、リィエルに足止めされている。
エレノアはひたすらに、焦燥感を募らせるしか出来なかった。
そしてついに
「致し方ありませんわ…!」
エレノアは、ついに自身が潜入ことを決意した。
「つ、ついに始まりやがった…」
城壁から市内を見下ろすカッシュが、そうぼやく。
「皆様、どうかご無事で…」
「くっ…」
ウィンディやギイブルも、祈るように呟く。
ここは選出された学徒兵達が多く配属されているエリア。
アルザーノ帝国魔術学院生だけではなく、聖リリィの生徒やクライトスの生徒など、様々な者達がいる。
彼らもまた、今日この日まで戦い続けてきたのだ。
「クソ…歯痒いぜ。あそこで戦えない自分が…!」
忌々しげに吐き捨てるカッシュ。
心配はそれだけでは無い。
視覚を強化して見つめる先には、リィエルがエリエーテと戦っている。
昨晩から様子がおかしいリィエルを、戦わせていいのだろうか…?
言いようのない不安が、ここにいる皆の心境だった。
それともう1つ
「この中に、アイルとルミアもいるんだよなぁ…」
そう、昨晩夜遅くに2人を見かけたという生徒がいたのだ。
結局2人には会えずじまいなので、真偽を確かめられていない。
「…クソ!リィエルちゃんが、アイルが、ルミアが戦ってるこんな時に、俺達はここから見てるだけかよ…!」
「そうだな。僕達かこれまでにかなり位階をあげてきたが、あそこで戦うには、まだ足りない」
カッシュとギイブルが、悔しげに呟く。
「くだらねぇ」
ジャイルが吐き捨てたのは、その時だった。
「ここにいる奴らの全員が、死ぬ覚悟を決めて戦ってんだ。だったら、俺達もそうするだけだ」
それに続くように、リゼが笑いながら言った。
「『人様の事なんて関係ない。大事なのは、自分の覚悟と度胸だ』ってところでしょうか?アルタイルなら、こう言うんじゃないかしら?」
その言葉を受けて、皆がハッとする。
アルタイルはいつもそうだった。
怖くても、苦しくても、前に進み続けた。
ズタボロになり、死にかけて、それでも守る為に、勝つ為に戦ってきた。
グレンみたいな、元軍人じゃない。
システィーナみたいな、類まれなる才は無い。
リィエルみたいな、天性の身体能力は無い。
ルミアみたいな、異能力も無い。
ただ持っているのは、絶対の覚悟だけ。
それだけの…一般人だ。
「そうだ…!アイルはここまで走り続けたんだ!」
「だったら僕達だって、やってやる!」
一気に活気づく学徒兵達。
当の本人がいたらこう言うのだろう。
(別にそんな大層なこと、してないんだけどねぇ)
そう思い、小さく笑うリゼだった。
「…おや?」
紳士然とした男、【精霊王】の2つ名を持つラーヴァの前に立ち塞がる1組の男女。
2人共学院の制服を着ている。
「…【精霊王】ラーヴァだな」
「貴方に恨みはありませんが…ここで倒します」
1組の男女…アルタイルとルミアは、それぞれの武器を構えて立ち塞がった。
「…仕方ありませんね」
そう言って、召喚される精霊達。
多種多様な精霊を前にして、俺達は特に何か思うところはなく、淡々と相手する。
「ルミア」
「うん。応えて!【私の鍵】!」
ルミアが鍵を使い、精霊を異次元に追放する。
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」
【アリアドネ】で空間ごと精霊を切り裂きながら、肉薄する俺。
「なっ!?」
驚きながらも慌てて追加するが、それも俺達はあっさりと消し去り
「終わりだ…!」
「ヒッ!」
慌てて張られた魔術障壁ごと、俺の糸で編まれた槍が、ラーヴァの心臓を貫いた。
「ゴフッ…!?」
そのまま血を吐きながら、倒れ伏すラーヴァ。
特に苦戦すること無く、あっさり撃破した俺達はすぐ背を向けた。
「…終わりだ、次に行こう」
「うん」
俺達は次の戦場に向かいながら、学院を見る。
そこにはいくつかの篝火が灯っており、学院の結界が発動されている。
予想通り、侵入してきたエレノアをイヴ先生が相手取っているのだろう。
気づけば雨もあがっており、城壁からが騒がしくなる。
そこらかしこで始まる戦争。
誰もが戦っていた。
都市内、城壁、その他の場所でも。
しかしこの戦い、その全てがたった3つの要素で成り立っている。
(イヴ姉さん…アルベルトさん…リィエル…!)
それぞれが、強敵と戦っている。
俺はその戦いを支えている3人を思いながら、走り抜ける。
「アイル君!見つけた!」
「一気に仕掛けるぞ!おぉぉぉぉ!!!」
少しでも早く加勢するために、俺達は目の前の敵に襲いかかったのだった。
ラーヴァは、勝手にこういう感じかなって風にしました。
精霊の群れっていう描写があったので、かなりの数がいたのだと思うのですが、空間を操る2人の前では、無力にしました。
それでは失礼します。
ありがとうございました。