ラック・ラックとイレーネの戦いが続いている狒々山。
ラック・ラックは何度もイレーネに切りかかるが彼女のスピードと固いアーマーに阻まれてダメージを与えることが出来ないまま体力を消耗していく。
一方、余裕な表情のイレーネの攻撃を避けることが出来ず傷が増えていく。
「そろそろ観念なさい。素直に降参すれば幹部候補としてお迎えしますよ」
「アタシを屈服させるにはパンチ力が不足だぜ……」
そう挑発するが次の瞬間にはイレーネの拳がラック・ラックの腹部に直撃する。
「これでも足りません?」
即座に反撃しようとしたラック・ラックだが、イレーネのスピードにはかなわずよけられてしまう。
その後、ラック・ラックは殴られ続けたが最後の一撃を食らう直前で間一髪ジャンプすることで攻撃を回避した。そのまま空中で体勢を立て直す。
(何か考えろ……イメージを固めろ……あいつに対抗できるような武器でも技でも……)
その時、彼女の両腕に光が宿る。
(ジュエリー ナオコのとこで貰った腕輪か……何か力を与えてくれるのか?)
そして導かれるように腕を動かすと光線が放たれたが、イレーネは簡単に回避する。
「ビームですか……威力は凄いですけどこんな大ぶりな攻撃が当たるとでも思うんですか?」
「コツは分かった。一気にやってやる」と言いながら大剣を構える。
「そう簡単にいきますかね!?」と飛びかかってくるイレーネにラック・ラックが剣を振るうと剣から光が放たれたのだ。
拡散されていたため、威力は低下したが、さすがによけきれずイレーネに攻撃が命中した。
「よし!」と言いながら今度は突きの構えをすると剣の先端からビームが放たれる。
(下手に近づくとあのビームの餌食……大振りとはいえ至近距離から放たれては避けられない)
と冷静になり距離を取ると彼女は考えた。
(だったらこれで……! 接近戦を仕掛けてくる相手に有効な技を……)
イレーネがラック・ラックに向かって走るとラック・ラックは剣を構えるとビームのエネルギーを剣に込めて斬撃を繰り出す。
その一撃を受けたイレーネはよろめくもすぐに態勢を整えた。
だが彼女の鎧の一部が完全に破損しており、煙が噴出している。どうやらかなりのダメージを与えられたらしいとラック・ラックは判断した。
「やりますね……貴女のような実力者は是非とも部下に欲しい……絶対に屈服して貰います」
その言葉と共に電磁鞭を取り出したイレーネはラック・ラックに向けて振り下ろす。
ラック・ラックはそれを大剣で受け止める。
(ぐ……重い……それに振動が伝わってくる……だけどここで退くわけにはいかない)
歯を食い縛って耐えようとするラック・ラックだが、ついに堪え切れなくなり地面を滑るように後退してしまった。
それを見てチャンスと言わんばかりに飛び込んできて彼女の首筋に狙いを定める。しかし、その攻撃を何とか回避する。
(速い上にパワーもある……隙を見せない……待てよ……あいつが飛び上がる時に少しスキがある……そこに攻撃を当てれば……)
ラック・ラックは深呼吸をすると剣を構える。そして彼女が飛んだ瞬間を狙って光を帯びた刃を薙ぎ払った。それと同時に眩い光が辺りを包み込む。
攻撃を受けたイレーネはそのまま落下していくが、地面に着地した後で動かなくなる。
「どうなってるんですか!?」
そう叫ぶイレーネのヘルメット内のスクリーンには"システムエラー"と表示されていた。
「お前が飛び上がる時に一瞬だけ隙があるんだよ。普通に飛んだ後にアーマーのアシストが入るだろ? そこを狙って攻撃したんだ」
「そう言うことですか……」
そう言って項垂れる彼女のマスクの内部から蒸気が噴出されているところを見るとかなりダメージを受けているようだ。
剣を構えるラック・ラック。こうなってしまえばイレーネのアーマーは重りである。
システムの再起動まで時間を稼がなければイレーネの敗北は必須だ。
「待て! ラック・ラック!」と拘束されたレディYを引きずりながらベルベットが現れた。
「こいつの命が惜しくないのか?」と言われてラック・ラックの動きが止まる。
「そいつはもう戦えないぞ。投降すれば助けてやる。拒否すらなこいつもその弟2人も死ぬことになる」
「卑怯だぞ! これはアタシとイレーネの勝負だろうが!」
「ベルベット……貴女は何をしているです!?」
ベルベットの行動に驚くイレーネ。
レディYの襲撃は全てベルベットの独断でだったのだ。
「申し訳ありません……命令違反をしたことは後程処罰を受けます。ですが、今回は勝たなければ……」
レディYは涙を流しながら顔を背け、「ごめんなさい……望さん」と力なく詫びる事しかできなかった。
「どうする? 降伏しないなら私も本気だという所を見せてやるぞ」と言いながら電撃を発しレディYの体に激痛が走る。
「あああ!!」
「止めろ!」
ラック・ラックは声を荒げる。
「ベルベット、お止めなさい! これは私と彼女の勝負です。これ以上水を差すことは許しません」
イレーネが一括するとベルベットは肩を震わせていた。
「ですが……」
「余計な事をしないで見ていなさい……」
そう言いながらイレーネは再び飛び上がり、今度はそのまま両足蹴りをラック・ラックの胸に叩き込む。
強烈な一撃を吹き飛ばされたラック・ラックは立ち上がれずに仰向けに倒れ込んだままだ。
「ここで負けるのも良いか……でもアタシの夢に幸子は巻き込めんし……」
望の中では敵相手には決して屈しないのがヒロインである。
しかも他者に見られているなかで降伏するなどあってはならないことなのだ。
さらに言えば友人である幸子に自分の本性を知られ、軽蔑されることを恐れているというのもあるが。
倒れたラック・ラックを見下ろしながらイレーネが囁きかける。
「貴女……本当は怖いんじゃないですか? 自分が捕まってどんな目に遭わされるかわからなくて……」
それはある意味では事実。るいから聞かされたスノーブラッド帝国の犠牲者や、るいの"もしあんたが怪人に改造されたりすれば相打ちになっても倒す"と言う言葉から夢と現実の差に考える事も多くなったのだ。だがそれを認められるほど彼女は強くはない。
そもそも望の破滅願望は自分が恵まれた環境に生まれたことと、家族とそりが合わず、友人もいない孤独な人生を送ったことに起因する。
変身ヒロインとして戦い、幸子と知り合ったことで彼女の心境には変化が起きていた。しかし、イレーネはそんな彼女に囁きかける。
「私に捕まれば貴女を殺したりはしませんよ。貴女の望みのままに施行の苦痛と快楽を味合わせてあげます……」と笑うイレーネ。
「ですが……私を拒否して私に勝ったとしても私より恐ろしい奴らが次々と送り込まれてきます。そしてそいつらは甘くはない」
イレーネがラック・ラックの剣を奪って胸に突き立てる。
「もうおしまいです……降伏しないならここで死んでもらいます」と最終通告をするイレーネ。
太刀打ちできない相手に対する死の恐怖をはじめて感じるラック・ラック。
目を見開いてもがこうとするレディYだがベルベットに「弟2人が死んでも良いんだな?」と脅されて動く事すらできなかった。
勝利を確信するイレーネだが、次の瞬間予想外の事が起きた。
ラック・ラックの手には占い師の黒い石、つまりは暗黒の剣があった。
それと同時に頭の中に響く謎の声が「その力を使って奴を倒せ」その言葉と共に石の暗黒の剣へと変わる。
「これはあの時の黒い剣……こいつならあの装甲でも切れる!」と言いながら起き上がって駆けだし、剣を振るうとイレーネのアーマーが切り裂かれる。
「何故……貴女がそれを……」
イレーネは簡単に装甲が破壊されたことよりもラック・ラックの手にある剣に驚愕していた。
あの剣はモーゲン帝国の皇帝のみが持つことを許される暗黒の剣。皇帝本人か皇帝に許可されたもの以外は触れることさえも出来ない代物だからだ。
そしてラック・ラックの身体が黒く輝き出す。まるで全身が闇で覆われるかのような光景。
無言のままラック・ラックがイレーネに切りかかり、彼女のアーマーを次々と破壊していく。
「イレーネ様!」
レディYを放り出してベルベットがラック・ラックの前に立ちふさがるが、暗黒の剣の切れ味の前にモーゲンタイタニュウム合金製の左腕を切り落とされてしまう。
ラック・ラックの体は黒いオーラに包まれ、「凄い力だ……負ける気がしない……」と狂気の混ざった笑みを浮かべる。
その光景を見ていたレディYの脳裏にある映像が浮かぶ。
ラック・ラックがあの黒い剣で自分の心臓を一突きにする映像。
そして亡骸となった自分を抱きかかえながら「ゆきこぉ、ゆきこぉ」と泣き叫ぶ望。
(止めないと駄目だ……)と思ったレディYは精神を集中して胸の宝石から杖を実体化させると念力で操ってビームを放ち、ラック・ラックの手から黒い剣を撃ち落とす。
「何!?」と叫ぶラック・ラック。そのスキを突いたイレーネが石に戻った剣を拾って退却する。
「待て!」と言う前にイレーネは姿を消してしまう。
イレーネの無事を確認したベルベットは拘束していたレディYを解放する。
「お前のおかげでイレーネ様は助かった……弟にも手は出さない……」
そう言って立ち去るベルベット。
解放されたレディYだったが先程の攻撃で受けたショックは激しく立ち上がる事すら出来なかった。
「大丈夫か? 幸子……」と心配するラック・ラックに対して「私は平気です……それより弟の方を心配してください」と答えるレディY。
ラック・ラックはレディYを抱え、急いで幸子の家に行くと普段通りに家にいる2人を見つけた安心と蓄積したダメージでレディYが気絶してしまう。
「どうすりゃ良いんだコレ?」
変身を解除していない以上、家のベッドに寝かせて弟2人に見つかったら困る。
仕方なしに駅前のマンションのベッドに寝かせることにした望。1時間ほどで幸子の意識は回復したが、彼女は泣きながら望に謝るばかりだ。
「ごめんなさい……私のせいであんなことに……」と涙を流す彼女を慰めながら家まで送った望はなし崩し的に彼女の家に泊ることになってしまった。
※
戦いに敗れたイレーネは基地に戻ると、暗黒の剣となる石を最重要保管庫に仕舞い、司令室に入る。
そこには先に帰っていたベルベットが平伏していた。
「ご命令に従わなかったうえに役にも立たず申し訳ありません。何なりと罰をお与えください」
司令室の玉座に腰掛けたイレーネは「私の許可あるまで自室謹慎とします」と宣告する。
その言葉を受けたベルベットは司令室を後にする。イレーネも部屋に戻り休息をとることにした。
「これが最期の睡眠かもしれません……」
最後通告を受けた以上、自分は処刑されてもおかしくないのだ。
一方、最重要保管庫の中に時空の裂け目が発生し、その中から現れたサンダーは暗黒の剣となる石を探す。
「こんな広い倉庫の中であんな小さな石を探せとは……人使いの荒いご主人様ですこと……」
そう言って探し始めるがなかなか見つからない。
「早く見つけて脱出しないとあ捕まってしまいますね」
独り言を呟くサンダーだが、5分ほどで石の入った透明ケースを見つける。
「ケースごと持ってきますか……」
そう言うとケースを自分の懐に仕舞う。
「後は時空の裂け目に戻るだけです」
そう思った瞬間、背後から何者かが忍び寄る。振り向いたサンダーが見たものはイレーネだった。
「あら、ごきげんようイレーネさん」
「こんな所に泥棒に入るとは良い度胸です……」
「泥棒は貴女の方です。私は主の命令で暗黒の剣を返しに来ただけですから」
「そんな言い分が通用すると思っていますか?」
「通用しないなら力づくでも奪い取りますよ」
2人の視線がぶつかる中、先に動いたのはサンダーだった。
一瞬にして姿を消すと、次の瞬間にはイレーネの背後に現れていた。
反応が遅れたイレーネは咄嵯に鞭を抜こうとするが、それより速くサンダーが首筋に当て身を入れる。
「うっ!」と言って倒れるイレーネだが、最後の力で鞭を振るい、サンダーのフードを弾き飛ばす。
露出したサンダーの素顔を見たイレーネは「ライトニ……」と力なく呟くがサンダーは「その名前は捨てましたよ」と言いながら時空の裂け目に消えていく。
※
何処かの岩場で退治するラック・ラックとレディY。
レディYのビームに何度も受けながらも立ち上がり、「うわああああ!!」と言う声ともに暗黒の剣が振るわれ、レデイYの心臓を貫く。
亡骸となったレディYを抱きかかえながら「ゆきこぉ、ゆきこぉ」と泣き叫ぶ望。
力なく倒れ込んだ彼女を見下ろす蛇をモチーフとした装飾品を身に着けた謎の女。
「もう貴女に未来はないわ……私のモノになりなさい……」
「もう諦めていいよね。そうだよ。これが自分の望みだったんだから……」
心が完全に折れ、女の足に縋りつくついたその瞬間、望の意識は現実へと引き戻される。
「何なんだよ……今の夢は…‥」
望は幸子の部屋のベッドで目を覚ます。自分の横には幸子が寝息を立てていた。
彼女は望の手を握って離そうとしなかったのだ。その様子から昨日の事を引きずっていることがわかる。
結局、彼女の部屋から出ていけなかった上に朝を迎えてしまったらしい。
何とか彼女を起こして一緒にリビングへ出るのであった。
※
望の様子を占い師が水晶玉越しに見ていた。
「それは正夢……お前の運命……お前はお前の手でレディYを殺し深い闇へと落ちる……
それ以外の運命など私が認めない。私を否定するなら私がお前を滅ぼしこの世界も滅ぼす」
そして水晶玉に映る映像が変わる。そこは宇宙の彼方にあるモーゲン帝国の本拠地。
玉座に腰掛ける皇帝の前にひれ伏す男女。1人はクワガタムシのような昆虫型エイリアンの男。
もう一人は蛇をモチーフとした装飾品をいくつも身に着けた軍服姿の女。
そんな彼女たちの前で皇帝は口を開いた。
「イレーネが敗北した……お前たちのどちらかをラック・ラックの討伐任務に就けたい」
「私ならば奴を倒すことができましょう。このルカニー・スタッグにおまかせください」
「お待ちくださいな陛下。その任務はこのローゼンブラッドにお任せを」
スタッグの言葉にローゼンブラッドも負けじと主張する。
「お前たちはどうやって奴を倒す? イレーネの報告では地球には怪人に匹敵する力を持つ人間が数え切れないほどいるとある……そいつらをどう始末する?」
「我がインセクトモーゲン軍団に敵はありますまい。昆虫は人間よりもはるかに歴史があり、強力な生物です」
「相変わらず力任せですね将軍」とローゼンブラッドが言う。
「何か言ったか? 蛇女め……」
「別に……さて陛下、わたくしの作戦はこうです。その強力な人間、その星の言葉では変身ヒロインやヒーローでしたか……その者たちを生け捕りにして洗脳し潰し合わせるのです」
邪悪な笑みを浮かべながら言い放ったのだった。
「そんなこと出来るのか?」と将軍が疑問を抱く。
「方法はいくらでも思いつきますわ。まずは力の弱い者を捕えて洗脳し手駒にしましょう。そしてその者に別のヒロインやヒーローを捕獲させて洗脳する。そしてまた捕らえてくる……それを繰り返せばどんなに強い者でも屈服させられることでしょう」と不気味に笑いながら語るのだ。
皇帝は考え込み沈黙を続けるが、ついに決断を下す。
「よし、スタッグ将軍に任せる」
「御意」
そう言いながら地球に向かう準備のために部屋を後にする将軍。
それに納得がいかない表情を見せるローゼンブラッド。
「ローゼンブラッド、本命はお前だ。地球に行き、洗脳作戦を進めるのだ」
「さすがは陛下。地球の邪魔者たちが我が帝国の為に働く兵士となる。素晴らしい未来ですねぇ」
「ただし、イレーネやスタッグに気づかれてはならんぞ。お前が表舞台に立つのはスタッグが敗北した後だ……分かったな?」
「もちろん心得ておりますわ……フッ、楽しみねぇ」と怪しく微笑むのであった。
その様子を水晶玉で確認しながら「私のシナリオは狂わない」と言い放ち笑う占い師の女性。
「運命の時は近いぞ」