時世を廻りて   作:eNueMu

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ごめんなさい、いやマジで。思ってたより長くなったので分割します。


柱合裁判:其ノ壱

 「────起きろ。起きるんだ」

 

 

 隠が、気絶して眠ったままの少年に呼びかける。

 

 

 「起き…オイ! オイコラ! やいてめぇ!! やい!!」

 

 

 中々起きない彼を見て、次第に声を荒らげていき…

 

 

 「いつまで寝てんださっさと起きねぇか!!」

 「!!」

 

 

 最後の一声で、漸く少年…炭治郎ははっきりと目を覚ました。

 

 

 「柱の前だぞ!!」

 「!?」

 

 

 彼の視界に入って来たのは、丁度三人ずつ計六人の男女。しかし目を覚ましたばかりの炭治郎は新人であるということもあり、「柱」の意味や縛られて地面に寝そべる自分を見下ろす彼らが何者であるのかが分からない。

 

 

 「(柱…!? 柱って何だ? 何のことだ? この人たちは誰なんだ? ここはどこだ? …それに、()()()()()()()()()()()! 何もかも分からないことばかりだ…!)」

 「ここは鬼殺隊の本部です。貴方は今から裁判を受けるのですよ……竈門炭治郎君」

 

 

 そんな炭治郎の疑問を感じ取ったのか、六人の内の一人…蟲柱・胡蝶しのぶが簡単な説明を行う。それに対して炭治郎が反応を返すよりも早く、他の柱たちが声を上げた。

 

 

 「裁判の必要などないだろう! 鬼を庇うなど明らかな隊律違反! 我らのみで対処可能! 鬼もろとも斬首する!」

 「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」

 「(えぇぇ…こんな可愛い子を殺してしまうなんて…胸が痛むわ 苦しいわ)」

 「あぁ…なんというみすぼらしい子供だ、可哀想に…生まれて来たこと自体が可哀想だ」

 

 

 隊律違反を犯した炭治郎をすぐにでも処刑しようというのは、炎柱・煉獄杏寿郎。更には音柱・宇髄天元、岩柱・悲鳴嶼行冥もそれに同調する姿勢を見せる。彼らの言動に目を丸くしたのは、咢柱・刈猟緋滲渼だ。

 

 

 「殺してやろう」

 「うむ」

 「そうだな。派手にな」

 

 「(ふむ……鬼を連れた隊士、か。何分前代未聞のことである故、皆浮き足立っているのだろうな。ここは私が先導して、穏便に事を進めて行くとしよう)」

 

 「(禰豆子!! 禰豆子どこだ────)」

 「もし。少年」

 「!?」

 

 

 物騒なことを言い募る柱たちを尻目に、気配の感じられない妹を首を回して必死に探す炭治郎。そんな彼に、滲渼は静かに話し掛けた。

 

 

 

 「実に見事な耳飾りだ。何処で此れを?」

 

 

 

 「…あの、刈猟緋さん?」

 「おい…今それどころじゃねえだろ……」

 「(ちょっとズレてる刈猟緋さん、可愛いわ! きゅんとしちゃう!)」

 

 「(…む? 場を和ませる積もりが……当てが外れたな)」

 

 

 まずは些細な話から…と考えた滲渼だったが、事態は彼女が考えているよりも深刻なものだった。微妙に間の抜けた彼女の振る舞いに、何人かの柱は思わず気が抜ける。

 

 

 「これは代々────ぐ、ゲホッ!! ゴホッゲホッ!!」

 「! 竈門君、これを。鎮痛薬入りの水ですから、少しは楽になるかと」

 

 

 そして、そんな少々場に相応しくない滲渼の質問にも誠実に答えようとした炭治郎だったが、全てを言い切る前に顔を歪めてむせてしまう。顎を負傷しているために、口を開くだけでも鋭い痛みが彼を襲うのだ。

 

 しのぶが証人である彼に配慮を示し、応急的な対応を施した所で……言葉を発したのは、炭治郎ではなく蛇柱・伊黒小芭内だった。

 

 

 「待て。冨岡はどうするのかね? 先にそちらの処遇を決めるのが筋では無いのか? ただでさえ拘束もしていないというのに、まさかこのままお咎め無しとでも? 隊律違反は等しく罰せられるべきだ。例え柱であろうとな」

 「…」

 

 

 樹上に居座る伊黒が言及したのは、水柱・冨岡義勇の隊律違反について。しのぶの話によれば、鬼を庇ったのは義勇も同じであるようだから、彼もまた処罰の対象なのだと主張する。

 

 

 「冨岡。そう隅に縮こまるな。そら、行くぞ」

 「…刈猟緋。ついでにそいつを縛り上げろ」

 「まあ待て小芭内。先ずは少年の話を聞いてからでも、遅くは無かろう。鬼を滅する我らとしても、無感情に人を罰することは好ましくあるまい」

 「…ふん」

 

 

 伊黒の言葉に特に何を言うでもなく、義勇は庭の片隅にぽつりと黙って立ち尽くしており、それを見かねた滲渼が彼の手を引いて柱たちの元に帰る。伊黒は尚も義勇の拘束を提案したが、炭治郎の弁明次第だという滲渼の言葉を聞いて、渋々引き下がったようだった。

 

 

 「……一応聞いておきます。冨岡さん、彼を弁護する内容はありますか?」

 「…あれは確か二年前────」

 「はい。竈門君、詳しく話して貰えますか?」

 「む? しのぶ、何故冨岡を遮る」

 「二年前から長々と話されるのが目に見えていたからですよ刈猟緋さん…! それでは日が暮れてしまいます」

 「ふむ。一理ある」

 「テメェ地味に悠長な所あるよな……」

 

 

 念のためにしのぶが尋ねた義勇の弁明は、出だしからかなり暗雲が漂うものだった。さっさと切り替えて、今度こそ炭治郎から話を聞き出す。

 

 

 「……俺の妹は、鬼になりました。だけど人を喰ったことはないんです。今までも、これからも…人を傷つけることは絶対にしません」

 「下らない妄言を吐き散らすな。そもそも身内なら庇って当たり前…言うこと全て信用できない。俺は信用しない」

 「あああ…鬼に取り憑かれているのだ。早くこの哀れな子供を殺して解き放ってあげよう」

 「聞いてください!! 俺は禰豆子を治すため剣士になったんです!! 禰豆子が鬼になったのは二年以上前のことで、その間禰豆子は人を喰ったりしてない!!」

 「話が地味にぐるぐる回ってるぞアホが。人を喰ってないこと、これからも喰わないこと。口先だけでなくド派手に証明してみせろ」

 「其方の妹が洗脳や催眠に類する血鬼術を扱うということは考えられぬか? これまで妹に関わった者全てが、気付かぬうちにそう思い込まされているだけやもしれぬ」

 「違います!! 禰豆子はそんなことはしない!! 俺が殺されそうになった時も、身を挺して庇ってくれたんです!!」

 

 「オイオイ何だか面白いことになってるなァ」

 「!」

 

 

 柱たちが炭治郎の話に疑義を感じ、そして炭治郎も彼らの言葉に感情的に反論を述べる。幾らかこのやり取りが繰り返されたのち、新たに登場したのは…風柱・不死川実弥。

 

 

 「困ります不死川様! どうか箱を手放してくださいませ!」

 「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかいィ? 一体全体どういうつもりだァ?」

 

 

 不死川は、その手に禰豆子の入った箱を掲げて現れた。勝手な行動をする彼に対し、隠に箱を託しておいたしのぶは不快感を顕にする。

 

 

 「不死川さん…勝手なことをしないでください」

 

 

 だが、しのぶの諫言にも不死川は耳を貸さない。彼が見据えるのは、炭治郎ただ一人だ。

 

 

 「鬼が何だって? 坊主ゥ…身を挺して庇ってくれたァ? だから人は襲いませんってか? そんなことはなァ」

 

 

 腰の刀を抜き放ち、その鋒を箱に向ける。何をするのか、炭治郎にも予想はついたが……当然、止めることなど出来なかった。

 

 

 「ありえねぇんだよ馬鹿がァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────但し。柱であれば、その限りではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「────止せ。不死川」

 「(────!!? 何、だ!? 急に凄い匂いが…!!! ()()()の、匂いなのか…!!?)」

 

 

 炭治郎の鼻に、突然強烈な匂いが届く。修練者の匂い。強者の匂い。猛者の匂い。その源は…紛れもなく、不死川の前に瞬間的に現れた滲渼だった。

 

 そうして、理解する。何故目覚めてから今まで、何の匂いも感じなかったのか。

 

 

 「(………慣れて来たんだ…!! 鼻が慣れて、漸くまともに機能し始めた!! とんでもなく……感覚が麻痺してしまう程に濃い匂い!!! こんな事、初めてだ…!!! 間違いなく、今まで見てきた人の中で────一番、強い!!!)」

 

 「……刈猟緋ィ。この手は一体何のつもりだァ?」

 

 

 炭治郎の角度からは見えていなかったが…滲渼は、不死川の刀の鋒を摘んで止めていた。不死川は相応の力を込めた刀がびくともしないことに少なからず苛立ちながら、滲渼を睨みつける。

 

 

 「中に居るのは、鬼であろう? 下手に刺激するのは拙い。此処は御館様の屋敷だ……万が一という事もあり得る」

 「心配は要らねェ。暴れたらすぐに頸を斬ってやる。それに、あの坊主の言う通り優しい優しい鬼さんなら…ちょいとばかし刺されたぐらいで腹立てたりはしねぇだろォ」

 「暴れ出した鬼を、即座に斬滅出来るという保証は?上弦の鬼に匹敵する、或いは上回る力を持っていたならば…如何だろうな」

 「………何だァ? テメェまさか…鬼を庇おうっていうんじゃねぇよなァ?」

 「単に静置すべきだという話だ。何、案ずるな……全ての責は私が引き受ける」

 「……いいぜ。好きにしなァ」

 

 

 いきり立つ不死川だったが、存外あっさりと滲渼の説得に納得して刀を納め、箱を下ろした。傍観していた炭治郎は、そのことに安堵と不安の両方を抱く。

 

 

 「(あの傷だらけの人が退いたのは……大きい女の人を、信じているからだ。何かあっても、この人ならどうにかしてしまう…そう確信しているんだ。………どうなんだ…!? この人は、禰豆子を認めてくれるのか…!?)」

 

 「お館様のお成りです」

 「!」

 

 

 炭治郎の思案を遮るのは、幼い子供の声。柱たちは直ちに反応し、屋敷に向かって整列を始めた。

 

 

 「(!? 何だ…!? 今度は一体…)」

 

 「少年」

 「!」

 「寝たままの姿勢で構わぬ。出来る範囲で頭は下げておくと良い」

 「は、はい。分かりました」

 

 

 滲渼の提案に応じ、痛む顎を素直に砂利に添える炭治郎。直後、一人の青年…産屋敷耀哉が屋敷の中から姿を見せた。

 

 

 「よく来たね。私の可愛い剣士(こども)たち」

 

 





 【大正コソコソ噂話】
・滲渼の強者の匂いは炭治郎にはきついですが、勿論普通の人には分からないです。くさくないよ。

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