ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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22巻…まだですかね…?
それではよろしくお願いします。


フィジテ防衛戦編第8話

「はァァァァァァ!!!」

 

「ギャアァァァァァァァァ!!!」

 

イヴの気迫の咆哮と、エレノアの絶叫が響き渡る。

【無間大煉獄真紅·七園】。

イグナイト最大の秘術を以て、エレノアを何回も消し炭にしていく。

しかしそれを以てしても尚、エレノアを殺し切るにはまだ足りない。

 

「ヒャハハハハハハハ!!素晴らしいですわ、イヴ様!まさかこのような切り札をご用意してるとは!」

 

イヴはエレノアを焼きながら、何が足りないかを考える。

 

(熱量…私の炎の熱量を上げないと…!もっと!もっと!!)

 

ではどこまで?

そう思った時、イヴはある事を思い出す。

それはこの【無間大煉獄真紅·七園】を会得した時、リディアから奪った方陣に自身の魔力を乗せて、干渉作用を引き起こし…一瞬、無限熱量に至ったことを。

 

(これだ…!これしかない!でも、どうやって!?)

 

「しかし…イヴ様」

 

思考に溺れるイヴの耳に、真紅の世界のど真ん中で燃やされ続ける、エレノアの声が聞こえる。

 

「随分と景気よく焼いてますが…まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう言ってエレノアが取りだしたのは…縦半分に割れた、【赤黒い鍵】だった。

 

(マズイ…!?)

 

しかしイヴに止める手段はなく。

最後の魔将星が、君臨したのだった。

 

「クッ…!?」

 

イヴが鋭く睨む先にいるのは、エレノアだった何か。

倍近く大きくなった体躯に、異様に長い手足。

髑髏のような顔つきに、骨の翼、襤褸法服。

そしてバカにみたいにデカい大鎌。

何よりも…さっきまでとは桁違いの魔力。

 

「どうする…!?」

 

イヴがその圧倒的な差に、どうすべきかと策を練っているところに。

 

「イヴさん!」

 

「おうおう!いよいよ佳境といったところじゃのう!」

 

「室長!加勢します!」

 

クリストフ、バーナード、エルザの特務分室が。

さらにクロウ、ベア等第一室が。

 

「閣下をお守りしろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

その他帝国軍兵士の生き残り達が、イヴの元に集った。

 

「みんな!?」

 

「外道魔術師達は、全員撃破しました!」

 

「浮いた兵士や学徒兵達で、再び部隊を再編成して、要所を守ってるところだ!」

 

皆どこか希望に満ちた目をしているが、イヴは苦い顔を隠せずにいた。

 

(こいつを殺るの…!?75662回も!?)

 

魔将星と戦うには、ルミアの【王者の法(アルス·マグナ)】が不可欠だ。

もしくは切り札となる、グレンの【愚者の一刺し(ペネトレイター)】か、アルタイルの【果てへと手向ける彼岸の槍(アリアドネ·リコリス)】だ。

 

(いや、あの2つでも、70000回以上はキツい…!)

 

イヴがどうすべきが、考えていると

 

〖あらあら…私以外は皆殺られたようですわね…まあいいですわ。もとより私1人がいればいいのですから!!〗

 

そう言ってエレノアが骨の翼を広げて赤黒い瘴気を撒き散らす。

 

ゾクリっ。

 

背筋に走る、濃密な死の気配。

イヴは直感なままに、炎壁を展開する。

結果として、その勘は正解だった。

その瘴気に触れたものが次々と朽ちていく。

それはもちろん、人も例外ではない。

 

「「「ギャアァァァァァァ!!!!?」」」

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」」」

 

集まった兵が次々と朽ち果てていく。

 

「火よ!!!火を使いなさい!!!!…火を使えぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

イヴの咄嗟の命令に従えたのは、特務分室や第一室などごく一部の上級将官達だ。

 

〖フフフ…流石イヴ様…。一目で看破なさいましたか…。私の瘴気は血で出来ています。そして…更なる絶望を、ご覧にいれましょう〗

 

そう言って、ハ=デッサが手を広げ、呪文を唱える。

それは…まだエレノアだった時使っていた、()()()()()()だった。

 

「まさか…有り得ない…!?」

 

〖『有り得ない』?はて、何故でしょう?この子達は、私の平行世界の私。つまり…〗

 

現れたのは、ハ=デッサと化した、エレノア達だった。

 

〖ここで鍵を受け入れたということは、()()()()()()()()()()()()()()…ということですわ〗

 

何体ものエレノアが上空に飛び、上からフィジテを蹂躙する。

 

「これが…大導師の策か…!?」

 

イヴが唇を噛み締める。

ただでさえ激戦必至の魔将星戦。

それが70000回以上。

流石に本体以外は、幾分型落ちらしいが、文字通り()()()()()()()

エレノアの前に立つ兵士達が、それを遠くから自身の戦いをしながらも見ている兵士や学徒兵達が、絶望する中。

 

 

 

 

「詰み…かねぇ」

 

学院の貴賓室。

そこで、戦いの行く末を見守っていた、ルチアーノ卿が空になったグラスを置き、呟く。

隣のエドワルド卿やリック学院長もまた、悔しげに俯く。

 

「…まだです」

 

そんな敗北ムードの中、待ったをかけたのは

 

「まだ…終わってません!まだ兄様も!姉様も戦っています!あの2人は、決して諦めません!!」

 

ベガだった。

幼い少女は、手を震わせながら、それでも兄と姉の勝利を願っている。

…いや、信じている。

 

「そうだな。わしの孫達は、決して力には屈さん。最後まで、戦い抜いて死ぬ。そういう孫達じゃ」

 

エンダースもまた、そう信じて呟き、隣に座る妻もまた、静かに頷く。

 

「そうですね。2人の言う通りです。あの子達は…この程度で屈するような、弱い子ではありません」

 

アリシア七世が毅然と言い放ち、戦いの趨勢を見守る。

 

 

誰もが膝を屈し、真なる絶望に沈む時。

それでも尚、諦めず立ち続ける者。

人々はそういう者達を…英雄と呼ぶ。

 

 

轟!

 

蒼天を焼き尽くさんと、イヴの操る炎が、エレノアを焼く。

 

眷属秘術(シークレット)【第七園】!領域再編完了!」

 

〖やれやれ…これは驚きました。イヴ様は一体?まだ、諦めていないと?聡明な貴女なら…〗

 

「シィィィィィィィィィィィ!!!」

 

先程より更に上がっている熱量で、次々と焼き払う。

その輝きは、この絶望の中にあって、なんとも…

 

「美しい…」

 

誰もがその美しさに見蕩れている中、イヴは叫ぶ。

 

「臆するな!!抵抗しろ!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

「座して死ぬな!!務めを果たせ!!勝利の女神は、自ら膝を屈した者には微笑まない!!戦え!!戦って死ね!!それでも心が萎えた者は、我が火を見よ!!打ちひしがれた者は、我が熱を感じよ!!私の…私達の魂は、命は、まだ燃えている!!この炎が消えない限り…貴方達に…我々、帝国軍に敗北はない!!そして約束する!!私は、最後の最後まで燃える!!皆を照らす、輝く灯火になる!!」

 

そしてイヴは、巨大な火球を生み出す。

その輝きは、まさに日輪の如し。

 

「さあ、同士諸君!!!今こそ、貴方達の魂の炎を燃やす時!!!貴方達が絶望と苦難に挑む先には、私がいる!!!…私に続けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

そしてその火球を、エレノアにぶつけ、灰まで焼き尽くす。

その爆煙が狼煙となり…

 

「「「「「「「「「オォォオオオオオオオオオ!!!!!!」」」」」」」」」

 

全軍の士気を取り戻させたのだった。

 

 

 

 

「『■■■』!」

 

「フッ!」

 

フェロードの魔術と、アルタイルの結界が衝突して…フェロードの魔術が防ぎ切られる。

 

〖キエロォォォォォ!〗

 

「この…!」

 

レ=ファリアの空間断裂を、ルミアは自身の鍵で守る。

 

「何故…何故だァァァァァァァ!!!?」

 

「うるせぇよ…!黙ってろぉぉぉ!!!」

 

謎の焦りを感じ、責め立てるフェロード&レ=ファリア。

何度倒れても立ち上がり、責め立てるアルタイル&ルミア。

こちらの戦いも、終幕が近づいていた。

 

 

 

 

 

(もっと…もっと…熱く!)

 

イヴは炎を振るいながら、【第七園】を振るい続ける。

イヴの脳裏に浮かぶ、リディアとの一騎打ち。

あの時、イヴの炎はほんの一瞬だが、無限熱量に至ったのだ。

そのままのめり込んでいき、炎の質が変わる。

究極、魔術とは己の心を突き詰めるもの。

 

「ハアァァァァァァァァァ!!!」

 

紅く輝くその炎を、まさに変幻自在に操るイヴ。

そしてやがて、誰かの記憶に辿り着く。

恐らくそれが、イグナイトの始まり。

そしてその視界には、あの男の背中が映っていた。

 

(ッ!?全く…貴方って人は、つくづく…!…ねぇ、私、貴方みたいになれてるかしら、グレン?貴方達に、自慢できる姉になれてるかしら…アルタイル、ベガ?)

 

〖アァァァァァァァァァア!!!〗

 

「たあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ゴォォォォォォォン!!!

 

エレノアの大鎌と、イヴの炎がぶつかる。

 

〖本気で勝てると思っているのですか!!後75000回以上あるのですよ!!〗

 

「勝つのよ!絶対に!その答えは…私の血の中にあったわ!!!」

 

イヴはここまで心を熱くしながらも、頭の中は至って冷静だった。

それ故に辿り着いた答え。

 

(あの時…無限熱量に至ったのは、偶然じゃない!その答えは、過去にあった!そして今…掴みかけてる!他でもない、私が!!!)

 

最早、小賢しい小手先の技術はいらない。

必要なのは、魂、意思、心の在り方。

つまり…己と向き合うこと。

どんどんと熱量を上げていくイヴ。

後数秒で完成する…しかしその時。

 

「ゴホッ!?」

 

ついに訪れる限界…マナ欠乏症。

その隙を、エレノアは逃さない。

 

「誰か!イヴの援護を…!」

 

〖とりましたわ…!〗

 

仲間達より早く、エレノアが懐に入り込み切り裂こうとした…その直前。

 

⦅『動くなァァァァァァァァ』!!!!!!⦆

 

幼い少女の魂の叫びが、エレノアを縛り付ける。

 

「ッ!?ベガ!!!?」

 

正体は、ベガの【言霊】だ。

イヴが持っているお守りを介して、【言霊】を以て、エレノアの動きを止めたのだ。

しかし…相手が悪かった。

相手がただのエレノアだったら、良かっただろう。

しかし、今のエレノアは魔将星だ。

 

〖この程度…ガアァァァァァァァァ!!!〗

 

ベガの全身全霊の【言霊】でも、止められたのは一瞬だけ。

 

ザクッ!!!

 

その勢いのまま、エレノアはイヴを切り裂いた。

 

(勝った…!これで…希望は潰えた…!)

 

…という、()()()()

 

〖なッ!?〗

 

気づけばエレノアは、まったく明後日の方向に鎌を振るっていた。

 

「…固有魔術(オリジナル)月読ノ揺リ籃(ムーン·クレイドル)】。効くと思った。あのクソ親父と違って、人としての性質を多く残した魔人だったから。…まあ、その子のお陰で、間に合ったんだけど」

 

気づけばイヴの目の前に、赤い髪の少女…イリア=イルージュが指を構えて立っていた。

 

「貴女…まさか…!?」

 

「どうでもいい!ボサっとするな!リディア姉さんの代わりに、真のイグナイトの炎を、貴女が完成させて…!!イヴ=イグナイト!!!」

 

2人が稼いだ数秒。

このほんの僅かな時間が、イヴを頂へと辿り着かせた。

 

「『我は始原の火の司·真紅の戦場を火車にて駆け抜け·果ての地平を夢見る者なり』!!!」

 

そうして遂に、この戦い終止符を打つ魔術を完成させる。

手に取る奇跡の真名は

 

眷属秘術(シークレット)ノ極【第七園:無間大煉獄真紅·()()】!!!!!!」

 

その瞬間、世界が輝く。

炎の色が次々に変わっていき、やがてルビーのように輝き透き通る、美しい真紅色が燃え広がり、フィジテ中を焼き尽くす。

されど、焼くのはエレノア達だけ。

全てが紅に、神々しい赤に染め上げられる。

 

〖…あ〗

 

為す術なく、全てを燃やし尽くされたエレノアは、そのまま真紅の光に溶けて消えゆくのだった。




本編は次で一旦止まります。
それでは失礼します。
ありがとうございました。
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