雨がしとしと降る東京の首都高、久遠の父親は息子の凄惨な現状など知るよしもなく首都高をお気に入りのアストンマーチンで法定速度を無視して走らせていた。
(しかし連中も良い買い物をしてくれたものだ!)
それは久遠の父が数年間から上客としている海外マフィアの事である。
彼らに警察の内部情報を売るだけで自分の年収の何倍の額の金と手付金にとこんな高級車までくれるのだ、警視の自分なら多少の無茶は効くし、金を出せば大抵の罪は揉み消しが効く。
かわいい息子のヤンチャの後始末位楽なものである。
気ままにハンドルを切るが、その時漸く彼は違和感に気づいた。
現在の時刻は土曜日の午後6時である、普通なら首都高は混み合いこれ程スムーズに進む事は不可能だろう。
(まあ此も私の運のなせる業か!)
傲慢に笑いながら彼は狩り場へと進んで行った、その先に黒龍が口を開けて待っているとも知らずに。
軽快に車を走らせているとあり得ない事が起きた。
コンコンと誰かが車の窓を叩いたのだ、何かが当たったのだろうと無視しようとすると、先程より強くゴンゴンと窓がノックされた。
驚いて外を見た久遠父はあり得ないモノを見た。
人だった、息子とそう年の変わらないであろう男が時速100キロ以上で走る車に並走しているのだ。
視線が交差した瞬間男は窓に思いきり拳を叩き込み窓ガラスを粉々にした上でハンドルを掴み車はそのまま壁にぶつかり車体を傷付けながら停車した。
挟まれたかと思われた男は無事な姿で前に立っていた。
割れた窓ガラスで頭を切ったのか血を滴しながら久遠父は怒りの形相で相手に怒鳴る。
「貴様!私を誰だと思っている、この車の価値も分からん餓鬼が!」
車の前に立つ男に対して唾を吐く
大切な車を傷付けられ、相手が車と並走していた事実はすっかり頭から抜け落ちていた。
それに対して男は嗤う。
「別に自分で買った物じゃあ無いんだ、傷んだ所であんたには損害は無いだろ?警視さん?」
蔑んだ様に自分を見て来る男に更に怒りが湧く。
「マフィアに情報を売って得た物に何の価値が有る?」
自分の所業がばれている事に焦りを覚え車を発進させようとした時だった。
ドゴン!!!
爆発に近い轟音と共に久遠父は天井に頭を打ち付けた。
訳も分からぬまま今度は一瞬の浮遊感と強烈な下への力を感じた瞬間、身体が潰れそうな衝撃が全身を襲う。
久遠父は自分が車ごと蹴り上げられたのだと理解すら出来なかっただろう。
エアバッグにより何とか肋を折った程度で済んだが、本当の地獄は此処からだった。
「まだ終わらねぇよ!」
ドゴン!ドゴン!ドゴン!
続け様に今度は横に3回まるでサッカーボールを蹴るかの様に超重量の高級車がぼろぼろになりながら首都高を転がる。
(このままじゃあ…殺される!)
歪に歪んだ高級車、エアバッグ等最早拘束具でしか無い
這い出る事も叶わず、歩み寄る男にカチカチと歯の噛み合わぬ音で恐怖を表現するだけの久遠父にその時希望の光が射した。
近づくパトカーのサイレン、久遠父は自分の悪運に感謝した。
ピタリと男の動きが止まった、そして直ぐに複数のパトカーが男の背後に止まる。
(やった、私は生き延びた!)
歪んで上下逆さになった車の窓から見たパトカーの中から高齢の男性が部下を連れて出てきた。
「待て飛鳥、そこまでだ。」
飛鳥と呼ばれた男は仕方ないとばかりに手を上げた。
「助けてくれ!そいつに殺されそうになったんだ!速く捕まえて、いや射殺してくれ!」
高齢の男性に強い口調で言えば、男性からは何故か冷たい瞳が返って来た。
「君は、誰に命令している…」
「そんなの、そこのお前に…」
そこで漸く気づく、男性の顔に明確な見覚えがあったからだ。
「警視庁…長官…」
そうこの男性こそが現警視庁長官神藤鷹文その人だった、当然階級など遥か上の相手に強く出れる筈もなく言葉は尻すぼみになる。
「それに飛鳥を止めたのは、何も君を生かす為では無い。」
「へっ?」
その顔に絶望が走る。
「息子を殺した糞虫の最期を見届ける為だよ…」
「そ、それは!」
久遠父は三年前に自分とマフィアの癒着を調査していた警察官を1人マフィアの手を借りて返り討ちにしていた。
よく見れば長官の後ろで待機する連中も、その警察官の部下達だった。
すると飛鳥と呼ばれた男が再び歩き出し、割れた窓ガラスから驚異的な力で久遠父を引き摺り出す。
「へぇ~、コイツが親父の追ってたゴミ野郎か…」
そこでこの男達の関係に気づく。
「まさかお前、あの神藤鴻一郎の息子!?私に復讐する為に!?」
しかし飛鳥の目には幾ばくかの怒りも無かった。
「いいや?此はあんたの息子が引き起こした事件の被害者からの依頼だ、俺の私情は含まねぇ。」
「ま、待ってくれ私にはまだ息子が…」
すると飛鳥は鼻で笑う。
「あんたの息子ならさっきうちの相棒が片付けたよ、地獄は寂しいらしいからな、あんたも案内してやるよ。」
飛鳥が久遠父を空中に放る。
「長官!貴様!殺人を見逃す気か!」
狂乱した叫びにも鷹文の目は動じない。
「腐敗を取り除く為なら私は悪魔とでも手を結ぶ!」
何か最期に叫ぼうとした久遠父の胴体に音を越えた回し蹴りが炸裂する。
全身の骨を砕き、大好きな車に突撃肉片となり絶命した
「……ワリイな爺ちゃん、後始末は任せるわ!」
「身内の不祥事にお前を駆り出したのだ、当然の対価だ。」
2人は逆の方へと進んで行く、2人の目指す未来の遠さに辟易しながら。
事務所に戻ると灯りが点いていた。
「終わったぞ~。」
中に入る、しかし芹からの返事が無い。
部屋を見渡せば奥のシャワーの灯りが点いていた。
ああまたかと長椅子に座り携帯を弄っているとシャワーからタオルで髪を拭いた芹が出てきた。
「あ…お帰り…」
何処か歯切れの悪い言葉に飛鳥はポンポンと長椅子の隣を叩く。
芹が座るのを確認すると、話を切り出す。
「何があった…」
芹の肩がビクッと跳ねる。
「な、何も無いよ…」
「目の腫れを隠してから嘘つけ馬鹿野郎!さっきまで泣いてたのバレバレなんだよ。」
それは芹の癖の様なものだった、仕事で何かあるとシャワー室で隠れて泣くのだ、それが自分ではどうしようも無い事だとしても責任感の強い芹は勝手に1人で抱えてしまうのだ。
「………今日の仕事で、またドラゴンブラッドの被害者が出たの……私がもう少し速く動いてたら、助けられたかもしれないのに…」
「この世界にたらればは無い、起きた事実は変わらない、だから1人で何でも背負うな。」
飛鳥はそう言うと芹に少しだけ背中を向けた。そこが世界でも数少ない芹の泣ける場所だった
すると芹はうつむきながらその背中に身体を当てた。
「うん…ごめん…でも少しだけこのままで」
背中から聞こえる嗚咽を聞きながら、飛鳥は明日芹の好きなスイーツでも買って来てやるかと、背中に感じる2つの膨らみに負けないよう別の事を考えながら夜はふけて行った。
プロローグ完
次回予告
街で頻発する複数の通り魔事件、複数の現場での同時発生に手の回らない双竜
その時頼もしい仲間が駆けつける
「お金貸して下さい」
本当に大丈夫か?これ。
次回、青龍出撃
次回からどんどん募集キャラを出して行きます