時世を廻りて   作:eNueMu

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 少々短めです。前話の切り所が難しかった()

※一人称視点あり


例え児戯に等しくとも

 

 「『血鬼術 鏡降し』!!『飛び血鎌』『咢の呼吸 天ノ型 狼烏の趾』!!!」

 

 

 自身の血液を斬撃として放出しながら、見たばかりの滲渼の技を並行して繰り出す児猴。しかし、その全てを滲渼に弾かれ、躱される。

 

 

 「化け物が…!!上弦の血鬼術だぞ!!?」

 「そうか。しかし、上弦になるというのなら……そう頼るような口振りは避けるべきではないか?」

 「!!チィッ……!!!そんなこと、言われるまでもねえんだよォッ!!!」

 

 

 

 

 

 児猴はその後も多種多様な血鬼術を滲渼に差し向けた…が、やはり一切は微塵に刻まれて消え、そよ風を厭うように跳ね除けられ、既知であるかのように看破された。

 

 

 「うおおおおッ!!『八重帯斬り』!!!」

 「(ぬる)い」

 

 

 数え切れない程人を喰い、これ以上無いと思うまで力を付けた。

 

 

 『アンタ…不細工だし、喰べるのは止しておくわ。感謝しなさい』

 

 

 十二鬼月としても貪欲に高みを目指し続けていた。

 

 

 『貴様ァ!!我らの……鬼殺隊の誇りを侮辱するなァァア!!!』

 

 

 呼吸さえも己がものとし、最早敵など居ない筈だった。

 

 

 「(こんなこと……あっていい筈がねえ!!此処からなんだ!!俺は、こいつの『呼吸』を使って十二鬼月に返り咲く!!人間如きに敗けるなんざ、万に一つも────)」

 

 

 

 「『咢の呼吸 天ノ型 螫影(せきえい)』」

 

 

 

 意識の間隙を突く、鋭い一閃。手当たり次第にばら撒いた血鬼術ごと、切り裂かれる。頸を守ることが出来たのは、奇跡に近かった。

 

 

 「ぶ、ぐふっ……!!また、新しい技を…!!」

 「…此れ迄、だな。如何やら血鬼術というのは、使用にも限度があるらしい。其方自身の動きが、明らかに鈍りつつある」

 

 

 滲渼の足音が近付く。児猴には、それが己の死期の宣告であるように感じられた。

 

 

 「(駄目だ まだ 終われねえ)」

 「眠れ」

 

 

 

 

 

 つまるところ………それは最後の足掻きに過ぎなかった。それでも、児猴は全霊をその瞬間に投じたのだ。

 

 

 「ゔぐお゛お゛お゛っ……!!!」

 「!?」

 

 「(下弦には…しばしば無惨様のお怒りを買って、惨たらしく喰い殺される奴らが出てくる。目にも留まらぬ速度で変形し、愚昧な鬼を貪るあの方の肉体────────それを、真似た…!!無惨様の一部を…俺は今、この身に宿している!!!)」

 

 

 

 

 

 鬼の首魁の変貌を、血鬼術で再現する。その試みは、半分は成功したと言っても良かった。だが……それを振るうだけの余力が、児猴には残っていなかった。

 

 

 「ぐううううぅぅ…!!!ゔごけえ゛え゛ぇぇッ…!!!」

 「………児猴。それ以上は、止せ。自壊が始まっているぞ」

 「はぁっ…!!!はぁっ…!!!アンタに、勝たなきゃ…同じことだ………!!!」

 

 

 壮絶なまでの児猴の執念。それを目の当たりにし、滲渼は少し思い直して…距離を取った。

 

 

 「児猴……其方の覚悟は、伝わった。ならば私も、今出せる全霊をぶつけるとしよう。それが、私が悪鬼に表する…最大限の敬意だ」

 

 

 腰を落とし、肩の高さに刀を構える。児猴の目にも、彼女の全てが研ぎ澄まされていくのが理解出来た。

 

 

 

 

 

 「(………ああ、凄えな。間違いなく、凄え技だ。ちゃんと、見て、俺のものに────)」

 

 

 

 

 

 「『咢の呼吸 (らん)ノ型 殃禍(おうか)(ぐら)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 『母様!見ていて下さい、犬の物真似で御座います!』

 

 

 何だ、これは?

 

 記憶か?誰の?

 

 

 『うふふ…おまえは物真似が上手ね、本当に。猿楽の名手になれるやもしれません』

 

 

 思い出せない……

 

 ────「思い出せない」…?

 

 

 『私めを、大名様の側仕えに!?この上ない光栄で御座いまする!!』

 『うむ。風の噂によれば、真似事に長けておるとか。折角ぞ、余興のつもりで儂の物真似など如何だ?上手くできればその分褒美も弾もう』

 

 

 いや、違う。莫迦が、舞い上がりやがって……

 

 

 『ど、どうして!?これは一体何だと言うのですか!!』

 『喧しい、吠えるでない。お主など、儂の影武者として置いていたに過ぎぬわ。いざとなれば身代わりに往ね、それが恩返しというものぞ』

 

 

 

 『生き永らえたくはないか?貴様を捨てた主に、報いを受けさせてやりたいとは思わないか?』

 『……私は……俺、は……………』

 

 

 そうか。

 

 

 『駄目よ、お願い!!!正気に戻って!!!!!』

 

 

 これは、俺だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……………母様……愚かな俺を、許してくれますか」

 「勿論……こうして戻って来てくれただけで、十分です」

 

 

 ああ………付いてこなくて良いのに。

 

 なあ、仏様。母様の分の地獄は……猿真似の見せ掛けという訳には、いかないだろうか。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「………願わくば、来世にて幸巡らんことを」

 

 

 涙を流しながら、児猴の頭が散っていく。夜の帳が降りた村で、滲渼の初任務は無事成功と相成った。そうして一息ついた滲渼の下に、燁が戻って来る。

 

 

 「ヨウ。イキナリトンダ大物ガ引ッカカッタナ」

 「うむ……全くだ。ところで、報告は済んだのか?」

 「中継ギ役ガ居ルカラナ、後ハソイツラノ仕事ダ。ホレ、次行クゾ」

 「何?未だ就眠の一つも取っておらぬぞ」

 「夜働イテ、昼ニ寝ル!コレガ優秀ナ隊士ノ常識ダ!カァーッ!」

 「………まあ、構うまい…行き先は何処だ?」

 

 

 暗闇を駆け、鬼を狩る。滲渼の隊士としての活動は、まだまだ始まったばかりだ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 鬼殺隊の本丸、産屋敷邸にて。現当主である産屋敷耀哉は、早朝に届いた鎹鴉からの報告に、穏やかな笑みを僅かに深くした。

 

 

 「…そうか。初任務で、元とはいえ十二鬼月を斃すとはね」

 

 

 徐に青空を見上げ…想いを馳せるは、同じ空を戴く先祖代々の大敵だ。

 

 

 「少し、風向きが変わったようだよ……鬼舞辻無惨」

 

 

 菩薩を思わせる十五の青年は、今も虎視眈々とその刻を待っている。





 【狩人コソコソ噂話】
   〜咢ノ息吹〜
・「嵐ノ型」
天地を揺るがす、驚嘆すべき自然の権化。時に災厄に比肩するとも謳われた命の狂騒は、相対する者に直感的な滅びを予期させる。

・「天ノ型 螫影」
「影蜘蛛」ネルスキュラから着想を得た技。狡猾にして、冷酷。一意専心に獲物を追い詰める捕食者は、その仕上げさえも無情そのもの。鬼が生物である限り、被食の宿命から逃れることはできない。

・「嵐ノ型 殃禍啖い」
「恐暴竜」イビルジョーから着想を得た技。弱者も強者も天災も、全ては等しく肚の中。鋭く斬りつける第一の刃を起点とし、音よりも速く返される第二の刃が貪欲に鬼の頸を狙う。その様は、正しく肉を喰らう獣。

 【明治コソコソ噂話】
・児猴はそこそこ強いです。ここまでに出ている咢の呼吸の技を模倣した状態であれば、半天狗ぐらいまでならどうにかなったかもしれません。
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