それではよろしくお願いします。
俺とルミアは唖然としたまま固まっており、グレン先生は慌てて片膝をつき、頭を垂れていた。
「1年ぶりですね。お元気でしたか?」
「はい、そりゃあ、もう…」
「どうか面をあげてください。貴方にはずっと謝りたいと思っていました。…この国の為に尽くしてくれた貴方を、あのような形で宮廷魔導師団から除隊させる事になってしまって…」
そう言って、先生に対して頭を下げる陛下。
マジかよ…幾ら公の場じゃないからって一国民に頭下げるのかよ。
「いやいやいや!?俺、仕事が嫌になって辞めただけですから!俺みたいな社会不適合者に、女王陛下が頭下げちゃダメですって!」
グレン先生が慌てて陛下に頭を挙げさせようとする。
「そ、それより陛下。護衛もつけずにどういったご用向きで?」
グレン先生がそう聞くと、陛下はこっちを…正確にはルミアを見ている。
「久しぶり…ですね。エルミアナ。元気…でしたか?」
そう言いながらルミアに近づく陛下。
俺はそっと道を開けながら、2人から離れる。
3年ぶりの再会なのだ、積もる話でもあるのだろう。
「随分背が伸びましたね!フィーベル家の皆様との生活はどうですか?あぁ…夢見たい!またこうして貴女と…!」
その時だった。
「あ、あの!お言葉ですが、陛下は人違いをされております」
ルミアは陛下を拒絶し、一歩下がって頭を下げる。
「ルミア?何言って…」
「アルタイル」
俺はルミアに近づこうとするも、グレン先生が肩を掴んで止める。
「私はルミア。ルミア=ティンジェルと申します。恐れ多くも陛下は、ご崩御なさったエルミアナ=イェル=ケル=アルザーノ王女殿下と混同なされてるかと」
「そう…でしたね…。エルミアナ…。あの子は3年前に流行り病で亡くなったのでしたね…」
そう言いながら悲しそうに手を下げる陛下。
「不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。ルミアさん」
「滅相もございません。では、失礼致します」
そう言いながら走り去っていくルミアは…泣いていた。
「やっぱり認めてくれませんよね…今更、母親だなんて…。貴方はアルタイル=エステレラですね?」
突然話しかられたから、ビックリした。
「は、はい!アルタイル=エステレラです。お初にお目にかかれて光栄に存じます!」
「アリシア=イェル=ケル=アルザーノです。どうかグレンと共にあの子を頼みます。それでは戻りますね、グレン」
「「はっ!」」
俺達は何も言わずに歩き出した。
森をぬけたところで、いてもたってもいられなくなってしまった。
「先生。俺ルミアを探してきます。みんなでワイワイしてた方が気が紛れるかもですし…」
「…かもなぁ。悪いが頼めるか?」
「行ってきます!」
走り回る事、約15分。
見慣れた金髪が見えたので声をかける。
「よ、ルミア。何見てんだ?…ロケットかそれ?」
「…変だよね?これ、何も入ってないんだ。
そう言いながらルミアは、悲しそうな顔でロケットを閉じて制服の中にしまう。
「さっきの私、どうすれば良かったのかな?悪魔の生まれ変わり、呪われし禁忌の存在、異能者。そんな存在として産まれてしまった私は、王家の威信を壊しかねない爆弾。だから…」
「仕方ないってか?バーカ」
悲しそうに話し出すから、真面目に聞いてれば。
そんな定型文は聞いてない。
「お前は、ルミアは、エルミアナはどうしたいんだよ?何を思ってるんだよ?」
結局そこだ。
どれだけ言っても、根底は変えられない。
俺はそこが知りたかった。
「私は…心のどこかで陛下を許せないかった。怒ってるんだと思う。でも…同時にお母さんって呼びたがってる自分もいるの。でも、それだとしスティのご両親を裏切っちゃう気がして…。どうすれば良かったの?…分からないよ…」
…ああ、ルミアは本当に分からないんだな。
「だったらそのまま伝えるしかないな!思ってる事全部ぶつけちまえ!どうせ人間なんて何しても、絶対に後悔するんだ。だったらやってから後悔した方がマシだ」
分かんない事を何時までも考えたって、分かんないままだ。
だったら今出来る事、分かる事をやっていけばいい。
そうすれば勝手に結果は出てるものだ。
「私…怖いよ…。またあの冷たい目を向けられると思うと…。だから、一緒に付いて来てくれないかな?アイル君」
おっとまさかの俺をご指名とは。
ま、けしかけたのは俺だし、責任は取るか。
「しょうがないな。ついて行ってやるよ!」
「!ありがとう!」
そんな話をしていると、向こうから集団がやってくる。
あれは…王室親衛隊?
こんな所に…いや、俺たちに何の用だ?
嫌な予感がした俺は手袋をつけて身構える。
「ルミア=ティンジェルだな?」
「は、はい、そうですが…」
ルミアが返事した瞬間、突然抜剣する騎士たち。
俺はすぐにルミアの前に出て庇う。
「貴様。なんのつもりだ?」
「それはこっちのセリフだ。何のつもり?」
「恐れ多くも、女王陛下暗殺の企てたその罪、弁明の余地なし!貴殿を不敬罪及び、国家反逆罪の容疑により処刑する!」
「「…え?」」
何言ってんだこいつら?
気でもおかしくなったか?
…いや、本気だな。
「…証拠はあるのか?何の根拠も無しにって、そんな無茶苦茶な話が通るわけないだろ」
「これは重要な国家機密である!貴様のような小僧に話すことなど無い!」
…もういいや、相手にするだけ馬鹿馬鹿しい。
「もういい、お前らの戯言に付き合う義理はない。行くぞルミア」
「小僧!邪魔だてする気か!?」
「上等だ!喧嘩売ったのはそっちだ!文句言うんじゃ…」
「仰せの通りに致します」
突然ルミアが立ち膝を着いて、頭を下げる。
「ルミア!?何言ってんだ!!」
「恐れ多くも陛下に仇なそうとした罪、この命をもって償います。ですからアイル君は!」
「ルミア!てめぇふざけんじゃ…ガッ!?」
「アイル君!」
「来い!」
突然後頭部に衝撃が走る。
柄で殴られたか…。
「ル…ミア…」
俺はただ、連れていかれるルミアに手を伸ばすことしか出来なかった。
「目を閉じ、動かぬ事だ。急所を外せば長く苦しむ事になる」
「…はい」
私は木に縛り付けられじっとその時を待った。
いつか来るとは思っていた。
私を処分すると決まる日が。
…ああ、きっと最後だから会いに来てくれたんだ。
あの日死ぬはずだった私が、3年も生きられたんだ。
素敵な思い出が沢山出来たし…だからこれで…。
でも…彼ともう会えないのは…やだな…。
「言ったろ。ふざけんなって」
え?聞こえないはずの彼の声がした。
その後、何かを殴る音が数回響いて、気づいたら縛っていた紐が切られていた。
恐る恐る目を開けると…
「…どう…して…」
「決まってんだろ。助けるためだ」
そこには親衛隊の人達を倒したアイル君が居た。
「何してるの?何したのか分かってるの!?」
私は自分でも珍しいと思うほど怒鳴った。
こんな事したら…アイル君は!?
「国家反逆罪だな。それが?」
「それがって!?」
「言ったろ?大切なものを失うのは嫌だって。ルミアもその1つなんだって」
そう言いながら、真っ直ぐ私を見る。
そうだ、この間もそうだった。
彼は自分の大切なものを守りたいから、戦った。
その中に私も入ってるんだって言ってくれた。
「アイル君…!」
ああ…嬉しいな…。
こんな状況、こんな事をさせてしまったアイル君に失礼かもしれないけど、それでも私は嬉しかった。
私なんかの事を大切に思ってくれている人がいる事が、嬉しくてたまらなかった。
「さてと、さっさとトンズラするか!」
「きゃあ!?」
突然私は彼にお姫様抱っこされた。
待って!これは恥ずかしい!///
「『三界の理・星の楔・律と理は我が手にあり』」
【グラビティ・タクト】を唱えてから一気に飛んで、市街地に逃げ込む。
屋根伝いに走りながら距離をとり、そのまま入り組んだ路地を駆け抜ける。
その間ずっと、私はお姫様抱っこされっぱなしだった。
「あ、アイル君?重くない?」
「全然。今魔術解いてるけど、全く重くないぞ?」
そう言いながら、笑顔を向けてくれるアイル君。
うぅ〜…やっぱり恥ずかしい///
私は思わず赤くなる顔を隠すために、首筋に抱きついてしまった。
っ!?お店の時と同じ、いい匂いがして余計ドキドキしてきちゃった…!///
「!?おいおい。甘えん坊か?困ったちゃんだな〜」
俺達はしばらく走って距離をとった。
「よし、この辺でいいか…降ろすぞ」
そう声をかけ、ルミアを優しく地面に降ろす。
「大丈夫?酔ったりしてないな?」
「だ、大丈夫だよ!?問題なし!…それよりここからどうしよう?」
「とりあえず、グレン先生に合流しよう。何か知ってるかもしれない…!?」
俺は気配がした方に振り返る。
そこには眠たそうな表情をした、小柄な女の子がいた。
いや、それよりあの服はまさか!?
「クソ!親衛隊の次は帝国宮廷魔導師団かよ!?」
しかもあれは爺さんと同じ特務分室!?
だとしたらまず勝てない!
ここは逃げる!
「ルミア!逃げるぞ!」
「アイル君!?後ろ!」
慌てて振り返ると、身の丈に合わないだろうデカさの大剣を構えている女の子がいた。
マジかよ!?慌てて結界を張り、防ぐ。
糸を織り交ぜて作った結界なので、仮に結界を破っても、糸そのものに防がれる。
「!?『万象に希う・我が腕に・剛毅なる刃を』」
糸の強度に押し負けて砕けた大剣を捨てて、すぐに新しい大剣を作っていた。
何て錬金術の使い方だ!?
ウィズダンが泣くぞ!?
その時、視界の端で何かが見えた。
そこには同じ服を着た青年がもう1人いた。
「!?マジかよ!?」
ただでさえ、女の子1人でもキッツイのに!?
これ以上は無理だぞ!?
そして、その動揺が命取りとなる。
「アイル君!?」
その隙を着いて、懐に入り込まれたのだ。
しかも同時に青年の指がこっちに指を向ける。
これはダメだと…思った瞬間
「待て!!リィエル!!」
グレン先生の声がしたのと同時に、青年の指が光り、女の子の後頭部に命中する。
「「…はい?」」
「何考えてんだこのおバカー!!」
「…グレン、痛い」
先生が女の子をグリグリしてる。
「あいつらは死ぬところだったんだ!」
「あの…先生?」
「状況は?ていうか、誰ですか?この人達は」
全くをもって状況が理解出来ん。
なんでもいいから説明してくれ。
「あ、ああ…すまん。こいつらは俺の帝国軍時代の同僚だ。宮廷魔導師団特務分室執行官、NO.17【星】のアルベルトと、No.7【戦車】のリィエル」
あの制服…やっぱり特務分室だったんだ…。
よく生きてるな俺。
「信頼出来るヤツらだから安心…出来るはずねぇか?」
「うん、アルベルト迂闊。街中で軍用魔術使うなんて」
「お前もだよ!お前も!」
またもや始まるグリグリ。
「どちらかと言うと、君の方が安心出来ないから…」
「遊んでる場合ではないぞ、お前達。アルタイルと言ったな、簡潔に現状を教えよう。親衛隊は現状女王陛下を監視下に置き、そこの元王女を暗殺する為、独断で行動している」
やっぱり裏があったか。
「何でそんな事に…。アルフォネア教授は?」
グレン先生に尋ねる。
アルフォネア教授がいれば大概のことは何とかなりそうだが、動いてないのか?
「そのセリカだが、『何としても女王陛下の前まで来い』それ一点張りだ。全くわからん」
先生が女王陛下の前に立つ事…。
先生の特徴、特技、その他諸々…。
「【愚者の世界】?」
「アルタイル、【愚者の世界】がどうした?」
ボソッと言ったな一言を、どうやらアルベルトさんには聞こえたらしい。
「いや、先生って言えば【愚者の世界】かなって…」
そう、先生の特技と言えば【愚者の世界】だ。
一定効果領域における魔術起動の完全封殺。
それは魔術師戦に置いて、絶大なアドバンテージを得ることになる。
そもそも起動できなくしてしまうなんて、使い所を間違えなければ、かなり強い…いや待て。
そうじゃない、そこじゃない。
1番見るべきは…魔術起動の完全封殺だ。
「先生。先生の【愚者の世界】ってどこまで効くんです?」
「は?何だ突然」
「例えば、【
「魔術罠は起動済みにカウントされるから無理だ。条件起動式なら…!!そうか!そういう事か!!」
「…なるほど。それなら納得が行く」
「?」
「えっと…どういう事でしょうか?」
…まさか本当にそういう事なの?
「そうなると、一つだけ必須条件があるぞ、グレン」
「分かってる。…2組の優勝だな?」
「んー、でも囮も必要ですよね?」
「それは俺とリィエルで引きつけよう。グレンと王女は俺達と入れ替わりだ」
「え?俺じゃないの?」
「おそらく、お前よりグレンの方に注意が向いている可能性は高い」
「要はまだ舐められてると…腹立つけど今はそれを利用してやりますよ」
「その意気だアルタイル。お前は俺達とあいつらの橋渡しを頼むぞ」
「了解」
こうして俺達の反撃作戦が始まった。
これが吉と出るか凶と出るか。
それは蓋を開けてみないと分からない。
言える事は、既に賽は投げられたという事だ。
ありがとうございました。
アルタイルは結構短気です。
怒ると口は悪くなり、手も早いです 。
それでは失礼します。