時世を廻りて   作:eNueMu

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同期との交流

 

 早いもので、滲渼の初任務から既に一ヶ月。その日彼女に届いた指令は、いつもとは少々事情が異なっていた。

 

 

 「此処ヨリ北西ノ町、多数ノ鬼ガ集ウトノ報告アリ!他隊士四名ト共ニ、合同デ討伐ニ当タレ!カァーッ!」

 「合同、か。複数人での任務は、初めてだな…」

 

 

 燁から告げられたのは、他の隊士との合同任務。どうやらそれなりに大きく栄えた町であるらしく、単独での制圧には時間が掛かるようだ。

 

 

 「少しずつ帝都に近付いていっているが……より多くの人々が集う地には、相応に鬼も蔓延っているな。良からぬ言い方をするならば、絶好の狩場ということか」

 「ソレダケジャネエ。人ニ紛レルノモ簡単ニナルシ、単純ニ広イカラ鬼同士デ鉢合ワセシニクイノサ。奴ラモ無意味ニ共喰イハシナイ」

 「ほう、成程な」

 

 

 鬼がそこに居付くのにも、少なからず理由がある。やはり命ある存在なのだと滲渼は再確認しながらも、その刃を振るうことに躊躇いは感じない。

 

 

 「(命を奪う者は、常に自らも奪われることを念頭に置く。かつてはそれこそが真理だった………此方でもそれを強いるつもりは無いが、少なくとも私が鬼を討つ心構えとしては十分だな)」

 

 

 疾駆する滲渼の影が町に辿り着く。

 

 今宵も、鬼に斟酌が加えられることはないだろう。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「あら、刈猟緋さんじゃない!」

 「え!?……本当だ…五人目がまさか君だったとは…」

 「…む?尾崎に、村田……そうか、任務に合同で当たる隊士達とは其方等のことであったか」

 

 

 町に入ってすぐに、滲渼は二人の知人と遭遇した。同期の隊士である、尾崎と村田だ。二人とも目を丸くして彼女を見ていたが、少しすると落ち着いたのか、会話を再開した。

 

 

 「四人とも同期だったから、最後の一人もそうだとは思ってたけど…」

 「そうなの?私はむしろ、隊歴の長い人が先導してくれるのかと思ってたわ」

 「四人、ということは…既に全員が?」

 「ああ、ほら。あそこに居るだろ?」

 

 

 そう言って村田が指し示した先には、二人の少年が居た。一人は、口元に傷のある少年。滲渼も知っている鱗滝錆兎だ。しかし、もう一人の凪いだ瞳の少年のことはよく知らなかった。

 

 

 「(選別の時に見掛けたような気はするが…直接会話はしていなかった筈だ。鱗滝が選別後に気にかけていたのは、彼か)」

 

 「いい加減にしろ、義勇!いつまでそうしているつもりだ!一人での任務の時も、ずっと座り込んでいた訳じゃないだろう!」

 「……俺は足手纏いになる」

 「その台詞も聞き飽きた!立つんだ!男がへこたれるな!」

 

 

 どうにも、錆兎は友人の世話に手を焼いているようだ。腰を下ろして俯いたまま一向に動こうとしない少年について、村田が滲渼に補足する。

 

 

 「俺が着いた時からずっとあの調子で……冨岡の奴、最終選別で鬼を一体も倒さなかったみたいでさ。多分、そのことが原因なんだろうけど…」

 「ふむ………つまりは、己の力に信が置けぬということか…」

 

 

 しかし、と滲渼は考える。透かしてみれば、冨岡というらしい少年の肉体は意外な程に鍛えられており、素質もあるように思えた。

 

 

 「(元来あのような心持ちの人物なのであれば、ここまで強くはなれまい。選別でのことが、余程心に傷を刻んだのだろう)」

 

 「済まぬ。少々口を挟んでくる」

 「え?お、おい!……大丈夫なのか…?」

 

 

 何とか少年の心を奮い立たせてやりたいと、滲渼は早足で二人の下へ向かう。村田の制止が聞こえていない訳ではなかったが、ただ傍観しているというのは彼女の性に合わなかった。

 

 

 「失敬。久しいな、鱗滝」

 「!…刈猟緋。そうか、お前もこの任務に……済まん、義勇が梃子でも動かないんだ。以前まではこんなことは無かったんだが…もう少しだけ待っていて欲しい」

 「いや…私も手を貸そう」

 「何?」

 

 

 一言二言錆兎と話した滲渼は、そのまま一歩だけ少年…冨岡義勇に歩み寄る。目線を合わせるべく彼の側に屈むと、義勇も顔は上げなかったが僅かに反応を示した。

 

 

 「…」

 「…冨岡。鬼が恐ろしいか」

 

 「…」

 「ならば、憎いか」

 

 「…」

 「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 「……………え?意思疎通出来てるのか、あれ?」

 「…わ、分からないけど……鱗滝くんも固まってるわよ」

 

 

 傍目からはまるで理解不能な、常軌を逸したやり取り。滲渼本人はというと、場違いにも懐かしさすら感じていた。

 

 

 「(ふふ、何と言おうか……この少年は、ジュリアスに良く似ている。きっと心根は優しく穏やかなのだ…ただほんの少し、口下手なだけでな)」

 

 「案ずるな。この世に産まれ落ちたその瞬間から、全てを打ち破ることのできる者など居らぬ。悔いることがあったというのなら、抱えて蹲るよりも背負って前を見よ。強さとは、そういうことだ」

 「…」

 

 

 いつしか、義勇は顔を上げ、滲渼に目線を合わせていた。差し伸べられた手を取り、静かに立ち上がる。彼の心の傷は、僅かながら癒えたようだ。

 

 

 「まだ、名乗っていなかったな。刈猟緋滲渼だ。宜しく頼む」

 「…ああ。宜しく」

 

 

 

 「おお…よく分かんないけど、丸く収まったみたいだ」

 「そうみたいね。私たちも行きましょう!」

 

 

 義勇が腰を上げたのを見て、割り込むに割り込めなかった尾崎と村田も三人の下に向かう。漸く、彼らの任務が始まろうとしていた。

 

 

 「刈猟緋さん!ごめんなさい、私たちでどうにかしておければ良かったんだけど…」

 「いや、構わぬ。私が好きでしたことだ」

 

 「しかし、義勇が人見知りだったとは思わなかったぞ。俺の時はすぐに仲良くなれたんだがな」

 「錆兎とは、気が合ったから」

 「俺も選別の後、手当てとかでしばらく一緒だったけど…口数はそんなに多くなかったな」

 「…そういうつもりは無かった」

 「気分次第ということもあろう。見知らぬ人間と積極的に口を利くような気にはなれぬ程、心が沈んでいたのではないか?」

 「…分からない」

 「確かに、そういうこともあるかもしれないわね……ねえ、冨岡くん!私、尾崎あやめって言うの。宜しくね!」

 

 

 

 

 

 「…」

 「え、えぇ!!?なな何で!!?どうして急に黙っちゃうのよ!!?

 

 「(……単に人見知りだったか。そういう所もそっくりだ)」





 【狩人コソコソ噂話】
・「ジュリアス」とは、MH4/4G本編にて「筆頭リーダー」の名で登場する人物のことです。選ばれたエリートとして主人公の前に現れますが、紆余曲折あって友人になります。義勇に負けず劣らず中々のコミュ障で、彼の恩師に主人公を友人として紹介した際に「嘘やろ?」みたいな反応をされるぐらいには友人が居ないみたいです。

 【明治コソコソ噂話】
・義勇は原作よりも少しだけ明るく、打ち解け易くなっています。錆兎が死ななかったので、心の壁がそこまで分厚くなっていないのが要因ですね。
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