1人で背負うには重すぎる。2人なら? 作:ExistenceXY
第1話 1+1=?
現在より2年前
地球が揺れる感覚が手放した意識を覚醒させた。何故気を失ったのか、その原因はこの紅い瞳が見たものを脳がしっかり記憶している。
等間隔に並べられたカプセル。その数はひと目では計り知れない。中が空洞になっている物、液体で満たされた物、赤ん坊、小学生、俺と同い年ほどに成長した女の子がカプセルの中で浮いている。その並びが理科の教科書に載っているようなオタマジャクシの成長過程のようで気味が悪い。
その女の子らは全てが等しい。身長も同じ。顔のひとつひとつのパーツが同じ。指の長さも同じ。スリーサイズも同じ。爪の形も同じ。瞳の色も同じ。
そして、俺の同級生で、友達である人と同じ。
こんな結末を認められなくて、俺は現実から逃げるように意識を手放したのだった。
それから10分も経たない内に意識が回復し、目の前に広がる光景にまた気を失いそうになる。頭の中には小学生の頃、広島の某所で見た写真のキノコ雲が思い浮かんだ。耳を塞ぐが、すでに音の波は通り過ぎた後のだった。
大西洋に浮かぶ、名もない孤島を吹き飛ばした爆発を受けて生きて戻った人は少ない。悲惨な結果に船内は重苦しい雰囲気と沈黙が続く。
「──」
その中で、俺は小さく彼女の名前を囁いた。
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現在
中学3年の2月末、蒼真は受験のために日本に帰国していた。入試当日は3日後でアメリカの中学の卒業式はその翌々日にある。今は入試の事より卒業式に間に合うかどうかという悩みに頭を抱えている。
蒼真が受験する高校は、日本最難関と謳われる雄英高校ヒーロー科。偏差値は驚異の70越えで、ヒーロー科の入試には筆記試験以外に実技試験が行われる。そんな高いハードルがあるというのに倍率は毎年300倍になる。
何故それ程の人数が雄英高校に集まるのか?それは、今、日本を支えるトップヒーローの多くが雄英高校ヒーロー科を卒業しているためである。長くNo.1の座を守っているオールマイトも雄英出身である。それ故、トップヒーローを夢見る受験生は雄英高校を目指すのだ。
そんな学校への合格を目指すため受験生の多くは今も最後の追い込みで勉強を続けているのだろうが、蒼真に焦りは感じられない。時折、自分でまとめた国語と社会のノートをパラパラとめくるだけ。
今更必死に勉強したところで結果はあまり変わらない。それなら、こうしてゆったりしている方が有意義である。
そんな調子まま入試当日を迎えた。
習慣づけられた朝4時に起き、1時間ほどの朝稽古に勤しむ。シャワーで汗を流し、朝食にはトースト2枚とヨーグルト。食べ終われば準備だけ済ませて時間が来るまでソファに体を預ける。
朝のルーティンは何時何処に居ようと変わらない。しかし、帰国直後は時間感覚がおかしくなってルーティンが崩れたが、今は何も問題ない。
しかし、日本に来て変わったことのひとつは、いつもと違うバイクに跨り、いつもと違う道を走るところだろうか。
「日本の道路、信号多すぎだろ」
そんな愚痴をヘルメットの中でこぼしながら雄英までの道を進む。
ほんの10年ほど前、世界規模の法改正により中学生から免許の取得が可能となった。多種多様な個性で溢れた現代で“多様性世界"だか何かの取り組みの一環ということらしいが詳しいことはよく知らない。しかし、そんな政策も希望者が少なかったり、厳正な審査で合格者が極めて少ないという理由で空振りに終わったが、蒼真は僅かな合格者の1人であった。
そんなことなどつゆ知らない道ゆく人は雄英の坂をバイクで登っていく蒼真に気づけば不思議そうな表情で見ていた。そんな視線を肌で感じながらも、なんら気に留める事なく校門を目指していると、待ち人の姿が見えた。蒼真はその人の横にバイクを停めるとメルメットを取った。
「わざわざ出迎えて頂きありがとうございます。校長先生」
「いやいや、こちらのお願いを聞き入れてくれて助かるよ。人見蒼真君。君や君の母親の個性"千里眼"があればカンニングし放題だからね。不正を防ぐため、試験時間をずらしてもらったのさ!」
「不正なんてしませんけど、それが妥当でしょ。それでこの(ちょっと小汚い)人が……」
「イレイザーヘッドだ。お前の筆記試験の監督官になった。……千里の息子と聞いてるが事実か?」
「事実です。母さんからイレイザーヘッドの事も聞いてます」
そう言うと、イレイザーヘッドの眉間に皺がよる。長く雄英に勤める根津校長も何かを思い出したのかハハハッと笑う。
「……あの人から何を聞いたか知らないが、今はいい。ここで昔話に興じるのは合理的ではない。さっさと会場に行くぞ」
「俺もそのつもりはないんで大丈夫です。それより、バイク何処に停めておけば良いですか?」
「……案内する」
つくづく千里に似ているとイレイザーヘッドは思った。千里との付き合いはごく僅かであったが、今もその姿を思い出せる。人との距離感が絶妙というより奇妙で、普通の人とは違う空気感を持っている。それが他人を魅了し、目を惹きつけるが、“自由"が代名詞の千里は無意識に、または故意に人を振り回す。
その一端が、この人見蒼真にも感じられた。彼1人の試験の最中、左前髪に隠れた紅が時折見えるだけでも千里の面影を見る。
(まったく、こいつの担任になるのはごめんだな)
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拳藤一佳が人見蒼真を初めて見たのは、実技試験前に行われた説明会の会場だった。
まだ会場内にいる受験生がまばらな時に拳藤は自分の受験番号と同じ席に座ったが、その時には彼は着席してスマホを操作していた。
横顔をチラリと見ただけだが、それだけでも容姿端麗に見え、醸し出す雰囲気だけで周囲の視線を集めていた。周りからはアイドルか読モが雄英を受験しに来たのかと囁かれ、好奇な目で見られていたが、彼はそんな事に気づいてもいないように表情を崩さない。
受験生の中には彼の姿を近くで見ようと、通る必要もない通路を歩く。最初は彼のことをじっくり見ようとゆっくりと近づいていくのだが、彼の側に置かれたある物を見ると足早に立ち去っていく。
目に留まるのは机に立てかけられた1振の木刀。拳藤も自分の席に座るまで気がつかなかった。何故ここに木刀なんて持ち込んでいるんだと思ったが、実技試験では申請しておけば武器の持ち込みは可能なことを思い出す。
しかし、人が近寄ってこないのはそれだけではない。彼の存在感が独特なのだ。会場に入った時、彼の後ろ姿しか見えないが何故か目に留まり、近づくに連れて中学生とは思えない空気感に目が勝手に逸れてしまう。
それなのに、隣に座るとあの独特な存在感は感じなくなるどころか何も感じなくなった。自然体というより自然そのものに思えた。
(一体何者なんだ?)
実技試験の説明が行われる数分前になっても、彼は自身のスマホに視線を向けて指をゆっくり動かしている。「何をしているんだ?」と思って暫く横目で観察していると、揺れる左前髪の隙間から紅い瞳がチラチラ見えた。目の大きさは小さいほうだけれど、その色は鋭く煌めいている。それに目を奪われるまでに時間は掛からなかった。
暫くすると、見られている事に気づいたのか彼も目だけ拳藤の方に向ける。一瞬目が合っただけだったが、あの瞳に真っ直ぐと見られて拳藤の胸はドクンと跳ねた。それとほぼ同時にある人物の名前が浮かび上がり、動揺した心が勝手にその名前を呟いた。
「千里みたい……」
呟いたというより自分にも聴こえないくらいの囁きになってしまったが、彼にはしっかり聞こえていた。顔だけをこちらに向けて驚いた表情を浮かべている。
その時に反対の右側の目を見ると、左目とは違う翡翠色が見えてオッドアイであることが分かった。言葉だけは知っていたが実物を見るのは初めてなのでまじまじと見てしまう。
そんなふうに彼の顔を観察していると口が動いた。
「どうしてそう思った?」
「え?……この前、千里が表紙の雑誌を見て、千里の目と似てるなって思ったからだけど?」
千里の目はとても特殊で、いつもルビーのように紅く輝いている。それに加えて、100年に1人の美女と呼ばれるほどの容姿を兼ね備えた彼女は世界一と呼ばれるほどのトップモデルである。モデル界のオールマイトとも謳われている。
そんな彼女のように蒼真の目が輝いている訳ではないが、その色は千里の面影を感じさせる。それに誰が見てもイケメンと思える容姿を合わせると、彼は千里の息子なのではないかと思える。
(千里が結婚しているなんて聞いたことが無いし、似てるってだけで私の勘違いかな)
「お前が思ってること、間違ってないよ」
「……え?本当に?」
「感づかれることあんまり無かったけど、ひと目で気づかれるのは初めてだ」
「わっ!」
会場内の席が殆ど埋まって、実技試験の説明を今か今かと受験生が待ち侘びている中、拳藤の声は少し大きかったが周りのこと気にすることができないほどの事が目の前で起こっていた。
蒼真は一度目を瞑りゆっくりと開くと千里と同じように目が輝いていた。また瞬きするとその光は見えなくなる。
「な、なんて言えばいいかわかんないけど本当に千里の子供なんだ」
「そういうこと。この事は秘密にしておいてくれ。でないと……」
「でないと?」
「俺もメディアの標的にされる。年中付き纏われるのはごめんだ」
「わ、わかったよ。約束する」
千里はメディア嫌いという話を聞いたことがある。世界トップモデルの千里のことだからパパラッチや報道陣に囲まれることも多いだろう。その千里から話を聞くことが彼なら多いだろうから、どれだけ面倒なことを知っているのは予想できた。
しかし、千里の子供ということだからどんな人物なのかと内心身構えていたが、普通にいい奴そうだ。いや、木刀を持っている時点で普通ではないか。
「えっと、そうだ名前!私は拳藤一佳。こうして隣の席になったのも何かの縁だし、お互い雄英に合格したらよろしくな!」
「人見蒼真だ。実技も同じ会場だから、次はそこでよろしくだな」
「あれ、わたしどこの会場か教えたっけ?」
「机に置いてある受験表、さっき見たから」
「そうか?」
確かに机に置いた受験表に書かれてるけど、人見は私と話し始めてから今まで私の方以外に視線を向けていたか?と記憶を辿るが、そんな些細なことは思い出せない。一瞬見えたのかなと考えるくらいにして、それ以上は気にしない事にした。
そんな事を考えていると、雄英教師のプレゼントマイクが壇上にあがる。周りの話し声もそれと同時に聞こえなくなる。プレゼントマイクの掴みの派手な挨拶も、その静寂に寂しく響くだけだった。
「Hey!リスナー諸君、これから実技試験の説明していくぜェ?!入試概要通り!これから各会場に分かれて10分間模擬市街地演習を行ってもらう!!演習場には仮想敵を三種・多数配置してあり、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある!!仮想敵を行動不能にしてポイントを稼ぐのが君たちの目的だ!!もちろんアンチヒーロー的な行為はご法度だぜ!!」
手元にあるプリントを上からなぞるようにプレゼントマイクは読み上げていく。要はロボットを敵に見立てて、それを時間いっぱいまで倒しまくるという試験だ。
こんな試験であるから、自身が持つ個性の使い方が重要になってくる。戦闘向きの個性ならロボットを倒しにいけばいい。そうでない個性であっても、この試験はロボットを拘束・行動不能にすればポイントが入る。難しいことだが、それが求められているなら挑むしかない。それに、ヒーローなればそれが当たり前になっていくのだ。
「聞いてた通りの内容だな」
「え?」
プレゼントマイクに受験生の1人が試験内容の質問をしている最中、拳藤に聞こえるほどの声量で蒼真は呟いた。
「両親ともに雄英出身。だから聞いた」
「……は?」
「父さんは日本で活動してないけど一応ヒーローやってるし、母さんは副業でやってる。まあトップモデルの息子が何でヒーロー科受験してるのかって考えたらそういう事だと察せるだろ?」
「いや察せないから!」
「そこの2人もうるさいぞ!」
話の内容までは聞かれていなかったが、少し声が大きくなった。さっきまで別の受験生のことを注意していたように、その真面目さをここでも遺憾なく発揮している。殆どの人が臆して声に出さないところをはっきり言うのもある種の才能と思う。
そんなちょっとしたトラブルはあったが、試験内容の説明も終わり、プレゼントマイクは最後に受験生への激励の意を込めてこう言った。
「さらに向かうへ!Plus ultra!!」
リメイクと言いつつ、第1話は1から書き直しました。おかげで時間がかかってしまいました。
評価、感想お待ちしています。