時世を廻りて   作:eNueMu

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 前世性別不明って、TS転生タグとか必要だったりするんでしょうか…指摘が増えれば追加します

(追記)性転換タグを追加しました。デフォルトの4/4G主人公が男性想定であることなどを鑑みた保険に保険を重ねた一応の処置なので、このタグを活かした展開などは一切ございません。予めご了承ください。


七度目の雪解け

 

 春の兆しが訪れたその日、刈猟緋(かがりび)家の屋敷の縁側では、幼い少女が朝日に照らされて輝き融ける残雪を眺めていた。

 

 

 「(また、冬が終わる。ここでの暮らしも…随分と慣れてきたものだ)」

 

 

 少女の名は、刈猟緋(かがりび)滲渼(にじみ)。並ならぬ事情を抱える彼女は、しかし着々と新たな世界に馴染みつつあるようだ。

 

 

 「(流石は、赤子の脳だと言うべきか…全く未知の言語は、二年もすれば何の苦もなく理解できるようになった。文字を書くことはまだ少し難しいが、会話などは特に支障なくこなすことができる。細かな性質が共通語と似通っていたというのも大きかったやもしれん)」

 

 「(ただ、赤子になった原理については皆目見当もつかない。それこそ、『魂』が実際に存在するというのでもなければ……いや、だが…古龍の力は、摩訶不思議といって差し支えのないものも多かった。頭ごなしに見えないものを否定するのも、あまり良いとは言えないな)」

 

 

 滲渼がこのような分析を行うのは、初めてではない。未だ幼い彼女には、直ぐに何か成さねばならないことがある訳でもなく、暇になればこうしているか、()と共に外で遊ぶかしているのが常だった。そこへ、一人の女性がやって来る。

 

 

 「滲渼様、こちらでしたか」

 「!芳江殿」

 「雪を見つめるのは、程々になさってくださいね。目を痛めてしまいますから」

 

 

 芳江と呼ばれた女性は、刈猟緋家に仕える使用人だ。産婆や教師としての心得も有し、長らく重用されている優秀な人材で、滲渼も彼女には頭が上がらない。

 

 

 「ご忠告、有難く存じます。して、私に何か?」

 「御当主様がお呼びです。滲渼様にお話があるようで」

 「御意。直ちに参りましょう」

 

 

 芳江は、刈猟緋家の現当主である闘志…滲渼の父が滲渼に話があるということで、彼女にそのことを伝えるべくここに来ていた。言伝を聞かされた滲渼は足早にその場を去り、父の部屋へと向かう。

 

 

 「………すっかり御当主様の言葉遣いが、移ってしまわれて…もう少し柔らかな口調でも、芳江は良いと思うのですがねえ」

 

 

 残された芳江は、ほんの小さな不満とため息を漏らしてから、自らの仕事に戻っていった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「父上、ただいま参りました……む?母上も居られましたか」

 「ええ。お早う、滲渼」

 「さて…まずは座れい。話はそれからよ」

 「御意」

 

 

 闘志に促され、彼の正面に正座する滲渼。闘志の隣には母、結美が並んでおり、二人の表情から恐らく重要な話が始まるのだと考えられた。

 

 

 「そろそろ、話しておくべきだと思うてな」

 「泰志(たいし)にも、去年話したの」

 「…と、いうと。此度の話について、ということでございましょうか」

 

 

 滲渼の問いに重々しく頷く闘志。そのまま、厳かに口を開いて語り始める。

 

 

 「……滲渼。これより吾輩が其方に語るのは、決して空言の類いではない。全ては真であり…我が家に託された使命でもある」

 「覚悟をもって、聞いてね」

 「…はっ」

 

 

 真に迫る両親の様子を見て、より気を引き締める滲渼。しかして始まった話の内容は、確かに常人が耳を疑うであろうものだった。

 

 

 「この日の本には、世にも恐ろしい『鬼』が潜んでいる。夜の闇に紛れ、人を襲い、喰らい、苦しめる悪鬼…今宵も必ず、奴らの毒牙にかかり、罪無き人々が命を落とすだろう」

 「………鬼、ですか」

 

 

 闘志の語った、まるで幼子を躾けるための作り話のような内容。それを滲渼は、心中で吟味する…ここでこの話をする意図を、読み取りながら。

 

 

 「…確かに信じ難い話ではありますが…抗う術も、あるのでしょう?」

 「如何にも。…飲み込みが早いな。流石は滲渼だ」

 「闘志さんの一族、刈猟緋の家門はね。戦国の世から代々、鬼と戦い続けてきたの。勿論、刈猟緋家だけじゃないわ」

 「悪鬼どもを滅するべく、人々は力を合わせ…奴らと戦うための部隊を築き上げた。名は、『鬼殺隊』。吾輩も、其方の兄…泰志が産まれる以前まではその一員だった」

 

 

 そう言って自らの存在しない右腕に目を向け、顔を顰める闘志。滲渼はそれで、大凡の事情を理解した。

 

 

 「……父上の右腕は、鬼との戦いで失われたのですね」

 「左様。悔しいが、奴らは強い。特に、『十二鬼月』と呼ばれる鬼どもは別格よ。吾輩の右腕を奪い、臓腑を破いたのもその内の一体…『下弦の陸』。十二鬼月で最も弱いとされるその鬼相手ですら、吾輩はそれだけの代償を支払った。倒しはしたが…最早、戦うことはできぬ肉体となってしまった」

 「何と……」

 

 

 父の身体が想像以上に傷付いていたことに、衝撃を隠せない滲渼。同時に、筋骨隆々とした闘志がそれだけ苦戦したという鬼たちは果たしてどれほどの強敵なのかと、尋ねずにはいられなかった。

 

 

 「鬼とは、如何様な化生なのでございますか。体躯は?膂力は?何か奇妙な力でも操るので?」

 「ふむ…気になるか。鬼というものが」

 「!!し、失礼致しました…」

 

 

 少しばかり目を見開き、滲渼を見る闘志。顔色を悪くする結美と合わせて、滲渼は自らが粗相を働いたと思い、謝罪を口にする。しかし、闘志は気にした様子もなく言葉を続けた。

 

 

 「いや、良い。…鬼は、その多くが我らとそう変わらぬ容貌をしておる。一様に異なるのは、牙か。鬼はみな、鋭い牙を携えている。体躯は様々だが、例外無く膂力は並外れておるな。それに、『血鬼術』という面妖な異能を扱う者もおる。十二鬼月は、まず間違いなくこの血鬼術を扱う。鬼ごとに術が全く異なるというのも、恐るべきことよ」

 「成程………それにしても、我らと変わらぬ姿、ですか……不思議なことも、あるものですね」

 「否。おかしな偶然などではない………鬼が我らに似ておるのは、必然よ。────全ての鬼は、元は人間であった故」

 「な…!!?」

 

 

 ここにきて明確に、滲渼の表情が変わる。彼女の驚愕に応えるように、闘志は話の要へと迫った。

 

 

 「元凶は、鬼舞辻無惨。鬼殺隊の誰一人として姿を知らぬ、ただ名のみが伝わる其奴こそが、鬼を生み出す諸悪の根源……鬼舞辻を討たぬ限り、我らの戦いに終わりが訪れることは無い」

 「…鬼舞辻、無惨……」

 

 

 その名を噛み締めるように呟く滲渼。鬼の存在も、無惨の名も、彼女にとっては未知そのもの。だからこそ…恐れと期待に、身が震える。

 

 

 「とまあ、ここまで話したが…何も其方に鬼殺隊に入れと強いるつもりは毛頭ない。吾輩が其方にこの話をしたのは、あくまでもそのような道もあると示しただけに過ぎぬ。泰志も、鬼と戦うつもりはないと言っておった」

 「だから、貴女が恐ろしいと思うなら……この屋敷の中で、穏やかに一生を過ごすというのも構わないわ。鬼は、藤の花を嫌うから…この屋敷ではいつも藤の花の香を焚いているの。ここなら、何にも怖がることは無いのよ」

 

 

 滲渼の両親は、鬼殺隊への入隊を強制しようとはしていない。結美に至っては、どうもそちらの道を選んで欲しくないようだった。…だが、滲渼の答えは既に決まっていた。悪を許すことが出来なかったのもそうだが、何より己の望みを叶える機会が得られた奇跡を手放そうとは思えなかったのだ。例えその選択が、優しい母の想いを無碍にするものであったとしても。

 

 

 「(…申し訳ありません、母上)」

 

 「父上。私は、鬼殺隊に入りとうございます。鬼を討ち、無辜の人々がこれ以上苦しまないように。悪がこれ以上栄えることのないように。どうか、私に鬼と戦う術を伝授して頂きたい」

 「……そうか。相分かった!では明日より其方には、鬼殺隊に入隊するための稽古をつける!厳しいものとなるだろうが…覚悟は良いな!」

 「はっ!」

 

 

 闘志は戦いに身を投じる決意をした滲渼に、今一度覚悟を問う。力強く返事をした彼女を、結美は悲しげな目で見つめていた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夜。滲渼は翌日より始まるだろう稽古に想いを馳せながらも、依然として状況分析を重ねていた。

 

 

 「(『鬼』に、『鬼殺隊』。どちらも馴染みのない存在だ。────薄々感じてはいたが、きっとここはかつての私がいた世界では無いのだろう。………そういえば…『鬼殺隊』という言葉は断裂群島に足を運んだ時に聞いたことがあった。次元の歪みが、異世界の文化をもたらしたのだと誰かが言っていたか)」

 

 「(可能性として…地脈のエネルギーが何か悪さをして。一度繋がった異世界に私の『魂』が紛れ込んでしまったというのは、あり得ない話ではあるまい)」

 

 「(『鬼』は、父の話から判断する限りではモンスターと似たようなものなのだろう。人に戻すことは、できないのだろうか?善良な者がある日突然鬼にされるということもあろうに)」

 

 

 そうして思索に耽る滲渼に…眠っているかと思われた結美が、声を掛ける。

 

 

 「滲渼…起きてるかしら?」

 「!……母上?」

 

 

 彼女が起きていることを確認すると、結美はぽつりぽつりと静かに話し始めた。

 

 

 「……ねえ、滲渼。私ね、心構えは出来ていたわ。刈猟緋家に嫁ぐ時、全部闘志さんに教えてもらったもの。子供たちにも、鬼との戦いをさせることになるかもしれないって聞いてたわ。……でもね、いざそれが現実味を帯びてくるとね…凄く、恐いのよ。貴女が何処か、手の届かない所へ行ってしまいそうで。貴女の選択を咎めることはしないけれど、貴女の道を阻むつもりは無いけれど」

 「…」

 

 

 あまりにも切実な母の吐露。滲渼は寝返って母の方を向き、目を合わせる。

 

 「だからね、お願い。ううん、約束。………生きて。死んじゃ、嫌よ」

 「…はい。約束です」

 

 この七年で学んだ、約束事の合図。小指を結び、己と母に誓った滲渼は、久々に母の胸元で眠りに就いた。





 【狩人コソコソ噂話】
・滲渼の前世はひどくお人好しで、頼まれたことはとりあえず引き受けてしまいがちです。正義感も強く、困っている人は見過ごせない性格ですが、MH4/4G作中では特に言葉を発することはないものの登場人物とのやり取りから案外人間くさい所もある人物であることが分かります。

・実はモンハンと鬼滅は、スマホアプリの方でコラボしたことがあったりします(当該アプリは既にサービス終了済み)。モンハンシリーズでは他にも様々な作品とのコラボがあり、果てはハリウッドとまで共演しましたが、本作ではそれらを地脈エネルギー(モンハン世界の謎エネルギー。『新大陸』と呼ばれる場所に顕著に存在)の働きかけによって異世界と繋がりが生じ、人や物が流入したものと解釈しています。「モンハンで異世界?」と思われるかもしれませんが、新大陸調査団は割とすんなり受け入れていたので突拍子もない考え方という訳ではないです。

 【明治コソコソ噂話】
・現在、時系列は明治。まだ日露戦争も起こっていません。

・滲渼の兄「泰志」はかなり気弱で、今で言うインドア派。度々外で遊びに誘ってくる妹には辟易していますが、家族としての愛情は確かです。

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