ドラゴンブラッド   作:カイン大佐

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とりあえず格闘技の描写の為にケンガンアシュラ全巻買って来た、皆も面白いから読んでね!


雷鳴の邪龍

その晩、芹の姿は都内にある小さな廃工場の入り口付近にあった。

 

対象が2人の為、飛鳥とは今回は別行動である。

 

キャミソールにローライズジーンズという春真っ盛りの時期にはいささか早すぎる格好だが、龍人の彼女には多少の寒さなど関係無い。

 

工場の入り口付近には見張りだろう、半グレ程度の男が2人入り口の前でキョロキョロしている。

 

(情報の通りかな、一般人のクセに良く調べたな、あの人)

 

事前にコンタクトを取った年上の情報屋を思い浮かべながら、そろそろ始めるかと入り口に近付く。

 

 

「すみませ~ん、久遠さんに此処に来るように言われたんですけど~。」

 

入り口前の2人が芹に近付く。

 

「お前は?」

 

香水臭い男が2人芹の身体を全身嘗め回す様に見る。

 

 

「久遠さんの後輩の林です、良いバイトが有るから紹介してやるって言われて来たんですけど。」

 

 

すると男達はああ、あれの事かと互いの顔を見合わせる。

しかし男達は少し考えた後おもむろに話を切り出す。

 

 

「お前も物好きだな、あんな危ないバイトに手を出すより、俺達と向こうで楽しい事しねぇか?金もたっぷり出すからよ!」

 

 

性欲を隠そうともしない男達の視線を無視しながら芹は演技とは言え満面の笑みで返す。

 

 

「えっ!良いんですか?私お金無くって困ってたんですよ~。」

 

猫なで声に気を良くした男達は芹の腕を掴んで人気の無い方へと連れて行く。

 

 

廃工場脇の元は社宅だったであろうボロい建物、その中へと先導された芹は再び猫なで声で聞く。

 

 

「ところでさっき話してた危ないバイトって何ですか?私何も聞かずに来てしまったので…」

 

不安そうな女に良い格好でもしようとしたのか片方の男が頭を掻きながら答えた。

 

 

「何でも最近仕入れた新しいヤクの実験らしくってな?適応する奴がいれば1人頭億の金を出すらしいんだ!頭イカれてるよな、失敗すれば死ぬのによ。」

 

 

芹の表情が驚愕に変わる、そんなドラッグはこの世に1つだけ、ドラゴンブラッドだけだ。

と言う事は今工場の中で行われているのは

 

 

「人体実験…」

 

 

「でも大丈夫だろ、俺らと遊んでれば無事な訳だし、と言う事で早速!」

 

男達が空き部屋に芹を押し込もうとした時だった、バスッ、バスッと言う空気の抜ける様な音と共に男達の眉間に風穴が空いた。

手を離した一瞬の隙にカバンに忍ばせた魔改造済みのPSS拳銃を速射、男達を物言わぬ骸に変えた。

 

「悪いけど趣味じゃあ無いの!」

 

芹は慌てて工場の中が見える窓の側に近寄る、暗い工場の中だが問題は無い、龍人の中でも取り分け眼の良い彼女にとって多少の暗さは関係無い、視力、動態視力、視野、夜眼、彼女の眼はあらゆる環境に対応出来る。

 

 

(工場の中に男が6、女が4、1人は久遠か……壁の所に誰か居る…吊るされてる?実験に使われた人か!)

 

芹は当初のプランをかなぐり捨て、工場の窓を蹴破る為に駆け出した。

 

 

 

 

 

彼女、西野咲は端的に言って運の悪い女だった、都会に憧れ友人2人と観光に来た田舎育ちの高校生、田舎には無い大きなビルに圧倒されながら、観光に花を咲かせていた。

すると少しガラの悪そうな男性が話し掛けて来た。

彼は久遠を名乗り、芸能事務所のスカウトだと言い咲達3人をべた褒めした後、事務所に案内された。

そして事務員さんに出されたコーヒーを飲んだ後、彼女の意識は途切れた。

 

 

気がつけば埃臭い廃工場の中で鎖で腕を拘束され吊るされていた。

 

3人が起きたのを確認した久遠はおもむろに僅かに紅い液体の入った注射器を持ってニヤニヤと近寄って来た。

 

一番最初に注射されたのは活発な幼なじみだった。

彼女の変化は一瞬だった、声を出す暇も無く全身の筋肉が異様に膨張を始め、その圧力で自身の骨や内臓を潰しながら巨大化し、最終的に出来損ないの水風船の様になってしまった。

 

 

それを見たもう1人は泣きじゃくりながら暴れたものの数人に取り抑えられ注射器を射たれた。

此方の変化も一瞬だった、全身の穴と言う穴から血液が吹き出し、あっと言う間に木乃伊の様になってしまった。

 

 

そんな2人を見て嗤う久遠達に咲は最後の抵抗として涙を流しながら睨みつける。

 

「そんな睨むなって、お前は当たりかも知れねぇだろ?」

 

注射器が迫る、この世に神様が居るのならどうかこの人達に裁きが下りますようにと心の中で叫びながら咲は全てを諦めた。

 

その瞬間、ガシャンとガラスの砕ける音と共に裁きの女神が舞い降りた。

 

それは夕陽の様な長い髪に露出の高い服、手には1丁の銃を持った女、夏宮芹だった。

 

芹は一瞬で状況を判断すると、引き金を引いたのすら認識出来ない速撃ちで久遠の注射器を持つ腕に風穴を開けた。

 

 

「ギャアアア!お、お前!何者だ!俺にこんな事して!パハが黙って無いぞ!」

 

のたうつ久遠を無視し吊るされた咲の方に近付き鎖を的確に撃ち抜き、咲はそのままなす術無く落下する。

それを芹は片腕で受け止めて立たせると咲に1枚の紙を手渡す。

 

「あの窓から逃げて、十分離れたら此処に連絡して!必ず助けてくれるから!」

 

呆然とする咲を窓の方に有無を言わさず押しやる。

 

 

「逃がすか!」

 

当然他の半グレが逃がすまいと窓の方に向かうがその足を弾丸で止める

 

「ヒッ!」

 

咲はその間に窓から外に出た。

 

 

芹は残った半グレ達の顔を見渡し、全員が事件に関わった人物である事を確信する。

 

そんな芹の背後に久遠と数人が回り込み芹を取り囲む。

 

いかに相手が銃を持っていようと10倍近い人数で囲えば普通始まるのはただのリンチだ。

オマケに芹は7発しか無い弾丸の内4発は既に使っている。

リロードの暇を与えないつもりだろう。

 

「テメェ嘗めた真似してくれたなぁ!女に産まれた事後悔させてやる。やっちまえ!」

 

傷口を抑えた久遠が半グレ達に指示をとばす。

 

そんな状況でも芹は嗤う、嗤う。

 

無知蒙昧とはこの事とばかりに内心で嗤う。

 

弾が足りない程度で、数が10倍程度で半グレごときが九頭龍にかなうと思っている事が可笑しくて堪らない。

 

「良いわよ…一方的な暴力を見せてあげる。」

 

 

芹は顎の下、喉の辺りに爪を起てる。

 

「逆鱗…解放!」

 

芹の瞳孔が爬虫類の様に縦長に変わる、瞳は更に紅く爛々と輝き芹の周りに青白い何かが迸る。

 

 

その瞬間久遠は目映い光に眼を焼かれた、最早その眼は機能しない。工場の中屋根や壁までもが吹き飛ぶ程の威力、爆音に久遠の鼓膜は破れ何も聞こえない。

彼は運が良かった、唯一芹から距離をとっていたから光の直撃は避けられたのだ。

若しくは芹が狙ってそうしたのかも知れないがどうでも良い事であった。

 

彼女の周りから放出されたそれは、音の440倍の速度を持ち1億ボルトの電圧、そして1ギガジュールのエネルギーの塊、人はそれを雷と呼ぶ。

 

彼女に近付き過ぎた半グレ達は身体を内側から焼かれプスプスと煙をあげながら朽ちて行った。

 

芹は疲れた顔をしながら久遠に近付いて行く。

 

その時彼女の足下に何かが転がって来た。

 

それは先程久遠が落としたドラゴンブラッド入りの注射器だった。

 

芹はそれを拾いあげると全身に火傷を負いながらミミズの様に逃げようとする久遠を踏みつけて止めた。

 

 

「助。げ、で、死にだぐ…ない!」

 

 

必死の懇願をする久遠を見る芹の瞳は熱を持たない何処までも冷たい瞳をしていた。

 

 

「貴方が軽い気持ちで奪った命達も、死にたくなんかなかったはずよ。」

 

芹は久遠の首筋に深々と注射器を射し込んだ。

 

ドラゴンブラッドを射たれた久遠の身体は全身の骨が溶けた様に薄いスライムの様になってしまった。

 

芹は久遠達に興味を無くしたかの様に立ち去ろうとしたがその時助けた少女の横に吊るされていた他の被害者の遺体に目が行った。

 

醜く歪められオマケに自分の雷撃で爛れたそれにそっと手をあてた芹は心の中で被害者達に黙祷を捧げる。

 

(ごめんなさい、私がもっと速く動いていれば助けられたかもしれないのに。)

 

悔やみは尽きないがこうしている間にも爆音を聞き付けた近隣住人が集まって来ている、芹は壊れた壁から外に出ると夜の闇に消えて行った。

 

 

例えどれほど強い力が有っても救えるモノなど一握りなのかと涙を流しながら。

 

 

 

 

 

 




次回予告

逃がさない、どれだけ遠くに逃げようと必ず見つけ出してその喉笛を食いちぎる。
世界樹の根の如く我が牙は全てを穿つ。

次回 黒龍の牙
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