時世を廻りて   作:eNueMu

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激戦の終わり、激動の予感

 

 「姉さんッ!!」

 「ごめんなさい、しのぶ。心配を掛けてしまったわね」

 

 

 童磨との戦いを終えた滲渼は、そのままカナエを背負って藤の花の家紋の家へ向かおうとし……鴉からの伝達を受けて姉を追って来たしのぶと鉢合わせた。泣きながら駆け寄ってくる彼女を見て、背中からカナエを下ろす。しのぶは隊服が血で汚れることも厭わずに、姉を強く抱きしめた。

 

 

 「上弦だって、聞いて…!!怖くなって……!!!居ても立っても居られなかった……!」

 「…うん。大丈夫よ、しのぶ。姉さんはちゃんとここに居るわ」

 「ぅ、うっ…あああああああぁっ!!!!」

 

 

 

 「(胡蝶の怪我はあまり軽いものではない故、刺激するのは好ましくないが………今ぐらいは、構わないだろう)」

 

 

 

 

 

 少しして落ち着いたしのぶは、カナエたちを蝶屋敷へと連れて行った。滲渼が疑問に思って尋ねた所、どうやら彼女たちの屋敷は医療施設としての機能を備えつつあるらしい。まだまだ試験的段階ではあるようだが、全てはしのぶや同居する少女たちの努力の賜物であった。

 

 そうして蝶屋敷に到着した滲渼は、どういう訳か門前で尾崎と出会う。

 

 

 「む? …尾崎……何故此処に」

 「あ、刈猟緋さん!良かった、無事だったのね!貴女の後を追うつもりで鴉に着いて行ったら、ここに連れて来られて……聞いても『ここに居ろ』としか言わないし、もう何が何だか……」

 「……ふむ。燁!」

 

 

 滲渼は己の鴉が彼女を誘導して来たということを知り、まだここにいるだろうかとその名を呼ぶ。するとすぐに、聞き慣れた羽音が聞こえてきた。

 

 

 「ヨウ、燁ダゼ…ナンツッテナ」

 「何故尾崎を蝶屋敷まで?」

 「総合的ニ見タッテ訳サ。滲渼ハ確実ニ胡蝶姉ヲ助ケテ上弦ノ弐ヲ倒ス。胡蝶妹ハ姉ノ元ヘ向カイ、ソノ先デ二人ト会ッテ蝶屋敷ニ戻ル。ナラ尾崎ガ一番早ク、カツ確実ニオ前ト合流出来ル場所ハココダ」

 「…成程、な」

 「あ、ありがとう。ちゃんと考えてくれてたのね…」

 「あらまあ…刈猟緋さんの鴉、賢いのね。それに、凄く信頼されてるみたい」

 「姉さん、とりあえず屋敷に上がってから…」

 「あ…そうね。今更だけど、肺が痛くて痛くて……」

 「ね、姉さん!!!」

 

 

 つらつらと自身の予測を述べた燁に目を丸くするカナエ。一刻も早く怪我の治療をしたいしのぶはそんな彼女を急かし、また戦いの昂奮が途切れたカナエ自身も痛みを訴え始める。足早に屋敷へと上がって行く二人を見て、滲渼たちも一先ずその後を追うことにした。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「…後は、安静にしていれば……肺以外は完治に向かうわ」

 「そう、ありがとうしのぶ」

 

 

 カナエの治療にそれ程時間は掛からなかった。カナエ自身が呼吸で止血と自然回復力向上に努めていたため、外傷の殆どは大したものでは無くなっていたのだ。但し、内側はそうではない。

 

 

 「……肺は、治らないのだと…耳にしたことがある」

 「…そう、ですね。正確には、肺胞と呼ばれる器官が無数にあって……それらは一度壊れてしまうと、もう再生しないのだと言われています」

 「そんな…」

 

 

 滲渼の呟きに肯定気味の返事をしたしのぶ。尾崎もその場に居合わせているが、皆表情はやや暗い。

 

 カナエの肺の損傷は、命に関わる程のものでは無い。しかし同時に、健全とも程遠い状態であった。ただ普通に息をするだけでも少なからず体力を消耗し、鬼殺の呼吸を行えば激しい痛みが襲い掛かる。これ以上の症状の悪化を避けるため、カナエに残された道は一つしかなかった。

 

 

 「………そっか。私もう、戦えないのね」

 「…済まぬ。もっと早く向かえていれば……」

 「刈猟緋さんが謝ることじゃないわ。それに、常日頃から覚悟はしていたもの。むしろ、助けて貰ったんだから感謝してもし足りないくらい」

 「…私からも、お礼を。こうして話が出来るのも、貴女のおかげだと私は思います。……本当に、ありがとうございます」

 「……そう、か」

 

 

 頭を下げたしのぶを見て、口を閉ざす滲渼。義勇に自己の卑下について咎めた手前、自分が同じ轍を踏む訳にはいかない。申し訳なさは感じながらも、兎も角胡蝶姉妹の礼を受け入れる。直後、蝶屋敷の住人たちが顔を出した。

 

 

 「しのぶ様!カナエ様はご無事ですか!?」

 「しのぶ様!もう御一緒しても構いませんか!?」

 「しのぶ様!何か手伝えることはありますか!?」

 

 「…くす。大丈夫よ、三人共。ほら、こっちへいらっしゃい」

 「「「カナエ様ぁぁっ!!」」」

 

 

 

 

 

 「…ねえ、刈猟緋さん。あの子たちの笑顔を守ったのは、間違いなく貴女よ。だから、そんな顔しないで」

 

 

 

 「………泣いているが」

 「も、もう!そういうことじゃなくて!!」

 「ははは、分かっている。……尾崎。有難う」

 「…うんっ」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それから幾らか月日が過ぎて。定期柱合会議にて議題に上がったのは、各柱に事前に伝えられていた、鳴柱・花柱の引退。前者は老齢が理由、後者は「上弦の弐」との戦闘による負傷が理由であり、特に焦点が合わせられたのは後者だった。

 

 

 「皆も既に知っているだろうけれど、上弦の弐はカナエと滲渼によって討たれた。上弦の撃破は実に百九年振り……その上死者無しとなれば、疑いようもなく大戦果だ。改めて、二人には感謝しよう」

 「はっ…有難き幸せ」

 「……刈猟緋。胡蝶の怪我はどんなもんだァ?本当に戦えねえ程なのかよォ」

 「…うむ。下手に激しく動けば、肺の調子が悪化する。そうなれば今度こそ、彼女の命に関わるだろう」

 「………そうかァ」

 「やれやれ、地味に柱が増えてきた所だったんだがなあ……ここに来て、また二人抜けるか」

 「甲の隊士らは、皆良い実力を備えているが……柱となるにはまだまだ、だな……」

 「…お館様。水柱が二人という訳にはいかないのでしょうか」

 「ごめんね、義勇。それは出来ないんだ」

 「…そうですか」

 

 

 不死川がカナエの容体を尋ね、滲渼が答える。柱の欠員と補充について、宇髄と悲鳴嶼が嘆き、義勇が進言する。そのまま話題は「上弦の弐」へと移っていった。

 

 

 「しかし刈猟緋。どうだった、上弦は?強かったのか?」

 「ああ、強かった。嘗て元下弦の壱とも戦ったが……彼奴が赤子にも等しく思える程に、上弦の弐は強かった」

 「そういう割には随分元気だなァ」

 「相性が良かったのだ。奴の使う血鬼術は、胡蝶がそうなったように肺を蝕む。皮膚呼吸を鍛えていなければ、勝敗は分からなかったやもしれぬ」

 「…んん?おい待て……地味に聞き捨てならねぇ単語が聞こえたぞ?なんだテメェもっぺん言ってみろ」

 「む……『相性が良かった』『肺を蝕む』『皮膚呼吸を鍛える』『勝敗は分からなかった』……何れだ?」

 「はい三つ目ェェーーッ!!!おい!!?何だ『皮膚呼吸を鍛える』って!!?ひょっとしてアレか!!?息吸っちゃいけねえ血鬼術みてえな感じだったんだな!!?じゃなきゃそんな訳わかんねえこと普通しねえよなぁ!!?まず鍛えてんのもおかしいけどな!!!」

 「何と……忍の基本技能では無かったか」

 「テメェは忍を何だと思ってやがる?」

 「…落ち着け宇髄。上弦を倒すというのなら、そのぐらいはしなければならないのだろう」

 「落ち着いてんのは冨岡テメェだけだ……!見ろ!!不死川と悲鳴嶼が固まってんだろうが!!」

 「滲渼。皆に皮膚呼吸の鍛え方を教えてあげられるかい?」

 「(……え?俺たちにもやらせるんですかお館様?)」

 「必要とあらば。しかし、時間が掛かる上に少々要領が御座いますので……今から皆が身に付けられるかどうかは分かりかねます」

 「構わないよ、よろしくね。それじゃあ、それぞれの担当地区の近況について────」

 

 

 柱たち…とりわけ宇髄の動揺が収まらない内に次の議題へ移行してしまった柱合会議。皮肉にも、柱としての自信があまりない冨岡だけは滲渼の曲芸について特に疑問を呈してはいなかった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「(上弦の月が欠けたね無惨。気付いているかな?状況はもう、確実に動いているよ)」

 

 

 会議を終えて。耀哉は一人、これからを想う。

 

 

 「(滲渼だけじゃない。ここ五年以内に、確実に大きな変化をもたらす人物がこの鬼殺隊に現れるだろう)」

 

 

 その超常的な「勘」、あるいは「予知」を働かせながら、見えなくなりつつある瞳で空を見上げる。

 

 

 「(……けれど。きっとそちらにも、そういう人物が現れる…或いはもう、現れているんだろうね。

 

 

────皮膚呼吸の強化、か。

 

 

  荒唐無稽な技術に思えるかもしれないけれど……どうしてかな。あった方がいい、なんて……そんな気がするのは)」

 

 

 

 

 

 今日も空は、青く澄み渡っている。

 

 

 

 

 





 【明治コソコソ噂話】
・引退した鳴柱の人物は創作です。不死川が柱に就任した最初の柱合会議にちらっと服だけ描写されてた人です。本当は多分鳴柱じゃないし、歳も取ってない。

・後で童磨の特徴を聞いたしのぶは、カナエを痛めつけておいて何をへらへらしてるのかと怒りに震えました。地獄に堕ちたから許したって。

・滲渼は教えるのは下手ではないです。でも柱たちに皮膚呼吸の鍛え方を教えたら、皆いつも首を捻ってしまいます。悲しいね。
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