ホロライブラバーズ トロフィー『数多の業を振るう者』獲得実況プレイ   作:疾走

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正直、今章は伸ばしすぎて地獄でした


EX 汝、只の人でありて───故に世界は加速する

 

 誰かの先に立つ事に、疑問は無かった。

 

 

 昔から殆どの事が分かったし、出来てきた。

 同い年の幼少期と比べれば如実に違いが浮き出る、有り体に言えば天才と言われる側の存在だった。

 自分が他と比べても優れている事は、幼きながら理解していた。それもまた彼女が天才であることの証明だったのだろう。

 

 そこに至る過程がなんにせよ、彼女の意志が何だったとしても、誰かを先導して、手本として生きる事が彼女(白上フブキ)の当たり前だった。

 だから。

 

『フブキが死んじゃうかもしれないのが嫌なんだ』

『どっちかが助ける、じゃなくて助け合おう。──一緒に、生きていこう』

『辛かったらさ、頼ってくれよ』

 

「…………ッ」

 

 思い出そうとしないでも脳は勝手に言葉を再生し、その度に全身によく分からない熱を持つ。

 思考が止まって、悩ましげな吐息が漏れる以外何もできなくなる。

 

 

「…………奏人君……」

 

 死闘の夜から一日経ち、後処理に追われる中、幼馴染みの少年の名を呟き。

 フブキは不透明な迷宮の中で、その初めての感情に振り回されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『白狐神征』

 

 報告者 ■■■■

 

 

 

 狐神『白蔵主』を祀る儀式の最中に起きた次期当主、現秘術の担い手である白上フブキの暗殺を目的とした計画。

 

 ターゲット(白上フブキ)は多数の負傷はあれど、命に別条はなし。

 特別協力者──大神ミオも上記と同様。もう一人の特別協力者──星川奏人は全身の打撲、裂傷、複雑骨折。魔導回路、筋肉の断裂。身体内部の深刻な負傷──を確認。現在は幽世の医療施設にて治療中。

 

 計画の首謀者である錆下桜士郎は星川奏人、大神ミオとの交戦の結果、戦闘不能になるも『灰』(下記)との交戦後()()()()()()()()()()()()()()()

 現在、行方は不明。

 

 多数の犯行者を捕縛。現在、尋問中。

 犯行者の一名の供述により集団のアジトを確認。現在、捜査班が捜査を開始。

 

 

 上記の錆下桜士郎との戦闘後、空に突如出現した謎の空洞──ワームホールより顕れた仮称名『灰』と交戦。

 

 

 白上フブキ、星川奏人、黒上フブキ(下記)は損傷を負うもこれを辛くも撃退。

 その後の『灰』の行方は不明。

 

 

 上記の黒上フブキは白上フブキと零落した神霊の残留思念の因子が融合した事によら発生した亜種神霊であると白上フブキが証言。

 情報不足により判断は見送りと決定。扱いは白上家に一存とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※以降の調査内容は不確定な部分が多いため特別事例として扱う。

 

 上記の「灰」がワームホールから出現時に観測した解析不能の出力波。魔力と似た反応を観測するも詳細の解析は現段階の観測魔導器では不可能であると突発的に作られた研究チームが断定。

 また、各界に居る研究員との情報共有の結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事が発覚。

 詳細な位置情報は不明だが、現地のスタッフリーダは天界と魔界から発せられていると推測。調査を──────に一任。 →  詳細な位置情報は不明だが、現地のスタッフリーダーは天界と魔界から発せられていると推測。調査を──────に一任。

 

 

 

 報告、■■■■。報告終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜『白狐神征』、星川奏人緊急搬送から五日後〜〜

 

 

 

 

 

 緊張。

 今の彼女の心情を表す最もシンプルな言葉はこれだろう。

 

 

 幼少の頃の秘術の担い手に目覚めた時に感じた、周りからの畏敬、利用しようとする強欲の眼差しを突きつけられた時よりも。

 小学生の頃に起こった、学校での怪奇現象とそれに関わる事件に巻き込まれた時よりも。

 中学二年の夏休みに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 今回の、白蔵主との戦闘から続いた「灰」との死闘。連死戦を潜り抜けた時よりも。

 

 そのどれよりも、彼女の脳は正常に回転せず只々熱を生み出すばかりだった。

 熱を逃がそうと着ている着物の袖をパタパタと揺らしながらも歩む足に迷いはなく。目指す先は病院の一角。星川奏人が居る一室。

 

 現界の最新技術を取り組んだ和風ながらも現界の雰囲気を感じる白い廊下を彼女が歩く。途中ですれ違う看護服の医療スタッフが、彼女を目にすると動きを止め、そのまま動かなくなる。

 

 それと似た様子の人間が、彼女の後ろにも数人いた。彼女が通路を進めば進むほどその姿に見惚れる人数は増えていった。

 

 今日の服装は正装でもある着物。『白狐神征』の対象者であり次期当主でもある為に、後処理の量は莫大。そんな中、時間を縫って訪れたせいで着替える暇すら無かった。

 

(えぇ……なんでこんなに見られてるんでしょう)

 

 白上家次期当主としてある程度は幽世で顔は利くが民間人全員に顔が知れ渡っている訳ではないのに。

 

 可憐な白狐は視線を訝しみながらも脚を進め続ける。その軌跡には花吹雪が舞っているようで、周りの人間たちは呆然とその姿を見続けていた。

 

(なにか、変とこあったのかな)

 

 彼女は、自分がどんな顔をしているかを分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 あれから、五日が経った。

 

 あの時の極法が原因か、フブキが目を覚ましたのは丸一日経ってから。限界を超過した権能は肉体と魂に極限の疲労を齎した。

 

 目を覚ました時の、霞の浮かべた安堵の表情は忘れられそうにない。

 あんなにも自身を心配してくれていたのかと、他人事のように思った。

 

 目を覚ました後に検査を行い、異常が無いことを確認した後直ぐに、フブキは積み重なった多量の問題の処理に取り掛かった。

 

 その余りの忙しさに、情緒も余韻も何もかもが吹き飛ばされた。その途中でミオが目覚め安堵のあまり泣きながら抱きついたのは思い出すと少し恥ずかしい。

 そんな状況のせいでフブキは奏人へのお見舞いができずにいた。いや、時間を縫えば行けたかもしれない。だが、その可能性を消したのは無意識(羞恥心)が故だろう。

 

 小さく息を吐きながら、足を止める。

 753番と書かれた扉の前。

 

(───ここ、ですよね)

 

 霞から教えてもらった奏人の居る部屋番号。

 そこに手を掛けようとして、その行き先を変えて袂から手鏡を取り出し前髪をいじる。

 日頃から整えられている髪、しかしここ数日は碌に整えられていない。手で梳かせば、大丈夫。

 一応、顔も確認。母譲りの翡翠の目。うん、何も問題はない。

 

 らしくない、というか何故ここまで何かを気にしているのかが自分でも分からない。

 何となく胸の辺りがムズムズとするのを感じながらもノックをしようと腕を伸ばし────

 

「──ッ、……フゥゥ……」

 

 無意識に戻そうとした腕を見て、息を整え、意を決して。

 その知らない感情に振り回されながら、ドアを叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 白上フブキがドアを叩く、少し前。

 

「…………うん、私も大分長く医者をやってきたけどここまで回復力が高い人間は始めてだね──君本当に人間かい? 吸血鬼とかって言ってもらったら納得できるんだけど……」

「いや……生まれながらの只の人間ですね……ほら、四日も寝込んでたじゃないですか」

「あのね、只の人間はあの重傷から五日程度で目を覚ましたり果てには回復したりはしないんだよ」

 

 君マジで死にかけてたし何で生きてたか分からないぐらいだったからね? とぼやく医者に対し、いやもうほんとにそれなとしか言えねぇ。火の玉ストレートな正論を捌くには俺の舌の実力は足りないため苦笑いを浮かべ誤魔化す。

 正直な所、俺自身この人間離れした回復力には引いている。気分はイーサン・ウィンターズだ。

 

「はぁ……なんというか、イーサン・ウィンターズを診た気分だよ」

 

 イーサンじゃねぇか。

 

「マジかよ!」

「残念ながら此処はベイカー家でも無いし四貴族もいないんだ」

「マジかよ……」

 

 悲しい事に俺はカビ人間ではないようだ。その事実になんだか一抹の寂しさがあったのは病み上がりだからだろう。気を取り直して医者の話に耳を傾ける。

 

「冗談を抜きにしても、君の体に異常は無い。そのこと自体が異常なんだけど……一応、今日様子を見てその後を決めるけど、このまま行けば明日、明後日には退院だろうね」

 

 それまでは安静でいること、と言い残し医者は立ち去っていった。言葉として言われてはいないが武器とか出してたら確実に怒られるんだろうな。

 普通に快調な為、ゲーム機などが無いこの状況は地味に辛い。人間とは出来ない事に焦がれてしまうのだろうか、無性に青ざめた血を求めたい。

 

「…………ちょっとなら、大丈夫だろ」

 

 一度退屈を意識すると、もう耐えることは出来ない。

 この五日で使用可能なまでに回復を遂げた魔導回路を展開し、武器転送(アポート)で先ず壊れた『八式』を取り出す。

 

「…………ありがとな」

 

 機械仕掛けの黒塗りの刃、その半ばから折れた姿を見ながら呟く。無茶な使い方を何度もして、その全てを耐えてくれた、短い間の相棒。修復は可能なのだろうか、あの隣町の鍛冶師なら分かるだろうと結論を出してもう一度その姿を眺める。

 

 何か、懐かしい様な、過去を噛みしめるような、そんな感傷が湧き出る。この刃には、剣としての機能以外にも何か役割があったのではないかと、何故か思えた。最後に刀身の腹を軽く撫で、戻しそれと交換する形で『紅牙征流』を取り出す。

 

 嘗て鬼から貰った、過去の結晶とも言うべき日本刀。鞘から抜き出すと紅い刀身が姿を表す。その刃紋は流水の様で柔らかく、されど力強さを感じさせる。一切の整備をしてなかったというのにここまで美しい刃に感嘆と申し訳無さが溢れる。帰ったら整備を頼むか、いや、この際自分で器具を整えてやってみようか。

 

 貰った当時は身長と刀の大きさが釣り合っておらず禄に振ることすら出来なかったが今の身長ならば振れる。いや、身長に対して適正な大きさと言える。

 その刀身に映された自分の顔は嬉しさと恐怖と寂しさがごちゃまぜになっている。気を抜けば柄を握った手が震えそうになった。

 

「──フゥゥ……それでも、向き合うんだろ」

 

 未だ、挫折を乗り越えはいない。あの才能の壁はまだ無慈悲に現実を突きつけてくる。バトルロワイヤルで見た彼女の埒外の実力は脳裏から離れない。

 それでも、その全部を受け入れて、向き合う。そう、自分で決めた。

 

 

「もう一度振り方から見直さないとな」

 

 今回は極限状態で過去の振り方をなんとか再現できていたが思い返せばその軌道は余りに杜撰だ。身体操作術と戦闘理論(鬼剣)でその技量を補っていたが今後もそのやり方を続ければいつかはボロが出るだろう。

 

「──鬼剣、なぁ……」

 

 軽い暇つぶしのつもりで武器を取り出したがあの戦闘の記憶の想起(リフレイン)が止まらない。

 あの一瞬で作り上げた理論。それだけ聞くと突貫のその場しのぎに聞こえるがこの理論は今までの戦闘経験から無意識に作っていた理論を形として出力しただけだ。俺の思考速度は、トップクラスとは言い難いが上位の速さはあるだろう。それを全面に出した即応戦闘を可能にする理論。これから極めていけば、いつかは────

 

「あやめに、追いつけっかな……」

 

 この旅行に行く前までのモチベーション消失からコペルニクス的転回を遂げ何処までもやる気が溢れてくる。

 技量磨き、失った武器の新調、新たな魔法の習得。今まで魔法は独学でやってきたから誰かに教えを請ってみようか。

 失った武器の他にも新しい武器種を追加して戦術幅を広げたい。理論の関係上、手札は多ければ多いほど対応力は底上げされる。大剣や戦闘鋼線(バトルワイヤー)、蛇腹剣、銃。少し齧った武器はかなりある。その中から何か良いのがあれば使ってみるか。

 アポートで取り寄せたウエスに刃物油を馴染ませながら思考する。溢れる考え、だがその前には余りに大きい問題がある。

 

「金、がなぁ……」

 

 資金。

 人を人たらしめる一面には金融が存在する。それがあるからこそ俺たちは秩序だった日常を送れているのだろうが今はその概念が余りに疎ましい。両親からの仕送りがあるとはいえ生活費を除けば資金は潤沢とは言い難い。バイトでは時間がかかり過ぎる。何処かに物好きな金持ちがいたりしないかな、まぁ現実的なのは便利屋の真似事だろう。武器以外にも防具が欲しい。今回の戦闘で籠手の重要さを痛感した。

 

 油を染み込ませたウエスで紅い刀身を撫でていく。油に濡れた刃が鋭くてかっこいい。その美しい刃を鞘に収め、戻す。

 

 骨が何本も折れて失血死寸前まで血を流した。何回も降り注ぐ絶望に心は折れかけ、いや折れてしまった。心臓や血管が溶けたと思うようなストレス(精神的疲労)。魂ごと引き千切られたような激痛。

 

「けど、勝てた」

 

 あの日から。

 歴然と突きつけられた才能に吹き飛ばされた意志。

 心を折られその背中に絶望した自分。

 

(少しは、前に進めたかな)

 

 そこから少し、進めた気がした。

 

 

 

 

「…………眠っい」

 

 途中から寝転んで思考していたからか眠気が湧いてきた。

 今日は安静にしとけ、と言われたのだから休める時に休んでおこう。

 頭にまとわりついた重い眠気は瞼にものしかかる。その重さに逆らわず閉じようとして───

 

 

 コン、コン。

 

 ノックの音が聞こえて、気怠さを抱えながらも閉じかけた目を開いた先で。

 

「……失礼します」

 

 今回の事件の中心人物で我が幼馴染、白上フブキが幾分か控えめな声で入ってきた。

 横たわったまま視線のみを向けていた体を慌てて起こす。眠いからと言ってその姿は余りにも感じが悪いし間抜けだ。

 

「お見舞い、遅れちゃってごめんなさい」

「いや、そんな」

「…………調子は、どうですか?」

「あー、調子? まぁ普通かな」

 

 なんか、違くね? 

 今までと、微妙に違う。会話のテンポ。息を吸うリズム。今まで──それこそ小学から中学、高校ときて数多く二人きりなることがあったが、僅かに、しかし確実に、何かが違った。

 

 胸の奥につっかえる違和感のせいで話の切口が行方不明になる。環境音のみが響く、奇妙な空白。フブキも着物の裾を握りしめてもの憂げな表情で止まっている。流石にこの気まずさは耐えきれん。

 違和感を無理矢理呑み込んで、口を開く。その瞬間。

 

「…………ごめんなさい」

「──へ?」

 

 切り出された言葉は予想の斜め上を飛んでいる。え、何で謝ってんの? フブキが謝ること、何も無くね? 

 

「今回の件、無関係の貴方を、巻き込んでしまって、ここまで傷付かせてしまって、本当にごめんなさい」

 

 そう言ってフブキは頭を下げる。よく見ればその体は僅かに震えている。まるで何かに押し潰されかけているような────あー、そうゆうことか。え? フブキ、こいつマジで何にも分かってねぇじゃねぇか。

 

 こういう時は、空気を切り替えないと何も始まらない。

 よし、一発くれてやる。

 

「──フブキ」

「え、あ、何です────ニャ!?」

 

 顔を上げたその額に引き絞った指を思いっきり弾く。

 デラウェアスマッシュ!!! 

 流石にOFA(魔導回路)を使用はしないが男子高校生の筋力を舐めてはいけない。かなりの音と反動の衝撃が確かな手応えを実感させる。

 

「いっ、な、何するんですか!?」

「ええい、うるせい! 何にも分かってないバカタレにはデコピンがお似合いだ!」

「何にも分かってないって、白上は巻き込んだことを謝っただけ───」

「それが分かってないって言ってんだよ!」

 

 ギャーギャーと、子供のように言い合う。

 みっともないと思うかもしれないが、この場の雰囲気は変わった。

 

「あのなぁ! 何度も言ったろが、一人で抱え込まなくていいんだよ!!」

「ッ、でも私には出来た筈なんです! 霞さんもミオも奏人君も傷付かないでいい、そんな方法を見つけて、やれた筈───やらないといけないんです!」

「思い上がってんじゃねぇ! 万が一にもそんな可能性があったとしても結局俺たちの協力無しじゃ駄目だったろ!」

 

 ぶつける。自分の思いの丈を、相手に目一杯ぶつける。

 単純で、馬鹿馬鹿しい、喧嘩みたいな言い争い。

 

「だから! 白上は謝ってるんです! 出来た筈なのに、無駄に傷を作られちゃったことを、それは()()()()()()()!!」

「───そこが違ぇんだよ! 謝る必要はねぇだろ!」

「でも、私なら」

「ああもう! 次から『でも』と『私なら』禁止な!?」

「でも───あ」

 

 こいつ頑固過ぎだろ。こんだけ言ってもまだ分からねぇの? 

 もっと、強く。そうしないと届かない。

 

「ずっと、助けられてた俺が言っても説得力は欠片も無いけど! ───頼れよ!!」

「確かにフブキ、お前はすげぇよ。大体何でも出来る天才だよ───それでも!!」

 

 畳み掛ける。

 一方的に気持ちを言葉に出力して投げ続ける。

 一人でやろうとすんな、だってお前も───

 

()()()()()()()()()!」

「意地っ張りで寂しがり屋で照れ屋でゲーム大好きでオタクで狐耳で顔が良くて声も良くて何時も歌も上手い。良いとこも悪いとこも、どっちもある只の人間だ。神様なんかじゃない」

 

 天才とは言い難い。才が有るかと言われれば否、と大半の人間が言うような、そんな人間。それが星川奏人()で、俺だからこそこの天才に言ってやらないといけない。

 

「何か特別を為さなくても良い、居てくれるだけで、一緒に笑えるだけで、良いんだ」

 

 例え特別であろうとも、天才であろうとも、唯そこにいる人間の一人なのだから。

 

「困ってんなら絶対助ける、崩れそうなら何があろうと支える、耐えれなくなったなら必ず守る───だから、頼れよッ! 俺を!!」

 

 笑い合う。只それだけで、その程度でいい。

 その日常が、好きなのだから。

 

 

「……大変なことも、色々頼んじゃうかもしれません」

「任せろ、フブキの頼みなら何でも引き受ける」

 

 狐耳が、迷うように左右に揺れる。

 

「……迷惑かけちゃうかもしれません」

「そんなこと気にすんな。何も言われないほうが迷惑だ」

 

 翡翠の目が、戸惑うように動く。

 

「……意地張って、面倒くさくなるかもしれません」

「今更だろ。もう慣れっこだし、それを嫌だなんて思ったことはねぇよ」

「……一緒にゲームやってくれないと勝手に拗ねるかもしれないです」

「元から誘われれば一緒にやるから問題はないな」

「……側に居てくれないと、泣いちゃうかもしれません」

「───なら、側に居るよ」

 

 

 

「───ずるいですよ」

 

 困ったようにふにゃりと笑いながら、その目には透明な涙が溜まっていた。

 優しい頑固者(白上フブキ)は堰を切ったように想いを溢す。

 

「そんな、頼れって……何でそんなに」

 

 格好つけさせてくれない(言って欲しい事を言う)のだと。

 

「白上、頑張ってきたんですよ? みんな、期待してきて、それに応えれるようにって……」

「それが求められてるんだからって、出来ること全部やってきたんですよ?」

「辛くても我慢して、ずっとずっと頑張ってきたんです……」

 

 この想いを遮ってはいけない。

 それを受け止める事が幼馴染み()の仕事でやると決めたことだから。

 

「我慢して堪えて背負って───なのに、そんなこと言われたら頼りたくなっちゃうじゃないですか」

 

 フブキはそう言いながら胸板に頭を押し付けてくる。甘えるような、そんな仕草。

 

 何何何何何何何何何何何何何何。

 え、どうすりゃ良いの? 髪の毛柔らかいし何かいい匂いするし。

 唐突に訪れた混乱の極地の中で手はゆっくりとその綺麗な白髪を撫でる。

 

「……ほんとに、助けを求めたら救けてくれるんですか?」

「──当然だ。望むんなら何度でも」

 

 グス、と涙ぐむ音が聞こえる。

 

「心配、したんですよ。白上のせいで倒れちゃったって」

「それは、ごめん」

「怖かったんですよ。白上のせいで死んじゃうんじゃないかって」

「それも、ごめん」

「…………もうちょっと、撫でてください」

「あぁ」

 

 その固まりきった責任感を溶かすように、優しく頭を撫でる。安心させるように、丁寧に髪を梳かす。

 そこから暫くは啜り泣くと髪に手が触れる僅かな音だけしか聞こえなかった。

 

「……ありがとうございます」

 

 フブキは長くは泣かなかった。

 時間を数えていないが十分あるかないか程度の、少しの時間。

 

 顔を上げたその瞳は少し赤くなっていたが表情は落ち着いている。

 頭を撫でたのが効いたのかは分からないが、俺の頑張りに意味があったと願いたい。

 

「泣いておいてなんですが、そろそろ戻りますね」

「ん、大丈夫だぞ」

 

 そう言って立ち上がったフブキはドアに手をかけ、振り返る。

 

「奏人君」

「ん?」

「───ありがとうございます」

 

 振り返ったその顔は、満点の笑顔で、思わず見惚れた。

 呆けた顔を晒しながらドアの奥にフブキが消えるのを見送ったあと、ベッドに倒れ込む。

 

「……その顔は反則だろ」

 

 手を押し当てた顔が、妙に熱かったのは、俺の気の所為ということにしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 浸かった湯船のお湯が、フブキの体に熱を伝えてくる。玉のような肌が熱を帯びて艶めかしく赤くなる。

 

「奏人、くん……」

 

 名を口にしてみる。

 途端、胸の奥にポカポカとした温かさが湧き上がってくる。

 その熱は、風呂の熱と相まってフブキの思考を緩くしていた。

 

「かっこよかったな……」

 

 感情は思考を介さず無防備に出力され口から零れだす。

 そう、今日の真剣な表情は思い出せばとても格好良かった。それに、あの戦いのときも────。

 

「あ、れ?」

 

 違和感。

 なにか、大事なことを忘れているような、胸がモヤモヤとする。

 ふにゃりと溶けていた脳が思考を取り戻す。

 何か気づいていたい物を、考えて考えて考えて───。

 

 

『フブキが死んじゃうかもしれないのが嫌なんだ』

『どっちかが助ける、じゃなくて助け合おう。──一緒に、生きていこう』

『辛かったらさ、頼ってくれよ』

 

 今日まで何度も思い返した、奏人が言った言葉(おもい)

 今日、本人と会って話して、ただ分からなかった感情に温かさが流れて。

 

(あの言葉って、完全にプロ───!?)

 

「え、あぇ、え?」

 

 燃え上がったように顔が、体が熱い。お湯の熱とは違う心から広がる熱。

 どくん、ドクン。心音がうるさい。血管を、骨肉を、鼓動が突き破りそうだ。

 

 知らない。

 こんな感情は知らない。

 

 何もしなくても顔が思い浮かんで、鼓動が高まり、顔が熱くなる。そんなの、まるで恋───

 

「だ、だって奏人君は手を引っ張ってあげなきゃいけない子で」

 

 星川奏人はその深奥に覇気が無い男の子だった。折れた心をそのままにし、摩耗していく精神をフブキは手を引いて直していった。

 そう、フブキの中で星川奏人は弟のような守らないといけない存在で───。

 

「頼ってくれ……ふぇ? え、あぅ……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 守られるような存在だった筈の少年は、自分を救けるために立ち上がった。

 その事実が恋火を燃やす薪となり、どこまでもどこまでも燃え上がらせる。

 

「これ、白上ほんとに奏人くんが……す、き…………あわわわわわ」

 

 確定だった。いや、元から落ちていた事に、ようやく気づいた。

 頭を含めた全身を湯船に沈める。水の中で、その恥ずかしさから逃げるようにフブキは目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、目が覚めたかい。錆下桜士郎?」

 

 意識が覚醒した瞬間に、夢だと認識した。自分は星川奏人に負け牢獄に囚われている筈なのだから。

 無意識に動かそうとした体に激痛が走る。脳に直接電流を流し込まれたように、意識は漂白の彼方に流れそうになる。

 

「ガッ……! 夢じゃ、ないだと?」

「おっと、動かないほうが身のためだよ。彼もオーバーレベルだけど君も同じぐらいボロボロなんだぜ?」

 

 大人しく声に従い、視線のみを動かして周囲を確認する。

 

「それにしてもタフだねぇ。まだ一日どころか半日も経っていないというのにもう意識が覚醒するとは」

「ここは、空か……?」

「この状況で無視とはやるじゃないか」

 

 自分を背負っている人を食ったような男とまともに取り合ったら負けだ。

 それに、もはや自分の生に意味はない。目指した未来は今を生きる少年に破られ、消え落ちた。だが、あの男なら何とかしてくれるだろうと、そう思った。思ってしまった。

 

「もう捨て置けよ、俺の使命はもう───」

「───破却へのカウンター。星川奏人なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッ!」

「クックック、『業人』、業人ときた。()()にはこれまでのプランを全てサブへと移行して、賭ける価値があるんだ」

 

 そこで男は言葉を切り、説明から本題へとシームレスに移行した。

 

「となると彼の能力を解析して伸ばす方向を定めないといけない」

「まぁ、ようするに───リベンジする気はないかな?」

 

 言葉の意味を理解するのに数秒かかった。

 そして意味を理解した桜士郎は、腹の底からの爆笑した。

 

「フッ、ハハハハハハハハハ!!!!」

 

 意味を無くした男に。

 負けたのだから巻き返してみろと。

 なるほど。それなら、腑抜けてはいられない! 

 

「お気に召したのなら何より。───ということでスカウトだ。リベンジと、サブプランの一つとして、世界を救う組織に興味はないかい?」

「あぁ、それはいいな……面白い」

「話は決まったね」

 

 四肢に纏った駆動装甲が唸りを上げながら充填されたエネルギーを炸裂させ空を駆ける。飛翔ではなく推力を放出しているだけのある種の原始的とも言える駆動機構。

 

「こうやって推力として扱うなら『三式』じゃなくて『四式』とか『九式』の分野なんだけど……まぁ実戦にまだ耐えれないとはいえこんな力押しになるとは……」

 

『八式』は壊れちゃったし……とぼやきながら男は幽世の外れに着地する。力任せな着地機動に地面が抉れ木々が吹き荒れる。

 

「よっとっと……いやぁ荒くてごめんね。こうゆう場合の精密運動は苦手なんだ」

「グッ、っ…………!! 先に言え……!」

 

 軽口を交わしながら何も無いはずの岩肌に歩く。その歩きに迷いはなくその先に何かがあるかを知っているようだった。

 

「ふん……なんだホグワーツにでも向かうのか?」

「申し訳ないがここは9と4分3番線ではないし溢れているのは()()()()()()()だよ」

 

「さて、先ず僕の名前はロイド、ロイド・ユグドーラ。以後よろしく頼むよ」

 

 顔にかかった豪奢な長い金髪を払いながら、男──ロイドは自身の名前を告げた。そして、蒼穹のような蒼眼を真っ直ぐに向けながら目的地───光学迷彩フィールドが施された大型ゲートの横にたどり着く。

 

「では歓迎しよう。方舟機構(ノア・ゼーション)へ。───さぁ楽しい楽しい世界救済RTAを始めようか」

 

 

 

 こうして力を渇望した少年は全てを受け入れて前に進みだした。

 不条理に抗うための業。見つけ出した理由。淀みすら背負う覚悟。

 

 ならば、きっと何処までも───

 

 

「え、あちょ、な、ナースさん? いやマジすいません。いや何かちょっと暇だから軽く刀振ってただけじゃないですか。え? 明日まで動けないように拘束? え、勘弁してくださ───マジすいませェェん!!」

 

 ───何処行く気なんだよ

 




R T A スタート。尚操作されるキャラ(主人公)は勝手にチャートを壊す模様。
あと描写忘れてたんですけどフブキが大勢に見惚れられてたのは恋すら少女は最高に可愛いということです。

というわけで一章『白狐神征』、完!
来週辺りには現時点の登場人物のまとめとか出すと思います

ぶっちゃけ読者に厨ニな技名とか活動報告で求めたら書いてくれる

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