よろしくお願いします。
「ジャティス…!」
「アハハハハハ!ヒャハハハハハ!」
片や数千年の時を経て帰還したグレン。
片や次元を超越して帰還したジャティス。
残存帝国軍と天の知恵研究会の戦いは、帝国軍の勝利に終わった。
だがそこへ乱入したジャティスと、そのタイミングで帰還したグレン。
世界の命運は、今この2人に握られている。
「へっ!てめぇがこのタイミングで現れるなんてなぁ…!まさか突然義に目覚めて、世界を救うために立ち上がった…んなわけねぇよなぁ!」
「まあ、当たらずとも遠からずだよ。元々僕は正義だしね。ただ君達のそれとは違う…それだけさ」
忌々しそうに吐き捨てるグレンに、相変わらず人を食ったような態度のジャティス。
その視線はグレンから、座ってへばるアルタイルに向けられる。
「いやいや、本当はフェロードから力を奪う予定だったけど、まさかアルタイルに斃されるとはね。完全に予想外だったさ」
「奪う…?」
「君達なら、これが何かわかるんじゃないかな?」
そう言ってジャティスの左手から伸びる、
「グッ!?」
「うっ!?」
知らないはずの何かが流れ込む。
それはルミアが受け継いだレ=ファリアの経験や記憶が、契約者であるアルタイルにも流れ込んでいるのだ。
そしてその姿に、2人は息を呑んだ。
「偃月刀…神殺しの剣!?」
「まさか貴方は…!【神を斬獲せし者】!?」
そう叫んだ途端、ジャティスを中心に壮絶な断絶空間が広がる。
「ルミア!」
「うん!」
アルタイルとルミアが、自分達の空天神秘【UNLIMITED CROSS RANGE】を乗せた結界が、それを相殺した。
「ほう…その体でよくやるね。でもやめた方がいい」
「…はぁ…はぁ…!」
「アイル君…血が…!」
体中傷だらけのアルタイルの体から、血が吹き出す。
それを見たジャティスは何を思ったか、断絶空間の侵食を止めた。
「今君に死なれるのは、グレンに悪影響でしかないからね。さて…まずはフェロードの真の目的を話そうじゃないか」
だがそれは既に、彼らは分かっていた。
だからジャティスはあえて、一部端折って話を始めた。
「どれだけ美辞麗句を並べても、複雑怪奇にしても、結局は何が大きなものを得るために、多くの罪無きを犠牲にする…そういうことさ。ちなみにつけ加えるなら、メルガリウスの天空城は【門の神】と呼ばれる、外宇宙の神性との交信場でね、【聖杯の儀式】はその交信場を駆動させるエネルギー炉だね。この【門の神】とは、この多次元宇宙のあらゆる時間·空間に存在する神様でね、この神の力を借りれば【
さらにと告げられる真実に、ほとんどの人間が目眩を覚える。
「さて。グレン、アルタイル。君たちはある疑問を抱かなかったかい?」
唐突に振られた質問に、グレンもアルタイルも答えられられなかった。
その問いかけは、事実だったからだ。
「は?どういう意味よ?どこにおかしなところが…」
「いや、あるの。システィ」
口を挟むシスティーナに、ルミアが止める。
2人の記憶や知識を引き継いだルミアにも、その答えが分かっていた。
「…数が少ない、だな。いくらなんでも少なすぎる」
「ああ。たかが一分岐世界の一、二国家の民だけでは、あまりにも足りないんだよ」
魔術の基本は等価交換…それこそ、神すら逆らえない真理。
もし本当に【禁忌教典】を使うなら、世界一つ賭けないと釣り合わないのだ。
「そう、足りないんだよ。彼の計画では精々、数ページを取り出す程度しか無かった」
「んな事は、今更どうでもいいんだよ!言いてぇことがあるなら、とっとと言いやがれ!」
そんなグレンの苛立った声に、ジャティスは肩を竦めて話し出す。
「時にグレン、【無垢なる闇】は知ってるかな?」
これまでの旅路で、度々聞いてきたグレンの顔が歪む。
アルタイルとルミアは、実際にそれを目の当たりにした。
あの時は一種のトランス状態だったから、特に何も無かったが、普通に目の当たりにすれば、まずイカれる。
「外宇宙には数々の神性がいるが、基本的には無色透明の暴威であり、そこに善悪の基準は無い。だがいくつかの例外はある。…【無垢なる闇】はその一柱さ」
虚無に笑う道化、這い寄りし恐怖、貌無き邪悪、宵闇の男、混沌の獣、嘆く暗黒…即ち、【無垢なる闇】。
彼の者は全宇宙、全世界、全知的生命体の敵。
己が愉悦と快楽のためだけに、全てを破壊する本当の神…邪神だ。
「…フェロードはこの世界が狙われているのを知っていた。だから【禁忌教典】…その欠片でも求めた」
「アルタイル?」
まるでジャティスの言葉を続けるように、アルタイルが口を開いた。
「記憶をルミア経由で引き継いで、やっとあいつの真意が分かった。あいつはその断片を利用して、この世界を次元樹から切り離そうとしたんです。そうすれば【無垢なる闇】すら干渉出来なくなるから」
「次元樹から切り離すだと!?そんなことしたら、完全にこの世界は終わるじゃねぇか!」
前にも後ろにも進めなくなるこの世界は、完全に崩壊するだろう。
何もかもが、ただあるだけの置物と化す。
「一応、その時の為の手も、考えてたらしいですよ。あいつは全人類を夢に閉じこめるつもりだったらしいです」
「…夢…だと?」
フェロードの計画は、まずこの世界を次元樹から切り離し、その後全人類を夢だと認識出来ない夢を見させ続けるものだった。
「本当に…実にくだらない」
そんな計画を、ジャティスがぶった斬った。
「そんなもの、全殺しか生殺しの差じゃないか。はっきり言って、彼は邪悪だ。本来、この僕がこの手で抹殺するつもりだったが…まあいい。さあ、君達に問う。こんな下らない考えしかなかった彼に変わって、僕が世界を救う。どうやってだと思う?」
(そんなもの分かるわけねぇだろ)
そんな全員の気持ちを、心の中で代弁するアルタイル。
それを予想していたのか、ジャティスは直ぐに答えを言った。
「簡単なことさ。…ブチ殺せばいいのさ、【無垢なる闇】を」
…なぁに言ってんだ、こいつ。
そんな現実逃避がしたくなるほど、ジャティスの言葉は、俺に衝撃を与えた。
「…何を言ってるんだ?お前」
思わずそう訊ねてしまったのは、仕方ないと思って欲しい。
この中でアレを殺すとはどういうことか…それを理解してるのは、俺とルミア、先生とシスティだけだろう。
「言葉通りの意味さ。人間には出来る。3年前のあの日、僕のすべてを賭けて滅ぼす邪悪に、僕が超えるべき正体を識ったあの時から…いや、遠く幼きあの日から…僕はそのために生きてきた!」
ドクンッ!
世界が胎動した。
赤く染まるフィジテを見て、先生が叫んだ。
「ジャティスゥゥゥゥゥ!!テメェ、【聖杯の儀式】を起こしたな!【禁忌教典】を横取りする気か!」
「嫌だなぁ。僕が今更そんなチャチなこと、するわけないだろう?」
…確かに。
今更【聖杯の儀式】を行っても、なんの意味もない。
…本当に?
ジャティスの目的はなんだ?
「正義の執行…悪の根絶…」
この国一つくらい捧げても、精々数ページ分。
その程度で【無垢なる闇】を殺せる訳が無い。
せめてこの世界一つ賭けないと…いや、まさか…!?
「ジャティス…!お前!」
「ああ!気付いたかい?アルタイル!では見せてあげよう!」
再び世界が胎動し、空が赤く染めあげられる。
そして…全ての空に、メルガリウスの天空城が浮かび上がった。
「何を…テメェ!!今、一体何をしたぁぁぁ!!!?」
先生にも、何が起きたは分かったのだろう。
だがそれを払拭したくて…だがそれは、あっさりと覆された。
「【聖杯の儀式】の範囲を広げただけさ。フィジテ周辺から全世界に」
この野郎…マジでこの世界を引き換えに、【無垢なる闇】を殺す気だ!
本気でイカレてる!!
「さあ!人の革命の始まりだ!この世界の全てを犠牲にして、真なる邪悪【無垢なる闇】をこの手で斃す!!僕にとっての世界…この多次元宇宙に、真なる正義を知らしめる!!この世全ての悪の権化たる【無垢なる闇】をこの手で断罪し、僕は真の意味で真なる意味の【正義の魔法使い】になるのさ!!ハハハハハ…!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
そして俺達は、ジャティスが見せつけてきた、大パノラマで知る。
世界各地に邪神兵の根が生え、それらが世界を貪り出したことに。
世界が絶望に染まりだしたことに。
「ジャティスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
ジャティスの狂笑と、先生の怒号がアンサンブルした。
それでは失礼します。
ありがとうございました。