時世を廻りて   作:eNueMu

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感想での言及があったので補足を。滲渼の前世はキャラバン所属につき、世界中を旅していた…ということにしています。4/4Gの要素だけだと少々限定されてしまうので。


臨時柱合会議:其ノ参

 

 ある日のこと。刈猟緋家の屋敷を、いつもとは異なる人物が訪れた。

 

 

 「…鱗滝ではないか。珍しいな、こうして訪ねて来るとは」

 「ああ。少し相談したいことがあってな……」

 

 

 訪問者は、鱗滝錆兎。任務先で偶然出会う以外に特に深い交流をしてきた訳では無かったが、それでも同じ選別を生き抜いた仲間。相談に乗ることに躊躇いは感じなかった。

 

 

 「ふむ、構わぬが……兎も角、屋敷に上がるか」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「成程…柱の打診とその辞退、か……」

 

 

 錆兎が滲渼に相談してきたのは、柱となる事についてだった。少し前に就任の打診があったという彼は、しかしそれを断るつもりなのだという。

 

 

 「俺自身、柱になる事が嫌な訳じゃない。むしろ、救える命が増えるのなら喜んで承りたいさ。……けど、な。俺以上に『水柱』に相応しい奴が、居るんだ」

 「……よもや…冨岡か?」

 

 

 滲渼の質問に首肯する錆兎。滲渼はそのことが、俄かには信じ難かった。彼女の知る限り、義勇は優秀な人物であることは窺えたものの、錆兎には遠く及んでいなかった筈だった。二、三年で埋まる様な差でも無い、大きな隔たり。思わず彼に、再度訊き返す。

 

 

 「…本音を言うならば、想像がつかぬ。彼が、其方を抜き去るとは……贔屓目の無い、事実であるのか?」

 「……今はまだそうとは言い切れない。だがそう遠くないうちに、あいつは誰よりも水柱に相応しい男になる。これは、断言してもいい」

 「何と…」

 

 

 錆兎をしてそこまで言わしめるとはと、滲渼は驚嘆する。彼もまた出会った頃とは比較にならない程成長しており、柱以外で殆ど見かけたことの無い「常中」体得者でもある。そんな彼を遠からず超えるというのならば、義勇の才覚は彼女が考えていたよりもずっと優れていたということなのだろう。

 

 

 「お前と出会ったあの日から…あいつは死に物狂いで努力してる。『水の呼吸』には存在しなかった『拾壱ノ型』まで編み出したんだ。それが完成する頃には、柱になるための条件も満たすだろう」

 「…つまり、現状では断る由が無いと……そのような辞退が赦されるのかが、気になった訳か」

 「ああ、そうだ」

 

 

 確実性に欠ける、錆兎の直感のみに基づいた辞退理由。彼程の人物がそう考えるのであれば問題は無いだろうと感じつつ、そうでなくともと耀哉の人柄を思い起こした。

 

 

 「…確かに柱は不足気味ではあるが……それでも私が就いた頃よりは多い。御館様も、理由の如何で辞退を咎めるようなお方ではない。先程述べた旨を綴れば、水柱の席は空いたままにして頂けよう」

 「そうか…!助かった、恩に着る!」

 「構わぬ。この程度、何ということはない。………ところで、以前会った折に妹弟子の話をしておったが…その後はどうだ?」

 「ん?ああ、真菰なら去年選別を通過したぞ。合間を見て鱗滝さん……育手と一緒に鍛えてやったからな、良い剣士になった。今も元気でやってる」

 「そうか、何よりだ」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「────と、いう訳だ」

 「…理解出来ない」

 「そう言うな。鱗滝の言った通り、今の其方は前任の水柱と比べても格段に強い。己を卑下しすぎることは、彼らの侮辱にもなり得るぞ」

 

 

 …その後。再三に渡り開かれた臨時の柱合会議にて、当時の錆兎との会話を義勇に伝えた滲渼。柱の打診に際し、錆兎に上手く丸め込まれて承諾の返事をしてしまった義勇は、まさか初対面の耀哉に面と向かって不平をぶつけることなど出来る筈もなく、同期である滲渼に「何故錆兎が選ばれなかったのか」「錆兎は俺より相応しい」などと繰り返し言い募った。それを受け、滲渼は件の会話内容を彼に明かしたのである。

 

 

 「………俺はお前のように強くない。錆兎のように守りながら戦うこともできない。柱として、足りないものが多すぎる」

 「…冨岡。全ての柱があらゆる面で優れている必要はない。必ず其方にしか出来ぬことがある筈だ。此処は、鱗滝の想いを汲んでやってはくれぬか」

 「……善処しよう。だが、すぐに代わりは現れる。そうなればお前もきっと、俺に失望するだろう」

 「案ずるな。後継が現れる前に鬼は滅びる」

 「……そうか」

 

 

 義勇はそれ以上、何も言わなかった。

 

 

 

 ────否。言えなかった。

 直後に胡蝶カナエが来襲し、屈託の無い笑顔を振り撒いて二人に話しかけたためである。滲渼とカナエが談笑する側で、上手く反応を返せず、更には宇髄までそこに加わり、場の雰囲気は義勇が最も苦手とするものへと変わっていった。

 

 

 

 彼は黙ってその場を去った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「(冨岡の人見知りを侮っていた……あまりにも大人しすぎる。そのせいで、一癖も二癖もある柱の面々とは反りが合わないようだ。彼が溶け込めるように、橋渡しをしてやらねばな…)」

 

 

 柱合会議から少しして、滲渼はその時の反省を心の中で並べていった。義勇が彼女の想像を超えた人見知りであったことや、その彼を脈絡もなく柱の中でも特に積極的な二人と接触させてしまったこと。

 

 悲鳴嶼辺りならば仲を深め易いだろうか…と考えた所で、()()()()()()を外された。

 

 

 「ぜぇ……ぜぇ……が、咢柱様……到着、致しました……」

 「うむ、御苦労であった。……体躯の大きな者は複数名で運ぶように進言しておこうか?」

 「い、いえ……!!大丈夫、です…!この位、隠として、当然、の!!責務ですので…!!」

 「そ、そうか…」

 

 

 息を切らしながら目的地への到着を告げた隠とのやり取りを経て、眼前に広がった展望を眺める。滲渼は今、刀鍛冶の里へと来ていた。

 

 理由はただ一つ…刀の新調だ。

 

 

 「(特に今の刀に不満がある訳では無いが……()()()()()()()というものはある。こればかりは、年季の問題だからな……感覚的な馴染み方が違う)」

 

 「咢柱様ですね?お待ちしておりました、此方へ」

 

 

 

 

 

 案内に従い、里の中を進み、一つの屋敷に足を踏み入れる。廊下を歩き、階段を登り…導かれた先で待っていたのは、滲渼の担当をしている鉄地河原鉄珍だった。

 

 

 「いやぁ、久しぶり。元気してたみたいやね。前会うた時よりもっとずっと大きなったなあ」

 「ご無沙汰しております、鉄珍殿。此度は時間を割いて頂き、感激の至りに御座います」

 「ええのよ、女の子の頼みは聞き入れてこそやからね。それで、や。新しい刀欲しいんやってな」

 「はっ。私と致しましては────」

 「うんうん。短かったか、刀

 「!!! …その通りで、御座います」

 

 

 鉄珍に要望を出そうとしたその時、彼が指摘したのは刀の刃渡り。刀鍛冶の長は、滲渼の所作や重心の偏りから彼女の求める物を瞬時に見抜いた。

 

 

 「(…神懸かった眼力。読心とすら錯覚する程に正確だ。やはりこの方を超える刀鍛冶は、この国には…否。この世界には居ないだろう)」

 

 「そやねぇ。…六尺六寸。刃の長さは、そんなもんかな。変に手加えんで、普通の大太刀にするんがええか。柄も両手持ち出来る程度の長さは欲しいな。どう?」

 「…申し分ありませぬ。真、見事な審美眼で御座います」

 「そないに褒めんでもええ。鍛冶師として、このぐらいは出来て当たり前や。後は、鞘やけど……そっちは願鉄に任せよか。ほいじゃ、ちゃっちゃと取り掛かろかね。十四、五日ぐらいしたらお家の方に持ってくから、楽しみにしといてや」

 「はっ。改めて、感謝致します」

 

 

 滲渼の望むものを、聞き出すことすらせずに完璧に言い当ててみせた鉄珍。承諾の確認をとったのち、すぐさま両脇に控えていた鍛冶師と共に立ち上がり、鍛造の準備に向かう。滲渼も頭を下げながら、偉大な刀鍛冶が己の担当である幸運を喜んだ。

 

 

 

 

 

 そして、約束通りの日程に刈猟緋家の屋敷にやって来た鉄珍。前回同様人力車に乗ってやって来た彼は、どこにそんな力があるのか長大な箱を抱えたまま屋敷に上がる。

 

 そして箱の中から現れたのは、「悪鬼滅殺」の文字が刃に刻まれた唯一無二の大太刀。これ以降滲渼の愛刀となる、至高の一振りであった。




 【明治コソコソ噂話】
・義勇の柱就任時期は原作だと炭治郎遭遇時点で「柱になって間もない」だったり、回想でカナエと一緒に居たりと良く分からないことになっていますが、本作では錆兎が居るので義勇も頑張った、ということで後者に合わせました。

・滲渼の新しい刀は長過ぎて普通に抜刀するのが難しい…というか背中に背負う形となる関係上不可能なので、伊黒の鞘と同じ感じになってます。
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