ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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最近、暑すぎですよ…。
皆さん、水分補給しっかりしてくださいね。
それでは、よろしくお願いします。


フィジテ防衛戦編第4話

そもそもの話として、俺は魔術師だ。

糸を使った接近戦を得意としてはいるが、それでも俺は生粋の武人ではない。

つまり何が言いたいかと言うと…

 

「チィィィィィ!」

 

「アハハ!そら、もっと行くよ!」

 

いくら同等の手札を持っていても、その手札を切るプレイヤーの性能が、桁違いなのだ。

だから俺は今、かなり押されているのだ。

 

「こん…のぉぉぉぉぉ!!」

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ギィィィィィィィン!!

 

俺の次元切断とエリエーテの剣から出る何かが、何度目かの対消滅を引き起こす。

空間が悲鳴をあげるような、軋む音が響く。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「うん!まあまあだね。リィエル(メインディッシュ)の前の前菜として、文句なしだよ!」

 

「ケッ…前菜かよ…」

 

クソッタレが…舐め腐りやがって。

とはいえ、正直手も足もでてないのは事実だ。

…そろそろかな。

 

「でもそろそろ終わらせないと。リィエルがこれ以上鈍になられても、あれだしね」

 

そう言ってゆっくりと、剣を構えるエリエーテ。

ゾワリッと寒気が走り、本能で理解する。

…これは、ヤバい。

俺は直ぐに全力で迎撃を選ぶ。

 

「「ハアァァァァァァァァ!!」」

 

ガギィィィィィィィィィィィン!!!

 

ここ一番の衝突音が響き、なんとか対消滅させることに成功した。

しかし衝撃までは防ぎきれず

 

「ぐぅぅぅぅぅぅ!?」

 

地面を削りながら吹き飛ばされる。

糸を巻いているからダメージはないが、だいぶ距離が空く。

 

「…へぇ。今のも防ぐんだ。だったらこれならどうだい!」

 

「ッ!?マジかよ…!」

 

アレでまだ、全力じゃなかったのか…!?

とうとうダメかと思った瞬間。

 

カチャン。

 

鍵を閉めるような音と共に、俺の目の前の景色が変わる。

 

「アイル君!?大丈夫!?」

 

「…助かったぁ…ありがとう、ルミア」

 

そう、ルミアによる空間操作で俺はなんとかエリエーテの前から、逃走することに成功したのだった。

 

「…皆は?」

 

「…実は…逃げてる途中で、外道魔術師達と鉢合わせちゃって…私が囮になって、先に逃がしたの。敵はさっき異次元に追放したから、何とか大丈夫」

 

「マジか…早く合流しねぇと…!」

 

俺とルミアが走り出そうとした途端

 

「いや、悪いけど君達の相手は僕達だよ」

 

この声は…!?

俺達がその声の正体に身構えるより早く、周囲の空間が遠ざかり出す。

 

「ルミア!」

 

「アイル君!」

 

俺達はすぐに手を取り合い、出来るだけ逆らわないように、空間を転移する。

 

 

 

 

 

 

「ここは…」

 

「フィジテの外?」

 

アルタイル達が飛ばされたのは、フィジテの外にある小さい丘だ。

眼下には、戦場と化し、死者が雪崩込んでいるフィジテの姿。

自分達のの故郷の無惨な姿に、悔しさが滲み出す。

 

「ここなら、君達も本気で戦えるだろう?」

 

あの男が耳障りな声で、耳障りなセリフを吐く。

 

「『本気で戦えるだろう?』…だと?ふざけんなよ…誰が戦いを望んだよ…誰がこんな事望んだんだよ…!テメェだろ!テメェが、フィジテを…世界を!!滅茶苦茶にしたんだろうがぁ!!!」

 

アルタイルは振り向きながらその男…フェロード=ベリフを睨みつける。

 

〖貴方、何を言ってるの?マスターはただ、世界を救う為に、戦ってきたのよ?それを…酷い人ね。ねぇ、ルミア?そう思わない?〗

 

「酷いのはレ=ファリア、貴女の性根。私はそんな人、絶対に嫌!私の大切な人は…ただ1人なの!私達の邪魔をしないで!」

 

ルミアとレ=ファリアも、お互いを否定しあうように、睨み合う。

全員の気迫が満ち溢れそうになる、その時。

 

「『虚空より来たる我·沈黙の支配者·空に至る王冠はついに摩天を掴み·その血を捧げし兎の宴に血酒を乞い捧げることだろう』」

 

(あの詠唱は…マズイ!)

 

「やらせねぇ!!」

 

「させません!!」

 

アルタイルとルミアが、同時に攻撃を仕掛ける。

 

「それはこっちのセリフよ」

 

しかしその全ては、レ=ファリアに阻まれる。

そしてついに。

 

「『汝、六天三界の支配者たらんと名乗りを上げる者ゆえに』…空天神秘【INFINITE ZERO DRIVE】」

 

フェロードの空天神秘が完成してしまう。

この世のあらゆるものが遠ざかる。

その果てには、決して辿り着かない。

故に無敵。

しかし…彼らにはそれを破る例外がある。

 

「『真紅の炎帝よ・劫火の軍旗掲げ・朱に蹂躙せよ』!」

 

アルタイルは糸で張った方陣から、【プロミネンス·フレア】を発動し、焼き払おうとする。

その炎は、周囲を焼き尽くしながら、フェロードの目前まで迫る。

 

「これは…!?『■■■』」

 

しかしその業火は、フェロードが操る古代魔術(エンシャント)で防がれる。

何人たりとも近づけない絶対的防御、それを持つフェロードが防御した。

それはつまり…

 

「なるほど…その糸を使った攻撃には、君の空天神秘の効果が上乗せされるのか」

 

アルタイル達の空天神秘【UNLIMITED CROSS RANGE】は、あらゆる距離を無効化する。

例えば時速30キロスで走る馬車が、30キロス先の地点に辿り着くのに、1時間で着く。

しかしアルタイル達の空天神秘なら、それを一瞬で到着させられるのだ。

そして、アルタイル達の空天神秘とフェロードの空天神秘は、真反対の性質な為、お互いを食い破り、無効化させるのだ。

 

「そういう事だよ!!『金色の雷獣よ・地を疾く駆けよ・天に舞って踊れ』!」

 

次に【プラズマ·フィールド】を発動。

雷獣の遠吠えのような雷撃が、フェロードを撃ち抜こうとするも

 

「無駄だよ。『■■■』」

 

これもまた、古代魔術(エンシャント)によって防がれる。

 

(チッ…厄介だな…!)

 

「次は僕から行こうか『■■■』」

 

「ッ!?フッ!」

 

突然何も無い空から、落雷が降り注ぐ。

アルタイルはそれを結界で防御する。

 

「へぇ…結界も空間操作で守ってるんだ。器用だね君。じゃあ、これはどうだい!」

 

落雷が、業火が、吹雪が、暴風が叩きつける。

 

「『七色煌めく光の華よ・その輝きを以て・ 我らに華の加護を与え・その道行を照らし護り給え』!」

 

固有魔術【アイギス·ブローディア】で、その全てを防ぐ。

その時、レ=ファリアが動き出す。

 

〖しぶといわね…!これでどう!?〗

 

レ=ファリアが、持っている【銀の鍵】で空間を切り裂き、同位相高次元領域から無限エネルギーを放出される。

流石にこれ程の高密度は、受け止めきれないだろう。

…アルタイル1人だけだったら。

 

「させない!開いて、【私の鍵】!」

 

アルタイルには、ルミアがいる。

ルミアが自身の持つ【銀の鍵】で、そのエネルギー体を異次元に追放する。

 

「ッ!邪魔しないでよ!ルミア(もう1人の私)!!!」

 

「貴女こそ邪魔をしないで!レ=ファリア(もう1人の私)!!!」

 

ルミアとレ=ファリアの、空間の支配権を求めた戦いが始まる。

 

「フェロードォォォォォォォ!!!」

 

「アルタイルゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

空の乙女に愛された2人の魔術師。

空間を支配する最高峰の魔術師の戦いは、始まったばっかりだ。

 

 

 

 

ルミアからリィエルを託されたのは、カッシュ·ギイブル·セシル·ウィンディ·テレサ·リンの6人。

必死の思いで彼らは逃げる。

 

「アイル…ルミア…無事ですわよね…!?」

 

ウィンディは逃がしてくれたアイルとルミアを、心配しながらも周りを警戒する。

 

「リン!テレサ!リィエルちゃんは!?」

 

リィエルを背負うカッシュが、併走しながら法医呪文(ヒーラー·スペル)をかけ続けている2人に尋ねる。

しかし返事は芳しくなく。

 

「ごめんなさい…!必死にかけてるんだけど…!」

 

涙ながら謝るリンと。

 

「考えればリィエルは、手足を切り落とされてたし…元々治癒限界が近かったのかも…」

 

悲痛な面持ちで呟くテレサ。

そんな彼らに

 

「「「「「「「「ギャアァァァァァァア!!」」」」」」」」

 

死者の群れが襲いかかる。

 

「『白銀の氷狼よ·吹雪纏いて·疾駆け抜けよ』!」

 

「『紅蓮の獅子よ·憤怒のままに·吼え狂え』!」

 

そんな死者の群れを、ギイブルとウィンディの魔術が薙ぎ払う。

 

「止まるな!もうすぐ軍の防衛拠点なんだ!走るぞ!」

 

「…よし!行くぞ!」

 

6人は必死に走り抜ける。

この先に安全地帯があると信じて。

しかし彼らに待ち受けていたのは

 

「…なんだよ…これ…?」

 

「や」

 

怪物が作り出した、血の海だった。

バリケードを作り、守ろうとしていた帝国軍の一軍が、ボロボロの死体となって、築かれていた。

その中心にいて、まるで恋人と待ち合わせていたような気軽さで、6人に声をかけてきたのは

 

「…エリエーテ…ヘイブン…」

 

アルタイルが抑えているはずの、エリエーテがそこにいた。

 

「そんな…アイルは…?」

 

震える声で呟くテレサに

 

「あぁ。彼?それがさ、突然いなくなっちゃんたんだよね〜。どこいったかな〜?」

 

その言葉で、6人は少しだけホッとした。

アルタイルが生きている…それだけは、彼らにとって僥倖だった。

 

「まあそれはともかく…君達が、リィエルの1番の()()だね。だから、リィエルを完成させる為に、僕が君達を削ぎ落とす。悪く思わないでね?」

 

そう言って、エリエーテが剣を抜き、ゆっくりと近づく。

そんなエリエーテに対して、まず行動を起こしたのは、カッシュだった。

 

「お、俺が…ここを…抑える…だ、だから…に、逃げろ…!」

 

リィエルを下ろし、あえて1歩前に出た。

顔を真っ青で、滝のように冷や汗を流し、身体中は震えている。

それでも前に出たのは…ただの意地だ。

 

「…バカだな。君一人じゃ、1秒だって稼げるか」

 

そう言って隣に立つギイブルも…震えていた。

 

「アハハ…僕達…もう詰んじゃったみたいだね…」

 

乾いた笑みを疲れながら、並んだセシルも震えている。

 

「…皆一緒ですわ。最期まで」

 

「ええ、友達だものね…」

 

「…ごめんね…リィエル…貴女を助けてあげられなくて…」

 

そう言ってウィンディとテレサとリンは、リィエルを優しく抱きしめて寄り添う。

 

「…バカだなぁ…俺達も…先生やアイルなら、最期まで足掻くだろうけど…流石に俺達には…荷が重いよなぁ…」

 

「…まあ、僕達にしては、頑張った方じゃないか?」

 

「先生なら…きっと褒めてくれるよ…」

 

「アイルは…泣いて怒りそうね…」

 

一時彼らの空気が和やかになり

 

「…はぁ。全然理解できないや。君達は本当に…リィエルをサビ付かせる()()なんだね」

 

ウザったそうに吐き捨てて。

なんの感慨となく、なんの躊躇もなく。

エリエーテはその剣を振り上げて、彼女だけの黄昏の光を纏った剣を、振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

…それは、わたしが見ていた夢だ。

ひめはわたしに言った。

余分を切り落とせ、と。

そうしないとボクに…エリエーテに勝てない、と。

 

「わたしは…グレンの剣」

 

そこは…教室だ。

グレンがいて、システィーナがいて、ルミアがいて、アイルがいて、みんながいる。

グレンがシスティーナに怒られて、それをアイルとルミアが治めて、みんながそれを見て笑ってる。

なんてことの無い、いつもの光景がそこにある。

わたしは心の世界の真ん中で。

 

「グレンはわたしの全て。わたしはグレンのために生きると決めた。グレンの大切なものを守れるのなら…わたしは…」

 

そう言ってわたしは、ひめから手渡された剣を振り上げる。

ただ、ここにある余分を切り捨てるだけ。

それだけの簡単なことだ。

もう二度と、みんなに対して何も思わなくなる。

名前すら忘れるだろう。

それでも…そうすれば、わたしは強くなる。

わたしの剣先に広がる金色の剣閃【孤独の黄昏(トワイライト·ソリチュード)】。

今までとは、比べ物にならないほど強くなる。

それは魂が、本能が、直感する確信だ。

 

「わたし…は…」

 

だけど…。

しばらくそのまま動けなかったわたしは。

 

「…」

 

やがて剣先を下ろし、地面に突き立てて、彼らに背を向けた。

 

「…どうしたんだい、リィエル?」

 

「斬らない」

 

「ッ!?」

 

ひめの問いかけに、わたしはそう答えた。

そうしたら次々と、想いが溢れ出した。

 

「わたしは、みんなを斬らない。…斬れるわけない…だって、わたしはみんなを守りたいから、強くなりたいのに…みんなと一緒にいたいから守るのに!なのに、なんで強くなったら、みんなを失わないといけないの!?そんなの嫌だ!!そんな事しないと手に入らない剣なんて…わたしはいらない!!!」

 

そんなわたしに、ひめは強く訴えかけてくる。

 

「でも…それじゃあボクには…エリエーテには勝てない!キミも!皆も!殺されてしまう!それでいいの!?たしかに悲しいし、辛いことだけど…皆を守る為に、君は皆を守る一振の剣になる…そうすべきだとは、思わないかい?」

 

そう言われて、わたしは自分の心を少しづつ形にするために、慎重に言葉を選んだ。

 

「…たしかに、少し思った。みんなを守れるなら…ってほんの少しおもった。でも、それをしたら、グレンとアイルはきっと怒る」

 

「…グレン先生と、アルタイル君?」

 

わたしの中で見ていたと言ってきたひめは、2人を知っている。

 

「2人は、そんな事しない。自分も、みんなも、笑っていられる方法を、一生懸命考えるし、戦う」

 

「…」

 

「それに、多分。あの黄金の光を強くしても…わたしの剣は、エリエーテに勝てない…と、思う」

 

そういうと、ひめは目を瞬かせながら、不思議そうにわたしに尋ねる。

 

「…どうして、そう思うんだい?」

 

「だって」

 

どうしてそんな簡単なことを、ひめは分からないんだろう。

 

「えーと…【孤独の(トワイライト)…なんだっけ?それ、()()()()()()()()()()。わたしが真似ても、あそこまで強くならない気がする。…勘だけど」

 

「…」

 

そう言いきったわたしを、ひめは少し呆気にとられたような顔で見て、やがて薄く微笑んだ。

 

「…そうだね…。君は正しい。君は、霊魂の一部を共有してるだけの、別人だ。君はエリエーテじゃない。リィエルだ。…ごめんね、ボクはあと少しで、キミに取り返しのつかないことをさせる所だった…」

 

「別にいい。ひめはわたしのことを、心配してくれただけだし」

 

そう言っていつもグレンやアイルがやってくれるみたいに、俯くひめの頭を優しく撫でる。

 

「…でも実際、どうするんだい?このままだと…君はエリエーテには勝てない」

 

「分かってる。だから…()()()()()()()()()()。わたしは…みんなを守る。たとえ余分だと言われても、わたしは守るために剣を振るう。生きる」

 

わたしが大剣を錬成して、そう決意した時。

 

ーーあぁ。リィエル…それでいい…それでいいんだ。

ーー…頑張って、リィエル。…私達の希望…。

ーーどうか僕達の分まで…幸せな道を…。

 

「ッ!?」

 

視界の端で、赤い髪の男女がいた…気がした。

わたしに微笑んでくれていた…気がした。

もう見えないけど、あれは…。

 

「シオン…イルシア…?」

 

「…ぶっちゃけ、剣ってさ」

 

ひめは、わたしが突き立てた剣を引き抜く。

 

「究極的には人を殺すための道具なんだよね。だから、誰かを守る…そういった想いが余分になる。…でもさ、それは使い手の都合であって、剣そのものには、なんの関係もない」

 

「…」

 

「だから…天に至る道は、色々あると思うんだ。道を選ぶのは、人の意思。ボク達は道具じゃない、人間なんだから…」

 

そう言って、ひめはわたしに剣を構えた。

 

「リィエル。君の光を探す手伝いを、僕にさせて欲しい。時間が許すギリギリまで、ここで君に稽古をつけてあげる」

 

気づけば景色は、黄昏の浜辺に戻っていた。

そうしてわたしとひめは、剣を交える。

わたしだけの光…それを探すために、没頭しだした。

そして…

 

キイィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!

 

盛大の金属音が、世界の果てまで届けと、言わんばかりに響く。

その時、エレノアと戦っていた、イヴが。

パウエルと戦っていた、アルベルトが。

フェロードとレ=ファリアと戦っていた、アルタイルとルミアが。

同時にある方角を見て、同じ名前を呟いた。

 

「「「「リィエル…?」」」」

 

 

「…な!?」

 

「嘘だろ…!?」

 

「はぁ…はぁ…ゲホッ!ゴホッ!」

 

いつの間にか、リィエルが立ち上がっていた。

そして、カッシュ達を守ろうと、死にそうな体で、血をまき散らしながら、剣を振り抜いていた。

 

「やら…せない…!みんなは…死なせない…!守る!みんなは…わたしが…守る…!わたしは…みんなのことが…大好きだから…!!」

 

リィエルのそんな姿を見たエリエーテは、心底呆れたように呟く。

 

「…だから、それが余分なんだよ。そんな…」

 

「黙って!!!わたしは言った!そんな光いらない!わたしは剣じゃない…!わたしは、リィエル=レイフォード…!!人間だ!!!」

 

「…心底失望したよ、リィエル。もう終わりにしよう」

 

そう言ってエリエーテは、【孤独の黄昏(トワイライト·ソリチュード)】を強めていく。

 

「今度こそ終わりだよ、リィエル」

 

そう言って剣を振り下ろしたエリエーテは、違和感を覚えた。

 

(…今度こそ?今度こそって、何だ?)

 

そんなこの土壇場では、有り得ない一言が口から出たからだ。

そう、リィエルの光は既に失われている。

にもかかわらず、先程の一撃を受けきった。

何故…あの一撃を受け止められたのか…?

そのエリエーテの疑問に答えたのは、他ならぬリィエル自身だった。

 

パァァァン!!!

 

世界を染めあげる黄金の光を、一筋の銀色の光が切り裂いたのだ。

 

「ッ!?」

 

「ゲホッ!ゲホッ!…ゴホッ!」

 

予報外の事態に硬直するエリエーテと、血反吐吐きながらよろめき、それでも立ち上がるリィエル。

 

「ッ!」

 

ふとエリエーテが、ある事に気づいた。

それはリィエルの剣先。

そこに光が灯っていた。

とても小さい…しかしまるで、夜明けの黎明を思わせるような、銀色の光。

 

「〜〜〜〜ッ!?」

 

ゾクッ!

 

それを見た瞬間、エリエーテの背筋に明確な悪寒が走る。

エリエーテはそれを払拭するように、【孤独の黄昏(トワイライト·ソリチュード)】を放つも

 

「いや…あぁぁぁぁ…!」

 

剣の重さに振り回せるように、剣を振るリィエル。

しかしその剣先が、銀色の軌跡を描き。

 

パァァァン!!!

 

再び、【孤独の黄昏(トワイライト·ソリチュード)】を打ち消した。

衝撃で吹き飛ばされるリィエルだが、それでも生きている。

 

「なんなんだ…それは…?」

 

呆然と呟くエリエーテ。

そして、その疑問はカッシュ達も同様だった。

 

「リィエルちゃん…どうしちまったんだ…?」

 

「あんな体で動けるのも…驚異的だが…それより…」

 

「うん。小さくて弱々しいけど…とても綺麗な…銀色の光…」

 

(見えてるのか?彼らにも。だったら、あれは…【孤独の黄昏(トワイライト·ソリチュード)】じゃない!だったらあれは…!?)

 

「…やっと…見えた…」

 

ボソッとリィエルが呟いた。

 

「み、見えた…?」

 

「ん。…この光を…ひめとずっと探してた…。全然見つからなかったけど…やっと…やっと見えた…」

 

要領を得ない言葉と、焦点の合わない目。

なのにその言葉はエリエーテに刺さり、その視線はエリエーテを貫く。

 

「これは…わたしの…わたしだけの光。いらないものを…切り捨ててきた…あなたでは…絶対に到達出来ない光…」

 

「なっ!?」

 

呆気にとられるエリエーテの前で、リィエルはふらつきながら、大剣を担ぎあげて。

 

「昔のわたしは…なんのために生きてるか…分からなかった。だから…誰かの剣になって…生きればいいって思ってた…何も考えなくてもいいから…楽だって…思ってた。けど…それじゃダメだって気づいた…だって…この世界には…すごくあったかいものや、大事なものがあるって…わかったから…!もう、剣になりきって…見ないふりなんて…できっこない…!」

 

「ッ!」

 

「わたしは…生きる…そんな大事なものを守って…生きる…みんなと一緒に…生きる!わたしはそのために、剣を振るうんだ…!他に誰もいない…ひとりぼっちの天の頂きなんて…いらない!生きるために…!他の誰でもない…わたし自身のために…!!」

 

 

わたしの心のどこかで、ひめが呟いた。

穏やかに見守るように言った。

 

「それが…キミの生き方なんだね、リィエル。ボクとは違う…キミの目指す剣…キミだけの光…。分かったよ。キミは…剣士じゃなかった。とても素敵な…女の子だったんだ。キミは…本当の意味で強いんだ」

 

「リィエル、キミの目指すその剣と、生き方に幸あれ。この世界に産まれた、君の光に祝福あれ。どうか、その光の名前を贈らせてほしい。きっと気に入ってくれると思う。その名は…」

 

 

「【絆の黎明(デイヴレーク·リンク)】ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 

 

 

 

 

「『■■■』」

 

「グウゥゥゥゥ!!!?」

 

フェロードの放つ、古代魔術(エンシャント)の炎が、アルタイルの結界を突き破りアルタイルを焼く。

咄嗟に飛び退き、何とか炎から逃れようとするアルタイルを

 

〖死になさいよ!〗

 

レ=ファリアが【銀の鍵】を片手に、突撃してくる。

アルタイルはその動きを冷静に見切り

 

「シッ!」

 

〖キャアァァァ!〗

 

カウンターに蹴りを入れる。

本来霊体であるレ=ファリアに通常攻撃は効かないのだが、ルミアの加護を持つ【アリアドネ】が、それを可能にする。

同質の魔力を持つ【アリアドネ】は、そのままレ=ファリアの霊体に、直接当てることが出来るのだ。

 

「レ=ファリア!『■■■』!」

 

フェロードが雷を放つ。

咄嗟に結界を張るも、即席の結界では当然持たない。

 

「アイル君!」

 

カチャリ。

 

しかしその一瞬の隙に、ルミアの【銀の鍵】が、アルタイルを転移させる。

 

「助かった!オォォォォォ!!」

 

すぐにアルタイルが反撃に出る。

【アリアドネ】の糸が、超高速でフェロードに迫る。

 

「クッ!」

 

フェロードの空天神秘を貫いながら放たれる糸を、フェロードは横に避ける。

地面が割れ、破片が飛び散る。

 

カチャリ。

 

鍵の音がしたと思えば、破片の1つとアルタイルが、入れ替わっており。

 

「ウォォォォォォォォォ!!!」

 

銀色に輝く【アリアドネ】を、思いっきり振り下ろしていた。

 

「ッ!?」

 

すぐにフェロードがガードしようにも、間合いが近すぎて間に合わない。

そう思った瞬間

 

〖マスター!〗

 

レ=ファリアが間に入り、【銀の鍵】で受け止める。

 

ドォォォォン!!!

 

空間がネジ曲がる程の衝撃が、レ=ファリアとフェロードを打ち据える。

 

〖がはぁ!?〗

 

「グゥゥゥ!レ=ファリア!『■■■』!」

 

フェロードの放つ絶対零度の吹雪が、アルタイルを襲う。

しかしその直前。

 

カチャン。

 

ルミアの【銀の鍵】が、アルタイルを再び救う。

睨み合う2組。

不利なのは当然、アルタイル達だ。

そもそもの魔術師としての格が違う。

現にアルタイルの体は、怪我だらけだ。

普通なら倒れて普通くらいには、怪我だらけなのだ。

それにも関わらず、フェロードは焦りを感じていた。

 

(何故だ…何故笑っている!?)

 

「なぁ、ルミア」

 

「…何、アイル君?」

 

「今やべぇじゃん?押されてるじゃん?なのにさ…楽しくてしょうがない…!」

 

ボロボロの体で、口元の血を拭いながら、それでもアルタイルは獰猛に笑った。

 

(何となく分かる。リィエルはまだ、戦っている事が)

 

リィエルと再会した時、彼女はボロボロだった。

生きてる事がいっぱいいっぱいくらいに、ボロボロだった。

だが、先程聞こえた金属音で確信する。

リィエルは戦っている。

自分が大切だと思える何かの為に。

 

(だったら…負けられねぇよなぁ…!)

 

「しゃあ!テンション上がってきたァ!!行くぞ!!ルミア!!!」

 

「うん!絶対に勝つ!!!」

 

「勝つのは、僕達だ!!」

 

〖調子に乗るなぁ!!〗

 

突撃するアルタイルと、それを支えるルミア。

そんなアルタイルを迎え撃つ、フェロードとレ=ファリア。

彼ら戦いは、さらに激化していくのだった。




凄い魔術を手に入れても、結局殴り合いに持ち込む、アルタイルなのでした。
それでは失礼します。
ありがとうございました。
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