ホロライブラバーズ トロフィー『数多の業を振るう者』獲得実況プレイ   作:疾走

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再誕と共に叫べ、己が意志を

 

 進化とは、過去の否定だ。

 嘗ての自分を、弱者であった己を否定し、踏み潰し、上書きする事によるより強き自分への新生。

 蛹を脱ぎ捨てる羽化のように、そこに過去への肯定は要らない。

 

 だから、だからこそ、錆下桜士郎は歩み続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神霊堕ろしに、非ず。

 血を媒介とした神域への接続による指向性を持った能力の拡張と上昇に、非ず。

 適正と練度、感情に呼応して出力を変化させる霊狐の秘術に、非ず。

 

 それは涜神の果て。

 接続した神域より権能を奪い己の権能と複合させる神への、世界への反逆。

 神霊への冒涜であり禁忌であり、同時に一つの可能性としての、上位へ至った()()()の形であった。

 

 

 

「悪いと、思う。ここで死ぬような奴では無いのも分かった。お前なら俺と違って守り通せる……そう思わされた。それでも、ここで倒れてくれ」

 

 炎光が閃いた。回避できたのは、偶然だった。

 横を通った炎光の余波で皮膚が焼ける。

 脚で地面を弾く。左右に軸をずらしながらバックステップ。

 ヤバいと、本能ががなりたてる。

 全身に纏った業火、赫灼の九尾、そして赫焉の焔刃。

 

 戦士としての感が彼我の実力差を訴える。

 民衆としての恐怖心が逃避を叫ぶ。

 生物としての本能が死を予感する。

 そして、()()()()()()()()()()()()、厄災と同じ領域にいることを告げる。

 

 

「何、好き勝手言ってやがる……!」

 

 一瞬にして距離を詰められ薙刀が襲い来る。

 防ぐのは論外。為すべき選択は回避と受け流し。

 サイドステップと同時に剣を振るい軌道を曲げる。

 接触時に剣が吹き飛びかける衝撃。

 

(ぎぃ、ガッ……!)

 

 魔導回路の展開は一回できれば幸運。

 思考は今にも落ちかけ、四肢の感覚は薄ぼんやりとしている。

 とうの昔に体力は底をついている。それでもまだ気力を振り絞れば体は動く。

 

(出力差は歴然。こっから巻き返す手がねぇ! ──迎撃しかない!)

 

 

 奏人が導き出したのは防衛戦。

 まずミオが戻ってくる────戦火から遠くにフブキを移動している────まで耐えて、次に援軍が来るまで耐える。

 学生である自分達では手に負えないレベルまで事の深度は深くなっている。

 

『八式』をコンパクトに構え、今にも崩れ落ちそうな軋む体に鞭を打って力を込める。

 脳内麻薬が大量に分泌されているのか幸い痛みは感じない。

 武器はある。体は動く。なら、まだ戦える。

 

「……足掻くか。本当に、惜しいよ」

 

 尻尾を地面に叩きつけ推力に変換する。

 地面が軋みひび割れていく。まるで世界が悲鳴を上げているようだった。

 突き出された薙刀を屈んで避ける──その先に尾撃が置かれていた。

 

(あ、まず────)

 

 無防備な腹部を赫尾が撃ち抜いた。

 全身を駆け巡り暴れ狂う衝撃に骨が、筋繊維が砕け、壊れていく。

 瞼の裏で火花が散り、直後ブラックアウトする。

 

 たったの一撃で瀕死の一歩手前まで持ってかれた。

 せり上がる血を吐き捨て痙攣する脚で立ち上がる。

 限界を超えて魔導回路を励起、全身展開を敢行する。

 

「まだ立つか? どれだけ貴様が足掻こうが白上フブキの死は変わらない」

「巫山、戯んな……! 殺す殺さないを決めるのはお前じゃ──」

「違うな。もう決まっている」

 

 振るった『八式』は赫尾に防がれ薙刀が振るわれた。

 死の危機に、体は驚くほど滑らかに動いた。

『八式』を高速で引き戻し薙刀と自身との間に挟み込む。

 焔刃と機械の刃が寸分狂わず激突して────バキッ、と音を鳴らして一切の拮抗無しに、『八式』が折れた。

 

 度重なる機構能力の使用、高火力の攻撃を何度も受け止め酷使した剣。

 既に限界だった。その限界が、ここに来て溢れ出した。

 押し込まれた斬撃が胴を切り裂く。

 焼けるような熱さを感じながら膝から力が抜けた。

 

「ギィッ──!!」

 

 崩れ落ちた身体を赫尾による尾撃が撃ち抜く。

 無様に吹き飛ばされた体は数十m奥の柱にぶつかりようやく止まった。

 

「…………ゴホッ、グッ」

 

 焦点の定まらない眼で桜士郎を探す。

 ────いた。戦火から離れた場所にいる未だ儀式を続けるフブキと──何故か隣で蹲っているミオの側に。

 考えずとも分かる。あの焔刃が二人を断ち切ることが。

 桜士郎が薙刀を振り上げた。

 

 

 

 もう駄目だ。間に合う訳が無い。逃げろ。

 

 

 そんな事、分かってるのに────

 

 何で飛び出してんだ、俺。

 

 

 

 

「ァアア──────!!!」

 

 瞬息展開(モーメント)による【マナ・オーバー】と【出力臨界】の発動。それに加え火事場の馬鹿力、或いは死に瀕してリミッターが外れたのか、加速した体は斬撃が到達するよりも速くに辿り着いた。

 右腕を振り絞る。加速を後押しに全身を連結させたストレートを横っ面に解き放つ。

 

「無意味だ」

 

 渾身の一撃は目の前に展開された障壁に防がれた。

 直後、障壁は爆破。衝撃が体を貫く。

 ボタボタと口から血が零れる。

 膝から崩れた奏人を桜士郎は髪を掴んで持ち上げた。

 

「もう終わりだ、星川奏人。何をしても、何もかもが無駄だ」

「……クソッタレが」

 

 何も言い返せない。武器は全て壊れた。体はもう瀕死、死の一歩手前を越えようとしている。

 無造作に投げ捨てられる。ベチャ、と地面に激突した。

 

 意識が保たない。

 視界がどんどん暗くなっていく。

 

「フブ、キ…………大神…………」

 

 手を伸ばそうとして、そのまま意識は暗闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 淀みの底に墜ちていく。

 深海のように静寂で嵐のように喧騒でただひたすらに心を乱してくる。

 

 自分と世界の境界があやふやでその場に満ちる感情と繋がって(リンク)いた。

 怨嗟が、後悔が、無力感が、怒りが、負の感情が満ちていた。

 

 覚えがあった。

 ずっと昔から己に付き纏っていた過去の軌跡。

 隔絶した才能に、力量差に、心折られた忘れがたい記憶。

 

 そして、黒く暗い深淵の最深に落ちきる。

 

『──んで』

 

 声が、聞こえた。

 何よりも聞き覚えがある嘆き。

 

『──何で、こんなにも俺は──』

 

 忌むべき過去。

 今でも自身を蝕む、ターニングポイント。

 

『──何で、こんなにも俺は──弱いんだ』

 

 座り込み全てを拒絶する、嘗ての自分。

 ──百鬼あやめから逃げ出した過去の星川奏人が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………やっと落ちたか」

 

 目の前で動きを止めた奏人を確認した桜士郎はフブキ達の方へ振り返る。───絶大な威圧感を感じて。

 

 ミオが、立っていた。

 

 

 ────刹那、空気を喰らい尽し業火が炸裂、焔刃が空間を断つ。

 音を越え全てを溶断する炎斬。熟練の戦士だろうと斬られた事に気付けない程の超速。

 防御など片腹痛いと一蹴する絶対の矛。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 新たに得た第六感に似た感覚が告げるまま刃を振るった。

 

 元からその位置に斬撃がくるのを()()()()()()()()()避けられる。

 放たれたカウンターを避けようとしてその行動を()()()()()()()()回避先に置かれていた。

 

 奏人を抱え安全な場所に移動させる。回復薬をかけようとしたがもう残りは無くなっていて、切り裂かれた胴を止血するだけしかできなかった。

 そして、桜士郎と相対する。

 

 

 

 

 突然の不調──それは己の権能のギアが爆発的に上がった弊害。

 全身から迸っていた猛り狂う炎は一転して静謐に揺らめいていた。

 見た目に桜士郎のような激的な変化は非ず変わったのは内側、そして───瞳。

 オレンジの瞳は黄金の輝きを宿す金眼へと変貌していた。

 

 

それは時間の観測者。

それは未来の画定を決める者。

時への干渉者であり時間流体の認識者。

 

 それは『いつか』の大神ミオの先取り。

 

 つられたかのように。

 相手が引き上げたから、それに呼応したかのように。

 階梯が、一気に引き上がった。

 

 絶戦が、神話闘争が始まる。

 上位領域に至った者達が、新たな神話を作るように闘争を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が大嫌いだった。

 どれだけ努力しても彼女に追いつけない凡才のこの身が憎くて仕方がなかった。

 だから、逃げた。

 これ以上心を摩耗させることに耐えられなかったから。

 これ以上自分を呪うことに耐えられなかったから。

 

 その結果が、今の俺だ。

 凡才を呪いながらも研鑽を重ねてはいた。ただ、どこまでも中途半端だった。

 振り切っていれば、忘れていれば、桜士郎にもっと抵抗ができたかもしれない。勝てたのかもしれない。

 

 だから、今が、今からが、第二のターニングポイントだ。

 

 呼吸を整える。目の先で座り込んでいる(過去の自分)に向き直る。

 いつの間にか、手には剣が握られていた。

 

 選択肢は、二つ。

 斬る(否定する)か、斬らない(逃げる)か。

 

 なんとなく、分かる。影を斬れば必ず力が手に入る。

 斬れば過去の一切を否定し、破却して、新たな力と共に新生する。

 

 ───それの、何がいけないのか。

 

 一歩、前へ進む。

 進化は過去の否定だ。

 

 一歩、前へ進む。

 この、弱い己を否定することでより強き己に至れる。

 

 一歩、前へ進む。

 助けるために力が必要だ。

 

 影の至近に、たどり着いた。

 要らない、この過去を認めることはできない。

 

 剣を上段に構える。

 意志は強固で、冷たく凍り付いていた。

 振り下ろす、その瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『自分が積み上げてきた努力を認めてあげてください』

 

 ──声が、聞こえた。それは、幼馴染の白狐がくれた、言葉(祝福)

 

「認めて、もらって」

 

 暖かな言葉が意思を解れされる。

 

『休んでも、立ち止まっても良いんだよ』

「癒やして、もらって」

 

 優しき黒狼がくれた、言葉(祝福)

 凍りついていた心が溶けてゆく。

 

『崩れちゃたのならまた築けば良いんでござるよ』

「教えて、もらって」

 

 強く、いつも笑いかけてくれる侍がくれた、言葉(祝福)

 四肢に温かいエネルギーが満ちていく。

 

『見つけなさい、自分のしたい事を』

「導いて、もらって」

 

 光を灯してくれた悪魔の教師がくれた、言葉(祝福)

 精神から錆が剥がれていく。

 

『やりたいようにやれば良いんだよ』

「信じて、もらって」

 

 尊大な口調で話す小さな同級生がくれた、言葉(祝福)

 その暖かさに、優しさに涙が溢れてくる。

 

『追いついてみなよ、此処まで』

「待ってて、もらって」

 

 紫電を散らす魔法使いの少女がくれた、言葉(祝福)

 火種が、心に灯り、燃え盛る。

 

 その全てが抱きしめたいほどに、愛おしくて。

 その全てが溢れるほどに力を与えてくれる。

 

 涙を流しながら笑みを作る。

 泣き笑いのような表情で、只々澄んだ、清流のような笑み。

 

 勇気を貰った。

 意志を貰った。

 だから、奮い立つ。

 

 もう迷いはない。自分の心を凍らせる事は無い。

 今までの行動が、過程が、一つの結果を生み出す。

 剣域よりも内へ踏み出す。斬るではなく刺すの領域。

 

 そうやって、

 

 ───剣を捨てて、(過去)を抱きしめた。

 

 

「違う……俺は、捨てないよ、(過去)を」

 

 だって、それがあるから、今の自分がいる。

 彼女達に出会えた自分がいる。

 

「辛いよ、苦しいよ。でも支えてくれる人がいる」

 

 一人じゃ無理だった。押し潰されていた。

 そんな自分を助けてくれた人がいる。

 

「あの時折れたのも、逃げ出したのも()だけど」

「───そんな、そんな俺だからこそもう一度、頑張ってみようって思えたんだ」

 

 それは進化だった。

 嘗ての自分を、弱者であった己を肯定し、抱きしめ、受け入れる精神の新生。

 

【…………今ならまだ逃げられるよ?】

 

 別に、トラウマを克服した訳ではない。

 傷が癒えた訳でも壁を乗り越えた訳でもない。

 何があろうと傷つかない鋼の心を手に入れたわけではなく、これからも悩み傷ついていくだろう。

 そして、過去である影だから分かる。この先に待ち受ける()()()()()()()()()()()()埒外の苦難を理解できる。

 まだ逃げれる。苦痛から苦難から逃げることができる。

 

「大丈夫」

 

 だが、そんな事は、関係ないのだ。

 只の男の子である奏人に、先の事など関係ない。

 

「だって、みんなが居るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激突の余波が天を衝いた。

 斎場の屋根を破壊して空をも貫いていた。

 力場が空間そのものをねじ曲げる。

 真上の天空が奇妙に歪んだ。世界そのものがひずんでいく。

 

 激突の度に響く轟音は世界の啼き声であり悲鳴だった。

 権能の行使による理外の戦闘。

 心が弱い者ならば見ただけで死にかねない絶死領域。

 

 互いに全身全霊で相手の強化形態を削る。

 両者、最初に比べその出力は大幅に下がっている。

 桜士郎は全身から迸る業火の勢いを下げ、ミオは────

 

「───ッ、あ……れ……?」

 

 ギアが、元に戻った。

 先取り、桜士郎からの影響。様々な要因が混ざった結果の上位領域への突入。

 今のミオでは長時間の維持は不可能。

 

 体の節々に激痛が走り、もう意識を保つ余裕も無い。

 そんな状態にも拘わらず胸には安心感があった。──背後から感じた親愛なる友の気配によって

 

「遅いよ、奏人君」

 

 崩れ落ちる体を後ろから誰かが受け止めた。

 誰か──奏人はミオを抱え笑みを浮かべた。

 

「ああ、すまん。──あとは、任せてくれ」

「じゃあ、任せちゃおっかな? ごめんね、ウチもう駄目だ」

「一人で持ち堪えてくれて本当にありがとう。もう大丈夫だ」

 

 近くの柱にミオを横たわらせる。

 そして、桜士郎と相対する。

 

()()()()()()()()()()()()()()傷がある程度癒えている。

 何より気炎が、熱が、溢れんばかりの力をくれる。

 

「…………なぁ、錆下。俺は居るだけ無駄、そう言ったよな?」

「……ああそうだ。貴様が居ても意味がない。貴様は、無価値だ」

 

 前回は無意識にそれを認めていた。

 自分に意味を見いだせなかったから。自分を認められなかったから。

 でも、もう違う。

 

「────全ッ然違げぇよ、馬ァァァ鹿!!!!」

「────ッ!?」

「何も成せなくても、心が折れたとしてもッ、俺の歩んできた軌跡は、無価値なんかじゃねぇ!!」

 

 過去を肯定した。過去を認めた。それでも先に進む決意をした。

 故に、その手にその武器が握られるのは、必然だった。

 召喚するは、嘗て鬼から渡された刀。

 固く封をした、過去の結晶。

 

「戦流を制せ───紅牙征流(こうがせいりゅう)!!!」

 

 紅い刀身に、走る刃紋は清流が如く。

 主と共に戦える事を喜ぶように刀は煌めいていた。

 それを右手に握り、切っ先を突きつけて。

 

 叫ぶ。

 証明を、過去を認め未来を歩むための宣誓を。

 

「今からあんたを超える───勝負だ、錆下桜士郎!!!」

 

 不屈の意志を携えて、今この瞬間、少年は再誕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【■願保持者の再接続を確認】

 

【停止していた機能───精神の高揚、新生に伴い解凍開始】

 

【既定値への能力不足を確認。緊急性の確認に失敗】

 

【全機能の解放は許諾不可】

 

【一部機能の限定認可を許諾】

 

 

 

 セカイの何処か。最果て、或いは外側。

 異なる位相。異なる領域。

 人類未到達界にて。

 

 ベチャ。

 音が響いた。

 まるで泥が動いたような音。

 

()()は観測した。

 違う位相で起こっている戦闘を。

 

()()は感じた。

 その闘争は己が参戦するに値するものだという事を。

 

 泥が、全てを無に帰す黄昏の泥が、動き始めた。

 

 

 




さようなら、ではない。挫折も敗北も、全部が『俺』だから。どんなに重くても全てを抱えて、前に進むことにするよ。

死ぬほど頑張ったからと言って報われる訳じゃない。でも、その努力は軌跡は、決して無駄では無い。

この物語を書くにあたって最初から書きたかったシーンに一つでした。
別にトラウマを克服した訳では無いのでこれからももがき苦しむでしょうがホカ君ならなんとかなるでしょう。

ぶっちゃけ読者に厨ニな技名とか活動報告で求めたら書いてくれる

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