ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

9 / 141
事件が動き出します。
それではよろしくお願いします。


魔術競技祭編3話

俺とルミアは唖然としたまま固まっており、グレン先生は慌てて片膝をつき、頭を垂れていた。

 

「1年ぶりですね。お元気でしたか?」

 

「はい、そりゃあ、もう…」

 

「どうか面をあげてください。貴方にはずっと謝りたいと思っていました。…この国の為に尽くしてくれた貴方を、あのような形で宮廷魔導師団から除隊させる事になってしまって…」

 

そう言って、先生に対して頭を下げる陛下。

マジかよ…幾ら公の場じゃないからって一国民に頭下げるのかよ。

 

「いやいやいや!?俺、仕事が嫌になって辞めただけですから!俺みたいな社会不適合者に、女王陛下が頭下げちゃダメですって!」

 

グレン先生が慌てて陛下に頭を挙げさせようとする。

 

「そ、それより陛下。護衛もつけずにどういったご用向きで?」

 

グレン先生がそう聞くと、陛下はこっちを…正確にはルミアを見ている。

 

「久しぶり…ですね。エルミアナ。元気…でしたか?」

 

そう言いながらルミアに近づく陛下。

俺はそっと道を開けながら、2人から離れる。

3年ぶりの再会なのだ、積もる話でもあるのだろう。

 

「随分背が伸びましたね!フィーベル家の皆様との生活はどうですか?あぁ…夢見たい!またこうして貴女と…!」

 

その時だった。

 

「あ、あの!お言葉ですが、陛下は人違いをされております」

 

ルミアは陛下を拒絶し、一歩下がって頭を下げる。

 

「ルミア?何言って…」

 

「アルタイル」

 

俺はルミアに近づこうとするも、グレン先生が肩を掴んで止める。

 

「私はルミア。ルミア=ティンジェルと申します。恐れ多くも陛下は、ご崩御なさったエルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ王女殿下と混同なされてるかと」

 

「そう…でしたね…。エルミアナ…。あの子は3年前に流行り病で亡くなったのでしたね…」

 

そう言いながら悲しそうに手を下げる陛下。

 

「不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。ルミアさん」

 

「滅相もございません。では、失礼致します」

 

そう言いながら走り去っていくルミアは…泣いていた。

 

「やっぱり認めてくれませんよね…今更、母親だなんて…。貴方はアルタイル=エステレラですね?」

 

突然話しかられたから、ビックリした。

 

「は、はい!アルタイル=エステレラです。お初にお目にかかれて光栄に存じます!」

 

「アリシア=イェル=ケル=アルザーノです。どうかグレンと共にあの子を頼みます。それでは戻りますね、グレン」

 

「「はっ!」」

 

俺達は何も言わずに歩き出した。

森をぬけたところで、いてもたってもいられなくなってしまった。

 

「先生。俺ルミアを探してきます。みんなでワイワイしてた方が気が紛れるかもですし…」

 

「…かもなぁ。悪いが頼めるか?」

 

「行ってきます!」

 

走り回る事、約15分。

見慣れた金髪が見えたので声をかける。

 

「よ、ルミア。何見てんだ?…ロケットかそれ?」

 

「…変だよね?これ、何も入ってないんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…」

 

そう言いながらルミアは、悲しそうな顔でロケットを閉じて制服の中にしまう。

 

「さっきの私、どうすれば良かったのかな?悪魔の生まれ変わり、呪われし禁忌の存在、異能者。そんな存在として産まれてしまった私は、王家の威信を壊しかねない爆弾。だから…」

 

「仕方ないってか?バーカ」

 

悲しそうに話し出すから、真面目に聞いてれば。

そんな定型文は聞いてない。

 

「お前は、ルミアは、エルミアナはどうしたいんだよ?何を思ってるんだよ?」

 

結局そこだ。

どれだけ言っても、根底は変えられない。

俺はそこが知りたかった。

 

「私は…心のどこかで陛下を許せないかった。怒ってるんだと思う。でも…同時にお母さんって呼びたがってる自分もいるの。でも、それだとしスティのご両親を裏切っちゃう気がして…。どうすれば良かったの?…分からないよ…」

 

…ああ、ルミアは本当に分からないんだな。

 

「だったらそのまま伝えるしかないな!思ってる事全部ぶつけちまえ!どうせ人間なんて何しても、絶対に後悔するんだ。だったらやってから後悔した方がマシだ」

 

分かんない事を何時までも考えたって、分かんないままだ。

だったら今出来る事、分かる事をやっていけばいい。

そうすれば勝手に結果は出てるものだ。

 

「私…怖いよ…。またあの冷たい目を向けられると思うと…。だから、一緒に付いて来てくれないかな?アイル君」

 

おっとまさかの俺をご指名とは。

ま、けしかけたのは俺だし、責任は取るか。

 

「しょうがないな。ついて行ってやるよ!」

 

「!ありがとう!」

 

そんな話をしていると、向こうから集団がやってくる。

あれは…王室親衛隊?

こんな所に…いや、俺たちに何の用だ?

嫌な予感がした俺は手袋をつけて身構える。

 

「ルミア=ティンジェルだな?」

 

「は、はい、そうですが…」

 

ルミアが返事した瞬間、突然抜剣する騎士たち。

俺はすぐにルミアの前に出て庇う。

 

「貴様。なんのつもりだ?」

 

「それはこっちのセリフだ。何のつもり?」

 

「恐れ多くも、女王陛下暗殺の企てたその罪、弁明の余地なし!貴殿を不敬罪及び、国家反逆罪の容疑により処刑する!」

 

「「…え?」」

 

何言ってんだこいつら?

気でもおかしくなったか?

…いや、本気だな。

 

「…証拠はあるのか?何の根拠も無しにって、そんな無茶苦茶な話が通るわけないだろ」

 

「これは重要な国家機密である!貴様のような小僧に話すことなど無い!」

 

…もういいや、相手にするだけ馬鹿馬鹿しい。

 

「もういい、お前らの戯言に付き合う義理はない。行くぞルミア」

 

「小僧!邪魔だてする気か!?」

 

「上等だ!喧嘩売ったのはそっちだ!文句言うんじゃ…」

 

「仰せの通りに致します」

 

突然ルミアが立ち膝を着いて、頭を下げる。

 

「ルミア!?何言ってんだ!!」

 

「恐れ多くも陛下に仇なそうとした罪、この命をもって償います。ですからアイル君は!」

 

「ルミア!てめぇふざけんじゃ…ガッ!?」

 

「アイル君!」

 

「来い!」

 

突然後頭部に衝撃が走る。

柄で殴られたか…。

 

「ル…ミア…」

 

俺はただ、連れていかれるルミアに手を伸ばすことしか出来なかった。

 

 

 

「目を閉じ、動かぬ事だ。急所を外せば長く苦しむ事になる」

 

「…はい」

 

私は木に縛り付けられじっとその時を待った。

いつか来るとは思っていた。

私を処分すると決まる日が。

…ああ、きっと最後だから会いに来てくれたんだ。

あの日死ぬはずだった私が、3年も生きられたんだ。

素敵な思い出が沢山出来たし…だからこれで…。

でも…彼ともう会えないのは…やだな…。

 

「言ったろ。ふざけんなって」

 

え?聞こえないはずの彼の声がした。

その後、何かを殴る音が数回響いて、気づいたら縛っていた紐が切られていた。

恐る恐る目を開けると…

 

「…どう…して…」

 

「決まってんだろ。助けるためだ」

 

そこには親衛隊の人達を倒したアイル君が居た。

 

「何してるの?何したのか分かってるの!?」

 

私は自分でも珍しいと思うほど怒鳴った。

こんな事したら…アイル君は!?

 

「国家反逆罪だな。それが?」

 

「それがって!?」

 

「言ったろ?大切なものを失うのは嫌だって。ルミアもその1つなんだって」

 

そう言いながら、真っ直ぐ私を見る。

そうだ、この間もそうだった。

彼は自分の大切なものを守りたいから、戦った。

その中に私も入ってるんだって言ってくれた。

 

「アイル君…!」

 

ああ…嬉しいな…。

こんな状況、こんな事をさせてしまったアイル君に失礼かもしれないけど、それでも私は嬉しかった。

私なんかの事を大切に思ってくれている人がいる事が、嬉しくてたまらなかった。

 

「さてと、さっさとトンズラするか!」

 

「きゃあ!?」

 

突然私は彼にお姫様抱っこされた。

待って!これは恥ずかしい!///

 

「『三界の理・星の楔・律と理は我が手にあり』」

 

【グラビティ・タクト】を唱えてから一気に飛んで、市街地に逃げ込む。

屋根伝いに走りながら距離をとり、そのまま入り組んだ路地を駆け抜ける。

その間ずっと、私はお姫様抱っこされっぱなしだった。

 

「あ、アイル君?重くない?」

 

「全然。今魔術解いてるけど、全く重くないぞ?」

 

そう言いながら、笑顔を向けてくれるアイル君。

うぅ〜…やっぱり恥ずかしい///

私は思わず赤くなる顔を隠すために、首筋に抱きついてしまった。

っ!?お店の時と同じ、いい匂いがして余計ドキドキしてきちゃった…!///

 

「!?おいおい。甘えん坊か?困ったちゃんだな〜」

 

 

俺達はしばらく走って距離をとった。

 

「よし、この辺でいいか…降ろすぞ」

 

そう声をかけ、ルミアを優しく地面に降ろす。

 

「大丈夫?酔ったりしてないな?」

 

「だ、大丈夫だよ!?問題なし!…それよりここからどうしよう?」

 

「とりあえず、グレン先生に合流しよう。何か知ってるかもしれない…!?」

 

俺は気配がした方に振り返る。

そこには眠たそうな表情をした、小柄な女の子がいた。

いや、それよりあの服はまさか!?

 

「クソ!親衛隊の次は帝国宮廷魔導師団かよ!?」

 

しかもあれは爺さんと同じ特務分室!?

だとしたらまず勝てない!

ここは逃げる!

 

「ルミア!逃げるぞ!」

 

「アイル君!?後ろ!」

 

慌てて振り返ると、身の丈に合わないだろうデカさの大剣を構えている女の子がいた。

マジかよ!?慌てて結界を張り、防ぐ。

糸を織り交ぜて作った結界なので、仮に結界を破っても、糸そのものに防がれる。

 

「!?『万象に希う・我が腕に・剛毅なる刃を』」

 

糸の強度に押し負けて砕けた大剣を捨てて、すぐに新しい大剣を作っていた。

何て錬金術の使い方だ!?

ウィズダンが泣くぞ!?

その時、視界の端で何かが見えた。

そこには同じ服を着た青年がもう1人いた。

 

「!?マジかよ!?」

 

ただでさえ、女の子1人でもキッツイのに!?

これ以上は無理だぞ!?

そして、その動揺が命取りとなる。

 

「アイル君!?」

 

その隙を着いて、懐に入り込まれたのだ。

しかも同時に青年の指がこっちに指を向ける。

これはダメだと…思った瞬間

 

「待て!!リィエル!!」

 

グレン先生の声がしたのと同時に、青年の指が光り、女の子の後頭部に命中する。

 

「「…はい?」」

 

 

「何考えてんだこのおバカー!!」

 

「…グレン、痛い」

 

先生が女の子をグリグリしてる。

 

「あいつらは死ぬところだったんだ!」

 

「あの…先生?」

 

「状況は?ていうか、誰ですか?この人達は」

 

全くをもって状況が理解出来ん。

なんでもいいから説明してくれ。

 

「あ、ああ…すまん。こいつらは俺の帝国軍時代の同僚だ。宮廷魔導師団特務分室執行官、NO.17【星】のアルベルトと、No.7【戦車】のリィエル」

 

あの制服…やっぱり特務分室だったんだ…。

よく生きてるな俺。

 

「信頼出来るヤツらだから安心…出来るはずねぇか?」

 

「うん、アルベルト迂闊。街中で軍用魔術使うなんて」

 

「お前もだよ!お前も!」

 

またもや始まるグリグリ。

 

「どちらかと言うと、君の方が安心出来ないから…」

 

「遊んでる場合ではないぞ、お前達。アルタイルと言ったな、簡潔に現状を教えよう。親衛隊は現状女王陛下を監視下に置き、そこの元王女を暗殺する為、独断で行動している」

 

やっぱり裏があったか。

 

「何でそんな事に…。アルフォネア教授は?」

 

グレン先生に尋ねる。

アルフォネア教授がいれば大概のことは何とかなりそうだが、動いてないのか?

 

「そのセリカだが、『何としても女王陛下の前まで来い』それ一点張りだ。全くわからん」

 

先生が女王陛下の前に立つ事…。

先生の特徴、特技、その他諸々…。

 

「【愚者の世界】?」

 

「アルタイル、【愚者の世界】がどうした?」

 

ボソッと言ったな一言を、どうやらアルベルトさんには聞こえたらしい。

 

「いや、先生って言えば【愚者の世界】かなって…」

 

そう、先生の特技と言えば【愚者の世界】だ。

一定効果領域における魔術起動の完全封殺。

それは魔術師戦に置いて、絶大なアドバンテージを得ることになる。

そもそも起動できなくしてしまうなんて、使い所を間違えなければ、かなり強い…いや待て。

そうじゃない、そこじゃない。

1番見るべきは…魔術起動の完全封殺だ。

 

「先生。先生の【愚者の世界】ってどこまで効くんです?」

 

「は?何だ突然」

 

「例えば、【魔術罠(マジック·トラップ)】とか見たいな、条件とかあるやつだと適応されるんですか??」

 

「魔術罠は起動済みにカウントされるから無理だ。条件起動式なら…!!そうか!そういう事か!!」

 

「…なるほど。それなら納得が行く」

 

「?」

 

「えっと…どういう事でしょうか?」

 

…まさか本当にそういう事なの?

 

「そうなると、一つだけ必須条件があるぞ、グレン」

 

「分かってる。…2組の優勝だな?」

 

「んー、でも囮も必要ですよね?」

 

「それは俺とリィエルで引きつけよう。グレンと王女は俺達と入れ替わりだ」

 

「え?俺じゃないの?」

 

「おそらく、お前よりグレンの方に注意が向いている可能性は高い」

 

「要はまだ舐められてると…腹立つけど今はそれを利用してやりますよ」

 

「その意気だアルタイル。お前は俺達とあいつらの橋渡しを頼むぞ」

 

「了解」

 

こうして俺達の反撃作戦が始まった。

これが吉と出るか凶と出るか。

それは蓋を開けてみないと分からない。

言える事は、既に賽は投げられたという事だ。




ありがとうございました。
アルタイルは結構短気です。
怒ると口は悪くなり、手も早いです 。
それでは失礼します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。