時世を廻りて   作:eNueMu

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史上最速最年少

 

 鬼殺隊には、「柱」と呼ばれる別格の隊士たちがいる。全体のほんの一握り、最大で九人のその人物たちは、彼らを見たことのない隊士ですら畏れ敬う程に…ただ只管に、強い。

 

 ────そんな「柱」という存在へと、入隊から僅か一ヶ月と二週間で昇り詰めた、十三の少女が現れた。これは紛れもなく、何か大きな変化の前触れであると…そう、産屋敷耀哉は予見していた。

 

 

 「(この男が……鬼殺隊の、頭か。あの最終選別を是とするというのだから、どんな羅刹や修羅が出て来るかと思えば…彼からは、むしろ真逆の印象を受ける。………だが…目を疑う程に身体が脆弱だ。このままでは、いつ死んでもおかしくはない)」

 

 

 そう内心で独白するのは、鬼殺隊本部へと連れて来られた滲渼だ。柱の打診の手紙を受け取ってすぐに承諾の返事を行い、その後鴉や隠たちに案内される形でここまでやって来ていた。

 

 

 「(それに、柱と思しき剣士たちも随分と少ない。私の他に、四人しか姿が見えない……単に欠席しているのか、柱であっても頻繁に欠員が出てしまうということなのか、或いは…九人の内に選ばれる程の実力者が、それだけ限られているということなのか)」

 

 「皆、よく来てくれたね。今日は臨時の柱合会議…まずは、新しい柱の就任について話しておこう。自己紹介してくれるかい、滲渼」

 

 

 耀哉に従い、一歩前に出て口を開く。周りの柱たちからは、早くも値踏みをするような視線を向けられていた。

 

 

 「御意。…刈猟緋滲渼、齢は十三。この度、柱就任の命について是非御拝命したいと考え、馳せ参じました」

 「は…!?じ、十三、だと……!?」

 「…煉獄殿」

 「! ……失礼」

 

 

 滲渼の側で、燃えるような髪色を持つ年嵩のいった男と、数珠を手にした大男が小さく言葉を発する。尤も、前者が思わず口を出してしまったのを、後者が咎めるといったような内容ではあったが。

 

 

 「滲渼は初任務で元十二鬼月を斃し、その上今日までに斃した鬼の数は百にも迫る勢いだ。階級はつい先日甲に上がったばかりだけれど、その実力は間違いない。彼女を柱に据えることに、異論はあるかな?」

 

 「ありません」

 「同じく」

 「……子供を柱とすることに、疑問が無い訳ではありませぬ。が…実力が確かだというのなら、敢えて異を唱えることはしますまい」

 「………承服、致します」

 

 「(…炎の如き髪色の男……煉獄、と呼ばれていたか。少し様子がおかしいな。私が来た時から生気の抜けたような顔をしていたが、それに加えて激しく動揺しているようにも見える)」

 

 

 一応は満場一致で滲渼の柱就任が決定されたものの、少しばかり煮え切らない雰囲気となってしまった柱合会議。知ってか知らずか、耀哉はそんな様子を気にすることなく話を進めていく。

 

 

 「では、滲渼には今日から『咢柱(がくばしら)』として鬼殺隊を支えていって貰うね。欲しいものがあるのなら、いつでも言うと良い。可能な限りは叶えてあげよう」

 「はっ…精進して参ります」

 「うん。それでは、柱合会議を始めようか────」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 柱合会議では、取り立てて述べるような内容は無かった。新たな柱加入に際して、臨時で開かれただけに過ぎなかったため、報告・共有すべき事柄が少なかったのだ。

 

 強いて言うならば、滲渼が自身の屋敷を所望しなかったため、彼女の担当地域が実家を中心とした地域に決まったという程度。早々に会議を終えた柱たちは、各々の責務を果たすべく解散する。その内の一人、煉獄槇寿郎の元へと滲渼が駆け寄っていった。

 

 

 「もし。煉獄殿、で宜しかったでしょうか」

 「! ………何の用だ」

 「いえ……少々気に掛かる事が御座いまして。終始、会議も上の空であったようですが…無理をなさっては居られませぬか」

 「……貴様には関係の無い事だ。知った所でどうすることもできん。分かったらさっさと失せろ」

 「……申し訳ありませぬ。失敬」

 

 

 滲渼の言葉に対して、吐き捨てるようにそう返した槇寿郎。滲渼もそれ以上追及することは望ましくないと考え、頭を下げてその場を後にした。

 

 

 「(…嫌われてしまっただろうか。ついつい干渉したくなってしまったが、触れられたくない事であったのだろうな……再び歩み寄る機会があれば良いのだが)」

 

 「刈猟緋、滲渼……」

 「! 貴方は…」

 「悲鳴嶼行冥。半年程前に、お館様から柱として認めて頂いた…今は『岩柱』として、日々悪鬼滅殺に尽力している」

 

 

 槇寿郎と入れ替わるように滲渼の前に現れたのは、数珠を持った大男。名を、悲鳴嶼と言うらしい。

 

 

 「悲鳴嶼、殿…。して、私を呼び止めたのは…?」

 「聞きたいことがある。…何故、この道を選んだのだ」

 「……鬼殺の道に進んだ訳、ですか」

 

 悲鳴嶼は、滲渼にどうしても尋ねておきたかった。十六、七の女性と比べてもより高い位置から悲鳴嶼に声を届ける彼女は、実際には十三だという。それを聞いて……以前鬼から助け、その後無謀にも鬼殺隊への入隊を所望してきた姉妹の姿を重ねずにはいられなかった。

 

 結局彼女らは、悲鳴嶼の出した「諦めさせるための課題」をこなしてしまったために、現在は彼が紹介した育手の元でそれぞれ鍛錬に励んでいる。それが正しいことだったのか、悲鳴嶼には今でも分からない。だからこそ、彼女らと同じ年頃の滲渼ならば、何らかの答えを出してくれるのではないかと期待したのだ。

 

 

 「ただ、純粋に……鬼の手から人々を守りたかったから、でありましょうか。刈猟緋の一族は、代々鬼殺隊の一員としてそうして来ましたから。それに、性に合っておりましたので」

 「………そう、か」

 

 

 しかし、滲渼の答えは悲鳴嶼を納得させるものではなかった。彼女は…「普通」とは、あまりにもかけ離れていた。

 

 

 「(ああ、駄目だ。分からない、ままだ…。この少女は、安穏とした日常の中で生きる町娘などとは違いすぎる。どういった人生を送ってきたのかは知る由もないが、この声色と言い分……確かに命の重さを、軽さを知っている。あの二人の鏡には、なるまい……)」

 

 「…引き留めてしまって済まない。これから、同じ柱として宜しく頼もう。さらばだ」

 「はっ。此方こそ皆様と肩を並べて戦うことができ、光栄で御座います」

 

 

 踵を返して去っていった悲鳴嶼。心做しか、滲渼の目には肩を落としているようにも見える。

 

 

 「(……またも良い印象を与えられなかったのか?自分で思っているよりも、会話が下手なのだろうか………)」

 

 

 滲渼としても、長い付き合いになる可能性もある彼らとは親しくなっておきたい所だ。本部から去り、生家へと戻る道中でも、彼女の悩みは尽きなかった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「そうか…!この僅かな期間で、柱となったか!流石は滲渼だ…と、これを言うのも何度目だろうな。はっはっはっ!」

 「つきましては、この地域一帯を私が巡回することとなりました。それ故、これまでよりはこの屋敷に戻って来ることも多くなるかと思われます」

 「そう……沢山面白いものを見て、楽しんで。沢山土産話を聞かせてね」

 「御意」

 「滲渼、鬼殺隊としての暮らしはどうだい?上手くやれていると、良いんだけど」

 「大事ありませぬ、兄上。屋敷の皆も、健在で嬉しく存じます」

 

 

 刈猟緋邸では、親子が無事での再会を喜んだ。柱となった滲渼を祝い、屋敷中が活気に満ちている。使用人たちも滲渼の帰還を歓迎し、その日の昼食は実に豪勢なものであった。

 

 

 「友達は出来たの?大変な仕事だとは思うけど、一人で居るよりはきっと肩も軽くなるわ」

 「友、と呼べるかどうかはまだ分かりませぬが……同期の者たちの内何名かとは、少しずつ仲を深めていけていると思います。ああ、そうです。同期の中に、尾崎という者が居るのですが────」

 

 

 鬼殺の日々からほんの少しだけ抜け出し、穏やかな交流を重ねる。刈猟緋家の屋敷は、今でも滲渼の拠り所だ。日が暮れ、滲渼が再び任務に向かうまで、彼らは思う存分に団欒の時を過ごしたのだった。





 【明治コソコソ噂話】
・現時点で柱は四名。悲鳴嶼と槇寿郎に加えて、名もなき柱が二名います。槇寿郎は瑠火を亡くして数ヶ月といった所で、色々とボロボロな時期ですが、一応まだ会議には律儀に出席しているということにしています。

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