変身ヒロインは悪の組織に捕まりたい   作:牧村九天

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第2話 「望の生き方」

ラック・ラックこと周治望は駅前のマンションに居住していることになっているが、狒々山の屋敷で暮らしていることが多い。

 

ここは元々彼女の祖父が所有していた山で祖父が死去した後は父親の所有地であるが、"祖父はこの山と屋敷は望の物にしろ"と生前口うるさく言っていたこともあり、実質的に彼女のものになっている。

 

実はこの山には鬼を撃退した鎧武者の伝説がある。その武者が望の一族の始祖とされており、その鎧の力こそがラック・ラックの力として望に受け継がれている。

 

なお、祖父はラック・ラックの力の源である石の存在を知っており、望に"お前が鎧を継ぐのなら山も継ぐんだ"と何度も語っていた。

 

望は朝食にチーズハムトースト2枚とインスタントコンソメスープをぺろりと平らげた望は風呂場に向かう。風呂好きの祖父が作った風呂もあり、1人で過ごすには広すぎるものだ。

 

「快適な風呂だよねぇ。毎日ここで暮らせるわ」とダメ人間の筆頭と化する望。

 

そして、「あぁ~気持ちいぃ……でも今日は何するか考えてなかったんだよね……」と平和過ぎる問題に直面していた。風呂からあがりバスローブに着替えるとベッドに寝ころぶ望。「ああぁ……もうだめぇ……幸せすぎて動けないぃ」と言いつつそのまま眠ってしまった。そして昼食を食べることなく眠り続けた。

 

夕方になると流石に腹が減ってきたため近くのコンビニへ向かうことにする望。その途中、公園で子供が泣いているのを発見したため声をかけてみることに。

 

「君たち、どうしたの?」

 

子供たちによると「おうち帰りたいよぅ」「おとうさん、おかあさーん」と言っている。迷子らしい。しかし子供だけとなると一体何があったのかと不思議がる。

 

「よし、私に任せなさい!」そう言うと子供2人を抱え上げ走り出した。

 

彼女はラック・ラックに変身しなくとも簡単な特殊能力を使うことが出来る。

子供たちの臭いを辿ることなど容易いことだ。数分後、無事家にたどり着くが、家に居たのは自分と同じ年頃の少女だった。

 

「2人とも、どこに行ってたのよ!?」と心配しながら怒る少女。

 

望が事情を説明すると少女は「弟たちを助けてくれてありがとうございます」と頭を下げながら「私は依田幸子(よだゆきこ)です」と自己紹介するが、望は(どっかで見た顔だなぁ)と考えていた。実はこの少女、レディYの正体である。

 

「アタシは周治望。まあ、困った時はお互いさまってことでまた縁があったら会いましょう」と依田家から去って行くが、幸子に押し切られる形で連絡先を交換することになってしまった。

 

モーゲン帝国の海底基地。墜落した宇宙船を改造して基地としている。指揮官に着任したイレーネが部下たちに今後の計画について説明していた。

 

「まず、私が載って来た宇宙船を移動要塞に改造して日本各地を攻撃します。それによって日本人に恐怖を与え降伏を促すことが目的です。さらに太平洋上の島。ここは知覚フィルターにより人間たちから認識できなくなっています。ここに地上の拠点となる基地を作り、本格的な日本侵攻に備えるのです」とイレーネは部下たちに今後の作戦を説明していた。

 

「イレーネ様、宇宙船の改造や地上基地建設に必要な機材や資源はどう確保すのですか?」

 

「資源と機材に関しては明日にも複数の無人船が島に到着します。それに積まれている資源および、無人船そのものも資材として使う予定です」と淡々と答えるイレーネ。

 

「さて、次の議題として我々の地球侵略を阻む人間達が言うところのヒーローやヒロインに対する対策を話し合おうと思います。

 そもそも私が派遣されたのは地球侵略の遅れを取り戻す為ですから」と地球の征服が順調に進まないことを嘆くような口調で話し始める。

 

「私も先日、着任早々に2人のヒロインと会いました。

ラック・ラックとレディYというものです。

 ラック・ラックは私にも匹敵する戦闘力があると言っても過言では無いと思います。その者の情報はどの程度あるのですか?」

 

「はい。データによりますと戦闘経験は少ないもののその実力は高く、

 イレーネ様がおっしゃられるように幹部クラスと同等の戦力があると思われます。

 下手に怪人を送っても撃破されてしまい、戦力を無駄に消費すると思われます」

 

「ですが……あの女は戦闘中に妙な反応を見せる事があります。

 攻撃を受けた際に喜んでいるような反応を見せる事が有るのです」

 

別の部下が言う。

 

それは事実である。彼女がダメージを受けた際、彼女は苦痛の表情を一瞬浮かべるが、その直後にどこか満ち足りた様子になるのは目撃されていた。しかしそれがどういう意味なのか理解するものはいない。なぜなら彼女たちは人間ではないのだから……。

 

「映像を分析すると、妙な反応を見せるのは触手などで拘束された際や後ろから羽交い絞めにされた際など動きを封じられた時のようです」

と部下が続ける。しかしイレーネには心当たりがあった。

 

(まさか、そういう趣味が有るとでもいうのでしょうか?しかしなぜ?)

「その件については私に考えが有ります。そのためにはもっと情報が欲しいですね……」と言いつつ不敵に笑うイレーネであった……

 

翌日、大量の物資や無人機が島に届けられると同時に島の基地の建設が開始された。同時にロボット兵士や強化服などの兵器が運び込まれていく。

 

「後、移動要塞の中にこのような部屋を作っておいてください」と部下に命令を出す。対ラック・ラックのための準備だ。

 

そしてその下準備としてラック・ラックともう一度戦う必要があると感じていたイレーネはロボット怪人の中から強いものを見繕うように部下に指示を出した。

 

そしてその日のうちにロボット怪人たちの中で一番強力な者1人が選ばれた。

「では早速、出撃準備です」と命令を出す。

 

そのころ望は学校から表向きの家である駅前のマンションに向かっていた。基本的には狒々山で暮らしている彼女であるが、今日はこの前知り合った依田幸子と会う約束をしているからだ。

 

駅に着くと「あっ!望さん!」という声とともに手を振っている女性を見つける。どうやら彼女のようだ。「えっと幸子ちゃんだったかな?」と言うと「はい」と笑顔で返す幸子。

そのまま並んで歩き出す二人。

 

望が隣を見ると「どうかしましたか」と言われる。そこで「ああ、ごめん。そう言えばこの前のことなんだけど、弟君たちは大丈夫だった?」

 

「はい、今日も元気です」

 

それから2人はカラオケボックスで歌を歌ったり、食事をしてからショッピングをする。途中、ジュエリーショップの前を通り、そこで幸子が足を止めた。

 

看板には『ジュエリー ナオコ』と書かれていていかにも怪しい雰囲気がする。しかしなぜか入ってみたいという欲求が強く湧き上がってくるので好奇心に従うことにした。

店内に入る……そこには色々な宝石を使った装飾品が売られており、中にはアニメのキャラクターをモチーフにしたものもあったがどれも完成度が高く素晴らしいものだと感じた。

(しかしなんで店名が『ジュエリー ナオコ』なんだ?あれか。店長の名前でも入っているのだろうか)

しばらく商品を眺めた後「気に入ったのが有りましたか」と背後から声をかけられたので驚いて振り向くと……茶色のスーツを着た女性が立っていた。

 

(この人がここのオーナー?でもなんか変だ。気配が人間じゃないような?でも敵意は無さそうだし)と少し悩むが「この二対の腕輪が気に入りましたが、自分のような学生に手が出るようなものなんでしょうか?」と疑問をぶつける。

 

すると「ほう……よくぞ気づきましたな。あなたはなかなか目が良いようです。しかしこれは……」と言って棚の方へ行くとその品を手に取って見せた。金色の腕輪に鎖があしらわれた二対の腕輪。

 

「こちらの物は一点物。この世に2つとない逸品。そしてあなたの手に渡ることを待ち焦がれているのです。そう……この腕輪を着ける資格のある者が現れるこの時が来るのをずっと待っていた……」と言うと静かに望を見る。その眼差しはとても真剣なものだった。

 

その後彼女はゆっくりと近付いてきて手を優しく取りながら、「この腕輪は運命。きっと貴方に渡されるために存在しているのです」と言う。

 

「あの価格は?」と聞く望。それに対し彼女はニコリと笑い、こう答えるのだった。

 

「ああそれは私からのプレゼント。遠慮はいらないわ」と こうして望は彼女、ナオコから金色の腕輪を譲り受けることになる。

 

「そしてもう一人のお嬢さん」と幸子のほうを見るナオコ。先ほどまでの真面目な態度と違い今度は親しげな雰囲気が漂っていた。

 

「貴女にはこのネックレスを得る運命なのです」と銀色のネックレスを渡してくる。

 

幸子は恐る恐る受け取ると「これもですか?」と聞き返すが

 

「ええ、それも私の店で売られているものの中でも一番の一点モノですよ」とニッコリと笑う。

 

幸子も思わず嬉しくなって微笑み返すが「ところでこの店の店主さんですか」という質問に対しては首を振った後、ニヤリと笑って「ふふっ」とだけ言う。それ以上は何を聞こうが話してくれなかった。

 

店を出た2人。幸子は望に「鎖が好きなんですか?」と尋ねる。

 

「何で?」と望が聞き返すと、「さっき買った腕輪も今付けてるイヤリングにも鎖がついてます」と答える。

 

「ああ、確かにそれはあるかも」

 

望のイヤリングからは小さな鎖が下がっている。実はコレ、彼女が手作りした物で手枷がモチーフなのだ。

敵に囚われたいという願望が無意識に現れているからこそ鎖を好んでいるのである。

 

2人は駅に向かって歩いて行くのだが……平和を破壊するモーゲン帝国のロボット怪人が現れたことで事態は一変する。突然の爆発音と共に建物が破壊される。逃げ惑う人々や建物の陰から様子を伺っている人達が騒ぎだす中……幸子は「こんな街中で……許せない!」と言い出す。望も変身することを考えるが、幸子も望も変身ヒロインであることはお互いに知らず、変身することが出来なくなっていた。

 

だがその時、ロボット怪人の攻撃で破壊されたビルの破片が落下し、咄嗟によけた幸子と望は瓦礫によって離れ離れにされてしまった。

 

「よし、これで変身できる!」とメイデンブレスを実体化させた望は「求めよ! 女神の加護を!」と叫びラック・ラックに変身。

 

一方の幸子も「望さんが逃げてますように」と祈ると「人々のために私は歩む」と叫びレディYに変身する。

 

暴れるロボット怪人タンクモーゲンの前に最初に立ちふさがったのはレディYだった。

 

「そこまでですよ」

 

レディYの武器は持っている杖が主体で、それで敵と格闘したり、上部に嵌められている宝石から放つ光線が主な武器だ。仮に最高出力の光線が直撃すればタンクモーゲンも倒せるだろう。

 

しかし、それにはパワーを集中することが必要。タンクモーゲンは全身に火器を装備しておりミサイルやビーム砲などを雨のように降らせている。こんな相手に動きを止めれはレディYはやられてしまうだろう。

 

そこにラック・ラックも駆けつけ、レディYに気を取られていたタンクモーゲンに切りかかる。

 

「アタシが時間を稼ぐからあんたはビームの準備をしな!」とレディYに向かって叫ぶ。

 

ミサイルを発射するタンクモーゲンの攻撃を回避しつつ、斬りかかりつつ隙を狙って攻撃をしていく。

 

「ロボットの怪人なんてはじめて見たけど……」と言って切りかかるが、相手の固い体はビクともしない。

 

一方、レディYの方はというと、杖のエネルギーチャージはまだ終わらないようだ。このままだと2人とも危険にさらされる。

 

何とか時間を稼ごうとするラック・ラックは力任せに切りかかっても剣が折れるだけだと悟り、精神を集中して剣にエネルギーを纏わせる。

 

剣を通じて敵の内部をエネルギーを叩きこもうという作戦だが、タンクモーゲンは腕からチェーンソーのような武器を出し、ラック・ラックの剣に対抗する。

 

「俺だって接近戦用の武器はあるんだぜ。せいぜい頑張るんだな。その剣を落としたらすぐに切り刻んでやるからよ」と向かってくるタンクモーゲン。

 

(こいつなかなか厄介だね。やたら固いし何で出来てんだ?)と舌打ちをする。(何といっても飛び道具中心でチェーンソーなんて捕まっても楽しくなさそう……早いとこレディ弱いじゃなくてYの奴がエネルギーを貯めてくれんと)

 

一方でようやくエネルギーチャージを終えたレディY。

 

「お待たせしました」

 

彼女の持つ杖に嵌められた宝石から最高出力の光線が放たれ、直撃を受けたタンクモーゲンはその威力に耐え切れずに吹き飛ばされる。

 

しかし完全に沈黙したとはいえ体の大半は残っているなど尋常でなく丈夫な事が見て取れる。

 

「とりあえず、奴の残骸を片付けないと」とラック・ラックが言う。地球の技術をはるかに超えるロボット怪人が悪意のある地球人の手に渡ればそれをリバースエンジニアリングして兵器を開発する可能性は十分にある。

 

「私が運びます」とレディYが力を籠めるとタンクモーゲンの残骸は光に包まれて浮かびだす。だがそこに皮鞭が飛びレディYはかわしたものの集中が途切れたことでタンクモーゲンを落としてしまい、その残骸は突如として現れた黒い裂け目に吸い込まれていった。

 

「人の組織の持ち物を盗まないでもらえますか?」

 

「イレーネか……」

 

「覚えててくれたんですね」

 

「忘れるわけねぇだろ」と言いながら剣を構え直す。レディYも杖を構えている。

 

「今日も私の相手をしてもらいますよラック・ラック。レディYも来たければご自由に」と自分を眼中に入れていないイレーネの発言に怒るレディY。

 

「あんたの目的は何だ? アタシ達を狙うのはどうしてなんだよ?」

 

「簡単なことですよ。私は地球侵略部隊の指揮官。貴女は現状では最も遭遇する可能性の高い脅威ですから、早めに手を打つ必要があると思いまして」と淡々と語る。

 

ラック・ラックはタンクモーゲンとの戦闘による消耗からか少し呼吸が荒い。これ以上長引けば勝てる相手ではないかもしれない。

 

しかし……レディYも先程の戦いで体力を消耗している。

 

「さあ、どうします? 降伏して我が組織に尽くすというなら受け入れますよ」と言いながら鞭を振るうイレーネ。それを避けたラック・ラックだが、次に飛んできた鞭をよけきれず縛り上げられてしまう。

 

「うっ」とうめきを上げるラック・ラックに「これで終わりですね」(やはり攻撃されて喜んでる?)

イレーネにレディYが攻撃しようと構えるが、「おっと……妙な真似はしない方が良いですよ?」と鞭で縛り上げたラック・ラックを立たせて後ろに隠れるイレーネ。

 

レディYはラック・ラックを人質にとられて何もできなくなった。

 

「さあ、次は貴女の番ですよ?」とレディYに迫るイレーネ。

 

だが、その時、「これ以上の勝手は許さない!!」

 

その言葉とともにレディYの体から光が溢れ、両肩に銀色の装飾品が新たに装備された。ラック・ラックは苦しみながらも彼女の両肩の装備はジュエリー ナオコから譲ってもらったネックレスと同じデザインであることに気づく。

 

(あのジュエリーショップのネックレスはマジックアイテムかなんかかよ。アタシの腕輪も何か使えんのか?)と考えるもののもがいたせいで首にまで鞭が巻き付いており、息がしにくくなっている状態では何もできない。

 

レディYを見たイレーネは焦る。レディYのパワーレベルが急速に上昇しているからだ。網膜に投映されている簡易スキャナーの表示からレディYの強さこの一瞬で上がったことを示していた。彼女はパワーの増加により必殺技のエネルギーチャージも数秒で出来るようになっていることが分かる。

 

(こちらもそういつまでも持ちませんし。ここは一旦引くべきですね。本来の目的は果たしましたし、次の段階に進めましょう。レディYの対策も考えねばなりませんね)

 

「今日の所は私の負けです。また会いましょう」とラック・ラックを解放してイレーネは去っていった。何とか危地を脱した2人は改めて合流していた。

 

「今回はあんたのおかげで勝てよレディY」

 

「はい!」

 

「パワーダウン」と叫ぶとラック・ラックは望の姿に戻り、それを見たレディYも「変身解除」と呟き幸子の姿に戻る。

 

「やっぱりあんたか……」と望が言うと「やはり望さんでしたのね」と幸子が答える。

 

「とりあえず、これからもよろしく」と望が言い、幸子が笑顔で返事をしたところでこの話は終わるはずだったが……。

 

望が鞄からタブレットが無くなっていることに気づいたのはマンションに帰ってからであった。

 

(あれ?……どこにやったかなぁ~?)

 

どうやらどこかで落としたらしい……。

望は不安になるも探す当ては無いため、新しい物が届くまで我慢することにする。

 

モーゲン帝国の基地建設が行われている島。着陸した宇宙船の一つを臨時司令部としている。その内部には回収されたタンクモーゲンの残骸があった。

 

「残骸を回収する必要はあったんでしょうか?」問う部下にイレーネは「こいつの体にはメガタイタニアム合金が使われています。地球上では作る手がない以上、貴重な資源です」と答える。

 

「さて、私はこいつの解析作業に集中するために海底基地に戻ります」と言うイレーネの手にはタブレットがあった。

 

実は望が変身した時に鞄からこぼれ落ちていたタブレットは戦いを視察していたイレーネの手に渡っていたのだ。

 

「こいつを調べれば面白いことが分かるかもしれません」と言ってその場を離れるのだった。

 

今夜の望さんの夢。

 

「さあ、どうします? 降伏して我が組織に尽くすというなら受け入れますよ」と言いながら鞭を振るうイレーネ。

 

それを避けたラック・ラックだが、次に飛んできた鞭をよけきれず縛り上げられてしまう。

 

「うっ」とうめきを上げるラック・ラックに「これで終わりですね。おっと……妙な真似はしない方が良いですよ?」と鞭で縛り上げたラック・ラックを立たせて後ろに隠れるイレーネ。

 

レディYはラック・ラックを人質にとられて何もできなくなった。

 

「さあ、次は貴女の番ですよ?」とレディYに迫るイレーネ。

 

「待ってくれ……その娘は見逃してくれ……アタシのことは奴隷にでも実験台にでもしてくれて構わないから。アンタの靴を舐めろってんなら舐める」とラック・ラックが懇願する。

 

「そうですねぇ。レディY、お優しいお友達に感謝して消えなさい。そうすれば見逃してあげます」

と言うと「くそっ」と言って引き下がるレディY。

 

「さあ、基地で可愛がってあげますよ。嬉しいでしょ?」と言われ基地に連れてこられたラック・ラックは磔台に拘束された。

 

「シンプルにくすぐりと行きましょう」と言うと磔台の後ろから無数の手が生えてきて彼女の全身をくすぐりだした。

 

「ひゃっ! やめて~やめて~」とラック・ラックが笑い転げるが「やめない」と手の動きが加速した。

 

「いひゃい。ひゃめて~」

 

「ダメですね。まだ私を怒らせた報いが足りていません。もっと出力を上げます」と言うと羽やブラシを持ったアームが現れてくすぐりに加わる。

 

ラック・ラックの体はあっという間に汗まみれになっていた。

 

さらに足の裏をしつこくくすぐられて悶える。

 

「ひゃはははは、ひひひひひ」と笑うが「まだまだこれからですからね」と言うとイレーネ自身もくすぐりに加わり両脇を10本の指が同時に動いて激しくくすぐる。

 

「ひゃは、もうひょ、ひゃはは、ゆるひ、へはははははは」と許しを請うラック・ラックだが、イレーネのくすぐりの手が緩む気配はない。

 

それから1時間以上もラック・ラックは笑わされ続けた。ようやく解放されたときにはぐったりとして気絶してしまった。

 

 

次の日の朝。

 

「ふぁー良く寝た!良い夢を見れてすっきり爽快」

 

夢の中で責められたおかげで望の心は満ち足りていた。

 

「でもなぁ夢の中のアタシは簡単に堕ちすぎだよ。

 変身ヒロインたるもの人々の憧れでなければならない。常にプライドを持っていかないと」

 

しかし望はあの時、夢と同じ行動をとっていれば自分の念願が叶ったのではないかと思ってしまう。

 

「それは違うよね。幸子を犠牲にすることは無い。

 自分の邪な夢の為に他人を犠牲には出来ないよ」

 

妙な所で真面目な女である。

彼女はあくまで美しく強いヒロインとして敗北し汚されることを望んでいるのだ。

 

「でも……あの場に幸子がいなかったら……

 多分捕まることを選んだよな」

 

それこそがラック・ラックになった理由。

彼女は敵に敗北し、自分の全てを滅茶苦茶にされたいから戦っている。

 

「アタシって何なんだろうね。何がしたいんだろうね?」

 

捕まりたいのに妙な美学の為にその機会を逃し続けている。

幸子のように真っ当に戦う人を見ていると自分が恥ずかしく思うこともある。

 

破滅願望が詰まった体の表面を正義のヒロインの要素で覆っているだけのはっきり言って普通ではない人間。

 

「ま、細かい事を気にしてもいつかは死ぬのなら、後悔が無いように生きましょう」

 

そう呟きながら身支度を整える望は棚に飾ってあるジュエリー ナオコから譲り受けた腕輪を見ながら「帰ったらコレをつけよう。鎖付きの腕輪。手枷みたいで素敵だな」と独り言を言う。

 

「そう言えば、あのタブレットにはアタシの秘密が書いてあんだよねぇ。パスワードはかけてあるけど……」と昨日失くしたタブレットを気に掛ける望であった。

 

一方のモーゲン帝国の基地。

 

「なんですか、この悪寒は……」と基地のコンピュータに望のタブレットを繋いで調べようとしていたイレーネは突如として悪寒に襲われていた。

 

「イレーネ様は着任早々に働き過ぎなんですよ。

 少しお休みを取られたほうがよろしいと思います」

 

「そうですね……この程度のコンピュータの分析なら自動解析機で出来ますし、

 お言葉に甘えて仮眠を取らせていただきます」と仮眠室に向かっていくイレーネ。

 




望さんは面倒くさいMなので捕まって嬲られるのは望でも闇堕ちはしたくないのです。

そんな変態に目をつけられたイレーネ様はある意味では最大の被害者。

『魔法少女にあこがれて』のうてなさんみたいな人が派遣されてたら丸く収まったんじゃないかと思いながら、今宵はこれまでいたしたいと思います。

正直、夢の拷問パートを書くのが楽しすぎて、このままでは望さんが悪の幹部以上の拷問を妄想する極めて危ない女になってしまいそうです。え? もう遅い?

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