転生した。そう自覚したのは、物心ついて直ぐの事だった。
娼婦の母親は速攻で俺を捨てた。当然と言えば当然だ。ここザバン市は比較的大きな街とはいえ貧富の差が無い訳じゃない。そして、娼婦の母は貧乏だった
前世のお陰か、或いは俺自身の体の影響か、別段母を恨むようなことは無かった。こんな世界だ、如何に親と言えども生活がある。捨てる事も已む無し。勝手にそう納得した。
幸いな事に、俺の体は特別性と言っても良い程度には強靭だった。
物心ついた三歳の頃には、既にコケる事も無く走り回る事が出来た。特に強かったのが、ピンチ力。要は指の力。片手の子指一本ぶら下がって一日ボケっとしていても余裕があるようなレベル。
それからもう一つ。全身から立ち上る靄の様なぼんやりした物。あんまり出過ぎると体が怠くなるから一定量で押さえているけれども、コレがあると色々と便利だった。
ただでさえ高い身体能力が更に強化されて、特に指先は宛ら鉈。鉄板だろうと薄紙みたいに引き千切れた。
さて、そんな力を得て真っ当な生活ができるかどうか。
A、無理。そもそも俺は元々善人じゃない。ついでに一回死んでるせいか、倫理観がどうにも軽くなってる。
自分がこの世で一番強い、なんて欠片も思わないから、前世の漫画やアニメで見た様な修業を試しながら、同時に生きていくための金銭を奪ってきた。
犯罪行為に対する嫌悪感のようなものは、二回目辺りで薄れて、三回目で自分の両手が赤く汚れてもなんとも思わなくなった。
逃げる人間は殺さない。向かってくるのなら、殺す。それだけ。
楽しくはない。ただ、両手が汚れるたびに、汚いな、とは思った。でもそれだけだ。
腕を振れば、人が死ぬ。反撃に銃を持ち出されようが、ナイフで刺されようが、角材で頭を殴られようが毛ほども効かない。
ナイフは折れて、角材は砕けて、銃弾は皮膚に弾かれて通じない。
自分を正当化しようとは思わない。やってることは犯罪で、もっと別の事に自分の力を使わなかった俺自身の選択の結果だから、すべて受け入れる。
そして、その手に掛けた人数が百を超えて暫く経った頃、妙な連中が向かってくるようになった。
俺と似たような靄……オーラって言ったか。オーラを纏った奴ら。
男も女もいた。そして、このオーラって奴も色んな使い方がある事が知れた。
武器を作る奴、自分の馬力を跳ね上げる奴、オーラの性質を変化させる奴、人形を操作してきた奴、オーラを弾にして飛ばしてきた奴。基本、この五種類から、個人でカスタマイズされてるパターンばかり。
面白かった。ついでに、手足をもぎ取って一人から、このオーラの基本技術に関しても色々と知れたのも良かったな。
“纏”“絶”“練”“発”。これが基本の四大行。そこから発展した、“周”“隠”“凝”“堅”“円”“硬”“流”。
加えて、水見式。
知識の有無は、成長の速度に繋がる。俺の強さは、この時に加速し始めたように思う。
そもそも、オーラを完全に絶つ“絶”の状態の身体能力すら、オーラを纏った……ハンターか、奴らを凌駕するんだから。特に指の力。遠心力を乗せれば、人体程度軽く引き裂ける。
それから、俺の手は更に急速に汚れていった。
俺を捕らえようとするハンターたち。警察官。強盗に入った貴族の家。向かってくる人間は等しくその喉笛を引き裂いて、手足を捥いだ。
死にたくない、訳じゃない。ただ、戦うのは面白かった。
命を懸ける瞬間。自分のとっておきの能力を発動させる瞬間。紙一重で互いの命に手が掛かる瞬間。
それら一切合切が圧縮されたハンターとの勝負。酒も女も興味が無い俺にとって、その一瞬が何よりも娯楽だった。
だが、その生活も終わりを告げた。
白黒の変な恰好をした男と、そいつを中心にした数人の腕利きからの襲撃。
当然ながら抵抗した、が俺とその男の能力は相性が悪かった。そもそも、白黒の牛みたいな格好の男は体術もある程度いけた。腕を切り裂いてやったけども、落とせなかったのは初めての経験だ。
そして俺は、収監される事になる。そのまま死刑台に乗せられるかとも思ったが、どうやらオーラを使える人間を殺すには色々と手間がかかるらしい。
まあ、良いさ。どうでも良い。強いて挙げれば、暫くの間雨に困る事が無い、その事実があればそれで良い。
俺は、ジョネス。懲役1879年の、終身刑を受けた大量殺人鬼さ。
*+*
怪腕のジョネス。その名は、一般市民のみならず、多くのハンターも知る大量殺人犯の名前だった。
569。それが、彼が手を掛けた被害者の数。ザバン市を中心として、強盗殺人を行う事数百件。更に彼を捕まえようとした警官隊を壊滅。加えて、幾人ものハンターの命を奪ってきた。
そんな男を捕えたのは、二ツ星ハンターであるミザイストム=ナナ。
ハンター協会でも上澄みの様なミザイストムではあるが、そのハンター歴の中でも死を覚悟した仕事の一つとして、このジョネスの確保を挙げる。
ジョネスは変化系寄りの強化系の念能力者だった。オーラの質、量、練度と生半可なプロハンターを凌駕するような怪物。加えて、“絶”状態でありながら、人体を容易に毟り、引き裂くピンチ力を備え、勢いをつけて振るえば、オーラでガードしようともかなり深い傷を負う始末。
正しく化物のような男で、ミザイストムが選りすぐったチームメンバーも数人がやられた。
そして捕えられたジョネスであったが、驚くべき事に、彼は一度として子供と老人、それから娼婦などの弱者に振り分けられる人種を手に掛けた事は一度としてなかった。
だからこそ、ミザイストムは興味を持つ。
「意外だな。お前は、快楽殺人だと思っていた」
「爺さん婆さんは兎も角、ガキや娼婦が金を持っていると思うか?」
「いいや。だが、世間はそうじゃない……金の為か?」
「ありふれているだろう?」
「お前は念能力者として大成できるだけの力があった。何故、そちらには進まなかった?」
「道が無かった。何より、登るより、進むより、転げ落ちる方が楽だろう?」
口ひげを生やし、牢に放り込まれて少しばかり汚らしくなったジョネスは、そう言って嗤った。
ハンターになるためには、ハンター試験を受けねばならないが、その試験会場に辿り着くまでも試験の内容に含まれていた。
当然、力が無いものは挑戦すらも出来ない。だが、今回の場合は違う。
ジョネスは、ハンターという存在を知らなかった。いや、ハンターという単語を知っていたとしてもその中身までは知らなかった。
これは、ミザイストムの聞き込みの成果だ。
ジョネスは、生まれながらの念能力者だった。加えて、人類としての枠組みを外れそうな身体能力を有し、生まれながらの強者だった。
だが、生まれは娼婦の子。その親にも捨てられ、一人で生きていくしかなかった。
その中で磨かれた手が血に汚れるというのは、最早避けようのない道だったのだろう。
だからこそ、
「お前は、自分の正当性を主張しないんだな」
「正当性?俺に?……フッ、そんなものはないさ。結局のところ、俺は金が欲しくて人を殺した、これに尽きる。それとも、お前たちが助けてくれなかったから俺はこうなったんだ!……とでも言ってほしいか?」
「いや、そうじゃない……ただ、惜しいと思ってな」
「惜しい?何がだ」
「お前は強い。腕利きのハンターと比べても遜色ないだろう。
「……で?生憎と俺は、千年越えの懲役くらった人間だぞ」
「そうだな。だが、ハンターの中には大量殺人に手を染めている者も居る。もちろん、黙認されるわけじゃない。オレのような犯罪ハンターに狙われ捕獲される事になるだろうな」
「……」
「今回、287期ハンター試験が行われる。お前は、その試験で試験官を務めてもらう」
「おいおい、気でも狂ったのか?大量殺人をやらかした人間に、試験官?馬鹿も休み休み言え。それとも何か?そこまで切羽詰まるほどに、人材不足なのか?」
「試験内容は、当日に説明されるだろう。こちらからの縛りは、オーラの使用禁止。常に“絶”を試験が終わるまで解かない事。やれるか?」
「話を聞け、牛野郎……お前は結局何がしたいんだ?」
「なら、単刀直入に言おう。お前を、オレの監視下として迎え入れる」
「……何でそこまで、俺に拘る?犯罪者を更生させて、悦にでも浸りたいのか?」
「お前が犯罪者なのは事実だ。その手は拭いようがないほどに汚れているだろう。だが、お前は話が通じる。ビジネスライクの手駒として見るならば、お前はかなりの優良物件だ。だからこそ、こうして恩赦を示し引き入れようとしている」
「……」
苛立ったように、ジョネスは頭を掻く。シラミが飛ぶが、二人の間には強化アクリルガラスがある。ミザイストムが被害を被ることは無い。
やがて諦めたように、その憐れむような視線がミザイストムへと向けられた。
「……良いだろう。ただし、こっちも確約は出来ない。むざむざ殺されるのは御免だからな」
「ああ、その点は気にするな。ハンター試験には、時々ルーキーらしからぬ実力者が混じっている事がある。中には、念能力に目覚め、鍛え上げている者もな。その辺りに関しては、お前の反撃も許される。オレとしても将来有望な手駒を殺されちゃ堪らない」
「……面倒な事になったな」
そんなやり取りが行われたハンター試験の凡そ三ヶ月前の事だった。
*+*
面倒な事になった。
あの牛男……ミザイストムか。ミザイストムからの恩赦依頼で、薄紙みたいな監獄にぶち込まれてハンター試験、だったか、その受験生を待ってるところ。
「「「「……」」」」
視線が煩わしい。俺の他に四人、恩赦を受ける為に受験生を足止めするらしい、がそいつらは揃いも揃ってチラチラとこっちに視線を向けてくる。
一応、百年越えの刑期を掛けられている奴らばっかりなんだが、流石に俺みたいに四桁は居ないらしい。
まあ、怖いだろうな。俺も前世でそんな輩と同じ場所に突っ込まれたら、襲ってこないって分かっていても尻込みするわ。
ただ、俺には関係ない。恩赦はどうでも良いけども、ミザイストムともう一回やり合うのは面倒くさい。
そして、待つこと暫く。ついに、俺達の前に恩赦の対象が現れた。
来たのは黒髪が逆立った子供と、銀髪の子供。その二人よりも少し大きい金髪。更にデカい黒髪に眼鏡の男。小太りのオッサン。
最初に出てきたのは小太りのオッサンだった。構えちゃいるが、どちらかというと
案の定、一番手に出て行った禿げが提示したデスマッチ開始直後に降参する始末。まあ、逃げなきゃ、そのまま首潰されて生かさず殺さず嬲られただろうがな。
弐番目は黒髪が逆立った子供。こっちは陰キャっぽい前髪。
ロウソクゲームをしたんだが、まあ、予想外の事に対応できなくてアッサリ負けやがった
参番目は、メガネの男と、こっちの女。意味わからんから、ほぼ見てない。
四番目は、まあ瞬殺された。
そして、俺の番。相手は銀髪の子供。
「オッサンが、オレの相手な訳?」
「ああ。不本意だがな」
中々生意気なボウズだ。それに、少しばかり
「で、どうする?オッサンが決めていーぜ?」
「なら、シンプルにつぶし合いで良いだろう。来い」
「ふーん」
直ぐに分かった。このボウズは大抵の相手を嘗めてる。余程の自信があるらしい。ついでに、この年頃のガキにしては随分と強いな。
彼方さんからの制止の声も聞かずに、向かってくる。
まあ、
「――――少し落ち着け、ボウズ。初見で、心臓を抜くんじゃない」
「なっ……」
明らかに人の手じゃない形状になった手刀を手首を握って止める。
確かに、このガキは並みじゃない。だが、同時にハンター連中と比べれば、もっと言うならミザイストムと比べれば数段下だ。それに念能力も使えないらしいからな。
止められたことに驚いたのか、その青い目がパチクリしてる。
「……オッサン、見えんの?」
「生憎とな、ボウズ。俺はお前よりも強い奴を山ほど知ってる。
「言ってくれんじゃん」
何が楽しんだか、ガキめ。手を放せば、距離を取って更に仕掛けてくる。
何人にも分身したようにも見える特殊な歩法。レベルが高いな、この年にしては。
対応するように、俺は床の石板を毟り取ると、そのまま幾つかの礫を作って、分身一つ一つを潰せるように散弾銃みたいにばら撒いた。
撒いた、と言っても俺の身体能力だ。軽く投げても、この部屋の反対の壁に深々突き刺さる程度の破壊力は発揮できる。まあ、この隙を突いてボウズは突っ込んできて、貫手で腹を刺してきたんだがな。
「……オッサン、何?鉄板でも仕込んでる訳?」
「ンな訳無いだろ、ボウズ。単にお前と俺とで筋力量に差があるだけだ」
肉体改造だろうが何だろうが、俺の体は刃物が通りにくい。鍛えた結果、な。
それから、特筆する事は、特にない。ボウズが突っ込んできて、俺が適当にいなして、躱せる程度の反撃を出す、その繰り返し。
程々の所で切り上げて終了。そもそも、俺は恩赦はどうでも良かったから適当なところで降参した。
まあ、ボウズはキャンキャン吠えてたけども、その隣のオトモダチが宥めてたから良いだろ。
余談だが、この試験で試験官の一人が死んだらしい。まあ、ハンター試験で死人は珍しくないらしいが、その試験官を殺した奴が相手なら、こっちも本気でやらなきゃならなかったかもしれない。
まあ、何はともあれ、俺は今、外に居る。
空は、青かった。
ジョネス:転生者の姿
フィジカルチートで、転生の結果か生まれながらにして精孔が開いていたタイプ。
変化系寄りの強化系で才能的には、ゴンたちに劣るもののフィジカル面で大きく上回るため、修行でも無茶が利く
ハンターハンターの知識は、無し。漫画などの知識は少し古いものばかりで、尚且つ格闘系に偏っていた
キャラの肉付けには、バキのシコルスキーやオリバ、ケンガンアシュラの理人辺りを参考にしてます