ホロライブラバーズ トロフィー『数多の業を振るう者』獲得実況プレイ   作:疾走

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前話の最後にめっちゃ重要な加筆をしました。そちらを読んでからでないと展開がワケワカメなので読んでね!


業法、装填

 

 最初に抱いたのは、ありふれた願いだった。

 彼女の隣に立ちたい。

 

 いつも突きつけられた才能の壁。

 努力すればするほど理解できる彼我の実力差。

 

 世界が、努力を否定する。

 人々が、足掻きを嘲笑う。

 

 だから、叫んだ。

 それが、どうした。

 

 遠すぎる高みに、体が震える。

 気高き白光に、心が震える。

 その在り方に、魂が焦がれる。

 

 だから進むのだと。

 だから止まらないのだと。

 だから隣に至りたいのだと。

 

 酷い話だ、古い鏡を見せられている。

 ──ああ、こんな男が、いたのだったな。

 

 

 

 

「───回避ッ!!」

 

 顕現により、世界の時は静止していた。

 その静寂を誰よりも早く食い破って、奏人が叫ぶ。

 瞳の無い貌と視線が重なり──刹那、距離が消えた。遅れて加速音と破壊音が響く。

 ただの踏み込み、ただの加速。それが音を超えていた。

 

 ありったけの警鐘を鳴らす思考回路に従うように『紅牙征流』を振りかざす。ほぼ同時に灰色の怪物もその装甲腕を振り下ろした。

 

(膂力が強すぎる! 速度が乗っても、こんな重くなるか!?)

 

 衝突した刃と腕から火花が散り視界がスパークする。

 受け止める事は、不可能。脱力を利用し剛腕を地面へと受け流した。

 その一撃を叩きつけられた世界が揺れる。

 

(この巨体でこの速度! 装甲に何かしらの加速機構が存在してるのか!)

 

 灰色の怪物は震脚に似た動作で地面を踏み砕き、連続打撃(ラッシュ)を放った。余りの速度に無数の残像が辺りに残る。

 

「────」

 

 真白だった。認識も予知も一切意味が無く、ある種の無念無想のままに体が動いた。

 理論値を超える程の加速で襲いかかる濁流のような暴虐を凌ぎ──死神の鎌からなんとか抜け出した。

 

(動きは読めない、予兆すら感じ取れない──()()()()()()。理論も理屈も分からないけど、俺はこいつの攻撃を捌けてる!)

 

 過程を置き去りに、結果を感知し、怒涛の嵐を避け続ける。

 不可解な事態、しかしそれに気を止める暇は無い。認識が追いつかなかろうが思考を回し目の前の怪物からパターンを引き出す。

 

 

 腰の駆動による加速を乗せた前蹴り。胴体に直撃するも微動だにせす、衝撃音が虚しく響いた。

 その結果を気にもとめずにバックステップ。直後、元いた空間を装甲腕が穿つ。

 

 中段に構えた『紅牙征流』で迫る連撃をなんとか撃ち落としていく。

 一手でも間違えれば、即座に肉塊と化している程の威力。

 その動作と並行して足を起点に魔導回路を展開していく。灰色の怪物──「灰」の周囲に展開範囲を移動、狙いは「灰」への[解析]。

 

(──全身の装甲、それ全部が()()()()()()()()()()()()()()()()で出来てる! これ、魔力……じゃない。なんだこれ!?)

 

 [解析]の結果、全身を覆う装甲がなにか得体の知れない謎のエネルギーが凝縮して無理やり固体化したものという事が分かる。

 分かった事はそれだけ。だがその僅かな情報でさえ奏人を混乱させるには十分だった。その情報を元により一層精査していく。

 

(…………ッ! 装甲内部でエネルギーが循環してる!? ってことは、この()()()()()()()()()()()()()()()()ってことか!?)

 

 循環したエネルギーで形成された装甲は外部からエネルギーの供給によりその性能を発揮している。

 外部、つまり「灰」からの供給で、独自運用されていた。

 

「──Attack」

「──ッ!! ──【ラウザルク】!」

 

 振り上げられた右腕が研磨されたように鋭利に伸びる。変形したエネルギー装甲はさながら巨大な剣へと化していた。

 海すら潰すような重厚な刃。それが奏人目掛けて振り下ろされた。回避しようとして──蠢動する装甲を確認し、行動を変更。『紅牙征流』を横に倒し左手を刀身に添え斬撃を受け止める。重く低い衝突音と共に地面を砕きながら奏人の足が地面にめり込む。

 

「グ、オオォ……!!」

 

 咄嗟に発動した身体強化(ラウザルク)の力もあり、なんとか持ち堪えているが押し返すことはおろか、拮抗を維持することすら難しい。

 本来なら受け止めるなど愚策。だが──

 

(どの装甲部分も変形できる!? 回避してもそこに攻撃を置かれて終わりだった……!?)

 

 独自運用されている装甲はどの部分からでも変形が可能。もし腕刃を避けていたら身体各部から伸びる装甲刃に体を貫かれていただろう。

 

「burst」

「ッ!」

 

 鍔迫り合いの状態だった刃が突如として内部エネルギーを炸裂。爆発的に加速、加重された攻撃に身体が沈み、抑え込まれる。

 

「deformation」

 

 次の瞬間、仕掛けてきた。

 鍔迫り合いから抜け出せない奏人に背部から伸びた触手のような装甲が襲いかかる。直撃すれば、容易く貫かれるだろう。

 

(ま、ず───)

 

 奏人一人ならば、この段階で為す術もなく殺されていた。

 

「奏人君!」

 

 白き閃光と黒い破光が死神の手から、奏人を救い出した。

 放たれた背部装甲を射出された狐火が撃ち払い、急接近した黒狐が妖力を充填した腕を振るう。その一撃が直撃した「灰」は無抵抗に数十m先まで吹き飛ばされた。

 

「下がるぞ!」

「ッ、了解!」

 

 地面を弾き、名も知らぬ少女の後を追うように後退する。

 

「奏人君! 無事ですか!?」

「お前らのおかげでな。助かった……!」

 

 死の窮地からは抜け出せた。だが息をつく暇も無い。

 吹き飛ばされた先で「灰」はじっとこちらを──奏人を紅光が見つめている。

 

「あー、おい。奏人? だっけか?」

「あ、ああ。あんたは……?」

「わたしは……めんどくせえ、クロでいい。それに、今はんな事喋ってる場合じゃねぇだろ。お前、あれのこと知ってるか?」

「いや、何も知らない。けど──あれは()()()()()()

 

 今尚、「灰」の視線は奏人一人に固定されている。元より目的が定まっているように、単一の目的の為に現れたように。

 

「あれのパターン教えろ」

「基本は拳と脚による肉弾戦。それに加えて装甲を変形して刃、触手にして使用してくる。他にエネルギーを炸裂させての加速、分かってるのはこのぐらいだ。それと推測だけど()()()()()()

「ふむ、そうなるとクロちゃんと奏人君で前衛を張ってもらって白上が後衛として掩護します」

 

 即席の陣形(フォーメーション)を定め意識を再度「灰」に集中する。射ぬかんばかりに向けられる紅光に、『紅牙征流』の柄を強く握りしめた。

 

(間違いない、狙いは俺……!)

 

 装甲が蠢く。各部がスライド、そこから灰蒼の稲妻が無秩序に迸る。排出された過剰エネルギーが辺りを壊していく。

 その状態で、「灰」の体が沈んだ。明確な加速の前兆────直後には横に位置が変わっていた。

 

「──世界を騙せ」

 

 一節の詠唱と共に狐火が射出される。それに対し「灰」は小刻みなエネルギー噴出で軽々と狐火を避けてゆき──直後、()()()()()()狐火が着弾。

 僅かに「灰」の動きが止まった。

 

「権能無しだったら、当たらない……!?」

「シロのお陰で今は当たってんだろ! それに当たんなくてもいい! とにかくバラまけ!」

 

 そう叫ぶと同時に、クロの体が黒光の残滓を残して、空へと飛び上がった。空を蹴り「灰」目掛けて落下。そのまま重力を乗せた一撃を叩きつける。

 衝突と同時に両者のエネルギーが奔り暴れた。空間が歪み辺りを衝撃が駆け巡る。

 その場に居るだけで震え上がる圧倒的な戦闘密度。しかしそれに尻込みする者は元よりこの場にはいなかった。

 

 紅い軌跡が空間に描かれる。風を切りながら振るわれた『紅牙征流』を背部から伸びた四つの触手が受け止めた。

 重く、硬い装甲の感触を刀越しに感じながら構わず地面を一層踏みしめ振り抜く。

 両断には至らず、半分ほどを切り裂くに留まった。結果を手応えから察知し、迫りくる触手を屈んで避け、その体制のまま斬撃を繰り出す。

 

(背面からの奇襲──フブキが対処してくれる。他に、なんだ──)

 

 僅かな戦闘。そこから相手の手札を引きずり出さんと戦闘理論(鬼剣)が可能性を算出していく。戦闘に対応しながら──否、もはや身体に伝導する必要すらなく思考は加速するままに真白の世界に突入していた。

 細長く変形した一本の触手が背後から奏人を穿たんとするが神威を纏った狐火が攻撃を迎撃、その一切を阻む。

 

(早い……! 白上の反応速度ギリギリ──ッ!?)

 

 白上フブキは優秀な万能手(オールラウンダー)だ。

 刀を用いた近接戦闘、狐火を活用した中、遠距離戦闘。攻撃、防御、支援、その全てが高い水準で纏まっている。

 それに加えて、儀式を通してのさらなる権能の引き出し、出力の増加。今までの神霊堕ろしとは比にならない程の接続深度を以て上位存在への階梯を駆け上り、擬似的に上位領域を踏みしめていた。

 

(──違う!? ()()()()()()()()()()()()()()()……!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えれば、分かる事だった。

 深層まで白蔵主と接続し擬似的な上位存在に至っているフブキで尚ギリギリということを。

 異質の塊である「灰」、封印を解かれ万全ではなくとも神としての能力を発揮するクロ。謂わば、今起こっているのは冠絶闘争。

 ならば、今この場に於いて異質なのは「灰」では無く上位領域に踏み込んでさえいないというのに絶戦に身を置く()()()()()()()

 

 

 

 

 

 視界が純白に染まっていた。ただ、動く体に引っ張られるように思考が加速し、あり得ない高速機動で「灰」と切り結ぶ。

 斬線が余りの速さに重なり、光の波濤と化していた。横から打撃を撃つクロを援護するように向かってくる灰色の暴嵐を捌き続ける。

 百鬼流とも、戦闘理論(鬼剣)とも異なる根本的な動きの次元が上がっている。土壇場にてさらなる覚醒を遂げたのか──それともなんらかしらの()()()()()()()()()()()()()

 

(獣みたいな型の無い戦い方。けど、連撃に規則性がある! 読めないけど、何かしらの理論に則った攻撃だ!)

 

 横一閃に振り抜かれた触手を逆さに跳躍して回避しながら次に放たれる貫手を刀を添えて逸し、返す刀で斬り削る。

 フェイントや戦闘技巧が高いのでは無い、単純に、「戦闘」そのものに特化した機動。数十回切り結ぶなか、奏人はその動きにある種の法則があることを見抜いた。

 

(十二撃目の後に、なんでか中距離を警戒して攻撃を刹那だけ止める。そこを突けば──!)

 

 装甲腕と『紅牙征流』がぶつかり合う度に己の中のリミッターの箍が外れていく。超高速戦闘の最中、何故かそんな風に感じた。

 

 ────もっと、もっとだ。コイツはこの程度じゃ倒せない。まだ足りない。

 

 加速する思考がなにか、別の方向に進んでいるような、そんな感覚を無視し魔力を全身に奔らせる。

 同時に襲いかかった三本の触手を刹那に切り払い、弾くように飛び退いた。瞬間、黒光の神威が胴体を射抜き、変形、「灰」を縛り付けるように拘束する。奏人が察知したように、クロもまたその隙間を認識していた。神威の鞭は軋み、千切れる音を発しながらも「灰」の動きを止める。

 

「オォォッ!!」

 

 与えられた刹那の機会(チャンス)。視認時には既に、疾走している。

 空気の壁を突き破りながら加速に加速を乗せた、理論値を超えた速度。──それすら超えて、臨界点を超越し、音を超え、人が出せる限界を破り捨て、前へ。

 加速音は爆発と聞き間違うほどまで広がり、流された空気が周りを暴れ壊す。

 

 残光すら残さず、姿が消えて。

 一瞬、紅い軌跡が空を描いて。

「灰」の装甲腕、その左腕が斬り吹き飛ばされた。

 

「ォォォウォォ────ットォォ!?」

 

 地面を砕きながら急制動。空気の暴虐により木の粉が辺りを舞う中、それでも尚止まらない奏人を横からクロが掴みそのまま離脱。

 

「おい、お前! どんな無茶してんだ!?」

「…………」

「チッ、聞いてんのか!?」お前もそうやって無茶する側なのかよ……奏人?」

 

 離脱はまだ完了してはいない。左腕を斬り飛ばされた「灰」は機動を止めその場に静止している。

 本能が訴える嫌な予感から逃れるように加速するが────()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ、おい奏人! どうした!?」

「……グッ、ァ……!」

「ちょっ、クロちゃん早く離脱して! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 フブキからの警告を受けてなお、奏人は頭を押さえて、うめくだけだった。

 

(グ、ォォ……! いてぇ……んだよこれ……!)

 

 限界を超えた。活性し励起した全身を循環するエネルギーが最大値を突き破ってあり得ざる次元の速度を叩き出して「灰」を斬って見せた(接続した)

 

「……ツ!?」

 

 クロは見た。奏人の全身に奔っていた蒼い魔力。

 それに、灰塵が舞い落ちるように、灰色が混ざっていくのを。

 

 

 

 

 

 

 走馬灯と、思った。

 自身の限界を疾うの昔に捨て去り、その先を超越して、理外の領域への手を伸ばした。

 その代償なんだと、そう思った。

 

 流れ込まれる。満たされる。塗り潰される。身体が失われ、意識のみがそこにある。

 追憶。誰かが、誰か達が戦っている。何度も、幾度も、闘争の光景は変わらず、血と鉄に塗れていた。

 

(「灰」の記憶、なのか……?)

 

 記憶の濁流。あり得ない光景で、有る訳が無い筈だ。自分はコレのことを知らない。この異質な存在と始めて遭遇した、過去に遭遇したことなど無いのだ。

 だが現実として、これは紛れもなく記憶であった。

 

 

()()()()()

「……お前は」

 

 

 声が響いた。

 

【──ふむ、なるほど。僕の端末と戦っているのか。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 思念が反響する。

 脳を直接殴られたような、小人が暴れているような、その声を聞くたびに激痛が走る。

 

【──だが、君は勝たなければならない。いつかの決着、その日までは】

 

【さあ、抗ってみせろ】

 

 その声が聞こえたと同時。

 世界が、奏人を弾き出す。

 

 

 端末と繋がる。

 思考は端末に伝達し、順当に結果へと昇華する。

 

 故に。

 試練の意を込められたその一撃は、遍く全てを壊す破壊の極光として放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 覚醒と咆哮が同時だった。

 浮上した意識を手繰り寄せて奏人は前へと進んだ。

 全ての魔力を刀身に収束させる。放たれた殲滅の破光。押しのけたクロの叫び。フブキの悲鳴。全てが揺蕩う夢のように、スローだった。

 

 激突する。灰と蒼を纏う紅がぶつかり合い、エネルギーが奔り抜ける。

 灰に染まった視界、抵抗を嘲笑うように全身が軋み、削れていく。

 

 剥き出しになった神経が激痛を訴え、光が埋め尽くしているというのに。

 瞼がただ重くて。

 視界を闇が覆ってゆき。

 

 極光が空へと消えていった。

 振り抜いた『紅牙征流』は歪みなく保持されている。

 奏人は見事にその破光を斬り抜けてみせた。

 だが、代償は余りに重かった。

 

「おい奏人ッ! 返事しろ……奏人!」

 

 静謐。

 主体のエネルギービームを斬り抜くもその余波に奏人は吹き飛ばされた。

 倒れ伏した奏人は、何も語らない。

 

「ッ! この状況で……!」

「わたしが抑える! フブキはそいつ運べ!」

 

 灰の極光を解放した「灰」は、静止すること無く、火花を迸らせ距離を消した。

 黒光を奔らせクロが応戦する。狐火を射出しながら間隙を縫い、フブキが奏人を抱え戦闘の舞台から外れた場所まで移動させる。

 

「……大丈夫ですから。白上が居ない時も、本当に、ありがとうございます。だから、もう大丈夫です」

 

 焦点の定まらない瞳に自らを映し出し。

 そう言い残して、フブキは再度冠絶闘争へと身を投じた。

 

 

 

 

 

「…………ァ」

 

 ぴくり、指が僅かに動く。

 

「…………ァ、ォォ」

 

 腕が地面を押し出す。

 

「…………違う、だろ。それは、違うだろ」

 

 ぼやける視界で先を見る。白光と黒光が灰とぶつかり合う、その光景が嫌に鮮明に見えた。

 それと同時に、フブキの顔を想起する──涙を堪えるような、そんな顔を。

 

「あんな、あんな表情で。大丈夫なわけ、ないだろが……!」

 

 気力を燃料に、立ち上がろうとして。

 鎖に縛られているように、崩れ落ちる。

 

 気力の限界、その先すらも絞り尽くして。

 感情を薪に焚べて駆動しようとしても既に全てが灰に堕ちている。

 

()()()()()()()()……!」

 

 

 カチリと、何かが嵌まる音が聞こえた。

 魔力とは違う、別種のエネルギーが活性し、全身を循環して、世界に展開しようとする。

 それは、可能性の一端。

 凡者が罪業に縛られ、それでも手を伸ばした、一つの到達点────

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

 闇を燃やす赫灼。

 その声を聞くと同時に振り向く。

 その先で、倒れ伏しながらこちらを見てくる──錆下桜士郎がいた。

 

「本気で白上フブキを助けようとするならば、それに手を出すのは辞めておいた方が良い」

「ッ、じゃあどうすりゃ良いんだよ……! もう何も残ってないんだよ、なんにもできないんだよ。それでも助けたいんだよ……!」

 

 もはや嘆きに近かった。

 凡人が、手段を無くした只人が世界に示した慟哭だった。

 

「……助けたいと、何故願う?」

「何度も、何度も助けられた。だから、俺も助けたい」

 

「気概自体は、認めよう。──そうとしても貴様に何ができる?」

「──ッ」

 

 

 何が、できる。

 身体も魔力も、魂すら、使い尽くした。

 大切を、こんな自分に出来た大切を守りたい。その一心で、限界を無視し続けた。

 そして、底を突いた。心のみが進み、肉体は骸のように活力を切らしている。

 

 何が、できる。

 無情なまでに現実を突きつけられた。力が足りないことが、それだけで罪となることを思い知らされた。

 何も為せないことがどれ程に恐ろしいのか、心の奥底を射抜かれた。

 

 

「…………守りたかった」

「……?」

 

 不意に声色を変えて。

 錆下桜士郎が囁いた。

 

「ずっとそう願って、叶えられなかった」

「…………それが、なんだよ」

「俺の存在理由は託された願いを叶えることだ。その為に、白上フブキを殺そうとした。だが──もし、もしも。星川奏人が、未知の希望を齎せるなら」

 

 言葉を区切り、逡巡を見せながら。

 全てを過去に縛られた男は、過去の自身とよく似た、馬鹿みたいに実直に己の想いを叫んだ少年を見通した。

 

「お前の叫びが、意志が本当なら。破却に対する破却を、世界に満ち溢れる悲劇を防ぐ為の悲劇────それを、行わなくて良いのなら」

 

 倒れ伏した桜士郎が奏人に近づく。

 そんな自分を──捨てたはずの希望を信じる己を心の中で嗤った。

 だからこそ、倒れながらも瞳に燃え盛る炎が、眩しく思えた。

 

 

「──それに手を出すのは止めておいた方が良い、そう言ったよな? なら、他の方法が、あるのか?」

「確率は良くて半分──いや、そんな事は関係ないか。あぁ、あるさ」

 

 そうして、奏人の側まで近づいて。

 同じく倒れている奏人の肩に触れて──接続した。

 

「説明をしている時間は無い。だから、これだけ言っておこう。──証明してみせろ。既製のくだらない全てを凌駕する新たな希望を灯してみせろ」

 

 

 分岐点が訪れる。

 明確に変わりゆく、未来が切り替わる。

 

 小さな、小さな積み重ねが大海に波紋を広げる。

 星が堕ちるような大きな波紋は無く、それでも描かれた確かな雫。

 

 既定を覆す異端の特異点が、ここに一つの道を導き出す。

 

 

 

 

 

 

「速い……! クロちゃん、何かありませんか!?」

「──あるにはある! けど()()()()()()()()()()!」

 

 加速し続ける「灰」に二人がかりで追いすがる。

 攻撃を必死に捌き、弾ききれない攻撃は狐火で防ぐ。倒れないように、防ぐ事で限界だった。

 攻撃に回す手数が、圧倒的に不足している。

 手数、そう、それこそ──彼がいれば。

 

「ッ! 無いもの強請りは止めましょう! 無いなら、模索するしかないですよ!」

 

 強引に思考を打ち切り、眼前の敵に集中するよう努める。これ以上彼に求めるのは、酷すぎる。だから私がやらないと──

 

「──あっ」

「──フブキ!?」

 

 そんな思考を続けた。続けてしまった。その結果は単純で、右腕の豪閃を受け損なった。

 その衝撃は刀から腕へと伝播し身を吹き飛ばした。

 

「…………ぅぁ」

「フブキ!! ──チィィ!!」

 

 全身を暴れ狂う衝撃に倒れたフブキの元に駆け寄ろうとして──速度と密度を格段に上げた触手の攻撃にクロは縫い付けられる。

 そうして、「灰」はフブキに向かって歩み出す。

 

(ああ、やっちゃった。ごめんねクロちゃん)

 

 絶体絶命の状況だというのに、思考は麻痺している。

 死が迫って、迫りすぎた。

 

(走馬灯、なんですかね)

 

 やけにゆっくりと世界が動いていた。

 それが死の間際が故の物だと思った。自分が不甲斐ないせいで皆を危機に置いてしまった。それがただ辛くて。

 

「──い、や」

 

 無意識に、死を恐れた。まだ生きたいと全身の細胞が訴えた。

 だが、全てが遅い。

 もう奇跡は起きない。

 動ける者など、誰一人も──

 

 そんな、最悪な終末が迫った中。

 その舞台から少し外れたところで。

 

 

 

 

 

 

「任せたって、何なんだよあの婆──人」

 

 両足で地面を踏みしめ、立ち上がる。

 神域から戻った意識がクリアになっている。

 

 フゥゥ、と息を吐き、心身を連結させる。

 

 そうして、

 

 

 

 

 

「───業人、侵誕」

 

 逆襲が、始まる。

 

 紡がれた起動言語(ランワード)と共に、白い神威が吹き荒れる。

 

 その内にて、流れる神威に身を壊しながら、適合していく。

 

「───業理、掌握」

 

 異端が、誕生する。

 

 秘術の、神霊堕ろしのプロセスを暴き、我が物へと掌握する。

 

 適合した肉体に業理が染み込み、工程が完了される。

 

「───業法、装填──神霊堕ろし【白蔵主】」

 

 ここに、他者が秘術を我が物とする、業人が生まれた。

 

「───フッ」

 

 地面を蹴り出して疾走。脚部から放出された神威がアフターバーナーのように体を押し出す。

 先程の鏡写しのように駆け抜けて──フブキに振り下ろされようとしていた右腕を斬り飛ばした。

 

 

「……え」

 

 背後でフブキが呆然とした声を上げる。

 

「言ったよな、俺はフブキが居なくなるのは嫌だ──だから助ける」

 

 吹き荒れる神威が収束し──背中に九尾を象った。

 

「どっちかが助ける、じゃなくて助け合おう。──一緒に、生きていこう」

 

 そう言って笑いかけて、こちらを見る「灰」に対して。

『紅牙征流』を突きつけて。

 

「だから、こっからは勝たせてもらうぞ……!」

 

 業人が雄々しく勝利を宣誓した。

 

 




本当は桜士郎くんに血の滴る腕を出させて「舐めろ」ってオールマイト顔で言わせようとしたんですけどシリアスどこ行ってんだよ馬鹿って感じでやめました

ぶっちゃけ読者に厨ニな技名とか活動報告で求めたら書いてくれる

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