チュンチュンと窓の外からする世界の闇などとは無縁の呑気な鳥の鳴き声に重い瞼が開く。
夏宮芹の朝は一般人より遅めの午前10時にスタートした
昨日は夜遅くに仕事を終え、深夜営業の焼き肉チェーン店でたらふく食事をした後に帰路についた。
「よく寝た~。」
決して広くは無い私室のカーテンを開け、日の光を浴びながら部屋を見渡す。
まあ自営業なので決まった時間に縛られ無い強みを全力で行使しながらも軽く身支度を整える。
此処は彼女達が拠点とする雑居ビルの三階にある彼女の私室。
一階には喫茶店が入っており、二階を表稼業の探偵事務所として使っている。
元々は相棒の飛鳥の部屋であったが三年前に芹が住む事になった時に彼が与えた物だった。
「にしても、大分ごちゃごちゃして来たな。」
ベッド脇の机の上には昨日使ったヘカートが整備の為置かれている。
更に壁には弾は抜いてあれども、ワルサーやコルトパイソン、果てには部屋の隅に置かれたロケットランチャーまで、武器商人の様なラインナップが並ぶ。
「今度飛鳥に片付け手伝ってもらおう。」
絶対に嫌そうな顔をする相棒に何をあげたら手伝ってもらえるか思案しながら二階に降りて行く。
二階の事務所には神藤探偵事務所と書かれた掛札が吊るされている。
合鍵を使い中に入ると、来客用のソファーには男が1人眠っていた。
此処の所長、神藤飛鳥である。
労働は1日1時間と書かれたシャツのせいで威厳も何も無いが一応所長である。
芹はとりあえず飛鳥を起こさない様に事務机に座りパソコンを開く。
秘匿のアドレスに昨日の依頼人に仕事の完了と詳細を添付した報告書を作成、そして情報漏洩の防止の為にメールを1度開くと2度と読めなくするウイルスを添えて送信する。
それが終わると時刻は既に昼に差し掛かっていた。
流石にそろそろ相棒を叩き起こそうと席を立つと同時に台の上に置かれた飛鳥の携帯が鳴る。
慌てて起きた飛鳥はソファーから転げ落ち、机の角に頭をぶつけてのたうち回っている。
「イテェ!」
「何やってるのよ~。」
仕方なく代わりに携帯に出る芹。
「はいもしもし?」
すると電話の向こうから野太い声が聞こえて来た。
「あらおはよ!今回はお疲れ様~。さっきメールは確認したわ~!クライアントも大満足よ~!」
やけにハイテンションなオカマ口調の喋り方に芹は電話に出た事を若干後悔しながら答える。
「お、おはようございます田中さん」
「ノンノン!そんな昔の名前はもう捨てたわ~、今の私はミスフローラルよ~!」
多分電話の向こうで変なポーズ決めてる彼、イヤ心は乙女の彼女?ミスフローラルこと田中剛三郎は芹がこの仕事を始めて以来の馴染みの深い仲介屋だった。
表の顔はカマバーのマスターでモヒカン頭の筋骨隆々の大男、でもフローラルの名に恥じぬ程良い匂いがするし、メイク等の美容に関しては、芹の師匠的存在である。
「はぁ…」
疲れた声に即座に田中が反応する。
「あら?疲れた声ねぇ、昨日の相手位ならウォーミングアップ位だと思ったんだけど…ハッ!昨晩のナニが激し過ぎてお疲れなのね~!ごめんなさい私ったら、でも気を付けてねナニをする時は避妊を忘れないでね~キャ~~!」
何か彼の脳内では私達はあられも無い姿なのだろうと長い付き合いから予想しつつ、会話を切る。
流石に飛鳥も痛みが取れたのか床から起き上がる。
「で、本題は何ですか?」
若干怒気を含んだ声に田中は本題を切り出す。
「あらヤダ私ったら本題を忘れてたわ、2人には迷子の仔猫探しを依頼したいのよ!」
それを聞いた2人の表情が変わる、これは田中の使う隠語であり、裏稼業の依頼の事だ。
「受けるかどうかは2人が決めて頂戴、一応お店の方に顔を出してくれると嬉しいけど」
それだけ言うと電話は切れた。
「仕方ない…行こっか?」
「だな、話だけでもな…」
2人は直ぐに準備を終え事務所を後にした