ーアイリsideー
ーーーーその日、美神アイリは夢を見た。
それは十年前、美神アイリになる前、幼い彼女は記憶が無く、宛もなくフラフラと、後に東都となる地区の浜辺を彷徨っていた。
後に聴いたのだが、当時日本は四つに分割される『大規模な時空震動』が起こり、日本中が大パニックになってしまった。自分はその混乱の中で記憶を失ったのだろう。後で調べてみたら、自分のように家族を失った人達や、そのショックで記憶障害を起こした人達も少なからずいたようだ。
記憶も無く、帰る家も家族もなく、やがて空腹と疲労で少女は倒れた。視界が真っ黒に落ちていく中、浜辺にやって来た車と、その車から下りて自分の元に向かってくる、一人の少年がいた。
その時ーーーー少年の上から、『羽』が舞い降りてきた。が、少女はそこで気を失った。
そして、目を覚ました少女は、その少年の屋敷で保護された。大パニックになった日本で病院もマトモに機能しなかったからだと言われた。少女は少年に自分の事情を分かっている範囲で伝えた。
そして少年は、宛のない少女にこう言った。
【ーーーーウチで働けば良いよ】
丁度、少年の屋敷も時空震動によって家族を心配し、多くの使用人達が辞めてしまって人手不足になってしまった。
少女は、少し困惑するが、少年からの勧めもあり、その屋敷ーーーー『神宮寺家』の使用人となった。
それから少女は使用人としての作法と礼儀、炊事・洗濯・掃除・裁縫・お茶の淹れ方から身だしなみの勉強。さらには主を守る為の戦闘術から刀剣類や銃の扱いから爆弾解体術まで、ありとあらゆる技能を身につけていった。
幸いなのか、自分は手先が器用で物覚えも良かった方なのですぐに認められ、少年と歳が同じなのもあって、少年の執事‹バトラー›兼メイドとして、その少年ーーーー神宮寺レンの側に控えるようになった。
* * *
「・・・・・・・・懐かしい夢だ・・・・」
美神アイリは目を覚ます。
時刻は午前五時半。同室の小手川唯を起こさないように心がけてベッドから降り、寝間着から運動着に着換え、部屋を出てそのままシャワー室へと向かい身体を洗う。
新雪のような白い肌。美しい銀色の長髪。ララや唯より大きく形もキレイな胸。それでいて腰回りは砂時計のように見事にくびれ、程よい大きさと綺麗な形をしたお尻から伸びるスラリとした長く綺麗な脚。女性の理想とも言える完璧なプロポーションにシャワーのお湯が流れる。その姿はまるで美の女神のようである。今からグラビアかモデルをやっても十分過ぎる程に通用する美貌と身体付きだ。
「♪〜♪〜♪〜」
アイリは鼻歌交じりに身体を洗い終え、濡れた身体についたお湯を拭き取ると、運動着を再び着て、部屋に戻り制服に着替える。
「むぅ〜・・・・・うぅっ、ふわぁ〜・・・・あっ、おはよう美神さん」
「おはようございます。小手川様」
六時半頃、ルームメイトの唯が起床してきて、アイリは小さく会釈した。
「今日も神宮寺くんを起こしに? 許可を得ているからって、女子が男子寮に行くのはどうかと思うわね。神宮寺くんも自分で起きれば良いのよ」
「そう言わないで下さい。レン様がご自分で起きて髪のセットができるようになっては、私の仕事がなくなってしまいます」
生真面目な唯が苦言を言うが、アイリは苦笑する。
そのまま唯は朝シャワーに行き、アイリは男子寮へと向かった。
「あっ、アイリさん!」
と、男子寮の前で、赤と白のトレーニングウェアを着た音也と、青と黒のトレーニングウェアを着た真斗、ピンクと黒のトレーニングウェアを着た翔、黄色と白のトレーニングウェアを着た那月がいた。
四人とも少々汗ばんでいたので、トレーニングをしていたのがわかる。
「おはようございます。一十木様。聖川様。来栖様。四ノ宮様。朝早くからトレーニングですか?」
「おう! ライディーン戦士になってから早朝ランニングから筋トレもしてるぜ!」
「真斗くんが、僕達用のトレーニングウェアまで用意してくれたんです!」
「ありがとう真斗! 凄く着心地良いよ!」
「いや、共に戦うのだからこれくらいは・・・・」
少し照れる真斗にアイリは微笑ましそうに笑みを浮かべてから話し出す。
「聖川様。レン様は?」
「・・・・まだ寝ている。美神も苦労するな、本当に」
「いえ。では、失礼します」
真斗が半ばレンに呆れながら言うと、アイリは苦笑しつつも、寮に入っていった。
ー真斗sideー
「アイリさん。大変だなぁ」
「あっ、見てください。寮の皆さんが次々と何気なくを装いながら出てきてます」
アイリが寮に入ると同時に、何人かの男子が現れてアイリに挨拶をしている。
「流石は、『一学年美少女四天王』の一人って所だな」
「何だ来栖、その『四天王』と言うのは?」
「あぁ。何でも、ララや西蓮寺、小手川とアイリって、一学年でも特に美少女の四人で、『一学年美少女四天王』って呼ばれているんだよ」
アイドル志望が多いせいか、美形が多い早乙女学園の中でも、天真爛漫なララ。清純でお淑やかな春菜。生真面目委員長な唯。クールビューティな執事兼メイドのアイリ。それぞれタイプの違う美少女達が注目されるのは当然と言える。
わざとらしくアイリに話をする男子達だが、アイリは小さく笑みを浮かべて軽く受け流し、レンと真斗の部屋に向かっていった。
「・・・・取り付く島もねえな」
「男子の皆さん、ちょっと可哀想ですね・・・・」
「アイリさんも、良く流せられるよね・・・・」
「・・・・美神は俺と初めて会った時から、神宮寺一筋だからな」
その様子に苦笑しながらも、音也達はトレーニングを続けた。
ー音也sideー
ーーーー♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪
その日の昼休みの早乙女学園・中庭。
音也、真斗、那月の三人はダンスのテストに向けて練習をしていた。因みにクラスの違う翔は今は欠席している。
「わぁ〜・・・・!」
「「・・・・」」
ララと春菜と唯は、三人のキレッキレなダンスに目を奪われていた。ダンスが終わると、那月と音也が口を開く。
「ーーーーいかがでしたか? 僕達のダンスは?」
「テストが来週なんだ。合格できるかな?」
「凄いよ三人共!」
「うん。素敵だった!」
「何か、コッチまで気持ちが弾んできそうだったわ。コレなら試験も大丈夫ね」
「やったね!」
ララ達が絶賛し、音也と那月は笑顔で頷き合う。
が・・・・。
「ーーーーまだまだだ」
「「えっ?」」
真斗がまだまだと言った。
「リズムの取り方が甘いし、『完璧』にはほど遠い」
「・・・・・・・・だってさ・・・・」
「テンポ、落としましょう・・・・」
「・・・・うん」
ストイックな真斗の言葉に、音也と那月は肩を落とした。
ーーーーきゃ〜! きゃ〜! きゃ〜!
『ーーーーん?』
一同が女子の黄色い声援を聴いて目を向けると、神宮寺レンが多くの女生徒を連れて歩いていた。
何故か、その手にピンク色の薔薇を一輪持って。
「ーーーーあんまり美しい薔薇だったから、薔薇園ごと買い取ったのさ。誰かに、プレゼントしようと思ってね♪」
「あっ! もしかして、アイリさんにですか!?」
「レン様とアイリお姉様! 凄い絵になりますから!」
「ふっ、アイリだけが特別ではないさ。俺にとって、君達もーーーー愛するレディだからね」
薔薇を持って歯の浮くような台詞を吐くレン。それを聞いて盛り上がる女子達。
『・・・・・・・・・・・・』
「・・・・よくあんなキザな台詞を喋れるわね」
真斗以外がポカーンとする中、唯が呆れ混じりにそう言った。
「神宮寺レン。彼はきっと、恋の女神に愛されているのですよ」
「・・・・くだらん」
『え?』
那月の言葉を真斗はバッサリ切り捨てた。
「さぁ、始めるぞ」
「あっじゃあ、最初から・・・・」
「いや一十木、三つ目のフレーズからにしよう。ここからのキッカケを正確に捉えたい」
音也がスマホを操作すると、真斗がそう返す。その時ーーーー。
「ほぅ・・・・いつからアイドルに、そんなに意欲的になったのかな? 聖川?」
レンが近づいてくると、春菜に薔薇をプレゼントした。
「子羊ちゃん♪ 良かったら遠出しないかい? 一緒に海風に当たる相手を探していたんだ」
「えっ!? こ、これからですか!?」
「もちろん♪」
レンがウインクをすると、春奈は顔を赤くし、身体をビクッと震わせ、アワアワとなる
「えぇええええええっ!? そ、その! えっとあの! ア、アイリさんに悪いですし! そ、それに私、す、すすすすすすす!!////////」
音也の方を一瞬チラッと見て狼狽える春菜。しかし、レンはにこやかに笑みを浮かべているだけだった。
見かねた唯が口を開く。
「ーーーー落ち着いて西蓮寺さん、からかわれているだけよ」
「えっ?」
「コイツの言う事を信じてはいけない」
「酷い言われようだな。ーーーー外れちゃいないけど」
飄々とするレンに、唯と真斗が目を鋭くする。
と、その時。
「ーーーーレェェェェン!!」
翔がレンの名を大声で呼びながら走ってきた。
「お前、作詞の課題どうすんだよ!? 今度出さなかったら厳罰だって、あれほど日向先生に言ってたの忘れたのか!?」
「だったかな?」
翔の言葉を、レンは頭を振って髪をなびかせながら惚ける。
「【だったかな?】 じゃなくて言ってたんだよ! 前の時だってアイリが日向先生にわざわざ頭を下げて謝罪して何とか見逃して貰ったけど、もうーーーー」
「ーーーー神宮寺レン!」
「あっ!」
「日向先生!?」
と、翔がレンの真似をして怒鳴るが、日向先生がやって来た。
「やあ! 日向さん!」
「授業はサボり、課題は一切出さない。今までお前の執事兼メイドの美神が必死に頼み込んで代理をしていたから、ある程度は見逃してやっていたが。これ以上フザケた態度が続くなら容赦しねぇ・・・・!」
日向先生はレンを指差して最後通告をした。
「即刻退学だ!」
「えっ!?」
「た、退学!?」
「っ! ま、マジで!?」
ララと翔と音也が驚くが、レンをフッと笑みを浮かべ、日向先生に近づき、ボソッと呟いた。
「ーーーー日向さん。俺の大事なアイリの前では、そんなしかめっ面はやめてほしいな?」
「その大事な美神に頭を下げさせて知らんぷりしている野郎が、調子に乗ってんじゃねぇぞ神宮寺」
「ふっ・・・・」
レンはそう言うと、その場を去るが、日向先生がその背中に向けて声を張り上げる。
「俺はマジだぜ! 明日の放課後までに評価を得られなきゃ、この学園から出てってもらう! 良いな!?」
「・・・・・・・・」
レンは何も言わず、Byeと手を上げて、女の子達と去っていった。
「本当にいい加減ね、神宮寺くん」
「ーーーーレン様!!」
レンが去ってすぐ、唯が厳しい目で吐き捨てるように言うのと同時に、普段のクールビューティーから想像できない慌てた様子のアイリが中庭にやって来た。
「あ、アイリ!」
「あぁ皆様! レン様をお見かけになりましたか!?」
「レンならさっき女の子達を連れて、アッチに行ったぜ」
「ありがとうございます!」
「美神」
「っ! 日向先生・・・・!」
「今神宮寺にも言ったが、明日の放課後までに課題を終わらせなければ、即効退学にする」
「ぁっ・・・・! こ、今夜は、家の用事で外泊をする事になっていますが、明日には必ず・・・・! では!」
顔を青ざめるアイリは、頭を下げてレンを追いかけていった。
「ふぅ、皆、すまないが、練習はここまでにしよう」
そう言って、真斗も中庭を去って行った。
「レンと真斗、幼馴染みなのに性格正反対だねぇ・・・・」
「えっ? 真斗とレンって、幼馴染みなの?」
音也の言葉にララが聞き返し、那月と翔が説明する。
「そう。真斗くんは『聖川財閥』の跡取り息子で。神宮寺くんは『神宮寺財閥』の御曹司なんです」
「親同士の関係で、子供の頃からの知り合いらしいぜ」
「それなのに、今はなんか険悪な感じだね」
「ーーーーあっ、そうだ」
春菜がそう言うと、日向先生は何かを思い出したのか、懐から茶封筒を取り出して、音也に渡した。
「一十木。学園長からの届け物だ。手紙も入っているから呼んでおけよ」
「は、はい!」
日向先生からの封筒を、音也は受け取った。
「・・・・・・・・・・・・」
封筒を渡すと、一瞬、日向先生は何処か申し訳なさそうに目を細めながら、音也と翔と那月を見る。
「日向先生?」
「・・・・・・・・無理はするなよ」
そう言い残し、日向先生が去っていくと、音也は茶封筒を開け、中にあった手紙と四枚の招待状が入っており、手紙に目を走らせた。
「【ーーーー今晩。招待状に書かれている場所で、『ゾディアックオーブ』が出典されるかも知れないので、向かって下さい♪ 皆さんやミス・デビルークにミス・西蓮寺にミス・小手川の外泊許可は取っておいてありマッスル】、っ! 『ゾディアックオーブ』!?」
「招待状に書かれているのはーーーー〈北都〉の『ホテル・アグスタ』で開かれるオークションのようだな」
「では、『出典』と言う事は、『ゾディアックオーブ』はオークションの品と言う事ですね」
三人はコクリと頷き合うと、ララと春菜と唯は、何も起きないで欲しいなぁと、淡い願いを思った。
ー真斗sideー
「ーーーーわかった。〈北都〉の『ホテル・アグスタ』だな。後で合流しよう」
スマホで音也からの連絡を受けた真斗は、通話を切って自室に戻ると、何やらタキシードを選んでいるレンがいた。
真斗とレンの部屋は、出入り口のドアを中央に二つに別れ、真斗の方は畳まで付けた和風に、レンの方はカジュアルな部屋模様となっていた。
「・・・・何をしている?」
「今日は夜にパーティーがあるんでね。その衣装選びさ♪」
「・・・・美神とは会ったのか? 日向先生の話を無視してれば、また美神が頭を下げるのだぞ」
「・・・・お前には関係ない」
素っ気なく答えるレンに、真斗は自分の机に向かった。
「(・・・・俺達の気持ちは、交わる事はない。あの頃とは違ってしまった)」
真斗が思い出していたのは、初めてレンとアイリに出会った日の事だ。
千冬が家を聖川家を飛び出してすぐ、とあるパーティーで出会った。大人の社交場の場所は、まだ幼い男の子には退屈で退屈で堪らなかった。そんな真斗と同じように、退屈していた男の子がメイド服の女の子を連れて近づいて来た。
ーーーーそれが、レンとアイリだった。
レンは真斗の手を引き、三人でパーティーを抜け出して遊んでいた。親の目を盗んで遊ぶなんて、真斗にとって胸がドキドキの初体験で、とても楽しかった。
「(しかし、成長し互いの立場を意識してからは、口もきかなくなった。ーーーーどうしても音楽を学びたかった俺は、反対する父を説得し、母上からの口添えもあり、“期限付き”だがここに来た。そして、ライディーン戦士として戦う事を選んだ)」
真斗は、過去を思い出しながらも、今夜向かうパーティーの事をスマホで調べ始めた。
ーレンsideー
レンもまた、真斗と同じように、家の事、“亡くなった父の後を継いだ兄の事を考えていた”。
神宮寺レンは、『神宮寺財閥』の御曹司、と言われているがーーーー実際は財閥の三男坊として生まれており、跡取りとしては必要とされていないのだ。
レンの母親はアイドルの『円城寺蓮華』であり所謂『愛人』だったが、レンを産んですぐに亡くなってしまった。『実父』はそんなレンを疎んでおり、神宮寺家では立場がなかった為、母の従兄弟でもある執事のジョージに育てられ、同い年の執事兼メイドとしてアイリが側にいてくれた。
そして、ずっと疎遠になっていた『実父』が亡くなり、長兄である『神宮寺誠一郎』から、
【私は長男として、亡くなった父の後を継ぐ必要がある。ーーーーレン。お前は早乙女学園へ行け。芸能界で名を成し、神宮寺家の広告塔になるんだ】
ずっと兄とも疎遠だったのに、『神宮寺財閥の広告塔』として使われる人生に、レンは大きな不満を持っていた。
しかし、三男という必要とされない存在である事にコンプレックスを持っていたレンは嫡男と言う立場から抜け出せず、この早乙女学園に入学した。
そして再会した聖川真斗で出会った瞬間、子供の頃、アイリを拾った日に偶然か、必然か、自分の左腕に宿った『ゴッドフェザー』が疼き、自分達がライディーン戦士となる『運命』を知った。
「(神宮寺家の広告塔になる人生に、ライディーン戦士として戦う宿命、か・・・・俺の生き方って、決められているのか・・・・?)」
レンはタキシードを置いて、真斗に話しかける。
「聖川。俺の事が気になるのか? 一緒にライディーンやろうって事かい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
が、真斗はスマホで調べ物をしていて全く聞いていなかった。
「・・・・・・・・ちっ」
舌打ちをしてから、レンは一つのケースを持って部屋を出ていった。
◇
時刻は五時。夕陽が世界を包み出した世界で、レンは学校の屋上に来ると、メモ帳に歌詞を書いていた。
「・・・・・・・・フッ。馬鹿馬鹿しい」
カリカリと書いていたが、途中で自嘲気味に笑うと書いていたメモを引きちぎり、クシャッと丸めて、ポケットに入れると、一瞬、亡くなった母親の姿が過ぎった。
「・・・・・・・・」
レンはケースからサックスを取り出すと、サックスを吹き鳴らした。
ーアイリsideー
「・・・・っ、レン様・・・・」
そろそろ時間が迫っていたので、アイリはレンを呼ぼうと男子寮に向かう途中、サックスの音が聞こえた。
情熱的で力強い美しい旋律。アイリが知る中、サックスでこんな音楽を鳴らせるのは、レンだけであった。
ー真斗sideー
「・・・・・・・・」
真斗もまた、サックスの旋律が聞こえ、立ち止まった。
ーレンsideー
一心不乱にサックスを奏でていくレン。演奏が終わると、いつの間にか来ていたアイリが話しかける。
「レン様」
「まるで夕日に輝く白い百合のようだね、アイリ」
「相変わらず、素敵な演奏でした」
「嬉しいね。久しぶりにアイリから、小言や苦言以外の言葉が聞けたよ」
ポケットに手を突っ込んだレンがアイリに近づき、アイリの肩に触れようとポケットから手を出した。
その際、先程突っ込んでいたメモが床に落ちた。
「ぁっ」
「・・・・・・・・」
アイリがメモを拾い上げようとするが、レンがそのメモを取り上げた。そのメモには歌詞が書かれていた。
「それは課題の歌詞、ですか?」
「・・・・・・・・」
先程までにこやかだった貌が無表情になり、影が刺さった。
「ーーーーレン様。使用人として、出過ぎた真似だと言う事は、重々承知しております。てすが敢えて言わせて貰います。レン様に不平不満があるのは分かっております。ですが、このままでは本当に退学処分になってしまいます! どうか歌詞を完成して下さい!」
ペコリと頭を下げるアイリ。レンはその様に一瞬キョトンとするが、すぐにフッと笑う。
「・・・・俺は、そろそろ消えても良いと思っているんだ」
「レン様・・・・!」
「飽きてたのさ。ここに。ライディーンにも、ね」
「っ!」
アイリが声を張り上げようとしたその瞬間、
「ーーーーだったらさっさと出ていけ!」
その声が響き、二人が声の方を見ると、真斗が立っていた。
「聖川様・・・・」
「・・・・気に入らんな。俺は人生の全てを、父に決められてきた。だが音楽と、ライディーンとして戦う事は、自分で決めた。そして、自由になれた。だから、本気ならん。戦おうともしないお前が許せん!」
「・・・・俺は来たくて早乙女学園‹ここ›に来た訳でも、なりたくてライディーンになった訳じゃない。放り込まれたのさ」
「・・・・・・・・」
レンの言葉に、アイリは悲痛そうな顔を歪める。
「だから此処にいる理由も、戦う理由もない。ただの遊びさ」
「嘘だ」
レンの言葉を真斗は断言する。
「さっきの音色は嘘ではない。それに来栖がライディーンファルコンになった日、お前は避難した人々を守ろうとした。そろそろ見せたらどうだ?」
「ーーーー言ったろ。遊びだって」
レンはメモを破ろうとする。
が。
「っ!」
アイリがその手を掴んで止めた。
「・・・・離してくれ、アイリ」
「・・・・・・・・(フルフル)」
その目に、薄っすらと涙を浮かべるアイリが、レンの言葉に首を横に振った。
「こんなくだらない歌詞や宿命に全てを賭ける程ーーーー“暇じゃないんでね”」
「っ!!」
その言葉に、真斗かカッと目を見開き、レンの顔を殴った。
「っ!」
「レン様!」
後退るレンにアイリが駆け寄る。
「・・・・残念だ。もう少し骨のあるヤツだと思っていたのに」
真斗はそう言い残し、背を向けて去って行った。
「フン。短気なヤツだ」
「レン様・・・・」
「余計な時間を食ったな。行こうアイリ。〈北部〉の『ホテル・アグスタ』へ」
「・・・・はい。ヘリを呼んでおります。『ホテル・アグスタ』へは一時間で到着します」
レンが殴られた拍子に手放したメモを持ちながら、アイリは歩き出したレンの後に付いていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
アイリの前を歩くレンのその顔は、浮かない様子であった。
ールーシュsideー
「・・・・ミノタウロス」
『はっ!』
〈SKネットワーク〉の社長室にて、ルーシュが影に向かって名を呼ぶと、影を中から、背中に黒に翼を生やし筋骨隆々な身体に鎧を纏った牛頭人身の超魔『ミノタウロス』が現れた。
「今日の夜。この『ホテル・アグスタ』にて開かれるオークションに出る〈ゾディアックオーブ〉の回収に向かう」
『ルーシュ様もそのオークションに行くのですか?』
「ふっ。丁度、この肉体の元の主、神無聖月宛に招待状が来ていたのでな」
ルーシュの手に、オークションの招待状が持っていた。
ーエキドナsideー
『ーーーーこ、ここは、何処よ・・・・!』
そしてその頃、超魔・エキドナは、とある建物の屋上に倒れていた。
〈西都〉でライディーンに敗れ、身体の力の大半を失い、今や見る影のないチンチクリンな姿になった。それからエキドナは、野良犬か野良猫のような生活をしながら、ライディーンを探していた。
任務に失敗した以上、〈東都〉のルーシュの元に戻れば消されるのがオチ。せめて『ゾディアックオーブ』か、ライディーンの一人か二人の首を手土産にしなければルーシュの元へは戻れない。
そうして何日も〈西都〉を彷徨い続け、空腹と疲労でヨロヨロになったエキドナは貨物船に乗り込み、〈東都〉に戻りライディーンを探そうとしたが、疲労で眠ってしまい。起きてみると、見知らぬホテルらしき建物にいたのだ。
『何々? 『ホテル・アグスタ』?』
エキドナも、〈北都〉・『ホテル・アグスタ』にたどり着いていたのだった。
次回、ホテル・アグスタで何かが起こる。