ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします。


最終決戦編第1話

「ジャティス…!」

 

「アハハハハハ!ヒャハハハハハ!」

 

片や数千年の時を経て帰還したグレン。

片や次元を超越して帰還したジャティス。

残存帝国軍と天の知恵研究会の戦いは、帝国軍の勝利に終わった。

だがそこへ乱入したジャティスと、そのタイミングで帰還したグレン。

世界の命運は、今この2人に握られている。

 

「へっ!てめぇがこのタイミングで現れるなんてなぁ…!まさか突然義に目覚めて、世界を救うために立ち上がった…んなわけねぇよなぁ!」

 

「まあ、当たらずとも遠からずだよ。元々僕は正義だしね。ただ君達のそれとは違う…それだけさ」

 

忌々しそうに吐き捨てるグレンに、相変わらず人を食ったような態度のジャティス。

その視線はグレンから、座ってへばるアルタイルに向けられる。

 

「いやいや、本当はフェロードから力を奪う予定だったけど、まさかアルタイルに斃されるとはね。完全に予想外だったさ」

 

「奪う…?」

 

「君達なら、これが何かわかるんじゃないかな?」

 

そう言ってジャティスの左手から伸びる、神鉄(アダマンタイト)の剣を見た瞬間、アルタイルとルミアの頭に痛みが走る。

 

「グッ!?」

 

「うっ!?」

 

知らないはずの何かが流れ込む。

それはルミアが受け継いだレ=ファリアの経験や記憶が、契約者であるアルタイルにも流れ込んでいるのだ。

そしてその姿に、2人は息を呑んだ。

 

「偃月刀…神殺しの剣!?」

 

「まさか貴方は…!【神を斬獲せし者】!?」

 

そう叫んだ途端、ジャティスを中心に壮絶な断絶空間が広がる。

 

「ルミア!」

 

「うん!」

 

アルタイルとルミアが、自分達の空天神秘【UNLIMITED CROSS RANGE】を乗せた結界が、それを相殺した。

 

「ほう…その体でよくやるね。でもやめた方がいい」

 

「…はぁ…はぁ…!」

 

「アイル君…血が…!」

 

体中傷だらけのアルタイルの体から、血が吹き出す。

それを見たジャティスは何を思ったか、断絶空間の侵食を止めた。

 

「今君に死なれるのは、グレンに悪影響でしかないからね。さて…まずはフェロードの真の目的を話そうじゃないか」

 

だがそれは既に、彼らは分かっていた。

だからジャティスはあえて、一部端折って話を始めた。

 

「どれだけ美辞麗句を並べても、複雑怪奇にしても、結局は何が大きなものを得るために、多くの罪無きを犠牲にする…そういうことさ。ちなみにつけ加えるなら、メルガリウスの天空城は【門の神】と呼ばれる、外宇宙の神性との交信場でね、【聖杯の儀式】はその交信場を駆動させるエネルギー炉だね。この【門の神】とは、この多次元宇宙のあらゆる時間·空間に存在する神様でね、この神の力を借りれば【禁忌教典(アカシック·レコード)】への道も開けるという寸法なんだが…まあそれは今はいい」

 

さらにと告げられる真実に、ほとんどの人間が目眩を覚える。

 

「さて。グレン、アルタイル。君たちはある疑問を抱かなかったかい?」

 

唐突に振られた質問に、グレンもアルタイルも答えられられなかった。

その問いかけは、事実だったからだ。

 

「は?どういう意味よ?どこにおかしなところが…」

 

「いや、あるの。システィ」

 

口を挟むシスティーナに、ルミアが止める。

2人の記憶や知識を引き継いだルミアにも、その答えが分かっていた。

 

「…数が少ない、だな。いくらなんでも少なすぎる」

 

「ああ。たかが一分岐世界の一、二国家の民だけでは、あまりにも足りないんだよ」

 

魔術の基本は等価交換…それこそ、神すら逆らえない真理。

もし本当に【禁忌教典】を使うなら、世界一つ賭けないと釣り合わないのだ。

 

「そう、足りないんだよ。彼の計画では精々、数ページを取り出す程度しか無かった」

 

「んな事は、今更どうでもいいんだよ!言いてぇことがあるなら、とっとと言いやがれ!」

 

そんなグレンの苛立った声に、ジャティスは肩を竦めて話し出す。

 

「時にグレン、【無垢なる闇】は知ってるかな?」

 

これまでの旅路で、度々聞いてきたグレンの顔が歪む。

アルタイルとルミアは、実際にそれを目の当たりにした。

あの時は一種のトランス状態だったから、特に何も無かったが、普通に目の当たりにすれば、まずイカれる。

 

「外宇宙には数々の神性がいるが、基本的には無色透明の暴威であり、そこに善悪の基準は無い。だがいくつかの例外はある。…【無垢なる闇】はその一柱さ」

 

虚無に笑う道化、這い寄りし恐怖、貌無き邪悪、宵闇の男、混沌の獣、嘆く暗黒…即ち、【無垢なる闇】。

彼の者は全宇宙、全世界、全知的生命体の敵。

己が愉悦と快楽のためだけに、全てを破壊する本当の神…邪神だ。

 

「…フェロードはこの世界が狙われているのを知っていた。だから【禁忌教典】…その欠片でも求めた」

 

「アルタイル?」

 

まるでジャティスの言葉を続けるように、アルタイルが口を開いた。

 

「記憶をルミア経由で引き継いで、やっとあいつの真意が分かった。あいつはその断片を利用して、この世界を次元樹から切り離そうとしたんです。そうすれば【無垢なる闇】すら干渉出来なくなるから」

 

「次元樹から切り離すだと!?そんなことしたら、完全にこの世界は終わるじゃねぇか!」

 

前にも後ろにも進めなくなるこの世界は、完全に崩壊するだろう。

何もかもが、ただあるだけの置物と化す。

 

「一応、その時の為の手も、考えてたらしいですよ。あいつは全人類を夢に閉じこめるつもりだったらしいです」

 

「…夢…だと?」

 

フェロードの計画は、まずこの世界を次元樹から切り離し、その後全人類を夢だと認識出来ない夢を見させ続けるものだった。

 

「本当に…実にくだらない」

 

そんな計画を、ジャティスがぶった斬った。

 

「そんなもの、全殺しか生殺しの差じゃないか。はっきり言って、彼は邪悪だ。本来、この僕がこの手で抹殺するつもりだったが…まあいい。さあ、君達に問う。こんな下らない考えしかなかった彼に変わって、僕が世界を救う。どうやってだと思う?」

 

(そんなもの分かるわけねぇだろ)

 

そんな全員の気持ちを、心の中で代弁するアルタイル。

それを予想していたのか、ジャティスは直ぐに答えを言った。

 

「簡単なことさ。…ブチ殺せばいいのさ、【無垢なる闇】を」

 

 

 

…なぁに言ってんだ、こいつ。

そんな現実逃避がしたくなるほど、ジャティスの言葉は、俺に衝撃を与えた。

 

「…何を言ってるんだ?お前」

 

思わずそう訊ねてしまったのは、仕方ないと思って欲しい。

この中でアレを殺すとはどういうことか…それを理解してるのは、俺とルミア、先生とシスティだけだろう。

 

「言葉通りの意味さ。人間には出来る。3年前のあの日、僕のすべてを賭けて滅ぼす邪悪に、僕が超えるべき正体を識ったあの時から…いや、遠く幼きあの日から…僕はそのために生きてきた!」

 

ドクンッ!

 

世界が胎動した。

赤く染まるフィジテを見て、先生が叫んだ。

 

「ジャティスゥゥゥゥゥ!!テメェ、【聖杯の儀式】を起こしたな!【禁忌教典】を横取りする気か!」

 

「嫌だなぁ。僕が今更そんなチャチなこと、するわけないだろう?」

 

…確かに。

今更【聖杯の儀式】を行っても、なんの意味もない。

…本当に?

ジャティスの目的はなんだ?

 

「正義の執行…悪の根絶…」

 

この国一つくらい捧げても、精々数ページ分。

その程度で【無垢なる闇】を殺せる訳が無い。

せめてこの世界一つ賭けないと…いや、まさか…!?

 

「ジャティス…!お前!」

 

「ああ!気付いたかい?アルタイル!では見せてあげよう!」

 

再び世界が胎動し、空が赤く染めあげられる。

そして…全ての空に、メルガリウスの天空城が浮かび上がった。

 

「何を…テメェ!!今、一体何をしたぁぁぁ!!!?」

 

先生にも、何が起きたは分かったのだろう。

だがそれを払拭したくて…だがそれは、あっさりと覆された。

 

「【聖杯の儀式】の範囲を広げただけさ。フィジテ周辺から全世界に」

 

この野郎…マジでこの世界を引き換えに、【無垢なる闇】を殺す気だ!

本気でイカレてる!!

 

「さあ!人の革命の始まりだ!この世界の全てを犠牲にして、真なる邪悪【無垢なる闇】をこの手で斃す!!僕にとっての世界…この多次元宇宙に、真なる正義を知らしめる!!この世全ての悪の権化たる【無垢なる闇】をこの手で断罪し、僕は真の意味で真なる意味の【正義の魔法使い】になるのさ!!ハハハハハ…!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

そして俺達は、ジャティスが見せつけてきた、大パノラマで知る。

世界各地に邪神兵の根が生え、それらが世界を貪り出したことに。

世界が絶望に染まりだしたことに。

 

「ジャティスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

ジャティスの狂笑と、先生の怒号がアンサンブルした。




それでは失礼します。
ありがとうございました。
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