時世を廻りて   作:eNueMu

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那田蜘蛛山での出来事

 

 尾崎と別れた炭治郎ら二人は、その後無事に糸を操る鬼を撃破。しかし直ぐのちに、それぞれが別々の鬼とぶつかることになった。伊之助は蜘蛛の頭部を持つ巨大な鬼と、そして炭治郎は対照的に小さな子供の姿をした鬼────「下弦の伍」、累と。

 

 蜘蛛鬼は強く、今の伊之助には少々荷が重かった。首の骨をへし折られるという所で、間一髪水柱の冨岡義勇に救われていなければ、彼の命は無かっただろう。

 

 また同時刻、炭治郎も累に苦戦を強いられていた。下弦とはいえ十二鬼月である彼の実力は本物であり、そう易々と討つことが出来る程弱い鬼ではない。彼を倒すために、炭治郎はこの戦いの中で成長する必要があった。

 

 そんなことは露知らず、仲間を連れて山の探索を続ける尾崎。彼女の前にも漸く鬼が現れる。

 

 

 「! 皆止まって!! 鬼が居るわ!!」

 「!? ちっ…!! 今まさにコイツを喰ってやる所だったっていうのに…!! わらわらと群れるしか出来ない雑魚共が、邪魔すんじゃないわよっ!!!」

 

 

 捨て台詞を残して逃走に転じようとする少女の鬼。すぐ側には球状の糸束が転がっており、彼女の言い分からその中に人間が閉じ込められているのであろうと考えられた。

 

 

 「こんな山に複数で籠りっきりの貴女たちが言えること? ────逃さないわ。『咢の呼吸 地ノ型 (ひき)(かえ)し』」

 「は────!?」

 

 

 背を向けた鬼の正面へ、高く跳び上がって回り込む。驚愕に目を剥いた鬼の頸を、尾崎は躊躇無く断ち切った。

 

 

 「そ、んな…!! いや、嫌……!! 死にたく、ない…!!!」

 「…罪の無い人を殺しておきながら……虫が良すぎるとは思わない? 存分に地獄を味わいなさい」

 

 

 尾崎は、鬼の断末魔が嫌いだ。頸を斬られたのだから黙って死ねばいいものを、わざわざ救いの懇願や頸を断った己への恨み辛みを吐き散らすから。礼を述べるような鬼も居るが、これも嫌いだ。無垢で穏やかな声や眼差しを向けられると、自分の行いに疑問を抱きたくなってしまうから。

 

 

 「ふぅ……まだまだ未熟ね…っと! そうだわ、糸玉!!」

 

 

 波立つ心を落ち着かせ、小さく息を吐く。そうしてふと、血鬼術に囚われていた人間が居たことを思い出した。鬼を倒したのだから、術も消えている筈だと振り返り……

 

 

 

 

 

 「…よう、尾崎。その、はは……ありがと、な………」

 

 

 

 

 

 そこに居た全裸の村田を見て、絶句する。

 

 

 「……………村田くん? ………どうして……裸なのかしら?」

 「おい待て。そんな目で見ないでくれ。疾しいことは何もない! 血鬼術で溶かされたんだ! 本当に危ない所だったんだって!」

 「あぁ、良かったわ……同期の隊士が問題行動で処分されるなんて、悲しすぎるもの………」

 「一瞬でもそう思われたことが辛いぞ!」

 「あはは、ごめんなさいね。何にせよ、無事で良かったわ。誰か、彼に羽織るものだけでも渡してあげられないかしら!?」

 

 

 大した怪我は無いらしい友人を少しだけ揶揄いながらも、尊厳は守ってやらねばなるまいと、連れ立って来た隊士たちに衣服となるものを要求する尾崎。丁度羽織を着ていた隊士が何人か居たので、村田は彼らの一人から借り受けた羽織で隠すべき所を隠しておくことにした。

 

 流石にこの状態で山を練り歩く訳にはいかないと、一旦下山を提案しようとした所で……遂に、尾崎たちが待ち望んだ強力な援軍が到着する。

 

 

 「あら、こんなに沢山の隊士が一箇所に……って! 尾崎さん!?」

 「しのぶちゃん…!! 救援に来てくれたのね!!」

 

 「しのぶ…胡蝶しのぶ様か!?」

 「蟲柱様だ!! やったぞ、皆!! 柱が来たんだ!!」

 

 

 現れたのは、胡蝶しのぶ。尾崎の考えた通り、鴉の報告は那田蜘蛛山に柱を呼ぶという結果をもたらした。粘り勝ったのは、鬼殺隊の方だった。

 

 

 「そうですか…尾崎さんが、隊士たちを助けてくれたんですね。ありがとうございます」

 「ううん。私に出来ることは、これぐらいしか無いと思ったから……しのぶちゃんが来てくれて良かった」

 「それでも、貴女の活躍は確かです。お陰でかなり動き易くなったと思いますよ。後は私たちに任せて、皆さんは先に下山を」

 「…私たち?」

 「はい。今この山に居る柱は、私ともう一人…冨岡さんです」

 

 

 隊士たちに怪我が無いことを確認しつつ、尾崎の功績を称えたしのぶ。謙遜する尾崎だったが、その後のしのぶの発言でもう一人の同期が来ていることを知った。

 

 

 「そっか、それならきっと大丈夫ね。皆! 後は柱の御二方に任せましょう!」

 「…おお。そう、だな…」

 「頑張ってね、しのぶちゃん」

 「はい。尾崎さんもお気を付けて」

 

 

 尾崎と言葉を交わし、山奥へ颯爽と向かっていったしのぶ。少しの間彼女が消えた木々の間の暗がりを見つめていたが、間もなくして目を丸くしたままの隊士たちを率いて下山を始めた。中々彼女に話を切り出せない彼らを代表して、村田が尾崎に問い掛ける。

 

 

 「…尾崎。お前いつの間に柱と知り合ったんだ…? ていうか、えらく仲が良さそうだったけど…」

 「え? ああ、そうね。刈猟緋さんと一緒に居た時に、知り合う機会があったのよ。それからも何度か会ってたし」

 「……継子って凄えんだな」

 「継子はあまり関係無いと思うけれど…」

 

 

 

 

 

 そんな他愛もない話をしながら、慎重に那田蜘蛛山を下っていく尾崎たち。最後まで気を抜かないよう、着実に歩みを進めていく。

 

 いつしか森を抜け、煌めく星明かりが隊士たちの目に映った頃。漸く彼らは息をつくことを許された。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 一方、炭治郎の戦いもまた終わりを迎えていた。命の危機に瀕して彼が咄嗟に繰り出した「ヒノカミ神楽」は、彼の家系に伝わる単なる舞踊である筈だったが……驚くことに、それは累に通用する技として発現した。結局の所ヒノカミ神楽で累を討つには至らず、またしても間一髪で現れた義勇が彼の頸を断つ形にはなったものの、炭治郎にとって今回の戦いは非常に重要なものであったといえるだろう。

 

 ────そして、現在。

 

 

 「……冨岡さん。どうして鬼を庇うような真似を?ああ、そういえばこの間例外がどうとか言ってましたっけ。ひょっとしてその鬼なら仲良く出来るとか思っちゃってます?」

 「…そうなのかも、しれない」

 「そうですか。私はそうは思わないので、さっさと殺してしまいますね」

 「…炭治郎。妹を連れて逃げろ。死に物狂いで動け」

 「!! 冨岡さん……すみません! ありがとうございます!!」

 

 

 彼は再び、危機に陥っていた。理由は、彼の妹にある。

 

 竈門禰豆子。家族を鬼舞辻によって殺された炭治郎に残された唯一の肉親であり────「鬼」だ。

 

 幾ら肉親であるといっても、鬼と化した者を連れているなど、本来ならば正気の沙汰ではない。だが、禰豆子は極めて特殊な鬼だ。人を襲わず、傷や疲労は睡眠で癒す。義勇が出会ったその当時は鬼になりたてであったが、それでも禰豆子は人を襲うよりも兄を守ることを優先した。

 

 だからこそ義勇は、二人を見逃した。何かが違うと、直感的に感じたからだ。

 

 

 「…隊律違反ですよ、冨岡さん。会議の度に冨岡さんと他の柱の方々の橋渡しに苦心している刈猟緋さんがこの事を知れば、さぞかし悲しまれるでしょうね」

 「…俺は頼んでない」

 「まあ酷い。刈猟緋さんが居なければ今以上に嫌われていたと思いますよ?」

 「俺は嫌われてない」

 「…自覚が無かったんですか?」

 「…」

 「……時間の無駄ですね。あの鬼を殺してしまえば、無かったことに出来ますから。どいてくれます?」

 

 

 柱との関係や滲渼の頑張りなど、状況に似つかわしく無い話をしながらも刀を握る手は緩めないしのぶ。義勇はそんな彼女を宥めようとして…逆鱗に触れてしまう。

 

 

 「…姉の夢が、叶うかもしれないんだぞ」

 「────ッ!!! 叶いませんよあんな戯言は!! 姉さんの唯一理解に苦しむ点です! 何を思って鬼と仲良くしようなんて────」

 「止めろ! …家族の夢を、何故そう頭ごなしに拒絶する! 心から分かり合える筈の、血を分けた者の夢を!」

 「貴方が姉さんを引き合いに出してきた癖に良く説教なんて出来ますね! 姉さんのことは大好きです! あの人の気持ちだって誰よりも良く分かってる! それでも! 鬼に歩み寄るなんて莫迦げてるにも程があるとは思いませんか!? 父さんも母さんも鬼に殺されたのに!! どうしてニコニコ笑いながらそんな風に言えるの!!? どうして哀れだなんて思えるの!!? ……そこだけが、分からないから……苦しいんじゃないですか…!!!」

 

 

 しのぶは、涙を溢して叫ぶ。これには流石の義勇も面食らい、己に非があるだろうと省みるが…

 

 

 「…済まん」

 「………もう、いいですから。もう一度言いますけど、どいてください。兄妹なんでしょう、あの子たち。今のうちに目を覚まさせてあげないと、可哀想です」

 「それは────」

 

 

 それでも、ここを譲ることは出来ない。二人の存在は、この先必ず鍵となる。そう考える義勇の耳に、福音ともいえる鴉の鳴き声が届いた。

 

 

 「伝令!! 伝令!! カァァァ!!」

 「「!?」」

 「伝令アリ!! 炭治郎・禰豆子両名ヲ拘束!! 本部ヘ連レ帰ルベシ!!」

 「!! これは…」

 「……お館様の、ご意向ということだ。従わざるを得ないだろう」

 「…『安心した』って顔に書いてありますよ」

 「!?」

 「はぁ……言っておきますけど、これであの兄妹の安全が保証された訳じゃありませんからね。きっと彼らは、柱合裁判にかけられます。どうしても二人を守りたいのなら、弁護の準備ぐらいはしておいた方がいいと思いますよ」

 「…そうか」

 

 

 鬼殺隊本部…即ち産屋敷家は、少なくとも今すぐに彼らを始末することを是とはしていないようだった。少ししてしのぶの継子であるカナヲが箱に入った禰豆子をしのぶの元に連れて来て、本部へ連れて行くことの是非を視線で問う。しのぶは頷いて箱を受け取り、義勇と共に本部へと向かうことを決めた。

 

 

 「ちゃんと着いてきて下さいね、冨岡さん。貴方の隊律違反も、隠す訳にはいかなくなりましたから」

 「…構わない」

 

 

 ────そして、翌日。九人の柱による柱合裁判が、始まりを告げる。

 

 





カナエRPをしていない分、原作よりはしのぶさんが鬼に対して攻撃的であるべきだと思いますが……解釈違いであればすみません。

 【狩人コソコソ噂話】
   〜咢ノ息吹〜
・「地ノ型 蟇返し」
「鬼蛙」テツカブラから着想を得た技。地盤を捲り上げる程の力強い跳躍から流れるように繰り出されるのは、やはり地盤を捲り上げんばかりの猛烈な爆進。開かれた大口の奥は暗く、呑み込まれる獲物は闇への恐怖でその身が固まる。人智を超えた大跳躍、そこから着地によって生まれた一切の力を次なる斬撃に注ぎ込む。意表を突かれた鬼は、抵抗すら許されない。
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