時世を廻りて   作:eNueMu

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 遊郭編放送間近につき乗っかって投稿させて頂きます(なお人を選ぶクロスオーバー作品)
 出来るだけ高頻度での更新を心掛けますので、それなりに期待して頂ければ…


廻る魂

 

 何処かの世界、何処かの地。一人の老人が寝床の中で、その生命の終わりを静かに待っていた。

 

 

 「(……もうじきだろうか。少しずつ、己の中に燻る灯火が…小さくなっていくのを感じる。これが────死ぬということか)」

 

 

 老人は、広くその名を轟かせた狩人だった。あらゆる地に蔓延る猛き獣らと、その身一つで渡り合う。それが、かの世における「狩人」。中でも老人は飛び抜けた実力を誇り、かつては同業者でその名を知らぬ者など居ないといっても過言ではない程だった。

 

 しかしそれも、半世紀以上も前の話。老人のことを知る人物は、今では随分と限られている。老人自身、現役を退いてからは長い月日が経っていることを自覚していた。ゆえに、今はただ緩やかな走馬灯に意識を委ねていく。

 

 

 「(団長に誘われて、『我らの団』に入ってからというもの……苦難は絶えなかったな。幾度となく、世界を背負わされた。最早鎧すら纏えぬこの身からは、到底想像もつかないな、ふふ…)」

 

 

 老人が思い出すのは、旅の記憶。個性豊かな仲間たちと共に過ごしたキャラバンでの日々は、老人にとってかけがえのない宝物だ。

 

 

 「(豪山龍の撃退に始まり、黒蝕竜との因縁。シナト村の詩は…今この瞬間にも誦んずることができよう)」

 

 「(蛇王龍は、凄まじかったな。あれほど魂が痺れた経験は、後にも先にも数える程だった)」

 

 「(ドンドルマの防衛は、しばらく日課のようになっていたか。初代撃龍槍、叶うならば形が残ったまま大長老にお返ししたかった…)」

 

 

 想いを馳せるたび、老人の意識は霞んでゆく。今際の時でさえ冒険と狩猟への渇望を抑えられない己を、老人は自嘲する。

 

 

 「(嗚呼………やはり、捨て切れなかったな。結局私は、どうしようもなく『狩人』なのだ。生命を漲らせ、大地を、海を、空を巡るあの昂りが……己の生命が枯れても忘れられない)」

 

 

 闇に呑まれるその直前まで、老人は切に願う。

 

 

 「(もし……もう一度、機会があるとして。それでも私は、この生命の全てを本能のままに燃やすだろう。あと一度、たった一度で構わない……この未練を………拭い去る機会が……………)」

 

 

 

 

 

 その思考を最期に…老人は、永い眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 「魂」が、地脈の流れに乗って還ってゆく。

 

 

 

 

 

 この時偶然にも、地脈のエネルギーはその進路に裂け目を生み出していた。

 

 

 

 

 

 運命の悪戯か、神の奇跡か。

 

 

 

 

 

 時世(ときよ)を廻り、「魂」は全く異なる場所へと流れ着いた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「(…?ここは……)」

 

 

 「赤子」がゆっくりと、目を開く。瞳に映った光景は、赤子の見知らぬ景色であった。

 

 

 「(何だ?何が起きている?私は、確かに…)」

 

 「あら…見てください芳江(よしえ)さん、目を覚ましたようです」

 「おや。御当主様がもうじき来られますから、頃合いでございますね」

 「ええ、そうですね。私が一足先にこの子に挨拶してしまう形にはなってしまいましたが」

 「ご心配には及びませんよ。あの方の顔を一目見れば、たとえ赤子でも忘れられなくなるでしょうから」

 「まあ、うふふ」

 

 

 赤子の耳に入ったのは、2人の女の会話。母親と産婆と思しき人物が、何やら話しているようだ。

 

 

 「(……聞き取れない…。共通語では無いのか。────家屋の構造は禍群(カムラ)の里や東方の国のものに近い。そのいずれかだろうか…?その辺りで独自の言語を用いる国は記憶に無いが…)」

 

 

 赤子は、その会話の内容を理解できていない。尤も、生まれたばかりで言葉を聞き取り、意味を解することのできる赤子など尋常な存在ではないが。

 

 そこに…激しい足音が近付いて来る。足音が止まったかと思えば、次の瞬間────襖を勢い良く開けながら、男が声を張り上げた。

 

 

 「(む…!?金獅子!!────いや違う、人か…)」

 

 「吾輩の子は!!?」

 「御当主様!どうかお静かに願います!」

 「そうですね、この子が驚いてしまいますから」

 「む…済まぬ」

 「はい。して、闘志(とうじ)さん。見ての通り、愛らしい女の子でございますよ」

 「おお、そうか…!」

 

 

 男は、母親の伴侶であった。母親に抱き上げられた赤子は自らの扱いに、漸く状況を把握する。

 

 

 「(────!?これは……赤子だ!!私が、赤子なのだ!!何ということだ…!!夢でも見ているのか!?)」

 

 「御当主様。一つ、申し上げておかねばならないことがございます。奥方様、失礼致します」

 「…ええ」

 

 

 産婆が母親に抱えられた赤子に近づき、首元の衣をずらす。これにより、父親…闘志からも()()がはっきりと確認できるようになった。

 

 

 「……これは…傷か?」

 「いいえ御当主様、どうやらこれは痣のようです。奇妙なのが、出産に際してできたものという訳ではなく…元よりこの痣が浮かんだまま、御子は産まれ落ちました」

 

 

 赤子には、左頬から首筋にかけて、四筋の爪痕のような痛々しい痣があった。今でこそさしたる大きさではないが、成長するにしたがって痣も広がっていくことが予期される。

 

 

 「…この子の身体には、何か障りがあるのか?」

 「それについては、まだ何とも…なにぶん初めてのことでございますから、どういった兆しなのかまでは判りかねます。ただ、普通よりもかなり体温が高く……正直、こうして平然としているのが不思議な程で」

 「うむ…そうか」

 

 「(空気が少し…張り詰めているな。あまり喜ばしい話題ではないようだ……いや、待て!整理がまだだ!察するに、今私を抱いているのが母親で、目の前の男が父親で………!)」

 

 

 難しい顔になり、我が子の痣に目を遣る闘志。その時、彼の方に視線を向けていた赤子と目が合った。同時に、彼の妻が口を開く。

 

 

 「!」

 「…闘志さん。私はこの子を育てます。痣や障りの有無は、今気にしても仕方がないじゃありませんか。それよりも…少しでも多く、この子に愛を注ぎたい」

 「……そうだな。其方(そなた)の申す通りだ。吾輩としたことが、些事に気を取られておったわ」

 

 

 闘志は己の額を掌で打ち、再び我が子に目を向けた。憂いは、すでに晴れたようだった。

 

 

 「(────!)」

 

 

 慈しむような想いで赤子を見つめる両親。混乱の最中にあった赤子も、その視線を受けて落ち着きを取り戻す。

 

 

 「(……何と優しい瞳だ。我が子への愛情が、言葉にせずとも伝わってくる。間違いなく、心の清い者たちなのだろう。………そうだな。これが現実であるならば…ひとまず彼らにこの幼き身を預けるというのは、悪い選択ではあるまい)」

 

 「のう、結美(ゆみ)。この子の名は決めておるのか?」

 「勿論です。男の子の名と女の子の名、どちらも用意しておりましたよ。この子は女の子でしたから────『滲渼(にじみ)』。如何ですか?」

 「滲渼、か…うむ、良い名だ。……吾輩にも滲渼を抱かせてくれ」

 「はい。気をつけてくださいね」

 

 「(…!この男…隻腕か)」

 

 

 赤子────滲渼は、はたと気付く。父、闘志には…右腕が無かった。

 

 

 「(生まれついて無かったのか、或いは…失ったのか。……今は気にせずとも良いな。いずれ、分かる時が来るだろう)」

 

 「ふふ…実に利発そうな子だ。そら滲渼、吾輩のことは父上と呼ぶがいい」

 「ご、御当主様…流石に無茶な話です」

 「うふふ、せっかちですねえ」

 

 

 穏やかな日差しと父母の眼差し。狩人の数奇な第二の人生は、こうして始まったのだった。





 【狩人コソコソ噂話】
・本作主人公の前世に当たるのは、「モンスターハンター4/4G」の主人公です。本作では性別はぼかしておりますので、男でも女でも好きなようにご想像下さい。鬼滅で言うなら縁壱…は言い過ぎかもしれませんが、そのぐらい凄い人物です。多分2〜3回は世界救ってますし、無惨的立ち位置の敵も倒したと作中で明言される正真正銘の化け物ですね。ちなみに1番凄いのはこれらの功績が狩人(ハンター)として活動を始めてからごく短期間で打ち立てられたものだということ。なお、老衰によってその生涯を終えるのというのは(ほぼ)公式設定です。

・モンハン世界において、ムキムキマッチョな人物はとりあえず金獅子「ラージャン」に例えられます。ラージャン自体は角の生えたゴリラで、獅子というか狒々なのですが…これは彼(もしくは彼女)が怒った時に黄金の鬣が逆立つことが由来なのだと思われます。

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