「『血鬼術 飛び血鎌』!!」
「『拾ノ型 生生流転』」
妓夫太郎から、大量の血の斬撃が放たれる。尾崎ですら辛うじて反応が間に合うといったような速度のそれを、真菰は鮮やかに捌き切ってみせた。
「こっちは私に任せてください。二人は妹鬼の方を────」
「!! 危ない!! 『地ノ型 轟咆』!!」
しかし、斬り払った血の斬撃が軌道を変えて彼女を襲う。尾崎が破壊力のある技で湾曲した斬撃を消し飛ばし、一先ずやり過ごすが…
「斬撃…いや、血なのかしら!? とにかく、操れるんだわ!! 完全に弾けさせないと!!」
「ひひひっ、死に物狂いだなぁ……無駄だけどなああ」
「兄さんが居れば、アンタたちなんて何も怖くない!! くたばりなさい塵共!!」
「くっ…!!」
堕姫と妓夫太郎は、息つく暇も与えてはくれない。妓夫太郎の速度について行くことが出来るのは真菰だけだが、真菰だけでは彼の血鬼術に対処出来ない。かといって尾崎まで妓夫太郎の方に意識を向けてしまっては、堕姫を止められない。
「(拙い……!! このままじゃ、すぐに三人とも……!!)」
「そぉら…まず一人」
「っ!!!」
伸びてきた堕姫の帯に対応していた隙に、妓夫太郎が尾崎に牙を剥く。瞬時に距離を詰め、振り抜かれた鎌は…彼女の心臓を貫通した。
「尾崎さ…!!!」
────かに見えた。
「『地ノ型 鏡花水月』!!!」
「!?」
突然姿を消し、同時に妓夫太郎の懐に潜り込んでいた尾崎。渾身の力で刀を頸に振るい、落とさんとするが…刃が入った所で、止まってしまう。
「そんな…!!? 初めて成功したのに…!!!」
「惜しかったなああ…!! 今のはたまげたぜ…」
高難度の技を土壇場で成立させたというのに、その結果はあまりにも無慈悲。妓夫太郎の頸は、尾崎一人が落とせる程に柔くない。彼は改めて鎌を掲げ…そこに、真菰が割り込む。
「『拾ノ型 生生流転』」
「馬鹿の一つ覚えみてぇに同じ技を────」
「お兄ちゃああん!! また頸斬られたあああっ!!!」
「!」
堕姫の絶叫に気を取られ、真菰の斬撃を躱せなかった妓夫太郎。とはいえ、元々必死に躱すようなものでもない。彼女の刀では自身の肉体にまともな損傷を与えられないと考えて…
「(………馬鹿な。腕を切断されちまった)」
その威力の変化に目を瞠った。
「そこのすばしっこい女よ!! そいつもめちゃくちゃにしてやって!!!」
「尾崎さん。大丈夫ですか」
「ええ、ありがとう!」
「……お前…なんかおかしいなああ……手を抜いてた訳じゃなさそうだもんなぁ」
「…どうかな」
「(……? 真菰さん…何か変だ。全集中・常中とはまた違う…何かをずっと……)」
真菰に対して、妓夫太郎と炭治郎が不自然な感覚を抱く。特に妓夫太郎は強くそう感じていた。明らかに、彼女の技の威力が増しているのだ。
「真菰ちゃん、距離を!」
「いえ! 先刻の血鬼術…却って被害を広げかねない! 近付いて戦います!」
「! わかったわ、血の斬撃は私が────」
「アタシのこと、忘れてるんじゃないかしら!?」
「っ! 『天ノ型 海中の雷鳴』…ぐぅっ!?」
そして再び、堕姫が復活。唐突に死角から飛んできた攻撃を防ぎきれずに、とうとう尾崎が負傷してしまった。両の二の腕を帯が掠め、そこから血が溢れ始める。
「さっさと死ね────」
「させない!!」
「!? 竈門君!!」
窮地に陥った尾崎を救ったのは、炭治郎。水の呼吸で帯を受け流し、尾崎に振り返って告げる。
「この鬼は俺一人で抑えます!! 真菰さんの援護をお願いします!!」
「! …わかったわ! 貴方を信じる!!」
彼の言葉を受け、妓夫太郎の方へと尾崎は向かう。炭治郎はその背に差し向けられた帯の一切を弾きながら、堕姫の正面に立ち塞がった。
「ここで…お前を止める!!」
「不細工が図に乗ってんじゃないわよ!! 女二人もすぐに兄さんが殺すわ!! アンタら全員終わりなのよ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「『天ノ型 激奔・重徹甲』!!」
「(ちっ…次から次へと技が変わるなぁ、コイツはなああ……威力もまちまちだ。無視するには不安が残る……)」
「『拾ノ型 生生流転』」
「…だからってお前から目を離すのはあり得ねえからなああ…!! もう終わらせるか────『血鬼術 円斬旋回・飛び血鎌』!!」
「「!!」」
ひらひらと舞うように攻撃を躱しながら、徐々に技の威力を増していく真菰。攻め際、退き際を弁えており、的確に攻撃を差し込んでくる尾崎。
二人の立ち回りに痺れを切らした妓夫太郎は、最大威力の血鬼術を解放。破壊の嵐を巻き起こした。
「尾崎さん!!」
「ぐっ、う…! 私の、ことは…!! 気にしないで…!!」
真菰はこれさえも上手く潜り抜けたようだったが、尾崎は違う。技での相殺を試みたものの僅かに威力が足りずに押し切られ、浅くない切り傷を負ってしまった。
────更に。
「!? あ、がぁぁっ…!!?」
「お、尾崎さん!!?」
「やっと一人…仕留めたなぁあ。俺の血鎌には猛毒が入ってるんだ。そいつはもうお終いだぜ…ひひっ」
「…っ!!!」
妓夫太郎の血液には、極めて解毒が困難な猛毒が含まれている。並の人間ならば、十秒と持たずに命を落とす代物だ。
最早彼女の生存は、絶望的だった。
『────必ず、帰って来るのだぞ』
「……………ガルル…」
「…あぁん? 何で立つんだああ?」
「……悪い、けど…お前なんかに、殺されてやれないのよ…!」
「ひひひっ。ガタガタじゃねぇか、なああ! 最期くらい寝てろよなああ」
数瞬前までは頗る元気だった肉体に鞭を打ち、尾崎は気力を振り絞って立ち上がる。約束を違えない、今はただそれだけのために。
「尾崎、さん」
「だい、じょ、うぶ。心配、しないで。こんなの、へっちゃらよ」
「…っ! わかりました……必ず、コイツを倒しましょう」
「……ええ」
「よく言った」
────夜の闇に、派手な男の影が躍る。
「ッ!!! あぶねぇなああ!! お前…柱だなあぁ!?」
「そういうテメェは上弦の陸…後ろの雑魚とは違う……俺が探してたのは、派手に間違いなくテメェの方だぜ」
「お兄ちゃああん!! また、またあああ!!!」
「…アイツは本当にだめだなぁ……本当になああ」
宇髄天元が、漸く上弦との戦いに参戦した。
「宇髄、様…」
「尾崎。やれるか」
「やり、ます。それと…後ろの鬼は、まだ死んでいません」
「何?」
「頸を斬っても死ななかったそうです。恐らくは、何か条件が」
「…ははーん。成程な……派手にピンときたぜ。とにかく行くぞ、コイツの頸をド派手にぶった斬ってやる」
同時に飛び出すのは、宇髄と真菰。今吉原にいる人間で最速の二人が、妓夫太郎の頸を狙う。
「威勢ばっかり良くてもなああ…実力が伴ってなきゃいけねぇぜ? 『血鬼術 円斬旋回────』」
「『咢の呼吸 地ノ型 狼烏の趾』!!!」
「!!!」
「(撃たせない!! 二人がコイツの頸を斬るまで!! もうコイツには…何もさせない!!)」
二人を迎撃しようとした妓夫太郎だったが、尾崎の守りを捨てた猛攻に思わず頸を庇ってしまう。鬼気迫る彼女の様子は、上弦をも怯ませた。
「(何だこの女…!! 死にかけてる癖しやがって…!! いや、だからこそなのかああ…手前の命はもう惜しくねえってかぁ…!?)」
妓夫太郎は、それを決死の行動だと判じた。
だが、違う。
「まずお前に死んでもらうかああ…」
「そいつは派手に呑気だな!!」
「『拾ノ型 生生流転』」
「お前らが居ることも端から頭に────」
「『地ノ型
「は…?」
彼が宇髄と真菰を躱して尾崎を仕留めようとした瞬間、明後日の方向に彼女が飛び出す。突然の奇行に気が狂ったのかと思った妓夫太郎だったが……
「(!!! 軌道が急に変わって────!!!)」
「甘いわ」
「なぁ…!!?」
跳ね返るような刃の軌道に面食らい、それでも何とか弾き返す。ところが、またしても急激に慣性が変化した刀は、遂に妓夫太郎の肩口を割り裂いた。
「離れて!!」
「!?」
更に、屋根の上からまたしても援軍が現れる。宇髄の妻、雛鶴だ。絡繰装置を利用して、無数のクナイを妓夫太郎に放つ。
「真菰、ちゃ…!」
「大丈夫です! コイツはここで!!」
「(────良くねぇなぁ…!! 無意味な攻撃じゃねぇ!! 確実に何かある、が…!!)」
事ここに至って無意味なことをする筈がないと、妓夫太郎はクナイを防御したいと考えた。しかし、尾崎以外が離れない。宇髄は巻き込まれることを承知の上で、真菰は全て躱し切る自信の上で彼に突っ込んでいく。
「『血鬼術 跋弧跳────』」
「『拾ノ型 生生────』…えっ?」
再び腕を斬り落とそうとした真菰。だが、妓夫太郎は血鬼術を中断した。
「なんてなああ!! 二つに一つなら…お前を殺すのが先だぜ…!!」
「うぐっ!?」
「鱗滝!!!」
クナイを迎え撃つべく振り上げた腕を、真菰に向かって振り下ろす。意表を突かれた真菰はこれを躱せず、袈裟斬りに傷を負ってしまう。
猛毒が、彼女の身体にも回り始めた。
「宇髄さん゛!!! 私の゛ことは気にせずに!!!」
「(済まん!! 必ずお前に報いる!!!)」
「(クナイの方は…間に合わねぇか…!!)」
直後、クナイの雨が降り注ぎ…宇髄と妓夫太郎の肉体は、針山もかくやといった様相を呈していた。
そして。
「(!! 体、が…!! やはり何か塗られていた!! 拙い……!!)」
「派手にくたばれえええええッ!!!」
宇髄の独特な構造をした刀が、妓夫太郎の頸を捉えた。
聞こえてくるのは、金属が擦れるような異音。
「(ふざけんじゃねえ 硬すぎだろくそったれが)」
「ぐ、ぎいぃああ……!!!」
音柱全力の一撃は、それでも妓夫太郎の頸半ばで止まっている。斬り落とすには、遠すぎる。
「け、け…『血鬼術────』!!」
「(やべえ…!! もう毒を分解して…!!)」
無数のクナイの毒も、分解されてしまった。このままでは…全てが水泡に帰す。
「『咢の呼吸』!!!」
「!?」
もう一振りの刀が、妓夫太郎に振るわれる。
「(馬鹿な もう死んでたっておかしくねぇぞ……────!! こ、この女!!)」
尾崎の脇腹には、クナイが突き刺さっていた。
「(藤の花の毒が塗られていることを、見抜いたのか!!! 俺の毒をクナイで弱めてやがる!!!)」
「『地ノ型』!!!」
朦朧とする意識を繋ぎ止め、放つは今出せる最高の一撃。
月下に雷鳴が轟く。
「…ごめ、なさ」
「(…だめだ 足りてねぇ)」
妓夫太郎の頸に斬れ込みを入れ、尾崎の刀は折れた。そのまま彼女自身も、気絶する。
まだ、斬れない。
「『円斬旋回────』」
「ご、ぼっ……じ、『拾ノ型』…!」
二人でも、届かない。
「(────速い 先刻までより 更に)」
「(そうか…!! 鱗滝、テメェ……!!! 地味に派手なことやってんじゃねえよ!!!)」
では、三人ならば。
────真菰は、この場に駆けつけてからというもの、今までずっとあることをしていた。
或いはそれは、炭治郎のヒノカミ神楽の真髄にも通ずる技術。
水の呼吸の今代最高の使い手は、義勇だ。
だが、純粋な威力という点を見れば錆兎に軍配が挙がる。
すると…真菰はどうか。
力が無い、速さだけが取り柄だと自身を評価する彼女が取った方法は一つ。
力は技で補う。
水の呼吸には、出し続けることで威力を増す技が存在する。
「生生流転」。
真菰はこの瞬間まで、規模の大小問わず刀を回転させ続けていた。常に遠心力を掛け続け、威力を高め続けていた。
高度な技術を必要とするこの戦い方を、持ち前の素早さを活かして舞うようにしながら続ける。
それこそが、真菰の唯一無二の強み。
彼女だけが辿り着いた、もう一つの水の呼吸の極致。
────妓夫太郎の首が、宙を舞う。
「(嘘だろ …いや、問題ねぇ 妹が────)」
────また。
「『壱ノ型 霹靂一閃・神速』」
「お……お兄ちゃん!!! 助けて!!! 頸斬られちゃう!!!」
炭治郎も、既に一人では無かった。
「『ヒノカミ神楽 火車』!!」
「『陸ノ牙 乱杭咬み』!!」
鬼の兄妹の頸が、隣り合わせに転がった。
【狩人コソコソ噂話】
・「地ノ型 追這連漣」
「水蛇竜」ガララアジャラ亜種から着想を得た技。最も賢い竜であるとその名を挙げる者も多いかの竜は、己の甲殻を利用して変幻自在に水弾を操る。熟練の狩人ですらその狙いを完全に看破することは難しく、一泡吹かされたという者が後を絶たなかった。次々と角度を変える斬撃に初見で対応することのできる鬼は居ない。
・「地ノ型 蒼霆」
「雷狼竜」ジンオウガから着想を得た技。月下に吼える無双の狩人、迸る稲妻は縄張りの証。死地に迷い込んだ哀れな獲物は、その姿を見るまでもなく己の運命を悟るだろう。激しく、眩く、鮮烈かつ熾烈に鬼へと斬り込む。技を目の当たりにした鬼は、当事者であろうと傍観者であろうと生き永らえることを諦める。それ程までに、ただただ驚異的。
【大正コソコソ噂話】
・炭治郎は堕姫との戦いで水の呼吸とヒノカミ神楽の合わせ技を習得しました。その他細かい成長なども多分原作通り進んでいるんじゃないでしょうか()
・「水の呼吸 拾ノ型 生生流転・輪廻環」
完全なる創作。手鬼による真菰評を鑑みれば、生きていたとして強くなるならこういう方面だったのではないかと思ったのでこうなった。使い続けた生生流転をそこで解放し、超威力の一撃を放つ。平たく言えばめっちゃ強い生生流転。