モーゲン帝国の海底基地。
望のタブレットを解析して得た情報を自身のコンピュータに記録し情報の整理をしているイレーネの姿があった。
「色々と頭が痛くなりましたけど、使えそうな情報はいくつか手に入りました。
ラック・ラックが破滅願望の持ち主と分かった以上。
望みを叶えてこっちの戦力として引き込むことも出来なくは無い」
とは言ったものの、イレーネは望が妄想しているような女王様キャラでは無い。あくまで侵略軍の司令官として敵には冷徹に振舞っているのであり、基本的には優しい人物である。敵に対しては容赦はないものの、降伏して捕虜になったものには基本的な人権を保証する主義である。
これは彼女の経験によるものが大きい。モーゲン帝国は基本的に侵攻した星を徹底的に略奪し、原住民を根絶やしにせん勢いで攻撃する司令官が大半だ。
また、一部の例外を除いて侵略に成功した星の支配権は侵略部隊の指揮官が得る。イレーネは現在の地位に就く前、自分の上司だった者たちが私利私欲のための略奪や強制労働を行い続けて反乱を起こされたという事例を何度も見ている。
イレーネ自身が温和な性格であることもあるが、基本的に彼女は侵略が完了すれば原住民も帝国の臣民となるのだから反感を抱かせることは得策ではないという判断でなるべく現地の人間に対して危害を加えないことを心掛けていたからだ。
ラック・ラックを味方に引き込みたいのもまた、敵対した存在であっても恭順すれば受け入れると地球人に理解させるためであった。
彼女は支配した星の文化・宗教を尊重する主義であり、一般市民は基本的に支配される前と殆ど変わらない生活を送ることが出来る。このような支配体制は彼女が穏健派なのもあるが、基本的に彼女は辺境地域担当であり、侵略の優先度の低い地域を担当しているため、このような勝手が許される一面もある。
「さて、ラック・ラックは敵に捕まって自分の尊厳を徹底的に破壊されることを望んでいるとわかりましたが……どうすれば良いんでしょう?」
イレーネは温厚な性格でラック・ラックが望むような女王様なキャラを演じられるかどうかわからない。彼女の経験上、あの手の人間は演技を見抜く能力がやたら高いことを知っていた。
下手な演技をすれば計画は水の泡だ。本国に応援を要請し、腕の良い拷問士を派遣して貰うことも考えたが、予算の都合上難しい上に、帝国最高の拷問士と自分はそりが合ないというのもある。
「帝国最高の拷問士ローゼンブラッド……あの女の顔ははっきり言って見たくない……」
それに今更助けを求めるのかとも思う。だが、彼女以外に誰がこの計画を進めることが出来ようか? 仮に他の誰かに任せるとしよう。恐らく上手く行かない可能性が高い。いや、絶対に無理だ。それくらいなら自分が進んで引き受けた方が良い。
「私も皇位継承権のある人間。支配者としての演技ぐらいできなければ……」
モーゲン帝国の司令官クラスの人間は皆、皇帝から認められた者たちである。
認められた際に皇帝の細胞を植え付けられ、皇帝の子供と扱われる。
イレーネは全体からみれば15番目程度であり、脱落してるようなものだが。
「今後に向けて演技レッスンにで通いましょうかね……」
ただでさえ多忙を極めているのに、イレーネの受難はこれからも続くことになりそうであったが……彼女の頭にある計画が浮かぶ。
イレーネは必要なものを部下に発注することにした。
※
数日後、ラック・ラックこと周治望は無くしたタブレットの変わりを買うために家電量販店を訪れていた。
売り場のテレビからは"俳優のグラム・レンこと上田哲男さんが自宅の敷地内にある演技教室のスタジオ内で倒れているのが見つかりました"
「今まで持ってた奴の後継機種あったかな……」と店の中を探す望。
目当てのものがあったのでそれを購入し、タブレットの入った袋を持って店を後にした望は小腹がすいたので喫茶店に向かう途中、赤いフードを被った占い師に声をかけられた。
「もしお嬢さん」
「ふぇ?」
突然声をかけられた望に占い師は「貴女は近い内に人生最大の壁にぶつかりますよ」と告げる 望は興味を抱いたようで占い師の方に振り向いて話を聞く体勢になる。
すると占い師はその水晶玉を片手に語り出す。その口調はとても淡々としており感情のようなものを読み取ることは出来なかった。
「占いによると貴方はまもなく最大の選択をする時が来ます。その選択を誤らなければ貴女の望みは叶います。もし誤れば、二度とそれを叶える機会は無く、破滅が待っているとも」と告げ、「このカードは正位置の意味『破局』を持つ物です。破滅的な運命から逃れるには今すぐ何かを変えるべきでしょう。これはお守り代わりです」と黒い石を渡す。
その後、占い師は何も言わずその場を立ち去った。
しばらくポカンとした表情をしていた望だが我を取り戻し、先ほど占い師から受け取った黒い石を改めて見る
(何だろうこれ?)と思いながらも取りあえずバッグの中にしまう。この時、望は知らなかったが占い師の言葉はこの先の波乱に満ちた人生を暗示するものだということを……
数日後、学校帰りの望が海辺で黄昏ていると周りをモーゲン帝国の戦闘員たちが取り囲んでいた。
「良い気分を台無しにしやがって雑魚どもが……」とメイデンブレスを実体化させて変身しようとした望だが、戦闘員たちがそうはさせじ攻撃してくる。
「変身を妨害するとはふてぇ奴らだ」
とは言っても戦闘員たちは銃を持っている。変身する時間を稼ぐため、望は岩場まで一気に走ることにした。
そしてそこにたどり着くと同時に彼女は叫ぶ「求めよ!女神の加護を!」次の瞬間、彼女の周りに光の柱が出現して全身にまとわりつくように装甲が形成される。最後にヘルメットが形成され、ラック・ラックが完成した。同時に彼女は走り出し、敵の懐に入り込んで殴り飛ばす!殴られた戦闘員はそのまま吹っ飛んでいった。
変身してしまえば戦闘員など敵では無いのだ。そのまま次々と蹴散らしていく。数分後、その場に立っていたのは望だけであったが……突如足元から網が現れ、彼女を捕らえてしまう
「なんじゃこりゃ!?」
どうやら海草の塊でできたネットらしい。絡めとられる前に脱出できたラック・ラックだったが、何人もの人々が意識を失った状態で網に囚われていることに気づく。
「今助けてやるから!」と着地するがありとあらゆる場所に罠があり、ラック・ラックは逃げ回る事しかできない。
少し離れた岩に着地したラック・ラックだったが、足を何かに掴まれて海に引きずり込まれてしまう。口元が露出しているラック・ラックは即座にヘルメットの潜水モードを起動して窒息することは免れたが、自分の足を巨大な蟹のはさみが拘束していることを知る。
「バカねぇ、戦闘員を巻いたつもりで罠に飛び込むなんて」と嘲笑うのはクラブモーゲンだ。無数のハサミを有すカニ型女怪人
「ほう、女怪人とは珍しいな」と余裕を崩さない望。
それに対して「随分強気じゃない?私の実力を知らないようね」とクラブモーゲンはラック・ラックの両腕をもハサミで拘束しようと迫る。
必死で逃れようとするが岩場に拘束されては悪あがき、即座に両腕も拘束されてしまう。
(これはマズい……拘束されて喜んでる場合じゃない。潜水モードは一時間ぐらいしか持たんし、何とか脱出して地上に出ないと)
「逃げようとしたら地上の網にかかってる人間は皆殺しよ?」と言いながらラック・ラックの首にハサミを近づけるクラブモーゲン。
(こんな時に幸子が……レディYがいてくれたら……何を言ってるんだ。アタシは一匹狼。仲間なんていらないんだ)
そう思うラック・ラックだったが、先日イレーネとの戦いでレディYに助けられてから彼女の心境に変化が起きていた。
仲間がいる事の良さや、破滅願望のある自分への恥など。しかし、それを認めれば自分のこれまでの人生を否定することになるから、認められないのだ。
「アタシが降参するなら捕まってる奴らを解放してくれるか?」と取引を提案する。これで相手を油断させて倒せても良し、このまま捕まれば自分の欲望が叶う。
「良いわよ。それじゃあ基地に行きましょうか?」と彼女を拘束するハサミを外したクラブモーゲンはラック・ラックを両腕を掲げるような形で掴み。地上へと上がっていく。
地上では網に閉じ込められていた人々がいたが解放される様子は無い。
「あいつらを解放しろ。それが降伏の条件だろ!?」
「約束なんて守るわけ無いでしょバーカ。あいつらの目の前をアンタの首をちょん切って人間ども絶望させてあげるわ」
「そうかい、ならこっちもおとなしくする理由は無いな!」と言うとラック・ラックの背中から爆炎が放たれた。
それは一瞬にして周囲を火で包む。そして次の瞬間には……「ギャアァーッ!!」と悲鳴を上げるクラブモーゲン。
そのスキに拘束から脱出したラック・ラックが岩場に着地する。
「これぞ裏技よ」
ラック・ラックは変身時に発生する余剰エネルギーを背中に溜めてあり、必要に応じて放出することも出来るのだ。
つまり、決めポーズの最後に背後が爆発するシーンの演出用である。
「そろそろ鍋が恋しいだろ」
「よくもやってくれたわね……」とクラブモーゲンは巨大なハサミでラック・ラックを再び捕らえようと迫る。しかしそれを見切ったラック・ラックは大きくジャンプ!空高く飛び上がりハサミをかわして空中から落下速度を利用してキックを放つが、クラブモーゲンは素早く回避。
「くっそ!」
ラック・ラックはかなり強い部類のヒロインであり、並の怪人なら相手にならない。
しかし、内心にある敗北への願望とイレーネがもたらした技術により怪人が強化されていることなどから苦戦を強いられているのだ。
下手に近づけばまたハサミの餌食。ラック・ラックは飛び道具らしい飛び道具は有していない。手から火炎を出すことは出来るが決め手にはならないであろう。
「あら、私のハサミが怖いのね? 臆病なヒロインちゃん」と挑発してくるクラブモーゲン。
「あの野郎、一気に叩き潰してやる!」と思った瞬間。彼女の手に何かが現れる。それは占い師に貰ったお守りの石であった。
それが黒い光に包まれるや黒い剣へと変化した。
「なんだコレ……凄い力だ」
まるでイレーネとの戦いの時のような高揚感を覚えながらその剣を振り上げるラック・ラック。そのまま振り下せば衝撃波が発生して周囲の敵を巻き込みながら吹き飛ばしていく。
更に追い打ちをかけるように剣が黒く輝きラック・ラックの力を強化する。
「こいつなら……勝てる!」と一気にクラブモーゲンに切りかかるラック・ラックだが、頭の中に"その力を使ってはダメです! 貴女が貴女ではなくなってしまう"と言う謎の声が響く。同時に彼女は全身から力が抜けるような感覚を覚えたが構わず攻撃する。
しかし、一撃目は何とかかわすことに成功したものの二撃目、三撃目の連続攻撃を喰らいダメージを受けるクラブモーゲン。
(なんだコレ、楽しいぞ!)
圧倒的な力を振るう快感に支配される望はクラブモーゲンに何度も切りかかる。
「どう言うことよ……」困惑しながらも必死に応戦するが、ついには体を切り裂かれて消滅する。
変身を解除した望は捕まった人たちが無事なのを確認すると家に帰っていく。
「疲れた……」
マンションに帰った望は腕輪を外して棚に置く。
「あれ?」
望は気づく、腕輪の裏側には自分の知らないが彫られていることに。
そして占い師からもらったお守りにも似た文字が彫られていた。
意味はそれぞれ、腕輪が"人の為の力"、お守りが"自分の為の力"だが、望が知ることない。
※
今夜の望さんの夢。
「アタシが降参するなら捕まってる奴らを解放してくれるのか?」と取引を提案する。
「良いわよ。それじゃあ基地に行きましょうか?」
ラック・ラックが連行されたのは海底の洞窟に作られた基地。
その奥には鉄格子の嵌った一角があった。
「ここが貴女の終の棲家よ」とクラブモーゲンはラック・ラックの背中に蟹のハサミを突きつけながら言う。
「入りなさい」と命令されしぶしぶ従う。中には鎖と手錠がかけられていて逃げ出すことは不可能だろう。
「何するつもりだ」
「拷問よ拷問よ、接待でもしてくれると思ったの?」と笑うクラブモーゲンは彼女の腹部を掴み強く挟み込む。グチャリと言う音が鳴り響いて激痛で意識を失いそうになるラック・ラックだったが、すぐに痛みは和らぎ代わりに全身を心地よい脱力感が支配する。
これは彼女が気絶しないギリギリの力加減で行っているため、長時間続けられると気絶すら許されない苦しみを味わう事になるだろう。
「どう? モーゲン帝国に逆らった愚かさを反省する?」と言いながら力を強めるクラブモーゲン。その度にラック・ラックの口から苦痛の叫びがあがるのだが……
「反省するなら命だけは助けてあげる」とクラブモーゲンが悪魔のささやきを行う。するとラック・ラックの顔色が変わった。
「分かった。アタシが悪かった。だから止めてくれ!」と涙を浮かべ懇願し始めたのだ。
(こいつ演技派なのね。中々楽しめそうだわぁ♪ もっと責めてやるわ!)
クラブモーゲンの心に嗜虐的な感情が湧く。
それからしばらく時間が経過したが一向に許してもらえる気配が無い。それどころか、先程より力を込められている。
「もう無理ぃ……本当に謝ってるじゃないですか!」
「駄目ね。そんな事言い出した時点で反省する気はないんでしょ?」とさらに挟む力を強めるクラブモーゲン。ラック・ラックの顔色が絶望に染まっていく。
「違う! 違う! 本当に反省してます!」
「忠誠の証を見せなさい。出来ないなら死ぬことになるわよ」と宣告するクラブモーゲンはハサミの一つをラック・ラックの首へと突きつけ、「首を刎ねるから覚悟するのね」と脅されたラック・ラックは必死に謝罪しながら彼女のハサミにキスをして舐め回す。
「ごめん……なざい。もう、逆らいまぜ、ずぅ……ひぎっ!?︎」と言った途端に激痛に襲われ悲鳴を上げるラック・ラック。
クラブモーゲンが更に腕の力を強めたのだ。「忠誠心がない奴の言葉なんか聞く価値はないのよ。このド変態」と吐き捨てる。
「心から誓います心から誓います。モーゲン帝国にいや、クラブモーゲン様に忠誠を誓います!」
必死に誓うラック・ラックの目からは涙を流し許しを求めるように両手を差し伸べる。手錠さえなければ彼女に出来る最大級の土下座であっただろう。
※
悪夢なのか吉夢なのかわからない夢をみて悶えている望。そんな彼女を見下ろしている存在がいた。あの占い師の女だ。
占い師は眠っている望の頭を軽く撫でると、「そうだ……お前は欲望のままに生きろ。間違っても真っ当なヒロインになってはならない。その時は私がお前を滅ぼす……ラック・ラックに許されるのは欲と力に溺れた未来だけだ……」と耳元で言う。その声はとても優しい声で、どこか悲しげでもあった……。
※
一方のモーゲン帝国海底基地。
「クラブモーゲンがやられたですって?」
「勝手にラック・ラックと戦闘したようでして……」とイレーネに説明する部下。
「強化型でも勝てないんですか……」
「かなり善戦したようですが……」
「こちらの計画を進めましょう。変身には変身で対抗するんです」と言うイレーネの視線の先には彼女自身が設計した変身装置と強化アーマーがあった。
「アーマーの完成を急ぎなさい。今度こそ決着をつけますよ」と力強く言うイレーネに部下たちもまた力強く答えるのであった。
構想してる今後のストーリーがどんどんシリアスになってきてコメディ要素がどっか行っちゃってる。
変なヒロインに敵組織が振り回される話を構想してたのに。誰か助けて。