よろしくお願いします。
「褒めてあげましょう、アベル。貴方は私の古き知己にして、同盟者たる大導師様を除けば、人の身で初めて我が正体の一端に触れた、人類初の人間です。故に理解したでしょう?人の身では、私には叶わないと」
「ッ!?」
廃都メルガリウス。
何回もの地殻変動によって、かつて【嘆きの塔】と呼ばれたものの一部が、古代遺跡として残っている。
アルベルトとパウエルは、この地にて、密かな決戦を行っていた。
パウエルの目的は【Project:Frame of Megiddo】…つまり、【メギドの火】である。
そして、それを阻止すべく…あるいは、かつての復讐を果たす為に、アルベルトはここに立っている。
しかし、敵の正体があまりにも強大すぎた。
その現実に、勝機をまるで感じられずにいたのだった。
「さあ、アベル。今こそあの【青い鍵】を使う時です」
「…あの鍵ならば、破壊した。それにあっても使わない。俺は人間だ。貴様のような怪物にはならん」
その時、パウエルが不思議そうに問いかける。
「ほう、この状況でそう言い切る胆力、見事と言いましょう。ですが…
アルベルトは呆然として、左手に
それを確かめると…そこには【
「馬鹿な…!?俺はあの時…たしかに…!」
「その鍵は資格ある者の手から、決して離れる事はありません。資格とはもちろん、適性や能力等も含まれますが…何より大事なのは、
「…求め…?」
「そう、貴方は人の身では私に勝てないと、本能的に悟った。その時、心のどこか奥底で、その【青い鍵】の力を求めた。故に、貴方の手にその鍵があるのです。…さあ、アベル!私が憎いのでしょう!ならば、その鍵を使うべきなのです!」
アルベルトは穴が空くのでは、という程、鍵を見つめる。
パウエルの言う通り、おそらくこの鍵の力が必要になるだろう。
人のままでは勝てない…おそらく、そうだろう。
人をやめるしかない…おそらく、そうだろう。
「…」
しばらく見つめ続けたアルベルトは、やがてその【青い鍵】を…
バキンッ!
粉々に握りつぶした。
「…俺には、こんな鍵は要らん。続行だ、パウエル」
そのままアルベルトは再び、パウエルに挑もうとした時
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ッ!?」
白い閃光が、アルベルト目掛けて落ちてくる。
その正体は
「気に入らない…気に入らないは…アルベルト=フレイザー!!」
【戦天使】ルナ=フレアーだった。
「何よ、偉そうな事言ったかと思えば!貴方も私と同じ復讐鬼じゃない!」
そのままアルベルトに襲いかかるルナを見て、パウエルは楽しそうに笑う。
「はっはっは!まさかこのような場面に、貴女が来るとは思いませんでしたよ、ルナ。さて…本来なら、さっさと目的を果たすべきなのでしょうが、せっかく役者な揃ったです。この舞台に、相応しい演出を用意しましょう」
そう言ってパウエルが召喚したのは、2体の大悪魔。
これまで出てきた悪魔とは、明らかに桁が違う。
その悪魔の姿を見て、アルベルトとルナは動きを止める。
「【葬姫】アイシャール…アリア…」
「チェイス…チェイスなの…!?」
アルベルトの最愛の姉、アリアが変貌を遂げた六魔王が一柱、【葬姫】アイシャール。
ルナの最愛の友、チェイスが変貌を遂げた六魔王が一柱、【黒剣の魔王】メイヴェル。
「いかがでしょう、これが我が悪魔召喚術の到達点」
あまりの絶望が、彼らの前に立ちはだかった。
唐突に始まった、大悪魔との神話の再現。
しかしルナには、最早戦う意思は無く、ただメイヴェルが放つ、黒い炎に焼かれるだけだった。
(もう…いいや…)
心が折れ、何もかもを諦めた彼女は、ただその炎に身を任せるだけだった。
そんな彼女に、メイヴェルが剣を振りかぶり、斬り掛かる。
ドォン!
そんなメイヴェルの胸元に突き刺さる、アルベルトの貫手。
よく見ると、その向こうで燃えて朽ちていくアイシャール。
そのままアルベルトは【
そして呆然としているルナを
パアァァァン!!!
全力でビンタするのだった。
「いい加減にしろ!!!あれはお前の親友では無い!!!ただの悪魔だ!!!!!」
「…ッ!?」
そう言いきって、ルナを捨てて背を向け、パウエルと向き合う。
「茶番は終わりだ。行くぞ、パウエル」
「…そうですね。まさか今の貴方が相手では、あれらも片手で捻られるとは」
そう呟いて、パウエルが幾体もの悪魔を召喚する。
その様相は、まさにサバト。
「…心せよ、人の子よ。人では理解出来ぬ闇の深淵があると知るがいい」
その言葉をアルベルトは無視して、この地獄の具現に、真正面から挑む。
1歩も引かず、ただ前に進む。
あらゆる悪魔を祓い、ただ前に進む。
そのアルベルトの顔を見た時、ルナはある事に気づいていた。
それは…アルベルトの右目、【
(…どうして、そうも強くいられるの?)
ルナはそんなアルベルトが、不思議で仕方がなかった。
どれだけ傷ついても、どれだけの絶望を見せられても、ただひたすらに前に進むアルベルトが、不思議で仕方がなかった。
「チィィィィ!」
アルベルトが死に物狂いでかせいだ距離が、一瞬で押し戻された。
それでも尚、立ち上がり前を睨む。
「…なんで?」
ポタリと呟かれた一言に、アルベルトの足が止まる。
「なんで…どうして貴方は、諦めないの!?勝てっこない!敵う訳ない!なのにどうして!?どうして戦えるの!?…そこまでして、あの男に復讐したいの!?」
そんなルナの絶望の叫びに、アルベルトは静かに答えた。
「復讐の為では無い。…託されたからだ」
ーーああ、そん時は俺を呼べ。
ーーけっ。俺とお前の2人なら、どんな絶望的な状況でも、ちっとはマシになるだろうよ。
ーー1人で背負うな。
アルベルトが思い出すのは、ある男の言葉。
そして、ある少年の背中。
傷つき、それでも必死に藻掻くその姿は、とても尊かった。
それにもしあの男がいたら、きっとこう言うだろう。
ーーこの程度の苦境で甘ったれるな、と。
ならば、アルベルトもまた、この程度乗り越えられなければならない。
あの男が信じてくれたのだから。
「ルナ=フレアー。たしかに俺は、お前と同じ復讐鬼だ。だが、それだけで戦ってはいない。そうであったら、きっと今のお前のように膝を折っていただろう。この【青い鍵】を己に刺しこんでいただろう」
そう言いながら、アルベルトは何度壊しても現れる【青い鍵】を、ルナに見せる。
「ある友の背中が教えてくれた。ある少年の背中が示してくれた。いかなる絶望にも屈せず、己の大切なものを守り抜く…本当の強さを」
「…」
ルナの脳裏をよぎる、1人の少年。
彼は
「…俺はお前のことを、書類上でしか知らない。だが、お前がただ力を求め、溺れた者では無いことは分かる。だから…お前もかつては、そうでは無かったのか?
「ッ!?」
その時ルナの脳裏に、かつての仲間達が浮かぶ。
死んで行った彼らから、託されたのだ。
自らの意思で受け取ったのだ。
だから力を求めた…天使になった。
だが、周りから怪物扱いされるあまり。
アルタイル=エステレラの、あまりにも青臭く、愚直な真っ直ぐさが、眩しすぎたあまり。
パウエル=フューネの、底知れぬ邪悪さと復讐の炎に燃えるあまり。
そんな根底的な事を忘れてしまっていた。
ルナが顔をあげれば、既にアルベルトが悪魔の群れに突っ込んでいる。
「気に入らない…!気に入らないわ…!帝国の連中は…!」
そう言って、力が入りだした体に生える、6枚3対の翼を羽ばたかせ。
「ハァァァァァァァァァア!!!」
「ッ!?」
その隙を【黒剣の魔王】メイヴェル…つまりは、チェイスが襲いかかるが
「邪魔ッ!!!」
振り向きざまの一撃が、メイヴェルを欠片も残さず消し飛ばず。
「…ついてきなさい!帝国男!あのクソジジイまでの道は、私が敷いてあげるわ!!!」
そうしてアルベルトとルナの、決死の突撃が始まる。
刻まれていくダメージを無視して、ひたすら駆け抜ける。
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」
駆け抜け、駆け抜け、駆け抜け続けて…やがて…
ザシュ!
「ガハッ!?」
フェロードの杖が、アルタイルの脇腹を貫く。
「この…!『吠えよ炎獅子』!『吠えろ』!『吠えろ』!」
「『■■■』」
「ッ!?『金色の雷獣よ・地を疾く駆けよ・天に舞って踊れ』!」
「『■■■』…おや?勢いが弱まってきたよ?」
アルタイル&ルミアVSフェロード&レ=ファリア。
この戦いもまた、終わりが見えだした。
…アルタイル達の敗北、という形で。
「ゲボッ!ゲホッ!…ゴホッ!?」
ルミアから
その手には血が付いてきた。
「アイル君!!」
「…やれやれ、やっと限界が来たのか。かなり頑張ったね」
パチパチパチ。
薄気味悪い笑顔を貼り付け、アルタイルに拍手を送るフェロード。
「…あぁ?」
「あれだけの全力の魔術行使に、あれだけ受けた僕の
要するに、この戦いにアルタイルの肉体が、追いつかなくなったのだ。
フェロードの
その全てが相当量のマナを使っていた。
それを可能にしていたのが、ルミアの【
「さてと…そろそろ終わらせよう。『■■■』」
フェロードの
「ッ!フッ!」
アルタイルは負けじと、結界で防ぐも、少しずつ
その結界がひび割れていく。
「アイル君!」
ルミアが【銀の鍵】で、空間を歪めて守ろうとするも
〖させないわよ〗
レ=ファリアの【銀の鍵】がその空間の歪みを、戻してしまう。
そしてついに、フェロードの雷が結界を破り、2人を貫いた。
「ガアァァァァァァ!!!?」
「キャァァァァァァ!!!?」
2人とも、雷に撃たれて倒れてしまう。
そんな様子を、疲れきった顔で見つめるフェロード。
〖マスター大丈夫?〗
「やれやれ…ここまで手こずらされるとは、思わなかったよ。…本当によく頑張ったけど、僕達の方が上だったね」
そう言って、2人に背を向けるフェロードとレ=ファリア。
ザリッ。
「〖ッ!?〗」
土を削る音が聞こえ、慌てて2人が振り返ると。
「痛ってぇ…あぁぁ…!」
「フー…!」
アルタイルとルミアが、再び立ち上がろうとしていた。
ルミアは痺れからか、手足を震わせていて。
アルタイルはそれに加え、更に酷い怪我をしており、身体中…特に脇腹から血を吹き出しながら。
それでも2人とも立ち上がり、睨みつけている。
その気迫に、フェロード達は後ずさる。
〖い、意味分かんない…!?なんなのあんた達!?一体何なのよ!?〗
「一体なんだ…?何が君達にそうさせるんだ…?」
それは奇しくも、【メルガリウスの魔法使い】のラストに酷似していた。
「簡単だよ、レ=ファリア。私達には…守りたいものが、沢山あるの。それらを思えば、不思議と力が湧いてくるの!」
「大切なものがあって、大切な人がいる。その人達が命を懸けて戦っている。だったら…俺達も戦わないといけないんだ…!」
(そうだろ…アルベルトさん)
その返事は、確固たる決意に満ち溢れていた。
「…行こう、ルミア」
「うん。…最後まで、一緒に」
アルタイルは何度かの、特攻を仕掛ける。
その何度倒れても消えない光に
〖マスター!!〗
「レ=ファリア!!うぉぉぉぉぉ!!!」
フェロード達も必死に抵抗する。
幾度ともなく繰り返される戦い。
明らかに追い詰められいるのは、アルタイルだ。
しかし、実際に追い詰められているのは、フェロード達だった。