ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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フィジテ防衛戦編第6話

「褒めてあげましょう、アベル。貴方は私の古き知己にして、同盟者たる大導師様を除けば、人の身で初めて我が正体の一端に触れた、人類初の人間です。故に理解したでしょう?人の身では、私には叶わないと」

 

「ッ!?」

 

廃都メルガリウス。

何回もの地殻変動によって、かつて【嘆きの塔】と呼ばれたものの一部が、古代遺跡として残っている。

アルベルトとパウエルは、この地にて、密かな決戦を行っていた。

パウエルの目的は【Project:Frame of Megiddo】…つまり、【メギドの火】である。

そして、それを阻止すべく…あるいは、かつての復讐を果たす為に、アルベルトはここに立っている。

しかし、敵の正体があまりにも強大すぎた。

その現実に、勝機をまるで感じられずにいたのだった。

 

「さあ、アベル。今こそあの【青い鍵】を使う時です」

 

「…あの鍵ならば、破壊した。それにあっても使わない。俺は人間だ。貴様のような怪物にはならん」

 

その時、パウエルが不思議そうに問いかける。

 

「ほう、この状況でそう言い切る胆力、見事と言いましょう。ですが…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

アルベルトは呆然として、左手に()()()()事に気づく。

それを確かめると…そこには【()()()】が握られていた。

 

「馬鹿な…!?俺はあの時…たしかに…!」

 

「その鍵は資格ある者の手から、決して離れる事はありません。資格とはもちろん、適性や能力等も含まれますが…何より大事なのは、()()()()()です」

 

「…求め…?」

 

「そう、貴方は人の身では私に勝てないと、本能的に悟った。その時、心のどこか奥底で、その【青い鍵】の力を求めた。故に、貴方の手にその鍵があるのです。…さあ、アベル!私が憎いのでしょう!ならば、その鍵を使うべきなのです!」

 

アルベルトは穴が空くのでは、という程、鍵を見つめる。

パウエルの言う通り、おそらくこの鍵の力が必要になるだろう。

人のままでは勝てない…おそらく、そうだろう。

人をやめるしかない…おそらく、そうだろう。

 

「…」

 

しばらく見つめ続けたアルベルトは、やがてその【青い鍵】を…

 

バキンッ!

 

粉々に握りつぶした。

 

「…俺には、こんな鍵は要らん。続行だ、パウエル」

 

そのままアルベルトは再び、パウエルに挑もうとした時

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ッ!?」

 

白い閃光が、アルベルト目掛けて落ちてくる。

その正体は

 

「気に入らない…気に入らないは…アルベルト=フレイザー!!」

 

【戦天使】ルナ=フレアーだった。

 

「何よ、偉そうな事言ったかと思えば!貴方も私と同じ復讐鬼じゃない!」

 

そのままアルベルトに襲いかかるルナを見て、パウエルは楽しそうに笑う。

 

「はっはっは!まさかこのような場面に、貴女が来るとは思いませんでしたよ、ルナ。さて…本来なら、さっさと目的を果たすべきなのでしょうが、せっかく役者な揃ったです。この舞台に、相応しい演出を用意しましょう」

 

そう言ってパウエルが召喚したのは、2体の大悪魔。

これまで出てきた悪魔とは、明らかに桁が違う。

その悪魔の姿を見て、アルベルトとルナは動きを止める。

 

「【葬姫】アイシャール…アリア…」

 

「チェイス…チェイスなの…!?」

 

アルベルトの最愛の姉、アリアが変貌を遂げた六魔王が一柱、【葬姫】アイシャール。

ルナの最愛の友、チェイスが変貌を遂げた六魔王が一柱、【黒剣の魔王】メイヴェル。

 

「いかがでしょう、これが我が悪魔召喚術の到達点」

 

あまりの絶望が、彼らの前に立ちはだかった。

 

 

唐突に始まった、大悪魔との神話の再現。

しかしルナには、最早戦う意思は無く、ただメイヴェルが放つ、黒い炎に焼かれるだけだった。

 

(もう…いいや…)

 

心が折れ、何もかもを諦めた彼女は、ただその炎に身を任せるだけだった。

そんな彼女に、メイヴェルが剣を振りかぶり、斬り掛かる。

 

ドォン!

 

そんなメイヴェルの胸元に突き刺さる、アルベルトの貫手。

よく見ると、その向こうで燃えて朽ちていくアイシャール。

そのままアルベルトは【選理眼(リアライザー)】で見抜いて、メイヴェルを祓うのだった。

そして呆然としているルナを

 

パアァァァン!!!

 

全力でビンタするのだった。

 

「いい加減にしろ!!!あれはお前の親友では無い!!!ただの悪魔だ!!!!!」

 

「…ッ!?」

 

そう言いきって、ルナを捨てて背を向け、パウエルと向き合う。

 

「茶番は終わりだ。行くぞ、パウエル」

 

「…そうですね。まさか今の貴方が相手では、あれらも片手で捻られるとは」

 

そう呟いて、パウエルが幾体もの悪魔を召喚する。

その様相は、まさにサバト。

 

「…心せよ、人の子よ。人では理解出来ぬ闇の深淵があると知るがいい」

 

その言葉をアルベルトは無視して、この地獄の具現に、真正面から挑む。

1歩も引かず、ただ前に進む。

あらゆる悪魔を祓い、ただ前に進む。

そのアルベルトの顔を見た時、ルナはある事に気づいていた。

それは…アルベルトの右目、【選理眼(リアライザー)】がある目から、一筋の血の涙が流れていたこと。

 

(…どうして、そうも強くいられるの?)

 

ルナはそんなアルベルトが、不思議で仕方がなかった。

どれだけ傷ついても、どれだけの絶望を見せられても、ただひたすらに前に進むアルベルトが、不思議で仕方がなかった。

 

「チィィィィ!」

 

アルベルトが死に物狂いでかせいだ距離が、一瞬で押し戻された。

それでも尚、立ち上がり前を睨む。

 

「…なんで?」

 

ポタリと呟かれた一言に、アルベルトの足が止まる。

 

「なんで…どうして貴方は、諦めないの!?勝てっこない!敵う訳ない!なのにどうして!?どうして戦えるの!?…そこまでして、あの男に復讐したいの!?」

 

そんなルナの絶望の叫びに、アルベルトは静かに答えた。

 

「復讐の為では無い。…託されたからだ」

 

ーーああ、そん時は俺を呼べ。

ーーけっ。俺とお前の2人なら、どんな絶望的な状況でも、ちっとはマシになるだろうよ。

ーー1人で背負うな。

 

アルベルトが思い出すのは、ある男の言葉。

そして、ある少年の背中。

傷つき、それでも必死に藻掻くその姿は、とても尊かった。

それにもしあの男がいたら、きっとこう言うだろう。

 

ーーこの程度の苦境で甘ったれるな、と。

 

ならば、アルベルトもまた、この程度乗り越えられなければならない。

あの男が信じてくれたのだから。

 

「ルナ=フレアー。たしかに俺は、お前と同じ復讐鬼だ。だが、それだけで戦ってはいない。そうであったら、きっと今のお前のように膝を折っていただろう。この【青い鍵】を己に刺しこんでいただろう」

 

そう言いながら、アルベルトは何度壊しても現れる【青い鍵】を、ルナに見せる。

 

「ある友の背中が教えてくれた。ある少年の背中が示してくれた。いかなる絶望にも屈せず、己の大切なものを守り抜く…本当の強さを」

 

「…」

 

ルナの脳裏をよぎる、1人の少年。

彼は戦天使(ルナ=フレアー)という、圧倒的強者に退くことなく挑み、敗北を覆した。

 

「…俺はお前のことを、書類上でしか知らない。だが、お前がただ力を求め、溺れた者では無いことは分かる。だから…お前もかつては、そうでは無かったのか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ!?」

 

その時ルナの脳裏に、かつての仲間達が浮かぶ。

死んで行った彼らから、託されたのだ。

自らの意思で受け取ったのだ。

だから力を求めた…天使になった。

だが、周りから怪物扱いされるあまり。

アルタイル=エステレラの、あまりにも青臭く、愚直な真っ直ぐさが、眩しすぎたあまり。

パウエル=フューネの、底知れぬ邪悪さと復讐の炎に燃えるあまり。

そんな根底的な事を忘れてしまっていた。

ルナが顔をあげれば、既にアルベルトが悪魔の群れに突っ込んでいる。

 

「気に入らない…!気に入らないわ…!帝国の連中は…!」

 

そう言って、力が入りだした体に生える、6枚3対の翼を羽ばたかせ。

 

「ハァァァァァァァァァア!!!」

 

「ッ!?」

 

法力剣(フォース·セイバー)で、悪魔達を根こそぎ薙ぎ払った。

その隙を【黒剣の魔王】メイヴェル…つまりは、チェイスが襲いかかるが

 

「邪魔ッ!!!」

 

振り向きざまの一撃が、メイヴェルを欠片も残さず消し飛ばず。

 

「…ついてきなさい!帝国男!あのクソジジイまでの道は、私が敷いてあげるわ!!!」

 

そうしてアルベルトとルナの、決死の突撃が始まる。

刻まれていくダメージを無視して、ひたすら駆け抜ける。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」

 

駆け抜け、駆け抜け、駆け抜け続けて…やがて…

 

 

 

 

 

 

 

ザシュ!

 

「ガハッ!?」

 

フェロードの杖が、アルタイルの脇腹を貫く。

 

「この…!『吠えよ炎獅子』!『吠えろ』!『吠えろ』!」

 

「『■■■』」

 

「ッ!?『金色の雷獣よ・地を疾く駆けよ・天に舞って踊れ』!」

 

「『■■■』…おや?勢いが弱まってきたよ?」

 

アルタイル&ルミアVSフェロード&レ=ファリア。

この戦いもまた、終わりが見えだした。

…アルタイル達の敗北、という形で。

 

「ゲボッ!ゲホッ!…ゴホッ!?」

 

ルミアから法医呪文(ヒーラー·スペル)を受けながら、アルタイルが抑えた口元。

その手には血が付いてきた。

 

「アイル君!!」

 

「…やれやれ、やっと限界が来たのか。かなり頑張ったね」

 

パチパチパチ。

薄気味悪い笑顔を貼り付け、アルタイルに拍手を送るフェロード。

 

「…あぁ?」

 

「あれだけの全力の魔術行使に、あれだけ受けた僕の古代魔術(エンシャント)でのダメージ。そして、先程の攻撃。本来ならとっくに倒れていてもおかしくなかった。しかしそれを可能にしたのが【王者の法(アルス·マグナ)】。しかしそれを以てしても…いや、だからこそ、肉体が限界を迎えたんだよ」

 

要するに、この戦いにアルタイルの肉体が、追いつかなくなったのだ。

古代魔術(エンシャント)を貫くのに、全力の攻性呪文(アサルト·スペル)

古代魔術(エンシャント)から守るのに、全力の結界術。

フェロードの空天神秘(切り札)に対抗すべく使用する、アルタイル達の空天神秘(切り札)

その全てが相当量のマナを使っていた。

それを可能にしていたのが、ルミアの【王者の法(アルス·マグナ)】なのだが、その強化されたマナ効率に、肉体が耐えきれなくなったのだ。

 

「さてと…そろそろ終わらせよう。『■■■』」

 

フェロードの古代魔術(エンシャント)によって、一筋の雷が落ちてくる。

 

「ッ!フッ!」

 

アルタイルは負けじと、結界で防ぐも、少しずつ

その結界がひび割れていく。

 

「アイル君!」

 

ルミアが【銀の鍵】で、空間を歪めて守ろうとするも

 

〖させないわよ〗

 

レ=ファリアの【銀の鍵】がその空間の歪みを、戻してしまう。

そしてついに、フェロードの雷が結界を破り、2人を貫いた。

 

「ガアァァァァァァ!!!?」

 

「キャァァァァァァ!!!?」

 

2人とも、雷に撃たれて倒れてしまう。

そんな様子を、疲れきった顔で見つめるフェロード。

 

〖マスター大丈夫?〗

 

「やれやれ…ここまで手こずらされるとは、思わなかったよ。…本当によく頑張ったけど、僕達の方が上だったね」

 

そう言って、2人に背を向けるフェロードとレ=ファリア。

 

ザリッ。

 

「〖ッ!?〗」

 

土を削る音が聞こえ、慌てて2人が振り返ると。

 

「痛ってぇ…あぁぁ…!」

 

「フー…!」

 

アルタイルとルミアが、再び立ち上がろうとしていた。

ルミアは痺れからか、手足を震わせていて。

アルタイルはそれに加え、更に酷い怪我をしており、身体中…特に脇腹から血を吹き出しながら。

それでも2人とも立ち上がり、睨みつけている。

その気迫に、フェロード達は後ずさる。

 

〖い、意味分かんない…!?なんなのあんた達!?一体何なのよ!?〗

 

「一体なんだ…?何が君達にそうさせるんだ…?」

 

それは奇しくも、【メルガリウスの魔法使い】のラストに酷似していた。

 

「簡単だよ、レ=ファリア。私達には…守りたいものが、沢山あるの。それらを思えば、不思議と力が湧いてくるの!」

 

「大切なものがあって、大切な人がいる。その人達が命を懸けて戦っている。だったら…俺達も戦わないといけないんだ…!」

 

(そうだろ…アルベルトさん)

 

その返事は、確固たる決意に満ち溢れていた。

 

「…行こう、ルミア」

 

「うん。…最後まで、一緒に」

 

アルタイルは何度かの、特攻を仕掛ける。

その何度倒れても消えない光に

 

〖マスター!!〗

 

「レ=ファリア!!うぉぉぉぉぉ!!!」

 

フェロード達も必死に抵抗する。

幾度ともなく繰り返される戦い。

明らかに追い詰められいるのは、アルタイルだ。

しかし、実際に追い詰められているのは、フェロード達だった。

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