俺たちの目の前に現れたのは…
「【魔煌刃将】…アール=カーン…!?」
【タウムの天文神殿】の果てに死闘を繰り広げた魔人の登場に、俺たちは身構える。
〖…この半年で見違えるほど、位階を上げたな。我が好敵手、アルタイルよ。それに貴様は…なるほど。夜天の乙女の加護を受けているのか〗
「話が長ぇよ。悪いけど俺たちは忙しいんだ。ヤルの?ヤラないの?」
そんな俺の鋭い言葉にアール=カーンは黙り込むと、ふとなにかに気付いたのか、先生をじっと見つめる。
〖…なるほど。まこと奇妙なる、時の因果があったようだ。よもや数千年前の
「理解が早くて助かるわ。マジで説明が面倒だからな」
システィ曰く、メルガリウスの魔法使いに出てくる、正義の魔法使いが教授で、アセロ=イエロを倒した弟子が先生、ということらしい。
俺たちの間に、緊迫した空気が流れる。
やがて…ポツリと、アール=カーンが呟き出した。
〖我は…我が仕えるに相応しい主を探している。そのために夜天の乙女と契約し、十三の命と人のカタチを得た〗
そう、こいつはある者が人のカタチを得た存在。
そしてそれを、俺たちは既に目の当たりにしている。
それは…【神を斬獲せし者】。
あの偃月刀だ。
〖我の存在理由は、元よりただ一つだった。ある目的のため、ある者によって生み出された。それ故に我はその目的を果たすため、我を振るう者を探している〗
「何だその物言いは?まるで自分はなにかの道具だ、と言ってるような物言いだな」
〖曲がりにも、我を振るうに値する力を持つと判断出来たのは3人。高須九郎、
「なっ…!?ジャティス!?」
先生の驚きの声が漏れる。
アール=カーン曰く、力と意志があるかが、こいつなりの判断基準らしい。
だがここでもう一つ疑問が出てくる。
「力っていうのは分かる。だが意思っていうのはなんだよ?自分勝手に世界を滅ぼそうとしている、あのクソ外道野郎のどこに、お前が相応しいって言うんだよ!?」
〖それは我を創出した者によって、こう定義されている。己が正義を持って、理不尽に抗う意思。…即ち、【正義の魔法使い】たらんとする意思だ〗
な、何!?
ちょっと待て、それはおかしいぞ!?
「な、なんでお前から【正義の魔法使い】なんて言葉が出てくる!?それはロラン=エルトリアが作った、作中造語だろうが!なんでお前が、その言葉を知ってるんだよ!?」
「そ、そもそも納得いかないわ!なんでジャティスみたいな狂人が、【正義の魔法使い】に相応しいとかなるわけ!?あなたおかしいわよ!」
先生とシスティが責め立てるが、当のアール=カーンは無視。
〖故に我は、我の存在理由に従い、ジャティス=ロウファンを主とする。それがこの次元樹での運命選択。そう考えていた…先程までは〗
「…先程までは?」
〖イレギュラーが起きたのだ。4人目…そう、貴様だ。グレン=レーダス。
「…はぁ、俺?」
突然の指名に、先生が唖然とした顔をする。
〖アルタイル=エステレラ。貴様も可能性はあったが、既に夜天の乙女と契約し、大きな力を得ている。故に貴様にはこれ以上は身を滅ぼすだけになろう〗
俺もかよ…。
つまり、ルミアがいるから俺には他は必要ないと。
だが何やらアール=カーン自身も、かなり困惑しているのか、ブツブツと何か呟いている。
〖…やはり見極めるべきだろう。ジャティス=ロウファンか。あるいはグレン=レーダスか。…ついてこい。我が本体の下へ案内しよう〗
石畳の道に、台形を基本とした建築物。
ドーム屋根の尖塔、石柱が並ぶ神殿。
要所に立ち並ぶ石柱碑、浮遊する謎の六面体。
いかにも手付かずの古代都市に、システィーナが興奮する。
「これが天空城…!しかも間違いなく手付かずですよね!伝説の魔王遺産とか、ゴロゴロ転がってるんじゃ…ジュルリ!」
(ヨダレ垂らすな、ヨダレ)
興奮したシスティーナの様子に、アルタイルは呆れのため息をつく。
「おいおい白猫…俺たちは遺跡発掘に来た訳じゃねーぞ」
「わ、分かってますよ!」
「ならここ拭け、ここを」
アルタイルが呆れ気味に、自分の口元を指さす。
そんなことを話しながら、アール=カーンと事実確認も進めて行く。
メルガリウスの天空城は、【門の神】と呼ばれる外宇宙の神性と交信するための、大規模な魔術研究所。
人の集合的無意識…夢の深層域に存在する、非実在性領域【
「つまり学院の地下にある地下ダンジョン…【嘆きの塔】は、本来行けないはずの領域に、肉体ごと到達するための道。…こういうことだな?」
〖そうだ。結局、高須九郎は【
そう言われてアルタイルたちが案内されたのは、霊廟だった。
中にあったのはバラバラのイメージを持つ、無数の石造だった。
「なんだこりゃ?」
「アイル君…これって…」
「ああ。
グレンの戸惑いに、ルミアとアルタイルが呟く。
「なんだって…?【神を斬獲せし者】?」
〖正確には高須九郎が夢見たレプリカだ。そもそも、【神を斬獲せし者】とは、とある刀剣を手に、確固たる意思を持って【無垢なる闇】と戦った者たちのことだ。高須九郎はこの我を触媒に、【神を斬獲せし者】の夢を見ることで、かの神性を再現しようとしていたのだ。結果はお察しのとおりだがな〗
話を聞きながら、システィーナは周りキョロキョロする。
老若男女どころか、人じゃなさそうなものまで、様々な形が存在する中、ふとシスティーナがあるものに気付いた。
(…あれ?誰かに似てる?)
不思議に思い、近すぎたその距離を取ろうと動いた時、突然不吉な鐘の音が響いた。
ゴォォォォォン…ゴォォォォォン…
「な、何だこの音!?」
〖時が来たのだ。【聖杯の儀式】が始まり、地上の根の動きが爆発的に加速し、世界を食い尽くすだろう〗
「おいおい…ヤベェじゃねぇか!いい加減本題に入ってくれ!」
〖もう済んだ。あれが…我が本体だ〗
アール=カーンか指さすその先には、黒い偃月刀が突き刺さっていた。
刀身には、何かの文字が書かれている。
「なんだ、あの剣?」
〖【
そう言い残して
〖夜天の乙女との契約は、ここに完遂された。…さらばだ〗
アール=カーンは消えていった。
つまりアール=カーンとは、この黒い偃月刀の付喪神みたいなものだった…ということだ。
「…これ、フェロードが前の世界で使ってた武器だ」
〖そうね。どこで手に入れたのか…そこまでは聞いてないわね〗
やけにあっさりと抜けたことに、グレンは驚きつつも、その理由をすぐに解明した。
「すげぇ…!この武器、びっくりするくらいなんもねぇ!チート級神秘とか、超絶魔術が込められてるとか、そういうのが一切ない!何が【
神鉄で出来たそれは、確かに頑丈なのだが、本当にそれだけの力しかない。
その事に思わず、アルタイルたちも苦笑いする。
「…グレン。多分こっち。勘だけど」
だがいつまでも鳴り止まない鐘の音を聞き、リィエルが硬い顔で睨むのを見て、彼らも再び歩き出す。
城の内部をどんどん進んでいく。
気付けば壁と天井はなくなり、回廊と廊下、そして螺旋階段だけになっていた。
「…ああ、そういう」
俺はある仕掛けに気付き、思わず呟いた。
それはその塔が
これらの道を擬似的に通ることで、己の魂を昇華させ、
王冠の領域こそ、【
そしてその間に人が決して越えられぬ
「…なるほど。
「ですね」
【
即ち、天の智慧研究会。
そしてついに俺たちは、その最奥…
いつの間にか俺たちは、大いなる宇宙の中心にいた。
360度見渡す限りの、星々の大海。
そんな俺たちの視線の先には、1本の大樹が。
そしてこの木の幹には…
「…マリア」
上半身は生まれたままの姿、下半身と両腕が木の幹と同化したマリア=ルーテルが眠りについていた。
…ごめんな、遅くなって。
すぐに助けてやるからな。
「…待ってろよ。マリア」
「魔王の野郎がそうすることも、読んでたんだろ?なぁ」
俺とグレン先生の視線の先にいるのは
「…ようこそ」
木の根に優雅に腰をかけた、ジャティス=ロウファンだった。