ホロライブラバーズ トロフィー『数多の業を振るう者』獲得実況プレイ 作:疾走
今回はちょっとした情報開示回です。
自分には才能が無いことを知っていた。
自分がどれだけ努力しても彼女の隣に至れない事を知っていた。
そして、それを理由に諦められないことを、彼は知っていた。
たとえ其処に道が無くても。たとえ淀みに沈んだとしても。
進み続けるしか無いことを錆下桜士郎は、その身を以て知っていた。
穏やかな光が縁側を照らし静謐かつ平穏な空間を作り出していた。
その中で静かに、
口の中が渇く。目の前の男はその気になれば何時でも自分を殺せるのだ。跳ね上がった心拍数をそのままに口を閉じこの場に誰かが来ることを望み待つ。
「あぁ、心配することは無い。此処には人避けの術を敷いている。誰かが来ることは無い」
「……ああ、そうかい。……何が目的なんだよ。俺はあんたとの関わりは一切ないぞ」
「ん? 昨日の事か。なに、貴様が計画の障害に成り得る力を持っているかの確認だ。───まぁ、取るに足りない実力と分かったがな」
顔に嘲笑を浮かべながら話す桜士郎に
「何なんだよ、その計画って」
空間が重力が増したかの様に重くなる。桜士郎から溢れ出す殺気は空間に作用するほど高まっていた。
「─── 今日の夜から行われる神祀りの儀式にて白上フブキを殺すこと、それが俺の計画だ」
息が止まった。音が止まった。世界が、動きを止めた。
脳が理解を拒む。
だって、ありえないじゃないか。フブキを、あの優しく美しい幼馴染みを殺そうとしているなんて。
「な、なんで……」
明確な意思のもとの質問ではなく無意識下での言葉。理解を拒否し他者に答えを縋る弱者の言葉。
「ふむ。何故、か。長くなってしまうな。先ずは貴様の知っている霊狐について言ってみろ」
「……幻術を得意として『狐火』などの固有術を扱う。そして狐神───」
「【白蔵主】を信仰している、といった所か。そこを知っているなら十分だ」
一呼吸おいて、語られるのは霊狐の歴史。そして桜士郎の激情だった。
「まず最初に今残っている狐の神は
「大昔、戦乱の時代。霊狐の中で優秀な人材が集った世代があった。幾多もの猛者たちが己の部族を従え戦乱を乗り越えてきたが分散した戦力では徐々に消耗が大きくなっていった。まぁ、その時代は乗り越えたが次に来る戦乱を憂い、統治者を作ろうとした」
「そうなると誰が統治者になるか。どの部族も己たちの長を統治者にしようとした。故に始まるは内乱だ。本末転倒だ。傷害から冤罪、遂には殺しまで起こった」
「それを止める為ある長が提案をした。───我らで一人、頂点を決めないか? そしてその者を統治者としよう───と。誰もが内乱に嫌気を差していた、そのため戦いはすぐに始まった」
「熾烈極まりない戦いが繰り返された。争い、敗者の部族は勝者の部族の軍門に降った。───それが何度も繰り返され遂には二つの集団にまで霊狐は統治された。残ったのは【白蔵主】と【黒天狐】の二柱のみ」
「神話の様な戦いを制し【白蔵主】が勝利し、霊狐統治の証明のため【黒天狐】を封印し霊狐は【白蔵主】の元統一され───今に至る」
話を聞きながら必死に平静を保とうとしていた為震えは止まった。思考も落ち着きを幾らかは取り戻した。そうだ、思考を止めるな。
「【白蔵主】は統治後も幾多もの争いを潜り抜け、狐の神とまで呼ばれるようになった。そして、それと同時に【黒天狐】は敗神、落神として同じく神と呼ばれるようになった。───さて、ここからが重要だ」
「【白蔵主】の死後、彼女の血を継ぐ者達が複数の名家に分かれ───秘術を創った。『神霊堕ろし』血を媒介に彼女の神が如き力を引き出す秘術。其れが誕生したことで霊狐の長を決める判断材料になるのは必然だった。秘術の適正が高い者が長となる。そんな風習がいつしか出来た」
「そして秘術の適性が高ければ高いほど霊狐の毛は白く、純白になっていく。ここまで言えば分かるだろう?」
「白上フブキは秘術の
「……じゃあ何で殺そうとするんだよ。自分が長に為るためとかかよ」
「……ああそうだ。俺は長に為るために、
押し潰されかける程に重圧は膨れ上がった。極寒の地にいるかのように体は震え心は逃げ出そうとする。
「…………白上フブキは異分子だ。秘術の次期担い手でありそれと同時に【黒天狐】の宿主でもある」
脳のキャパシティを大幅に超える情報量。呆然となる。自分が幼馴染みの事を何も知らなかった事に今更ながら気づいた。
「彼女は今宵の神祀りの儀式で【白蔵主】に【黒天狐】の封印を解くように要求するつもりだ。───許せる訳が無い。不確定の異分子は排除しなくてはならない。万全の状態で無ければ来たる【厄災】に絶やされるだけだ……!」
最後は最早激情を吐き出すだけに過ぎなかった。故に圧倒される。目の前の男の覚悟、決意に打ちのめされた。全てにおいてこの男は奏人の上をいっていた。
「……話は終わりのようだな。馬鹿な真似は辞めておけ。貴様ではもとより敵わぬ敵に心でさえ負けている、貴様は居るだけ無駄だ」
吐き捨てるようにそう言って桜士郎はこの場を去っていった。残された奏人はフラフラとした足取りでとある場所に向かった。───白上フブキの部屋に。
「…………」
「あれ? 奏人君? どうかしたんですか?」
首を傾げながらフブキが聞いてくる。普段と変わらない様子。
感情が溢れ出す。
「【黒天狐】」
「ッ!」
「なぁフブキ。何で、言ってくれないんだよ」
何も知らずにのうのうと彼女に頼っていた自分を殺したくなる。肩に手を置き絞り出すように声を出す。
「なんで……俺はお前に頼ってばっかりなんだよ……!」
数秒の沈黙の後、フブキが手を重ねる。
「……奏人君。最初に謝罪を。すみませんでした、白上の事を何も喋らないで秘密にしていて。……あなたとの何の縛りもない関係が心地良くて言うことができませんでした。そして本当にごめんなさい。私達、霊狐の問題に関わらせてしまって。お願いです、何があったのか教えて下さい」
「これより神祀りの儀式及びお嬢様殺害計画についてのブリーフィングを始めます。進行は私、霞がさせていただきます」
白上家のとある部屋。人避け、防音、認識阻害等の複数の妖術により作られた簡易的なブリーフィングルームだ。
そこには奏人、フブキ、ミオ、霞の四人が集まっていた。
「先ず最初に奏人様が遭遇した『錆下桜士郎』とその計画についてですが」
一拍置いて霞が話し始める。
「彼は白上家と同じ霊狐の名家[錆下家]の一員です。当初は次期当主、と言われていましたが自身から断り錆下家を出ていきました。つい先日、錆下家に帰還。暗部の情報では家を出たあとも一部の者とは交流があったそうで恐らく計画のためと思われます。そして計画ですが───」
「目的は神祀りの儀式でお嬢様の殺害。詳細は不明ですが恐らくは儀式を未完了の状態で殺害、そのまま霊狐の長になる、といった具合でしょう」
「霞さん。お父さんとお母さんは厳重保護で儀式には不参加にしてもらいます。数人、動かしてください。向こうの戦力は?」
「儀式への奇襲といった形ですので人数は少なめで二十、多くて四十程です」
「こちらが違和感が無いほどで用意できる数は三十……参加者の避難ルートは確保していますか?」
フブキの纏う雰囲気はいつもと違い鋭かった。ここにいるのは『学生の白上フブキ』ではなく『白上家次期当主の白上フブキ』であり智将のオーラがした。
「あ、あの……フブキが儀式に出なければ良いんじゃないんですか?」
「そうはいかないよ。この儀式は昔からの伝統、ここで途絶えさせたら白上家への反発が大きくなる。そしたら本末転倒になりかねないもん」
「じゃ、じゃああの人を捕まえられないの? だってフブキを殺そうとするなんて……そんなのおかしいよ……」
「そうしたいのは山々何だけど
「こちらでも前々から調べていましたが一切今回の計画に気付けませんでした。証拠となる物は一切無いでしょう」
選択肢は傍から無いのだ。殺されるかもしれない、それでも逃げることは許されておらず、未然に防ぐことすら出来ない。
「私達の戦力では錆下桜士郎の一派の襲撃を抑えきれない可能性が高いです。悔しいですが作戦でも戦力でも向こうが一枚上手でした……───だから、力を貸してください。学生である貴方達にこのような事を頼むのは本当に申し訳ないです。ですが、どうか、どうか……! 私達に力を貸してくれないでしょうか……?」
彼女は分かっている。彼らが友からの頼みを断るような性格ではないことも、それに付け込むようなものだということも。それでも自分が死ぬことは自分だけのことではないのだ。家、友人そして、クロちゃん。
全部を守るためには、死ぬことは出来ないのだ。それで友人を危機に晒そうとしている自身への自己嫌悪を抑え彼女は頼み込んだ。
「うん、ウチに手伝わせて。友達を見捨てるなんて、出来ないよ」
覚悟を決めてミオが了承を伝える。そして、奏人は───
「……やらせて、ください」
『貴様は居るだけ無駄だ』
いないほうが、マシかもしれないけど。
桜士郎の言葉はその胸に深く突き刺さっていた。
『儀式の開始は夜から、夕方になり次第もう一度この部屋にお集まりください』
夕陽がセカイを照らし始める。奏人はその茜色に染まっていく空を縁側で見つめていた。昼から今までずっとこのように呆然と時が過ぎていくのに身を任せていた。
桜士郎の覚悟に圧倒されて、まだ自分がどうしたいのも分からないで、胸の中で火と恐怖がぶつかり合っていた。きっと、どちらが勝つかでこれからの自分が決まるのだろう。そんな事を他人事の様に考えていた。
助けてもらって、ずっと助け続けてもらって、自分なんかが何も考えずに頼り続けて。そんな陰鬱とした考えが溢れ、止まらない。そんな連綿とした思考の渦を───
「隣、座ってもいいですか?」
「フブ、キ……」
白上フブキが、断ち切った。
察しの良い人は【黒天狐】が誰か分かるかもしれません。クロ…狐…誰なんだろーなー?
白狐神征編が終わったら登場人物と設定のまとめを書きます。