ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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無限に距離を伸ばすのは、防御的チート。
時間をゼロにするのと距離をゼロにするのは、攻撃的チート。
つまり、アイル君がチートを手にしました。
それではよろしくお願いします。


フィジテ防衛戦編第2話

パウエルが用意した仕込み…フィジテ市内に忍ばせた転移門。

これから殺しができる…そう嬉々として出てきた外道魔術達の前にあったのは

 

「「「…え?」」」

 

帝国軍魔導兵達による、攻性呪文(アサルト·スペル)による雨霰だった。

結局彼は何も出来ないまま、この世から消滅したのだった。

 

 

 

各部隊からの撃破報告を聞きながら、イヴ先生はほくそ笑む。

 

「バカね。こうなったら次はこう出るに決まってるじゃない。そもそも転移方陣は霊脈(レイライン)を利用するもの。敷設出来る場所は限りてるわ。これだけ分かっていれば、予測は簡単よ」

 

でも相手も一流だ。

 

「もちろんタダって訳にはいかないか…!」

 

そう呟く俺達の耳に入るのは、いくつかの部隊の全滅報告だった。

運悪く、実力者に当たった部隊は軒並み全滅。

しかもその中には、ダンス・コンペの時に襲ってきた奴らもいるらしい。

 

「…イヴ姉さん…」

 

俺は俯いて、拳を握り締めるイヴ先生を見つめる。

静かに息を吐き

 

「私が命じて、私が殺した。…この犠牲は、無駄にはしない…!」

 

そうして、イヴ先生の脳内に蓄積される値千金の情報が、一気に組み立られていく。

イヴ先生が、各地に指示を出しながら、後ろに控える俺達…主力の面々を割り当てる。

そのメンツは、クリストフら特務分室。

クロウ=オーガム率いる、ベア達第一室。

その他2つ名持ちの精鋭魔導師達。

ハーレイ先生、ツェスト男爵ら高位階講師陣。

そして…俺とルミアだ。

本当はルミアには、下がっていて欲しいんだが…いつフェロードが来るか分からないので、俺のそばに置くのが1番安全なのだ。

 

「…本当に大丈夫か、ルミア?」

 

「…正直に言うと、すごく怖い。でも、私も戦う。それが私の選んだ道だから」

 

…ならこれ以上は何も言うまい。

俺も怖いけど、覚悟は決めた。

 

「アルタイル、ルミア。貴方達には、【精霊王】ラーヴァを倒してもらうわ」

 

俺達は黙って頷く。

精霊が相手となると、【マジック・バレット】などの無属性が効くんだが…俺達にはそれより強い武器がある。

 

「貴方達の空間操作の能力なら、十分対抗出来るはずよ。でも無理はしないで、危なかったら撤退して。分かったわね?」

 

「「了解です」」

 

「おう!死ぬんじゃねぇぞ!」

 

「お2人共、ご武運を」

 

「いいか3人共。若いのは、まず生き残るのが最優先じゃぞ?」

 

「は、はい!2人共!頑張ろう!」

 

皆が俺達に激励を送りながら、出撃する。

そして残ったのは4人。

俺達とアルベルトさんと、()()1()()

 

「…そろそろ出番よ。今ならまだ、修正も効く。本当にいいのね?」

 

()()()は黙って頷いてから、飛び出そうとする。

 

「「リィエル!!」」

 

俺達はギリギリで()()()を…()()()()を呼び止める。

 

「…?」

 

機械的な動きで振り返るリィエルは、その目も機械みたいで、初めて会った時以上に無機質だ。

 

「…大丈夫、なんだよね…?」

 

「戻ってこいよ、絶対に」

 

俺達の心配の声を聞いたリィエルは

 

「…大…丈夫…。絶対に…勝つ…」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

ほんの僅かに感情を取り戻した様な目で俺達を見て、飛び出していった。

 

「…リィエル…」

 

「…俺達も行こう」

 

リィエルに対して、一抹の不安を抱きながらも、俺達も出撃する。

街に出る時には、その感情は既に捨て去っていた。

 

 

 

 

 

「そんな…対応された…!?」

 

エレノアは独自で集めた戦況を見て、顔を青くする。

 

「半壊…!?送り込んだ外道魔術師のうち、半数が瞬時に殺られた!?しかも、相性のいい相手を瞬時に判断、相性のいい相手をぶつけてきた!!」

 

まだ半分残っているとはいえ、これでは完全敗北だ。

しかも、今フィジテにいるトップクラスの魔導将校は、決して弱くない。

その結果、今フィジテ内は完全な膠着状態になってしまった。

「なんて女何ですか…!?イヴ=イグナイト…!」

 

そもそも彼らにとっての前提条件は違った。

帝国軍VS【最後の鍵兵団(ウルティムス·クラーウィス)】+天の知恵研究会総力戦、だったのが。

帝国軍VS天の知恵研究会総力戦、になってしまった。

こうなっては…分からないのだ。

そしてこの膠着状態の間にも、【最後の鍵兵団(ウルティムス·クラーウィス)】は、天から降り注ぐ雷霆に焼かれている。

エリエーテも、リィエルに足止めされている。

エレノアはひたすらに、焦燥感を募らせるしか出来なかった。

そしてついに

 

「致し方ありませんわ…!」

 

エレノアは、ついに自身が潜入ことを決意した。

 

 

 

 

「つ、ついに始まりやがった…」

 

城壁から市内を見下ろすカッシュが、そうぼやく。

 

「皆様、どうかご無事で…」

 

「くっ…」

 

ウィンディやギイブルも、祈るように呟く。

ここは選出された学徒兵達が多く配属されているエリア。

アルザーノ帝国魔術学院生だけではなく、聖リリィの生徒やクライトスの生徒など、様々な者達がいる。

彼らもまた、今日この日まで戦い続けてきたのだ。

 

「クソ…歯痒いぜ。あそこで戦えない自分が…!」

 

忌々しげに吐き捨てるカッシュ。

心配はそれだけでは無い。

視覚を強化して見つめる先には、リィエルがエリエーテと戦っている。

昨晩から様子がおかしいリィエルを、戦わせていいのだろうか…?

言いようのない不安が、ここにいる皆の心境だった。

それともう1つ

 

「この中に、アイルとルミアもいるんだよなぁ…」

 

そう、昨晩夜遅くに2人を見かけたという生徒がいたのだ。

結局2人には会えずじまいなので、真偽を確かめられていない。

 

「…クソ!リィエルちゃんが、アイルが、ルミアが戦ってるこんな時に、俺達はここから見てるだけかよ…!」

 

「そうだな。僕達かこれまでにかなり位階をあげてきたが、あそこで戦うには、まだ足りない」

 

カッシュとギイブルが、悔しげに呟く。

 

「くだらねぇ」

 

ジャイルが吐き捨てたのは、その時だった。

 

「ここにいる奴らの全員が、死ぬ覚悟を決めて戦ってんだ。だったら、俺達もそうするだけだ」

 

それに続くように、リゼが笑いながら言った。

 

「『人様の事なんて関係ない。大事なのは、自分の覚悟と度胸だ』ってところでしょうか?アルタイルなら、こう言うんじゃないかしら?」

 

その言葉を受けて、皆がハッとする。

アルタイルはいつもそうだった。

怖くても、苦しくても、前に進み続けた。

ズタボロになり、死にかけて、それでも守る為に、勝つ為に戦ってきた。

グレンみたいな、元軍人じゃない。

システィーナみたいな、類まれなる才は無い。

リィエルみたいな、天性の身体能力は無い。

ルミアみたいな、異能力も無い。

ただ持っているのは、絶対の覚悟だけ。

それだけの…一般人だ。

 

「そうだ…!アイルはここまで走り続けたんだ!」

 

「だったら僕達だって、やってやる!」

 

一気に活気づく学徒兵達。

当の本人がいたらこう言うのだろう。

 

(別にそんな大層なこと、してないんだけどねぇ)

 

そう思い、小さく笑うリゼだった。

 

 

 

 

 

「…おや?」

 

紳士然とした男、【精霊王】の2つ名を持つラーヴァの前に立ち塞がる1組の男女。

2人共学院の制服を着ている。

 

「…【精霊王】ラーヴァだな」

 

「貴方に恨みはありませんが…ここで倒します」

 

1組の男女…アルタイルとルミアは、それぞれの武器を構えて立ち塞がった。

 

 

 

 

「…仕方ありませんね」

 

そう言って、召喚される精霊達。

多種多様な精霊を前にして、俺達は特に何か思うところはなく、淡々と相手する。

 

「ルミア」

 

「うん。応えて!【私の鍵】!」

 

ルミアが鍵を使い、精霊を異次元に追放する。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

【アリアドネ】で空間ごと精霊を切り裂きながら、肉薄する俺。

 

「なっ!?」

 

驚きながらも慌てて追加するが、それも俺達はあっさりと消し去り

 

「終わりだ…!」

 

「ヒッ!」

 

慌てて張られた魔術障壁ごと、俺の糸で編まれた槍が、ラーヴァの心臓を貫いた。

 

「ゴフッ…!?」

 

そのまま血を吐きながら、倒れ伏すラーヴァ。

特に苦戦すること無く、あっさり撃破した俺達はすぐ背を向けた。

 

「…終わりだ、次に行こう」

 

「うん」

 

俺達は次の戦場に向かいながら、学院を見る。

そこにはいくつかの篝火が灯っており、学院の結界が発動されている。

予想通り、侵入してきたエレノアをイヴ先生が相手取っているのだろう。

気づけば雨もあがっており、城壁からが騒がしくなる。

そこらかしこで始まる戦争。

誰もが戦っていた。

都市内、城壁、その他の場所でも。

しかしこの戦い、その全てがたった3つの要素で成り立っている。

 

(イヴ姉さん…アルベルトさん…リィエル…!)

 

それぞれが、強敵と戦っている。

俺はその戦いを支えている3人を思いながら、走り抜ける。

 

「アイル君!見つけた!」

 

「一気に仕掛けるぞ!おぉぉぉぉ!!!」

 

少しでも早く加勢するために、俺達は目の前の敵に襲いかかったのだった。




ラーヴァは、勝手にこういう感じかなって風にしました。
精霊の群れっていう描写があったので、かなりの数がいたのだと思うのですが、空間を操る2人の前では、無力にしました。
それでは失礼します。
ありがとうございました。
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