ロクでなし魔術講師と糸使いの少年   作:ネコ耳パーカー

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よろしくお願いします。


最終決戦編第2話

絶望に堕ちだした世界を見せられ、俺は思わず尋ねた。

 

「…なんだよお前…?お前のその力はなんなんだ…?」

 

それは無意味なのは分かってはいるが、思わず尋ねずにはいられなかった。

 

「そりゃあ僕だって、それなりに苦労したさ。この領域に至るのに…5億年かかった」

 

「「…はぁ?」」

 

もうダメ、訳分からん。

呆然とする俺達を見て、ジャティスは話を続けた。

 

「忘れたのかい?魔王に留学させてもらったじゃないか。あの時僕は、時の果てに存在する【大図書館】に着いた。【禁忌教典(アカシック·レコード)】程では無いが、あそこにも絶大は叡智が眠っている。5億年も勉強すれば、ほらこの通りさ」

 

…あれを留学と呼ぶのは、世界でもこいつだけだろう。

大図書館とかよく分からんが、気の遠くなるような確率だろう。

 

「…というか、5億年だと?お前の精神、マジどうなってんの…?」

 

「ん?別に普通だろ?君だってできるさ。だって君と僕は似てるからね」

 

…はぁ?

俺とジャティスが似てる?

 

「冗談も休み休み言ってくれ…いやマジで」

 

「本気だよ?だって君も僕も、お互いの正義の為なら、どんなハードルも蹴り倒せる性質だろ?」

 

そう言われると、俺自身反論しづらい。

もしルミアを迫害する世界なら、たとえ世界に刃向かってても、俺はルミアを守る。

そう決めているからこそ、ジャティスの言葉に反論出来なかった。

 

「あなたとアイル君を一緒にしないでください!」

 

怒ったルミアが怒鳴りながら、ジャティスの断絶空間を破壊した。

 

「「…」」

 

先生とジャティスの間に、重い沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのは、ジャティスだった。

 

「グレン。僕は君に、前にこういったよね?いつか、僕と君の頂上決戦に相応しい、極上の舞台を心を込めて用意してあげる、って」

 

「…」

 

「どうだい?ついに整ったよ。君の正義と僕の正義、雌雄を決する舞台が、ついに整ったよ」

 

「…」

 

「そして僕も君も、紆余曲折あって…互いにこの大舞台の決戦に、相応しい力を練り上げてきている」

 

「…こんなものが、お前の正義か?」

 

ついに返事をした先生の声は、感情の読めない、妙に底冷えする声だった。

 

「ああ、そうさ」

 

「何度も言うが、テメェの理屈はクソだ。テメェこそ神様気取りか。自惚れてんじゃねぇぞ」

 

「確かに自惚れかもしれない。でも僕は…努力した。悩み、苦しみ、考え続け、一切妥協することなく、力を練り上げ、ひたすら邁進し続けた。そして…僕は僕の最上の正義を提示する。では君はどうだい?グレン」

 

「っ!?」

 

「君は手の届く範囲の人達だけ救えればいいのかい?そんな安っぽい、割とありがちな正義で満足するのかい?」

 

「黙れ…!俺は…!」

 

「わかるだろう?君の正義と僕の正義、どちらが上か、真に決着をつける時が来たんだ」

 

そう言い捨てると、ジャティスは腕を振り上げる。

するとメルガリウスの天空城から光が降り注ぎ、誘われるようにジャティスが消えていく。

 

「グレン。僕らはもう否定し合い、殺し合うしかないんだ。あの遥かいと高き、メルガリウスの天空城。その最深部に待つ。最終決戦だ。文字通りの…ね」

 

そう言い残して、ジャティスは完全に消えた。

その様子を、何も言わずただ黙って見つめる先生。

 

「せ、先生…」

 

そんな様子の先生に、システィが心配そうに呟くが、冷たく吹き荒れる風がそれをさらっていく。

こうして天の知恵研究会との戦いは、予想外の結末を迎えた。

そしてこの三日後、つまりノヴァの月四日、女王陛下より、グレン先生へジャティス討伐の勅命が、下ったのだった。

 

 

 

「…」

 

夜のアルザーノ帝国魔術学院の屋上。

俺はそこから、フィジテの街を見下ろしていた。

 

「風邪ひいちゃうよ」

 

「ルミア。ありがとう」

 

現れたルミアが、ふわりと毛布をかけてきた。

お互い特に何か言う訳でも無く、ただぼんやりと街を見下ろす。

 

「あと一ヶ月かぁ…」

 

「そうだな」

 

あと一ヶ月。

一ヶ月で、喰い尽くされる。

文字通り、根こそぎ喰い尽くされる。

 

「…とりあえず、目先の危機は去ったな」

 

「うん」

 

「…探しに行くか?お姉さん」

 

「…え?」

 

それはこの場から逃げないか…そういう意味で言った言葉だ。

どこにいても、しくじった時の結末は同じだ。

これからのジャティスとの戦い、まず間違いなく激戦になる。

それこそ、フェロード戦よりもだ。

そんな戦いにルミアを連れては…

 

「ううん。姉さんならきっと大丈夫。だから…」

 

そう答えたルミアは、俺の手にそっと自分の手を添えて言い切った。

 

「私も戦う」

 

…ダメだ、こりゃ。

ルミアはこういう奴だったわ。

俺は思わず苦笑いを浮かべて、こう尋ねた。

 

「…ルミア=ティンジェルさん。俺と死ぬ時まで一緒にいてくれますか?」

 

「はい。私はアルタイル=エステレラくんと、ずっと一緒にいます」

 

どちらからともなく、俺達はそっとキスをした。

触れる程度の軽いキス。

でもどこまでも痺れるような、甘美なキスだった。

 

「…しちゃったね。キス」

 

「…ああ」

 

「今のって…そういう意味だよね?」

 

「そういうつもりで言った」

 

中々物騒な言い方だが、俺としては告白のつもりで言った。

無事伝わったようでなによりだ。

そう思っていると、突然ルミアが抱き着いてくる。

 

「ル、ルミア?」

 

「…言葉にして?」

 

…仕方ないなぁ。

俺はそっと抱きしめたまま、ルミアの耳元で囁いた。

 

「…好きだ。愛してる」

 

「…私も好き。愛してる」

 

ギュッと力を強めたルミアが、俺の耳元で囁き返す。

…うん、恥ずかしい。

 

「さ、中入ろう…ぜ…」

 

「うん。そう…だ…ね…」

 

俺達の言葉が止まった理由…それはドアからキラキラした顔で俺達を見る、システィの姿を見たからだ。

 

「ルミア!アイル!おめでとう!さぁて、私は今からこのことを風に乗せて…」

 

「「システィ!!!///」」

 

疲れているにも関わらず、俺達は壊れた校舎の中で鬼ごっこを始めたのだった。

なおシスティに出し抜かれた俺達は、その日のうちにフィジテ中にバレて、大騒ぎになったのだった。

 

 

 

騒ぎが一段落着いた後、アルタイルたちは用意をしていた。

 

「…アイル君。準備できた?」

 

「おう。行くか」

 

アルタイルは制服の上から、【アリアドネ】で編み上げた、真紅のロングコートを身に纏い、ルミアはナムルスと同じ、【天空の双生児(タウム)】の装束を身に纏う。

2人である場所を目指していると、システィーナとリィエルと会う。

 

「そっちも準備万端か」

 

「ええ」

 

「ん。いつでも行ける」

 

システィーナは過去の世界で自分の先祖から引き継いだ、白い【風の外套】を身に纏い、リィエルは帝国宮廷魔導師団の制服を着ている。

ちなみにリィエルは、一時的に心肺が停止する程、かなりの重症だったのだが、たった数日でケロリとしている。

なお同じく重症なアルタイルも、たった一日で復活するほど、回復力が高かった。

4人が目指しているのは、グレンがいる場所だ。

 

「…いた」

 

「みんな、勢揃いだね」

 

2組の生徒たちが集まっていたので、すぐにそこにいるのだと分かる。

自然と道が開かれていき

 

「先生」

 

「…先生」

 

「グレン」

 

「グレン先生」

 

すっかりいつでも行ける様子の4人に、グレンは感情の読めない顔を浮かべる。

何か言われる前に、4人は畳み掛けることに。

 

「言っておきますけど!私たちは絶対に先生について行きますからね!私たちがついてないと、どんな無茶するか分かったものじゃないですから!」

 

胸を張って、不敵に言い放つシスティーナ。

 

「危険性は十分分かってるつもりです。戻って来れないかもしれないのも、分かってます。…だが俺たちは、それでもついて行く」

 

「私たちの未来のために、私たち自身の手で戦いたいんです。私たちは…魔術師だから」

 

覚悟を決めて、ハッキリと言い切る、アルタイルとルミア。

 

「わたしはグレンを…みんなを守るために、剣を振る。わたし自身が、そうしたいと思うから」

 

いつになく饒舌なリィエルの言葉には、熱い熱が込められていた。

…決意は固い。

覚悟も十分。

 

(そして何より…強くなったな)

 

恵まれた境遇の中、夢見がちのお嬢様として生きてきたシスティーナ。

異能を持つが故に王位を剥奪され、多くの過酷な試練に晒されてきたルミア。

人ですらなく、まさに作られた存在故の空虚に生きてきたリィエル。

多くを失いながらも、残ったものを守るために抗い続けたアルタイル。

それぞれの境遇を抱えつつも、彼らは成長した。

システィーナは真の魔術師になった。

ルミアは己の弱さと向き合えた。

リィエルは自分自身を手に入れた。

アルタイルは守れる強さを手に入れた。

 

「…お前ら…」

 

グレンは教師として、嬉しさを覚えていると、ル=シルバから話しかけられる。

 

「グレン。敬愛なる主様。あなたが大切に思うのは分かるけど…連れていくべきだと思う。あの男との戦いは、史上最高峰の魔術師戦になると思う。そんな2人の戦いに助力出来る者なんて、ほとんどいないの。古き竜(エンシャント·ドラゴン)の私すら力不足…。でも彼らは違う」

 

チラリとアルタイルたちを見て、さらに続ける。

 

「【イカータの神官】。【空の天使】とその契約者たる【継人】。黄昏…いや、今は【黎明の剣士】だったね。それぞれがそれぞれの天に至った者たち。彼らは決してグレンの足手まといにはならない。まだ彼らの実力を疑ってるなら…」

 

「ハハ。そうじゃねぇよ。だからお前は頭が竜なんだ」

 

そんなル=シルバの頭を、グレンは乱暴に撫で回す。

年相応のむくれ顔をするル=シルバに、穏やかに声をかける。

 

「アイツらが強いのはよく分かる。だがそれは、戦力的な強さじゃねぇ。それだけじゃあ、とてもじゃねぇが連れて行けねぇ」

 

そう言って、グレンは4人と向き合う。

 

「はっきり言って今回の…いや、最後の戦いはとんでもなくヤベぇ。そしてあの天空城の最深部は、未だに未知の領域だ。何が起きるか想像すらつかん。更には…待ち受けるジャティスは、恐らく史上最強最悪の敵だ。教師として、お前らを守り切り、絶対に無事に帰してやる…とカッコつけて言いてぇところだが、現実問題として全く保証出来ねぇ。それでも…俺について来てくれるか?力を貸してくれるか?俺と共に…戦ってくれるか?」

 

どこか不安げに4人を見るグレン。

そんな視線を受けた4人は、肩を竦めてから一言。

 

「当たり前」

 

「今更何言ってるんですか!」

 

「最後まで一緒に」

 

「一緒に…戦う」

 

グレンの手を取り、手を重ねる。

そしてついに、グレンの覚悟が決まった。

彼らはかけがえのない生徒であるのと同時に、かけがえのない仲間なのだ、と。

 

「ありがとうな、お前ら。なら…さぁ!いっちょ世界を救ってやろうぜ!!」




それでは失礼します。
ありがとうございました。
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