時世を廻りて   作:eNueMu

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限りなく極みに迫りし者

 

 滲渼は、無惨襲撃の直前に抗竜膏を刀に塗っていた。そのため、まずここで取るべき行動は…

 

 

 「(異常硬化部位の確認!! 抗竜膏には、抗竜石のような副次効果は存在しない!! ただ狂竜の力を抑制することしか出来ない!! だが…それで、十分だ!!)」

 

 「『破壊殺・乱式』!!」

 「!」

 

 

 大太刀を構えた滲渼に、猗窩座はまたしても先制して攻撃を仕掛ける。────闘気の先読みを補助する『破壊殺・羅針』の発動を、無しにして。

 

 

 「()()()!! 視えるぞ、滲渼!! お前の動揺が、戦慄が!! 手に取るようにわかるぞ!!」

 「────其方、よもや……()()()()()()()のか!!!」

 

 

 己以外に「透き通る世界」へと踏み入った者を目にしたのは、これが初めてのこと。滲渼は驚きつつも、気を取り直して刀を振るう。

 

 

 「瞢爬は何処へ行った!? 姿が見えぬようだが!! 『咢の呼吸 天ノ型 空燃る火群』!!」

 「『破壊殺・脚式 流閃群光』!! 安心しろ、奴なら勝手に暴れて一人で消えたぞ!! 俺たちの戦いを邪魔する者は居ない!!」

 

 

 猗窩座の乱れ打つ蹴りを、滲渼の刀が掠める。超高速の攻撃の応酬、その最中に散るのは紫色の火花。

 

 

 「(足・脛・腿は駄目か!!!)」

 「素晴らしい!!! あの時よりも、更に磨きがかかっている!! 咢! 唯一無二の技の数々!! 鬱憤を晴らすつもりだったが…どうにも、楽しくなってきてしまったな!!!」

 「『極ノ型 夢幻(むげん)(かむ)()け』!!」

 「『破壊殺 鬼芯八重芯』!!」

 

 

 続いて、腕と刀が接触。浅く滑った滲渼の刀は、猗窩座の二の腕を斬り裂いた。更に引き際に胴を突くと、これも鋒が肉に沈む。

 

 

 「(二の腕と、胴!!!)」

 「良い技だ!! 美しさすら感じるぞ!! 『破壊殺・砕式 万葉閃柳』!!」

 「!! …ち……! 『天ノ型 狼烏の趾』!!」

 

 

 猗窩座の足場を攻める技によって、僅かに体勢を崩した滲渼。その隙を狙う猗窩座に対し、攻めを以て応える。

 

 

 「恐ろしく鋭い!! そして速い!! 長物は隙も大きくなり易いものだが…お前に限ってはそうとも言えんらしい!!」

 「(頭と胸にも通らないか…!!)」

 

 

 しかしながら、すれ違いざまに斬りつけた部位も刃を通さない。これで残すは頸のみとなったが…

 

 

 「(極限状態へと移行した故なのか……猗窩座の能力が格段に上昇している!! 今の奴の力は────明らかに鬼舞辻無惨よりも上だ!!!)」

 

 

 その頸が、狙えない。猗窩座はかつて滲渼と無限列車の側で相見えた当時よりも、遥かに強くなっていた。無惨と一対一で戦った滲渼をして…彼より強いと言わしめる程に。

 

 こうなると、ただ頸を斬るというだけでも容易ではない。滲渼は一先ず、頸の切断よりも極限状態の沈静化を優先することにした。

 

 

 「『破壊殺・脚式 飛遊星千輪』!!」

 「『極ノ型 (くら)水脈(みお)』!!」

 「(速い…!! 何という反応速度だ!! 剣術の腕も尋常ではない!! 常に刀をへし折るつもりで攻撃しているというのに…未だ刃毀れ一つさせられんとは!!)」

 

 

 一方の猗窩座も、舌を巻く。目の前の鬼狩りは、心技体全てが過去に類を見ない程に練り上げられている。人の身でありながら…「至高の領域」に、あっさりと踏み入っていた。

 

 

 「ふふふっ…!! そうだ、お前には訊いていなかったな!! どうだ滲渼!? 鬼になるつもりは無いか!? どの道鬼狩りは今宵滅びる!! だが鬼になれば、お前の命は助かるだろう!! それだけではない…! お前程の強者であるならば、間違いなく最強の鬼になれる!! こちらへ来い滲渼!! 悠久の命を滾らせて…俺と永遠に戦い続けよう!!」

 「…その誘いは!! 赤子の私にすべきであったな!! 答えは断じて否だ!!」

 「そうか…!! 残念だ!! ここでお前を、殺さねばならないのがな!!」

 

 

 猗窩座は、滲渼を鬼にしたくなった。だがやはり、彼女はそれを拒む。弱者は鬼にしてくれと命乞いをするのに、強者は人であることに命を懸ける。それが、猗窩座が鬼狩りとの永い戦いの中で学んだことだった。

 

 

 「(強い者は決して俺の誘いに頷かない。何故なんだ? 何故俺が認めた者に限って、鬼になることを厭うのだ? …きっと滲渼に訊いた所で、俺の納得できる答えが返ってくることは無いのだろう)」

 

 「『破壊殺・空式』!!」

 「(────! 空気の弾丸か!!)『極ノ型 風翔け』!!」

 「これも見切るか! 当時の俺の空式ですら、杏寿郎は全てをあしらうことはできなかった!! お前は選ばれた人間の中でも、とりわけ優れている!! 神仏の寵愛を受けた人間だ!!」

 「…」

 

 

 空式を繰り出したことにより、猗窩座と滲渼の間には距離が生まれた。両者はそこで、一旦動きを止める。

 

 

 「…父上からも、同じことを言われた。私は、神の愛を一身に受けてこの世に産まれたのだと」

 「不満があるのか? 誇れ。お前は誰の目から見ても尋常ならざる存在だ。俺はあの時よりも強くなった…それでも、お前は未だ無傷だ。本当に人間なのかと疑わしくなる」

 「……私が強いというのは、確かに事実なのだろう。だが、神に愛されているなどということは無い。若しそうであるならば…『瞢爬』が現れる事は、無かった筈だ」

 「…何?」

 「此の命は、私に任ぜられた責務を果たす為のものなのだ。其れは鬼の根絶であり、鬼舞辻無惨の打倒であり…瞢爬の討伐。全てを成すために、私は今一度歩むことを許されたのやもしれぬ」

 「……まるで意味がわからん。やけに瞢爬に拘るではないか。奴など大方太陽で焼け死んでいるぞ」

 「否。奴は必ず、生きて私の前に現れる。────少し、話が過ぎたか」

 「…ふん、まあいい。お前と戦えるなら、何であろうと構うまい!!」

 

 

 話は終わり、二人の距離が再び縮まる。猗窩座の拳が滲渼を襲い、その隙間を縫う斬撃が猗窩座を襲う。滲渼は打撃の雨を全て紙一重で躱したが、猗窩座は斬撃の嵐に腕を斬り飛ばされた。

 

 

 「『破壊殺・脚式 冠先割』!!」

 「『極ノ型 黒創岩潰(こくそうがんかい)(しょう)』!!」

 「ぐぉ…!!?」

 

 

 即座に反転して下から蹴り上げ、滲渼の顎を狙う。だが、脚が届く前に凄まじい衝撃が猗窩座の背を襲い、胴の半ばが千切れ飛ぶ。

 

 

 「(信じ難い絶技だ…!! 他の人間が刀を振るったとて、こうはならない!! 同じ人間でもこれ程威力に差があるものなのか!!)」

 「『地ノ型 迅』!!」

 「甘い!!」

 

 

 猗窩座は腕を再生させ、滲渼の追撃を辛うじて逃れる。さらに千切れた下半身で、滲渼の背後から奇襲を仕掛けた。

 

 

 「!!? ぐっ…!!」

 「反応が遅れたな!! 負傷したのはいつぶりだ、滲渼!? 『破壊殺・乱式』!!」

 「ッ! 『天ノ型 氾がる銀鱗』!!」

 

 

 遂に、滲渼が傷を負った。猗窩座の頸を狙う好機であったがために、ほんの僅かに意識の分散を怠ったのだ。ひとりでに動いた猗窩座の脚に蹴り飛ばされ、壁面に叩きつけられる。上手く衝撃を逃していたようだが、蹴られた背中は痛みを訴えていた。

 

 続く猗窩座の猛攻をすんでの所で凌ぎ切り、再び攻勢に出る。

 

 

 「『極ノ型 蛟霞(みずちのかすみ)弥都波能売(みづはのめ)』」

 「! …ほう。面白い技だな……だが、俺の好みではない。『破壊殺・終式 青銀乱残光』!!」

 

 

 滲渼の姿が一瞬にして掻き消える。霧のように彼女の在処が薄く散り、闘気すらも辿ることができない。猗窩座の目には少々姑息な技に映ったらしく、全方位への乱打を放つことで無理矢理滲渼を炙り出した。

 

 

 「(────やはり頸か!!!)」

 

 

 技を中断し、再び姿を現した滲渼。後方から猗窩座の頸に刃を振るったが、猗窩座はこれを間一髪で回避。彼の項を、大太刀の鋒が掠めた。

 

 

 「…ちっ…!!」

 「惜しかったな…だが、卑怯な手は俺には通用しない。正々堂々、正面から来るがいい。お前はそれができる人間だ」

 

 

 猗窩座は滲渼の舌打ちを、頸を断てなかったことが理由だと考えた。

 

 しかし…そうではない。

 

 

 

 

 

 「(紫色の火花…!!! 頸も異常硬化しているのか!!!)」

 

 

 

 

 

 猗窩座の肉体は極限状態への移行に伴い、胴と二の腕以外の全てが異常硬化を引き起こしていた。そもそも日輪刀による斬撃も効果が薄く、このままでは猗窩座を倒すことは不可能だ。

 

 

 「(やはり、極限状態を解除しなくては!!)」

 「行くぞ!! 『破壊殺・滅式』!!」

 「!! 『極ノ型 黒創岩潰衝』!!」

 

 

 壮絶な戦闘の余波は、既に無限城の一角を廃墟同然の状態へと変貌させている。長引けば、近くに居るかもしれない隊士たちを巻き込みかねない。

 

 

 「(とにかく手数を稼ぐ!!) 『天ノ型 千刃裂き』!!」

 「『破壊殺・乱式』!!」

 「『地ノ型 鎌刈り・奈落』!!」

 「はははっ!! はははははっ!!!」

 

 

 何度も拳と刃がすれ違い、それぞれの攻撃が閃く。

 

 

 「『破壊殺・脚式 飛遊星千輪』!!」

 「『地ノ型 轟咆』!! 『天ノ型 海中の雷鳴』!!」

 

 

 敢えて二つの技で受けることで、手数を増やす滲渼。急激に距離を詰めて来た猗窩座に、強烈な反撃を見舞う。

 

 

 「『嵐ノ型 殃禍啖い』!!」

 「『破壊殺・脚式 流閃群光』!! 『破壊殺・空式』!!」

 

 

 そして、迎撃。猗窩座はここに来て…必殺の瞬間を、狙っていた。

 

 

 「『破壊殺・砕式 万葉閃柳』!!」

 「『地ノ型 蟇返し』!!」

 「(跳んだな、滲渼!!)」

 

 

 彼が予期していた通り…滲渼は迅速に反撃へ移ろうと、跳び上がる形で猗窩座の技を躱した。だが、空中では大きく動きが制限される。

 

 

 「これで幕引きだ!! 『破壊殺・終式 青銀乱残光』!!!」

 「…だろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────『地ノ型 鏡花水月』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滲渼の姿がぶれ、猗窩座へと肉薄する。彼女が狙ったのは、終式の誘発。

 

 

 「(この技は隙が大きい!! 立ち直るまでに最大限────)」

 

 

 

 「…などと、思っているか? 滲渼」

 「────」

 

 

 

 

 

 ────だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『破壊殺・(ごく)式』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誘われたのは、滲渼の方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『残輪紅光(ざんりんべにこう)()』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 【狩人コソコソ噂話】
・「極ノ型 夢幻の雷解け」
「幻獣」キリンから着想を得た技。遭遇することすら奇跡ともされる幻の存在。その姿は何よりも気高く、荘厳。不躾にもかの領域に踏み入った空者には、神の裁きが下される。閃く稲妻が影となる程の速度で振り抜かれる刃はこの上なく美麗だが、その目に捉えることのできる者は限られる。

・「極ノ型 溟き水脈」
「溟龍」ネロミェールから着想を得た技。「激流のぬし」なる異称に偽り無し。国をも沈めると謳われる絶対的な龍が近付けば、人は海鳴りを耳にするのだという。溟い波濤を前に、赦されるのはただ祈ることのみ。せせらぎのように穏やかな太刀筋は、その実目を瞠る程に速く鋭い。風雅に気を緩めたならば、鬼の頸は宙を舞うことになる。

・「極ノ型 黒創岩潰衝」
「滅尽龍」ネルギガンテから着想を得た技。数多ある災厄がそれぞれの領分を弁えぬなら、天を脅かす牙が目を覚ます。万象を圧倒する比類なき暴力は、天を墜とし、海を涸らし、大地をすり潰すだろう。致命の絶技に抗う術は、何一つ無い。どこまでも鬼の命を狙い、いずれは喉元に喰らい付く。

・「極ノ型 蛟霞・弥都波能売」
「霞龍」オオナズチから着想を得た技。霧の立ち籠めた一帯には、決して足を運んではならない。立ち寄ったが最後、二度と戻らぬ神隠しに遭うだろう。人々はそれが、龍の仕業であると長らく気付くことができなかった。時には豊作を祈り、生贄を差し出すこともあったといわれている。技の使い手の痕跡は立ち所に消えてなくなり、後には霧のような曖昧な気配が漂う。鬼は惑い、逸り、忍び寄る死の足音を聞き洩らす。

 【大正コソコソ噂話】
・「破壊殺・極式 残輪紅光露」
完全なる創作。猗窩座が滲渼と戦うために強くなって編み出した技。渾身の蹴りで周囲一帯を薙ぎ払う、最大規模の破壊力を誇る文字通りの必殺技。長めの「溜め」が必要となるため、その隙を補完する立ち回りが重要となる。仮に人間が喰らえば、跡形も残らない。
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