時世を廻りて   作:eNueMu

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※一人称視点あり


運命を手繰る糸

 

 那田蜘蛛山。山としてはそれ程規模の大きくない、しかし健やかな木々がその生命を漲らせる健全な土地。だが、そんな一見何の変哲も無い山も、暗い夜の闇に乗じてその本性を顕にする。

 

 

 「ど、どうなってるんだよ…!!?この山、一体何が潜んで…!! ────う、わあぁぁああっ!!!」

 

 「クソッ……!!敵の正体が分からない!!皆、一箇所に固まるんだ!!散らばるのは拙い!!」

 「じっとしてたらやられるだろ!?とにかく山を降りて、助けを呼ばないと!!」

 

 

 任務を遂行するべく山を訪れた鬼殺隊の隊士たちが、一人また一人と闇に呑まれて消えていく。次は己かと身を震わせ、どの隊士も思うように動くことが出来ない。命の危機を前に冷静で居られる程、彼らは死線を潜り抜けてきた訳ではなかった。

 

 

 「……もう…駄目だ…!!皆……皆死んじまううぅぅっ!!!」

 「弱音を吐くな!!戦い続けるんだ!!何とか鬼を探して────ぐっ!!? …か、身体、が…!?」

 

 

 更に、厄難はそれだけに留まらない。何人かの隊士の身体が、本人の意思とは無関係に動き始める。そして…

 

 

 「え……ぎゃあッ」

 「は!?な、なんで────ぐあぁっ!!」

 「おい…!!?何だよ、これ!!?止まれぇッ!!!止まってくれよぉぉぉッ!!!」

 

 

 隊士同士での斬り合いを始めた。彼らは決して、錯乱状態に陥った訳でも、自暴自棄になっている訳でもない。これが、この山に潜む鬼の血鬼術なのだ。

 

 

 「こんなのどうすりゃ良いんだよ!!?柱でもないと、対処なんて……う、うわぁあっ!!身体、身体が勝手に!!!皆離れろおおぉっ!!!」

 「散らばっても、固まっても駄目…止めるには、鬼を倒すしか無いってのか!?何処に居るかも分からない、鬼を…!!」

 

 

 山を覆う新緑が、がさがさと風に揺れる。漂ってくるのは人の血の匂いばかりで、鬼の気配など完全に紛れて消えてしまっている。慰め程度の月明かりが、これが太陽であったならと今ばかりは恨めしく思えた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 いつも通り……いや。本音を言えば、人数が多い分いつもよりずっと簡単な任務になると思っていた。私はなんて莫迦なんだろう…それだけ鬼が強力であるということの証左だと、気付けない方がおかしかった。

 

 

 「皆、絶対に離れないで!!常にお互いに気を配って!!逸れたら、命は無いわよ!!」

 「わ、分かった…!!」

 

 

 鬼の気配を探るのは、今でも下手くそだ。余程近付かないと、居るということすら分からない。刈猟緋さんなら、山に入ったその瞬間にはもう終わらせることが出来たんじゃないだろうか。

 

 でも、私はそうじゃない。……だからといって、不貞腐れている暇は無い。継子になってからの四年間、それまでの稽古がぬるま湯だったと言ってもいい程に熾烈な稽古を乗り越えた。全ては、置いていかれたくない一心だった。足手纏いに、なりたくなかった。

 

 

 「さっき、鴉が飛び立って行ったのが見えたわ。誰のかは、分からないけれど……少なくない人数が、この山で命を落としてる。きっと柱が救援に来る筈よ」

 「ほ、本当か!?」

 「ええ。だから、諦めちゃ駄目よ。焦りも禁物。私たちは、山を回って少しでも多くの命を守る。鬼を見つけられたら、討伐する。一つ一つ、確実にこなしていきましょう」

 

 

 まだまだ、背中は遠いけれど。走って走って、追い縋ることの出来る距離には居ると思いたいから……今はただ。

 

 

 「…うっ! ……血の匂いが、物凄いな…!!」

 「……そうね。きっと、この辺りにも隊士が居たんだわ。恐らくはもう────」

 「うわあああっ!!な、何だこれ!?身体が操られてる!!助けてくれえっ!!」

 「!!皆、それぞれ一定の距離を保って!!!私が対処するわ!!」

 

 

 

 手の届く限り、命を救う。

 

 

 

 「(────!! …糸!!きっと、これがこの山の鬼の血鬼術!!!)」

 

 

 

 それが、今の私に出来る最大限。

 

 

 

 

 

 「『咢の呼吸 地ノ型 迅』ッ!!」

 

 

 

 

 

 「あっ…!!う、動けるようになった…!!ありがとう!」

 「気を緩めないで!!またすぐに仕掛けて────」

 

 

 ────────何か居る。蜘蛛?

 

 

 

 …こんなに沢山、集まるものなの?

 

 

 「うおっ!?腕が……引っ張られる!!?」

 「!! 彼の近くにいる人たち、誰でも良いから糸を切って!!彼の腕に絡んでるわ!!」

 

 

 

 糸。………蜘蛛の、糸!!!

 

 

 

 「…そういうことね…!!『咢の呼吸 天ノ型 群翅棘(ぐんしきょく)』!!!」

 

 

 飛び掛かって来ていた、小さな蜘蛛の群れ。辺りを這い回っているのも一緒に斬り刻む。良く見れば、糸がくっついてるみたい。

 

 この蜘蛛こそが、血鬼術の全貌!!

 

 

 「皆、足元に気を付けて!!!小さな蜘蛛が沢山居るわ!!!張り付かれると、糸を身体に巻かれてしまう!!!」

 「えっ!?うわっ!ほんとだ!!き、気持ち悪い!!」

 「言ってる場合じゃねえぞ!!よく見りゃとんでもねぇ数居やがる!!とにかく斬りまくれ!!」

 

 

 ………しばらくは、これで誰かが連れ去られたり、さっきみたいに操られたりはしなくなる筈だけど……集団の移動速度がかなり落ちてしまった。何より、救援が来るまで皆の体力が持つとは限らない。

 

 …どうしよう。

 

 鬼の場所を、見つけられる人は居ないの…!!?

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「アイツ絶対ぶん殴ってやる!!!」

 「そういうこと言うのやめろ!!」

 「クソ猪とか言われたんだぜ紋次郎!!!」

 「炭治郎だ!!」

 

 

 騒がしく鬼の根城である那田蜘蛛山を駆けるのは、入隊して間もない二人の隊士。名は、竈門炭治郎と嘴平伊之助だ。任務として山に赴いた彼らは、その優れた知覚を以て早々に血鬼術の正体を看破。先輩隊士である村田に浅い場所を任せ、自分たちはより深くへと切り込んでいく。全ては、元凶である鬼を討つために。

 

 村田とのやり取りを思い返し、腹を立てた様子で喚く伊之助。炭治郎はそれを宥め、また名前の間違いを訂正する。そうしながら走っているうちに、彼らは隊士の集団と鉢合わせた。

 

 

 「うおお!!めっちゃ居る!!!」

 「それ程怪我はしていないようだけど……大分疲れてるぞ」

 「! 貴方たち、何処から来たの!?救援部隊かしら!?」

 

 

 集団の中から女性の隊士…尾崎が二人に駆け寄り、声を掛ける。炭治郎ははきはきと自己紹介をしながら、ここまで来た目的を述べた。

 

 

 「応援に来ました、階級癸・竈門炭治郎です!この先に、糸を操る鬼が居る筈です!皆さんもそのことに!?」

 「…えっ。…ご、ごめんなさい……全然気付かなかったわ……」

 「そうですか!大丈夫です!俺たちに任せて下さい!!」

 「鈍感だぜ」

 「ぅ…き、気にしてるんだから止めてよ!!」

 「謝るんだ伊之助!!」

 「へーん!!さっさと行くぞ!!」

 「あっ! …済みません、行きますね!鬼は複数居るようなので、お気を付けて!」

 「!? 本当!?分かったわ、ありがとう!!」

 

 

 必要なことを告げると、ばたばたと去っていく炭治郎たち。一部始終を見ていた他の隊士が、尾崎に対して不安を洩らす。

 

 

 「お、おい……大丈夫なのか?あいつ、癸って言ってたぞ。多分猪頭の方もそうだろ?殺されちまうんじゃねえのか」

 「大丈夫よ」

 

 

 しかし、尾崎は毅然と言葉を返す。炭治郎に伝えられた他の鬼の襲撃に備えつつ、足元の蜘蛛を斬り続ける彼女は、確かに炭治郎と伊之助の実力を察していた。

 

 

 「誰だって初めは癸だけど、癸だからといって弱いとは限らない。そして……あの二人は、強いわ。どうやら鬼を見つけ出す術もあるようだったし、彼らに任せましょう。私たちはこのまま生存者を助けながら、他の鬼を探すわよ」

 「……俺が言える立場じゃねえけどさ…鬼の気配が分かんねえのに人間の強い弱いは分かるのかよ?」

 「う、うるさいわねっ!!強い人特有のそういうのがあるのよ!そういうのが!!無駄口叩かずに体力温存してなさいっ!!」

 「お、おう…」

 

 

 滲渼という絶対的強者との鍛錬を日常的に行ってきた尾崎は、人物を見ただけである程度の実力を測るぐらいは出来るようになっていた。尤も、最低限度の強さを持った者であるという前提条件がついて回るのだが。

 

 

 「(……それに…あの子たちからは、刈猟緋さんと似た()()を感じた。きっと、信じていいと…そう思うわ)」

 

 

 炭治郎たちに言いようのない光明を見出した尾崎。

 

 

 

 彼女は気付かない。気付くことは、永劫ない。

 

 

 

 

 

 四方八方から忍び寄る宿命を、自らの手で振り払ったという事実に。

 

 

 

 

 





 【狩人コソコソ噂話】
   〜咢ノ息吹〜
・「天ノ型 群翅棘」
「飛甲虫」ブナハブラから着想を得た技。人間にも比肩する程の巨躯は、されど彼の地にては矮小極まる弱者の証。だが、しかし、侮る勿れ。羽虫の一刺しは時に竜の喉笛にすら届き得る。取るに足りない突きであると軽んじるなら、その鬼の頸は宙を舞うことになるだろう。

 【大正コソコソ噂話】
・那田蜘蛛山の生存者は原作より多いです。勿論、尾崎さんが頑張ったからです。
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